46 / 50
第三部
8
しおりを挟む
早朝、外のかすかな走行音で目覚めた。ついでにトイレに向かった。室内はどうもガランとしていた。
「パパ、ママ……」
気になり尾坂夫妻の寝室をノックしたが、何も反応がない。とびらは開いた。
寝室は誰もいない。急に出て行くわけでもあるまい。何かあったのだ。
両親の部屋にも思い出があるかもしれない。記憶を呼び起こす何かが潜んでいる可能性は大いにある。
千里の健忘症逆行の治療方法についての言葉が頭に響いた。何か妙な拍子に記憶は蘇ることも捨てきれない。
理佐は引き出しを開けてみる。中をごそごそといじっていると気になる冊子が出てきた。
里親制度。薄い数ページの冊子を開くと尾坂夫妻の経歴がかかれてあった。上岡洋子。一体誰なのだろうか。
何の目的で里親制度に登録したのか。理佐の頭が目まぐるしく動いた。この家には自分の前に誰か住んでいた。
スーツケースにあった異臭の正体とは何だろう。
二階の一番奥の物置部屋が気がかりだ。あそこには色々雑多なものが置いてあった。
理佐はこっそり物置部屋に忍び込もうとしたが開かなかった。鍵がかかっている。
朝日によって中の様子はわかる。ゴルフバックや釣り竿などいろいろなものが立てかけられていた。
確かこの辺りじゃ……
ない。ラックがあってその隣にはじっとスーツケースが置いてあった場所を見ていた。置いてあったはずのものが忽然と姿を消していた。
何でないの?
自分が寝ている間に運び出したのか。理佐は背後の人の気配に気づかなかった。
「あらおはよう、理佐ちゃん。物置部屋には入らないでねって言わなかったかしら?」
優しい声だったが、どこか不気味な雰囲気を立ち込めていた。理佐はごくりとつばを飲み込んだ。
「ごめんなさい。トイレに行こうとしたら間違えて入ってしまったの。ママ、どこにいたの?」
「私のことなんてどうでもいいわよ。二階にはトイレはないのよ。次からは気を付けてね。お母さん、ずっと見ているから」
理佐は部屋に戻った。あそこには絶対置いてあったものがあった。腐った卵のような臭いは何だ。
夜中にトイレに行ったことがなぜばれたのだろうか。慎重に音を立てないよう警戒したのに。
ハッとひらめいた。部屋の中に盗聴器があるのではないだろうか。真夜中にトイレに行ったこともわかってしまう。
真夜中に聞いた会話が本当なら自分は理佐ではない。でも親を名乗る二人組は自分を娘と言い、住む場所を与えている。目的があるはずだ。とにかく記憶を取り戻し、ここから逃げ出そう。
自分が何者かをまずは調べないといけないために、障壁となるものを除かないといけない。
自分ならどこに仕掛けるか。ざっと理佐は部屋を見渡した。普段触らないような場所で、盗聴器を仕掛けるのに適した場所を探した。
ガチャガチャと動かしていたら、コンセントのカバーは外れる。中に手を突っ込むと黒い四角いものが出てきた。
盗聴器だ。本当の予想は当たってしまった。下の二人は人知れず自分の生活を見張っていたわけだ。
疑惑は確信に変わる。一刻も早く自分の記憶を取り戻してこの家から逃げ出さなければいけない。
理佐はある計画を考えていた。どんなに取り繕っても変え難いものを調べることだった。
「パパ、ママ……」
気になり尾坂夫妻の寝室をノックしたが、何も反応がない。とびらは開いた。
寝室は誰もいない。急に出て行くわけでもあるまい。何かあったのだ。
両親の部屋にも思い出があるかもしれない。記憶を呼び起こす何かが潜んでいる可能性は大いにある。
千里の健忘症逆行の治療方法についての言葉が頭に響いた。何か妙な拍子に記憶は蘇ることも捨てきれない。
理佐は引き出しを開けてみる。中をごそごそといじっていると気になる冊子が出てきた。
里親制度。薄い数ページの冊子を開くと尾坂夫妻の経歴がかかれてあった。上岡洋子。一体誰なのだろうか。
何の目的で里親制度に登録したのか。理佐の頭が目まぐるしく動いた。この家には自分の前に誰か住んでいた。
スーツケースにあった異臭の正体とは何だろう。
二階の一番奥の物置部屋が気がかりだ。あそこには色々雑多なものが置いてあった。
理佐はこっそり物置部屋に忍び込もうとしたが開かなかった。鍵がかかっている。
朝日によって中の様子はわかる。ゴルフバックや釣り竿などいろいろなものが立てかけられていた。
確かこの辺りじゃ……
ない。ラックがあってその隣にはじっとスーツケースが置いてあった場所を見ていた。置いてあったはずのものが忽然と姿を消していた。
何でないの?
自分が寝ている間に運び出したのか。理佐は背後の人の気配に気づかなかった。
「あらおはよう、理佐ちゃん。物置部屋には入らないでねって言わなかったかしら?」
優しい声だったが、どこか不気味な雰囲気を立ち込めていた。理佐はごくりとつばを飲み込んだ。
「ごめんなさい。トイレに行こうとしたら間違えて入ってしまったの。ママ、どこにいたの?」
「私のことなんてどうでもいいわよ。二階にはトイレはないのよ。次からは気を付けてね。お母さん、ずっと見ているから」
理佐は部屋に戻った。あそこには絶対置いてあったものがあった。腐った卵のような臭いは何だ。
夜中にトイレに行ったことがなぜばれたのだろうか。慎重に音を立てないよう警戒したのに。
ハッとひらめいた。部屋の中に盗聴器があるのではないだろうか。真夜中にトイレに行ったこともわかってしまう。
真夜中に聞いた会話が本当なら自分は理佐ではない。でも親を名乗る二人組は自分を娘と言い、住む場所を与えている。目的があるはずだ。とにかく記憶を取り戻し、ここから逃げ出そう。
自分が何者かをまずは調べないといけないために、障壁となるものを除かないといけない。
自分ならどこに仕掛けるか。ざっと理佐は部屋を見渡した。普段触らないような場所で、盗聴器を仕掛けるのに適した場所を探した。
ガチャガチャと動かしていたら、コンセントのカバーは外れる。中に手を突っ込むと黒い四角いものが出てきた。
盗聴器だ。本当の予想は当たってしまった。下の二人は人知れず自分の生活を見張っていたわけだ。
疑惑は確信に変わる。一刻も早く自分の記憶を取り戻してこの家から逃げ出さなければいけない。
理佐はある計画を考えていた。どんなに取り繕っても変え難いものを調べることだった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる