11 / 34
4.3 艶消
しおりを挟む
悠馬は頑として会計のお金を受け取らなかった。
代わりに友人のフルネームをLINEで送ってもいいですか、と落ち着かなそうに聞いてくる。
嫌とも言えず、うなずく。
彼はほっとした顔をして、iPhoneのロックを開いて文字を打ち込み始めた。
人前で泣くような剥き出しの弱さと、はっとする潔さと、相反する要素を併せ持っていて、なんだか印象が定まらない人だ。
「おっけいです!すごく美味しかったですー。ごちそうさまでした!」
さっきあんなに引きつった顔で笑っていた割に真子はあっけらかんとしたもので、私を引きずるように、さっさと出口へ歩き出す。
私は迎合もできずひとり食い下がる気にもなれず、なんだか窮してしまった。
情けなくしぼんだ声で、彼の整った横顔に小さく言葉を投げる。
「悠馬さん、…また来ます。」
奥にいる悠馬が、手に持ったカクテルグラスをクロスで磨きながら、私たちに向かって軽く頭を下げた。
出入口のドアをくぐりながら、私はまだ手の中にあるネックレスをもう一度確かめる。
「不思議なもの受け取っちゃった。」
「星羅、こういうごついの似合いそう」
「失くしたくないから首にかけちゃいたいけど・・・仕事中ダメよねこれは」
コートの内ポケットに、VAPEと一緒に滑り込ませる。
ずしんとした金属の重みを胸に感じた。
店を出た時、路地に吹き抜ける風が寒かったのだろう。
真子が私の腕に自分の腕を絡めてくる。
私は手に持っていたマフラーを真子の首に巻き、
ふたりで恋人みたいにくっついたまま、ネオンもまばらな大通りへと歩いて行った。
代わりに友人のフルネームをLINEで送ってもいいですか、と落ち着かなそうに聞いてくる。
嫌とも言えず、うなずく。
彼はほっとした顔をして、iPhoneのロックを開いて文字を打ち込み始めた。
人前で泣くような剥き出しの弱さと、はっとする潔さと、相反する要素を併せ持っていて、なんだか印象が定まらない人だ。
「おっけいです!すごく美味しかったですー。ごちそうさまでした!」
さっきあんなに引きつった顔で笑っていた割に真子はあっけらかんとしたもので、私を引きずるように、さっさと出口へ歩き出す。
私は迎合もできずひとり食い下がる気にもなれず、なんだか窮してしまった。
情けなくしぼんだ声で、彼の整った横顔に小さく言葉を投げる。
「悠馬さん、…また来ます。」
奥にいる悠馬が、手に持ったカクテルグラスをクロスで磨きながら、私たちに向かって軽く頭を下げた。
出入口のドアをくぐりながら、私はまだ手の中にあるネックレスをもう一度確かめる。
「不思議なもの受け取っちゃった。」
「星羅、こういうごついの似合いそう」
「失くしたくないから首にかけちゃいたいけど・・・仕事中ダメよねこれは」
コートの内ポケットに、VAPEと一緒に滑り込ませる。
ずしんとした金属の重みを胸に感じた。
店を出た時、路地に吹き抜ける風が寒かったのだろう。
真子が私の腕に自分の腕を絡めてくる。
私は手に持っていたマフラーを真子の首に巻き、
ふたりで恋人みたいにくっついたまま、ネオンもまばらな大通りへと歩いて行った。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる