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神宮寺麻友と佐々木優也③
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週明けの火曜日、麻友は会社に向かう足取りがどことなく重かった。
手に持った帰省土産のせいではない。
その中には地元の特産品や道の駅で見つけたお菓子、さらには手作りの焼き菓子まで入っていた。
むしろ、土産を同僚たちに配るのはちょっとした楽しみのはずだった。
それなのに、何か心に引っかかる感覚を拭えなかった。
帰省中、地元の友人たちと話をしてみたり、部屋の隅々まで探したりしたが、優也に関する明確な手掛かりを見つけることはできなかった。
家の中だけでは足りないと、庭の片隅にある古びた物置まで調べてみたが、そこにも何もなかった。
唯一、頭に残っているのは、道の駅「SARADA」で貴子に会った時の会話だった。
久しぶりに訪れた道の駅で、忙しそうに働いている貴子に声をかけたときのこと。
胸には赤ちゃんを抱き、背中にももう一人をおんぶ紐で寝かせたまま、次々とやってくるお客さんを相手にしている姿だった。
「貴子お姉さま、お久しぶりです!」
と声をかけると、貴子は驚いたように振り返り、すぐに柔らかな笑顔を浮かべた。
「麻友!
元気だった?」
少しの近況を話したあと、貴子がふと思い出したように尋ねてきた。
「で、彼とはうまくいってるの?」
突然の質問に、麻友は目を瞬かせた。
「彼?」
と心の中で繰り返しながら答えた。
「彼って誰のことです、お姉さま?」
貴子は一瞬考え込むような表情を浮かべたあと、
「ほら、あの…あれ?」
と言い淀んだ。
何かを思い出そうとしているのは明らかだったが、すぐに
「ごめんなさい、誰かと勘違いしてるわ。」
と済まなさそうに首を傾げた。
その時、麻友はさらに突っ込んで尋ねるべきだったのかもしれない。
でも、貴子が抱えている双子たちの世話と仕事の両立ぶりを目の当たりにして、
「これ以上邪魔をしてはいけない」
と思い直してしまった。
結局、貴子に別れを告げ、その場を後にした。
それでも、あの時の貴子の首を傾げた表情と「誰か」の存在がずっと麻友の頭から離れなかった。
「もうこうなったら、社長に直接聞いてみた方が早いんじゃないか?」
と、帰りの電車の中で何度も考えた。
しかし、いざ会社が近づくにつれてその決心が揺らいできた。
「でも、仕事とプライベートを混在させてもなぁ…」
と、麻友は心の中で呟いた。
入社以来、社長には仕事の場面でしか接していない。
あの優しい微笑みや言葉の端々に、どこか懐かしさを感じるものの、それが具体的に何なのか掴めないままだ。
会社のビルが見えてきたとき、麻友は小さく深呼吸をした。
「今は仕事に集中しよう」
と気持ちを切り替えたつもりだったが、心の奥底では、まだ決着がついていない思いが渦巻いているのを感じていた。
職場に入ると、先輩秘書たちに帰省土産を渡した。
地元で有名な焼き菓子やおしゃれな包装の手土産は、先輩たちにも好評だった。
「麻友ちゃん、いつも気が利くわね~。ありがとう!」
と、先輩秘書の一人がにっこり笑って言うと、他の先輩たちも頷きながら、
「これ、午後のお茶の時間にちょうど良さそうね。」
と和やかな雰囲気になった。
そんな朝の出来事が少し心を和ませたのか、麻友はお昼休みになると気分も軽く、食堂へ向かった。
社内の食堂は広々としており、ビルの高層階にあるため、大きな窓から街並みが見渡せる開放感のある空間だ。
麻友はお気に入りの窓際のテーブルに座り、他部署の同僚たちとおしゃべりをしながら持ってきた土産を配っていた。
「わぁ、これ美味しそう!
地元の名物なんだって?」
と一人の同僚が袋を受け取ると、麻友はにこやかに頷いて答えた。
「そうなんです!
ちょっと懐かしい味がすると思いますよ。」
みんなでお菓子の話題に花を咲かせながら楽しく過ごしていると、突然、ふとしたざわめきが周囲に広がった。
振り返ると、食堂の入り口に社長が立っていた。
どこかオーラのある佇まいで、スーツを着こなした姿が自然と人々の注目を集める。
社長は穏やかな笑みを浮かべながら食堂内を歩いてきた。
そして、麻友のテーブルの前で立ち止まる。
「麻友さん、もうみんなにお土産を配り終えましたか?」
と優しい声で尋ねられた。
「は、はい!
ちょうど今配り終えたところです。」
麻友は少し緊張しながらも返事をした。
すると社長は、
「みんなで仲良く楽しい時間を過ごしてください。」
と、軽く会釈をして隣のテーブルの同僚たちにも笑顔で声を掛けていった。
「お疲れ様です。
お昼はしっかり食べてくださいね。」
「いい天気ですね。
午後も頑張りましょう。」
社長が周囲の人々に声を掛けていくたびに、食堂の雰囲気が一段と明るくなっていく。
麻友の隣に座っていた同僚が興奮した様子で小声で囁いた。
「うわ~、社長に声を掛けてもらっちゃった!
夢みたい~。」
社長が去った後も、テーブルの周りは社長の話題で盛り上がった。
「やっぱり王子様みたいよね~。」
「麻友さん、いいなぁ~。
いつもあんな素敵な人と一緒に仕事してるんでしょ?」
周囲からの羨望の声に、麻友はどこか嬉しいような、照れくさいような気持ちで言葉に詰まりながらも、軽く笑って誤魔化した。
「いやいや、そんなことは…。」
しかし、心の中ではほんのりとした喜びが広がっていた。
普段の仕事では忙しさに追われるばかりだったが、こうしてみんなと笑い合い、社長の何気ない優しさを感じる瞬間は、麻友にとって何よりの励みとなっていたのだ。
手に持った帰省土産のせいではない。
その中には地元の特産品や道の駅で見つけたお菓子、さらには手作りの焼き菓子まで入っていた。
むしろ、土産を同僚たちに配るのはちょっとした楽しみのはずだった。
それなのに、何か心に引っかかる感覚を拭えなかった。
帰省中、地元の友人たちと話をしてみたり、部屋の隅々まで探したりしたが、優也に関する明確な手掛かりを見つけることはできなかった。
家の中だけでは足りないと、庭の片隅にある古びた物置まで調べてみたが、そこにも何もなかった。
唯一、頭に残っているのは、道の駅「SARADA」で貴子に会った時の会話だった。
久しぶりに訪れた道の駅で、忙しそうに働いている貴子に声をかけたときのこと。
胸には赤ちゃんを抱き、背中にももう一人をおんぶ紐で寝かせたまま、次々とやってくるお客さんを相手にしている姿だった。
「貴子お姉さま、お久しぶりです!」
と声をかけると、貴子は驚いたように振り返り、すぐに柔らかな笑顔を浮かべた。
「麻友!
元気だった?」
少しの近況を話したあと、貴子がふと思い出したように尋ねてきた。
「で、彼とはうまくいってるの?」
突然の質問に、麻友は目を瞬かせた。
「彼?」
と心の中で繰り返しながら答えた。
「彼って誰のことです、お姉さま?」
貴子は一瞬考え込むような表情を浮かべたあと、
「ほら、あの…あれ?」
と言い淀んだ。
何かを思い出そうとしているのは明らかだったが、すぐに
「ごめんなさい、誰かと勘違いしてるわ。」
と済まなさそうに首を傾げた。
その時、麻友はさらに突っ込んで尋ねるべきだったのかもしれない。
でも、貴子が抱えている双子たちの世話と仕事の両立ぶりを目の当たりにして、
「これ以上邪魔をしてはいけない」
と思い直してしまった。
結局、貴子に別れを告げ、その場を後にした。
それでも、あの時の貴子の首を傾げた表情と「誰か」の存在がずっと麻友の頭から離れなかった。
「もうこうなったら、社長に直接聞いてみた方が早いんじゃないか?」
と、帰りの電車の中で何度も考えた。
しかし、いざ会社が近づくにつれてその決心が揺らいできた。
「でも、仕事とプライベートを混在させてもなぁ…」
と、麻友は心の中で呟いた。
入社以来、社長には仕事の場面でしか接していない。
あの優しい微笑みや言葉の端々に、どこか懐かしさを感じるものの、それが具体的に何なのか掴めないままだ。
会社のビルが見えてきたとき、麻友は小さく深呼吸をした。
「今は仕事に集中しよう」
と気持ちを切り替えたつもりだったが、心の奥底では、まだ決着がついていない思いが渦巻いているのを感じていた。
職場に入ると、先輩秘書たちに帰省土産を渡した。
地元で有名な焼き菓子やおしゃれな包装の手土産は、先輩たちにも好評だった。
「麻友ちゃん、いつも気が利くわね~。ありがとう!」
と、先輩秘書の一人がにっこり笑って言うと、他の先輩たちも頷きながら、
「これ、午後のお茶の時間にちょうど良さそうね。」
と和やかな雰囲気になった。
そんな朝の出来事が少し心を和ませたのか、麻友はお昼休みになると気分も軽く、食堂へ向かった。
社内の食堂は広々としており、ビルの高層階にあるため、大きな窓から街並みが見渡せる開放感のある空間だ。
麻友はお気に入りの窓際のテーブルに座り、他部署の同僚たちとおしゃべりをしながら持ってきた土産を配っていた。
「わぁ、これ美味しそう!
地元の名物なんだって?」
と一人の同僚が袋を受け取ると、麻友はにこやかに頷いて答えた。
「そうなんです!
ちょっと懐かしい味がすると思いますよ。」
みんなでお菓子の話題に花を咲かせながら楽しく過ごしていると、突然、ふとしたざわめきが周囲に広がった。
振り返ると、食堂の入り口に社長が立っていた。
どこかオーラのある佇まいで、スーツを着こなした姿が自然と人々の注目を集める。
社長は穏やかな笑みを浮かべながら食堂内を歩いてきた。
そして、麻友のテーブルの前で立ち止まる。
「麻友さん、もうみんなにお土産を配り終えましたか?」
と優しい声で尋ねられた。
「は、はい!
ちょうど今配り終えたところです。」
麻友は少し緊張しながらも返事をした。
すると社長は、
「みんなで仲良く楽しい時間を過ごしてください。」
と、軽く会釈をして隣のテーブルの同僚たちにも笑顔で声を掛けていった。
「お疲れ様です。
お昼はしっかり食べてくださいね。」
「いい天気ですね。
午後も頑張りましょう。」
社長が周囲の人々に声を掛けていくたびに、食堂の雰囲気が一段と明るくなっていく。
麻友の隣に座っていた同僚が興奮した様子で小声で囁いた。
「うわ~、社長に声を掛けてもらっちゃった!
夢みたい~。」
社長が去った後も、テーブルの周りは社長の話題で盛り上がった。
「やっぱり王子様みたいよね~。」
「麻友さん、いいなぁ~。
いつもあんな素敵な人と一緒に仕事してるんでしょ?」
周囲からの羨望の声に、麻友はどこか嬉しいような、照れくさいような気持ちで言葉に詰まりながらも、軽く笑って誤魔化した。
「いやいや、そんなことは…。」
しかし、心の中ではほんのりとした喜びが広がっていた。
普段の仕事では忙しさに追われるばかりだったが、こうしてみんなと笑い合い、社長の何気ない優しさを感じる瞬間は、麻友にとって何よりの励みとなっていたのだ。
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