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第二部
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朝の登校時間。いつもより自身の足取りが重い。昨日は夕食後、すぐに寝た。だが体は鈍く重い鉛が乗っかっているようだ。
私は母から聞いた緑の死について、従容として受け入れていた。彼女は人工呼吸を施していたときには、もはや助かるまいと思っていた。
緑がお茶を飲んで倒れるまで、1日と経っていないはずだ。人が1人死ぬことは、こうもあっけないと悟った。
彼女とは、クラスメートとして、図書委員として話せることはあったはずだ。もう話すことはできない。私には、美作緑という子が死んだと捉えることが難しい。
学校に着いて向かうのは、いつもと変わらない風景の教室だ。
そこには、みんなが待っていた。ただ1人を除いて。いや、2人だ。緑と……
私は席について朝のホームルームが始まるのを待つ。
やがてその時が来る。
谷矢先生は少し憔悴していたが、いつもと変わらないよう振る舞っていた。彼が入ってくると、全員が自然と席に座った。普段より従順でつつましかった。
「昨日、電話連絡でみんなの元には伝わっていると思うが……美作が死んだ」
沈痛な言葉がクラスに伝わっていく。全員が、彼を見ていた。
「えー決まったわけではないが、近々美作の通夜がある。後は……」
先生は言葉を詰まらせて、うつむく。とても言いにくい表情で、出来たら言いたくないという気持ちがありありと伝わった。
「これも後日だが……後日警察の方がいらっしゃって事情聴取をするそうだ」
動揺がクラスに走り、クラスがささやき始める。先生は、このなるだろうと予見していたのか、視線を目の前から逸らしていた。
突然ガタンと椅子が倒れる音がした。ささやきは中断した。
「じゃあ先生、この中に人殺しがいるってこと!?」
緑の友達・竹井美香が立ち上がって、周囲を見渡している――血走った、狂ったまなざしで。
「いや、待て……」
「そうでしょ? あの死に方が事故死? そんなわけがない! 緑はね、殺されたのよ!」
美香は高らかに言って確信していた。それは全員の心の中にあった一つの気持ちだったかもしれない。
「竹井、頼むから落ち着いてくれ。そうじゃないんだ……」
「じゃあどうなんですか? ただの事故なら警察なんて来るわけないじゃない」
その通りだ。美香の言っていることは大筋通っている。
ただ、いたたまれないのは先生だった。もう嘘や誤魔化しが効かない中で、彼は完全に言葉を失っていた。
大事な生徒を亡くした悲しみ。先生が思い描いていたであろう全員が無事に卒業すること、がわずか一日で崩れ去ってしまったのだ。
先生は必死にその場を取り仕切り、教卓から扉まで幽霊のようにフラフラと歩いていく。やがて教室から姿を消す。
「まじタニヤン大丈夫かなー?」
彩月が心配そうな顔をしている。昨日自分のカレが散々な目に遭ったというのに、立ち直りが早い。
「今はそっとしておくべきよ」
「なんか昨日と今日で、あんなに人って変わるんだね」
「そうね」
やりきれない空気の中で、私は決して動かしてはいけない何かが、ゴロゴロと移動を開始したのを感じる。ドス黒い、何か得体の知れないものが、坂道を加速しながら転げ落ちていく。
私は母から聞いた緑の死について、従容として受け入れていた。彼女は人工呼吸を施していたときには、もはや助かるまいと思っていた。
緑がお茶を飲んで倒れるまで、1日と経っていないはずだ。人が1人死ぬことは、こうもあっけないと悟った。
彼女とは、クラスメートとして、図書委員として話せることはあったはずだ。もう話すことはできない。私には、美作緑という子が死んだと捉えることが難しい。
学校に着いて向かうのは、いつもと変わらない風景の教室だ。
そこには、みんなが待っていた。ただ1人を除いて。いや、2人だ。緑と……
私は席について朝のホームルームが始まるのを待つ。
やがてその時が来る。
谷矢先生は少し憔悴していたが、いつもと変わらないよう振る舞っていた。彼が入ってくると、全員が自然と席に座った。普段より従順でつつましかった。
「昨日、電話連絡でみんなの元には伝わっていると思うが……美作が死んだ」
沈痛な言葉がクラスに伝わっていく。全員が、彼を見ていた。
「えー決まったわけではないが、近々美作の通夜がある。後は……」
先生は言葉を詰まらせて、うつむく。とても言いにくい表情で、出来たら言いたくないという気持ちがありありと伝わった。
「これも後日だが……後日警察の方がいらっしゃって事情聴取をするそうだ」
動揺がクラスに走り、クラスがささやき始める。先生は、このなるだろうと予見していたのか、視線を目の前から逸らしていた。
突然ガタンと椅子が倒れる音がした。ささやきは中断した。
「じゃあ先生、この中に人殺しがいるってこと!?」
緑の友達・竹井美香が立ち上がって、周囲を見渡している――血走った、狂ったまなざしで。
「いや、待て……」
「そうでしょ? あの死に方が事故死? そんなわけがない! 緑はね、殺されたのよ!」
美香は高らかに言って確信していた。それは全員の心の中にあった一つの気持ちだったかもしれない。
「竹井、頼むから落ち着いてくれ。そうじゃないんだ……」
「じゃあどうなんですか? ただの事故なら警察なんて来るわけないじゃない」
その通りだ。美香の言っていることは大筋通っている。
ただ、いたたまれないのは先生だった。もう嘘や誤魔化しが効かない中で、彼は完全に言葉を失っていた。
大事な生徒を亡くした悲しみ。先生が思い描いていたであろう全員が無事に卒業すること、がわずか一日で崩れ去ってしまったのだ。
先生は必死にその場を取り仕切り、教卓から扉まで幽霊のようにフラフラと歩いていく。やがて教室から姿を消す。
「まじタニヤン大丈夫かなー?」
彩月が心配そうな顔をしている。昨日自分のカレが散々な目に遭ったというのに、立ち直りが早い。
「今はそっとしておくべきよ」
「なんか昨日と今日で、あんなに人って変わるんだね」
「そうね」
やりきれない空気の中で、私は決して動かしてはいけない何かが、ゴロゴロと移動を開始したのを感じる。ドス黒い、何か得体の知れないものが、坂道を加速しながら転げ落ちていく。
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