悠久の Madrugada〈マドゥルガダ〉 -蒼い闇- 《本編完結》「後日譚」連載開始しました

桜楽-sakura-

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 兄の仕置きが終わり、弟は全てのいましめをかれ、うつ伏せのまま寝台に寝かされた。

 腕を重ねて顔をせ、声を出さずに肩を振るわせている弟の顔を少し上げさせ、涙の止まらぬ顔を、それでも日陰シェイドぬぐい、消炎の軟膏ローションを頬にった。
 弟は首を振ったが、日陰シェイドがそれを許さなかった。

 それから、日陰シェイドは冷たいハーブ水でらした更紗さらさを弟の尻に乗せた。

 そして寝台の端に腰を掛け、弟の短い髪をきながらでていた兄の手を取り上げ、消炎のハーブ水をませた手巾しゅきんにぎらせた。兄は無言で首を振ったが、やはり日陰シェイドは許さず、兄の手を開いてそれをにぎらせた。

 兄は少し身体をずらして座り直し、利き腕とは反対の手で再び弟の紙をきながら、そっとーー唇に言葉を乗せた。

「リシェール」
 弟の身体がびくっと大きくねた。

「兄がそう呼べる者は存在しない。その名は王籍と共に取り上げられ、より死を賜わり、役目を終えた。最早もはやその名がこの世で成せることは何もない」

 兄は、無情な事実を、弟にさとす。

「リシェという名を下げ渡された奴隷は、に全てをささげ、その身体をもってなぐさめ、なさけい、その身に受け入れる、ただそれだけを許された性奴隷ーー」

 ーー性奴隷としてのみ存在を許された。それをその身と心にきざみ込む。

「この箱庭檻-おり-の中だけなら、人知れず……わずかにでも王弟としての役割を与えることが可能であったのかもしれない。だが……兄はそれを許さない」

 兄は妖艶ようえんに微笑んで宣告せんこくした。

「お前は兄の、性愛の相手……はっきり言おうか? 最初はじめから婬欲いんよくの対象だよ。リシェ、お前は。ーーだから性奴隷に堕とした。兄が望めば、いつでも、どこででも、どんなに卑猥ひわい格好すがたであっても、兄が望んだ通りに足を開く性奴隷に」

「ーーこの身がすでに奴隷にとされていることは、理解しています」
 弟が少しずつ……身を起こして言った。

 だが、兄はそれを否定した。
「いいや。わかっていない」

「そんな、ことは……」
 弟は、首を振った。

「ない、と言いたいか。だが、わかっていないよ、リシェ。ーーお前が自由にできるものなど、ひとつもーー欠片かけらも残されていないことに気づいていない」

「自由……に」

「そう。……リシェお前のものはーー何ひとつ」

 ふっ……と、そこで兄はわれぬ笑みを見せ、弟と視線を絡ませて、言った。

「名をうばい、せきうばい、いのちうばい……おかしたした罪に至るまで、この兄が、全てをうばった。お前に残されたものなど……お前が自由にできるものなど、ひと欠片かけらも残っていないよ。兄のリシェ性奴隷

「……僕の、僕の罪……は、僕の…………」
「ーーこの、兄のものだよ。リシェ」
 弟はこみ上げて来るものを振り切るように首を振る。

「違……」
「辛いか、リシェ」
 兄は、弟の言葉をさえぎって告げる。 

「それが罰だよ、リシェ」
「…………」

 言葉を失くした弟に、兄は重て言う。
「辛くても、何もできない。それがお前の罰だ。全てを奪った兄に、足を開いてつかえる以外のことを、リシェ、お前には許さない」

 兄は弟に再び聞いた。
「苦しいか? リシェ」

 弟はうなずき、ひと筋涙が頬を伝った。

 冷たく笑んで、兄は命じる。
「もっと苦しむとい」

 長い沈黙が辺りを支配した後、弟は寝台をゆっくりと下り、兄の足元にペタりと座り、兄を見上げた。

「僕のこの身は……僕のものじゃないのですね」
「ーーそうだ」

「命も」
「兄のものだよ、リシェ」

「兄さまの……」
「ーーこの兄の所有物もの

「苦しい、です。兄さま……」
「苦しみを抱きながら、兄につかえなさい、リシェ」

「ーー…………はい、兄さま。リシェは兄さまの所有物もの……兄さま主-あるじ-に従います」

 弟は兄の足先に口づけ、そう誓約した。
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