悠久の Madrugada〈マドゥルガダ〉 -蒼い闇- 《本編完結》「後日譚」連載開始しました

桜楽-sakura-

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密言 5 ー王と影 3ー

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 閨事ねやごとの後、弟は清められて寝台ベッドに寝かせられた。

 気を失しなったまま、くたりと横たわる弟の視界を奪っていたきれは、すでに外されて、あどけない表情かおを見せて眠っていた。



 §



「ーー何だ、日陰シェイ?」

 兄は日陰シェイドの、何かを思うよう眼差まなざしに気づいて、問い掛けた。

「いえ、お可愛らしい、と」
 日陰シェイドが、ふっといつくしみを笑みに乗せ、兄に応えた。

「・・・それは、俺の可愛げの無さを当てあてこすっているのか?」

「まさか、そのような」

 憮然ぶぜんとして、兄は問い、兄の穿うがったもの言いに、日陰シェイドは苦笑する。

「リシェが可愛いのは、言うまでもない。ーーだから、日陰シェイが何を言いたいのか、俺には分からない」

 兄はいぶかしげに、日陰シェイドに重ねて問い掛けた。

「リシェ様が、先ほどーー……肛門アヌス最奥おくいて欲しい、と……」
   
日陰シェーーイ……!」  

最中さなか、耳に届いておられたか? あるじ
 リシェ様は、“ぎゅ、ってして……!” と、言っていらした。ーーあるじ最奥おくを責められるのは……リシェ様にとっては、あるじ抱擁ほうようと同じ」

 兄は、虚をつかれたように口をつぐみ、それから、おもむろに口を開いた。

「……ねやでのねだりごとに、意味など」

「いいえ」

 日陰シェイドは、あるじの言をさえぎり、伝える。

「例えどのように抱かれても。いましめられて責められても。リシェ様にはあるじの慈しみで満たされた抱擁ほうようーーだから、満ち足りた寝顔かおをされている」

 二人は、すうすうと眠る弟に見入った。

「ーーだから……激しく責めさいなむのをよせとは申しません。リシェ様も、それはそれでお好きなようですしね。ただ、ほどほどになさいませ。それに……」

「それに?」
 ため息交じりに、兄が問う。

「最後は優しく抱いて差し上げるとよろしいでしょう。リシェ様がお好きなのは、後ろからですよ」

「ーー考慮する。だが、後ろでは表情かおがよく分からない」       

 日陰シェイド可笑おかしそうに笑う。ーーすすめは本気であるが、いくらかは本気であるじ揶揄からかっているのだろうーー彼にはそれが許されている。

「日陰の換言かんげんを心に止めてくださるあるじに、日陰からのすすめです。閨事ねやごとの夜は、できればこちらでお休みください。彼方あちらへお戻りになる必要があるならば、お起こしいたします。ーー目覚めた時にあるじられなくとも、となりで眠ったあとがお分かりになるのでしょう。……あるじがお泊まりになられた朝は、リシェ様が嬉しそうな表情かおをなさっています」

 ーーそうか、善処しよう……と、兄が応ずる前に、日陰シェイドが言ったひと言で、兄の機嫌がいささか下降する。

「ーー日陰は、その表情おかおが好きですよ」

日陰おまえ、もうしばらくリシェとは口をくなよ」

 日陰シェイドがわざと言って誘導したみちびいたそれは、心を許す者が他にいないあるじに、日陰シェイドへの甘えを許すためのものであり、また兄弟二人の世界をつくるためでもあった。

「ーー承知。ならば、日陰はあるじ悋気りんきが治まるのをお待ちしていましょう」
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