悠久の Madrugada〈マドゥルガダ〉 -蒼い闇- 《本編完結》「後日譚」連載開始しました

桜楽-sakura-

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La Madrugada 35 〔鷹歌〕 # R18

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「え……、本?」
 弟は、 日陰シェイドたずねられたに驚いた。

「はい。本の内容によって制限は掛かるかもしれません。ですが、お起きになられている時間も長くなったのなら、無聊ぶりょうなぐさめには良かろうと。ーーあるじが」

 本を読みたくば日陰シェイドに伝えるようにとの、兄からの許しだった。

「わ……ぁ。嬉しいな……本を読むことなんて、もうずっと忘れていた」
 弟は、嬉しそうに笑う。

「寝てばかりいたものね、リシェ

 中庭パティオに出させてもらっても、うとうとと午睡ごすいしていたり、寝ていなくても、日がな一日ぼうっとしていることも多かった。

「半分は……本当にからだけれども」
 クスり、と、弟は笑う。

 環境に慣れ、生活に慣れ、ーー愛されて、そして赦されることに、少しずつ、少しずつ、心の折り合いをつけていき……時間が、増えた。

「何も考えずぼうっとしている時間が必要でしたよ、リシェ様」

「うん……。そう、だったのかな……。
 ーー日陰シェイ、あのね。……聞いちゃ駄目なら、返事しなくていいから。
 ?」

 日陰シェイは、極僅ごくわずかにうなずく。

「どうしてそう思ったか、聞いてもよろしいですか?」

わけじゃないよ。ただ、中庭パティオ太陽十字ラナ・クルセが置かれて、しばらく……ううん、大分だいぶ経って……。やっと、強張こわばっていた兄さまの身体がほどけてきた気がしたから……。こうして、本を読むことも許されて……そうなのかな、って」

「……お兄さまに抱かれていた時、お気がつかれた?」
 クスり、 日陰シェイドにそっと笑われて、弟の頬に、さっとあかみがす。

「そ……、う。 ーー……日陰シェイ意地悪いじわるっ!!」

  日陰シェイドに声を立てて笑われて、弟は、本当にもう大丈夫なのだと思った。

一時いっとき静まっただけとも言えますが……大丈夫ですよ」
  日陰シェイドは、いつわりを言わないだろうと、弟は思う。嘘を言わなければならないなら、沈黙を選ぶだろう。だから、聞いた。

卑下ひげしたいわけじゃないのだけれど……。…………リシェの、せい?」

「違います。どこで、……いつから増長したのでしょうね。ーー度しがたい者が、多い」

「そう……。……リシェは、兄さまに従うから……。日陰シェイも、リシェを導いてください」

「はい、リシェ様。ーーご本は、どうなさいまさか? 適当に見繕みつくろうこともできますが」

 弟は、しばしの間、逡巡しゅんじゅんするような様子を見せた後、視線を伏せたまま……震える声で伝えた。
「もし……兄さまのお許しが出たら、[大航海記グレイセ・リー]を……」

「[大航海記グレイセ・リー]?」

「ん……母上マリアーシェの国の本。リシェね、イリーリアの言葉が読めるから……読めていたから。……覚えているか、分からないけど」

 その後は屈託くったくなく、“覚えているといいなぁ……”と、弟は笑って言った。



 §



 兄のおとないがあったその深夜よる、兄は1冊の本を抱えていた。

「リシェ」
 兄は、弟を呼び、を差し出した。

「[大航海記グレイセ・リー……]」
 弟は、兄から受け取った本を見、そして兄を見上げーー兄が何も言葉を発せず、ただ弟を見つめることから、それを察した。
 弟の眼から、……後から、跡から、大粒の涙がこぼれ落ちていく。

「兄さまが、……持っていて、くれ……たんだ、……。リシェ……、リシェね、頂いたご本、が、本当に……ほん……に、嬉しく…て。でも、……お、礼、……言えなく、って……にい、さま……、ありがとう……あり、が……」

 弟はうつむいて、本を抱き締め言葉を絞り出すようにしながら兄に礼を言った。ーーそして。

「ーーリシェっっつ!!!!!」

 《《《》》》

「ーーくっ!!!!!」
あるじ!!!!!」

 天に向かって放たれた、弟の鷹の歌ファルカ・ララーー慟哭どうこくつんざくようにひびき渡ったーーそう、

「リ…シェ……ーーっっつ!」

 兄は眼を眇めながら、鼓膜こまくを激しく揺さぶる暴力ファルカ・ララに耐え、弟の腕を取った。

「ーーんんっっつ!!」

 兄は、弟の頭をかきいだき、鷹の歌ファルカ・ララく唇をふさいだ。
 そして呼吸いきうばい、新たに呼吸いきをする間も与えず、口づけをし続けた。

 いくばくかの時が置かれると、ずるっと弟の身体が脱力した。
 
『はぁっ、……はぁっ、……は……ぁ……っ』
 弟を抱き留めながら、荒く呼吸いきく兄の肩に、日陰シェイドが手を置いて注意を引き付けると、寝室の方を指し示された。

 収まらない呼吸いきのまま、兄はそれでも弟を抱き上げて寝室に運んだ。
 兄がそっと弟をしとねに寝かせると、日陰シェイドしとねの端に座らさせられた。
 眼を塞がれ、導かれるままに眼を閉じると眼から手のひらが外され、次に両耳を塞がれた。
 ことを殊更ことさらに意識し、深く、ゆっくりと呼吸を繰り返す。

日陰シェイ……戻った」
 兄は眼を開け、日陰シェイド視線を合わせる。そして、手を重ねて兄の耳を塞いだ手を外させた。

 そして兄は、日陰シェイドの腕を引き寄せ隣に座らせた。
 日陰シェイドは首を振ったが、兄は許さず、自分がされたように日陰シェイドの眼を塞ぎ、そして日陰シェイドが眼を閉じるのを待って、次に耳を塞ぐ。

「ありがとうございます、戻りました。あるじ

 日陰シェイドが眼を開くと、兄は片手で眼をおおい、日陰シェイドから顔を背けた。
 覆った手の間から幾筋も涙が伝う。

「悪かった。こうなることは分かっていたのに」
「いいえ。お啼きになることが必要でした。リシェ様には」
 兄も、 日陰シェイドも分かっていたのだ。

「……黙っていたな、シャドウは」
「申し訳ありません……」
 弟の鷹の歌ファルカ・ララとらえた時、シャドウは意図的に鷹の歌ファルカ・ララについては隠した。

「いや……俺も聞かなかった。分かっていたからだ。もし、知っていたらーー聞いていたら気が狂う。……狂ったようにどこぞへ飛び込んで……自滅していたろうさ。シャドウには礼を言う」

「んーー……にい、さま……」

「リシェ?」

 半身を起こした弟を、兄は抱きしめた。

「ごめ…ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!! ……鷹の歌ファルカ・ララ、啼く、つもり、な……」
 何度も……何度も泣いているのに、涙はれず、弟は泣いて兄に許しを乞う。

「すまなかったな。……助けてやれなくて」
 だが、逆に兄は助けてやれなかったことを、静かに弟に謝った。
 ーーふるふるっと、弟は首を振る。

「違……っ……ごめんなさ……、兄さま、ごめんなさい……」

 ついばむような口づけを何度も繰り返し、謝りなくて良いのだと、弟に繰り返し伝える。
 そして、口づけが深くなっていく頃ーー日陰シェイドはそっとしとねから腰を上げた。だが、

「行かないでっっ! 日陰シェイ!!」
 見とがめた弟が、叫んだ。

「行かないで……日陰シェイ。ーー兄さま、お願い……」

「リシェ様……日陰は側に控えておりますよ。どこにも行きません」
 ふるふる……弟は首を振る。

「そうじゃない……リシェが何を望んでいるか……日陰シェイは分かっている。ごめんね、日陰シェイ……。
 兄さま、リシェ日陰シェイに抱かせて……ください。二人で……一緒にリシェを抱いて」

 兄は莞爾かんじとして笑う……。

「どうして、そうしたい? リシェ」
「分からない……日陰シェイが兄さまを愛しているから……?」

「欲張りだな、リシェ」
 言葉とは裏腹に、兄は、弟を誉めるように口づけを与えた。

日陰シェイ、口づけ」
 莞然かんぜんとして、兄は、 日陰シェイドのぞんだ。

日陰シェイ、返事」

「…………はい、あるじ
 一度嘆息して、 日陰シェイドは、兄に唇を寄せた。

 唇が触れ、兄がささやく……。
「お前も……なかなか堕ちなかったな」

「リシェ様の前で、何を言い出すのですか、貴方は……」
 ーーそして、深く口づけを交わした。

 兄は、しとねに上がって弟を後ろから抱き、弟のあしを開く。
「ぃや……っ」

 くっくっ……と、兄が笑う。
「恥ずかしい格好をしないと、日陰シェイに抱いてもらえないよ、リシェ」

 そう言って兄は弟を|揶揄い、更に大きく弟の足を開きながら、弟の、乳首を弾く。

「あんっ……ぁ…………日…陰シェ…イ……!」

  日陰シェイドが、ゆっくりしとねに上がった。

「もう……こぼれていますね。おめしても……?」
「はい……でもね、日陰シェイリシェ……男根ペニスだけで悦んではいけないの、だから」
「承知しております。一緒に肛門アヌスを責めましょうね」
「は……い、あ……んっ……日陰シェイっ……ーーあ、ありが……っ……」

「良いのですよ、リシェ様。お兄さまと……ーーそしてシャドウが貴方をここに閉じ込める。日陰はそう言いました。ーーだから貴方は……貴方がのぞんだ通り、お兄さまと……そして、日陰に抱かれてここに、閉じ込められてください」

 ーーFin.
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