5%の冷やした砂糖水

煙 うみ

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4.2 艶消

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バーテンダーの彼の切羽詰まった面持ちに根負けて、私たちは連絡先を交換した。

Yuuma S.のユーザー名に、アイコン画像はショートカクテルのグラス。


「改めまして、スズキユウマです。」

「すみません、漢字、どうやって書くんでしたっけ?」

「悠久のユウ…うーん、伝わるかな、悠かに久しいユウキュウ、それに馬って書いて、悠馬です。
どっちでもいいですよ。」

「じゃあ、私は真子で、この子は星羅です。」


にっこりと笑う真子。

まだこの会話は、打ち解けた若者同士のものだけれど、真子の笑顔は心なしか硬い。

ここまでですよ、ごめんなさいね、と、ボーダーラインを引くような微妙な表情が読み取れる。


息を整える。

ここからは私の役目だ。


医師の松永星羅に戻って、言葉を選びながら慎重に話し始める。


「さっきのご友人のことですけど…」

口の中が苦い。

彼の友人の足跡を辿って漫画の中の名探偵みたいに町中駆け回れたらいいのに、いろいろな制約が、現実のちっぽけな輝きさえも斜線でどんどん消していってしまう。

医者なんて役割しごとを充てられてしまったばかりに、私はいま、一番つまらないことしか彼に言ってあげられない。


「…調べてみますけど、診療内容とかは、わかったとしても・・・部外者の方には何も・・・」

「いやほんとに無理しなくていいですよ。守秘義務とか、色々あるだろうし。」

「いやでも、…」


私の歯切れの悪さを察した悠馬は、困ったように微笑んだ。


「じゃあ、こうしましょう。彼がもし生きて病院に居たら、何も言わずにこれを返していただけますか?」


悠馬が徐ろに首に手をやり、黒いシャツの下に隠れていたネックレスを外した。

促されるままに手を差し出すと、私の掌に銀色の鎖が流れ落ちてきた。


「最後に店に来た日に忘れていって、返しそこねてて。

先生方は、偶々忘れ物の運び屋になってくれただけってことで。それなら…」


こわごわ拾い上げて、照明の前にかざす。

ざらざらとしたシルバー素材のチェーンの先に、長方形の同素材のプレートがさがっている。

男性的なアクセサリーだし、借り物なのは本当だろう。

艶消し加工の無骨な金属は、このひとには似合わない。


私と真子は顔を見合わせて、神妙に頷いた。

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