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番外編~フィオ・ソリチュード~
私の幸福
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追手の居ない旅、それはとても新鮮で旅の道連れの誰一人として私を道具と見ないというのも不思議だった。
ワタルとリオは特別だからそうしてくれるのは分かってた。でも……ヴァーンシアを嫌っているコウヅキ達も私を人間として見る。
別に優しくしてくれる訳じゃない、ヴァーンシア人を嫌ったまま私を人として対等に扱う。
これが本来の異界者――日本人の性質なのかもしれない。相手との間にどんな感情があっても相手を対等な存在として接する。
ワタルはワタルの世界では特別じゃないのかもしれない。
でも、やっぱりワタルは私にとって特別。
私を変えてくれて、私に色んな初めてをくれる。
リオも特別、私が混ざり者だって分かってるのに態度は変わらない。いつもあたたかい、アドラには他にこんな人間居ない。
そんな二人と今普通の、危険の無い土地を旅をしてるのはとても不思議で――。
楽しい。
ワタルには目的があってのんびりしてられるわけじゃないけど、それでもこうして隣を歩いて私に悪意の無い笑顔を向けてくれる。
そんな相手が二人も居てくれる事が堪らなく楽しい。
今日も野宿、ミズハラ達はうるさいけど私は野宿も嬉しい。宿じゃないからワタルとリオが食事を用意してくれる。
そして、私は特等席で美味しい食事をする。
「おいフィオ、私と変われっ」
私の楽しい時間、それに水を差すナハトは鬱陶しいけど……ここは普通より少しだけ小さめの私だから座れる場所、ワタルよりも大きいナハトが座れるわけがない。
今だけは平均より少し小さい自分の身体を勝ち誇る。
「お、お前なんだその笑みはっ。ワタルを夫にするのは私なのだぞ」
そんなのナハトが勝手に言ってるだけ、ワタルはリオと一緒に居る方がいい――。
「あ……」
「ほらフィオ、余所見してるからだぞ。ほれ」
汁物に入ってた芋を落としてしまった私にワタルは自分の器から芋を摘まんで差し出してきた。
日本人の食べ方は不思議、フォークでもスプーンでもなく箸っていう棒二本で食事してる。
差し出された芋に食い付く。
食べさせてもらうなんて幼子みたいだけど、なんだか……とても幸せな気持ちになる。
「航なんかそれ二人羽織みたい――て言うか上手いね」
「そういえばあんた料理もするし無駄に器用ね」
「料理するって言ってもこんなん適当だし、調味料の勝利だろ」
ワタルがまた差し出してくるから私は大人しく口を開けて待っている。こういう時間も好きかも。
「フィオちゃん私のお肉もあげますね、いっぱい食べたらきっと大きくなりますよ」
リオ……要らん気遣い。
でも嬉しいからリオの方にも食い付く。
不思議、他人のぬくもりがこんなに傍にある。
それがこんなにも嬉しくて――だから少し不安にもなる。この心地好さを知ってしまったからにはもう昔の私には戻れない。
もし、二人のどちらかを、或いは両方を失う事になったら私は正気でいられるのかな……?
ワタルが消えた時凄く苦しかった。
その更に先の苦しみを想像したら体に震えが走った。
「寒いのか? 俺の上着着るか?」
「いい。このままで、背中が温いから」
「ならフィオちゃんこれでもっとあったかくなりますよ」
ワタルの脚に座ってる私にリオが寄り添う。
二人に挟まれて感じるぬくもりは私が今まで生きてきて得たものの中で一番の幸福なんじゃないかと思う。
でも、普通の人間はこういうものを当たり前のように享受してるのかもしれない。だってワタルもリオも本当に自然にそれを私に与えてくれるから……私はやっぱりみんなと違う、その不公平が心をざわつかせるけど――。
二人の熱が暗いものに囚われそうになる心を解してくれる。
だから――この日この時私は決めた。
私の命は二人の為に使うと、二人の為にあるんだと、二人に出会う為に私は生まれた――うん……それだと、いいな。
私の今までは二人を守れるようになる為にあった。
それはなんて意味のある事だろう。
人間の物差しだと私は罪を重ねた罪人――いっぱい殺した。知られたら嫌われるかもしれない。
それでも私は私を肯定する。罪を重ねて培ってきたものは必ずワタル達守るのに役に立つ。
だから私の人生はこれでよかった。別に不幸なんかじゃなかった。
だってそうでしょう? こんなにも一緒に居たい二人を守れる力を私はもう手にしているから――自分で選んで自分で決める。
それはとても人間っぽい。私を人間にしたワタルにはずっと付き合ってもらう――。
「ワタル、リオ……私、ずっと一緒に居たい」
「なん、だと? フィオ貴様やっぱりワタルを狙っているな? させんぞ、ワタルとあたたかい家庭を作るのは私なのだからなっ!」
ぽつりと零れてしまった言葉に反応してナハトが噛み付いてきた。
あたたかい家庭それは私には馴染みの無い言葉で――酷く羨ましいものに感じた。
見知らぬ土地を大切な二人と歩く。
リオと一緒の時もそうだったけどこんなに穏やかな時間があるんだ……繋いだリオ手のぬくもり、世界にはこんなに優しくてやわらかいものがある。
ずっとこうしていられたらと思う。
でもどうすればいいの? ワタルは帰るつもりでいる――リオを残して――。
「リオは……ワタルが帰ったらどうするの?」
「え? ……そう、ですね…………どうしましょう? アドラには戻れないですし、出来ればクロイツに行ってみたいですね」
目を逸らしたリオの言葉は嘘だと思う。
「一緒に見張るって言ったのに……」
「っ……でも、ワタルにはワタルの生活がありますから……そこに戻るのに私が付いていったら迷惑ですよ」
何かを必死に堪えているみたいな表情、たぶんリオの為って言ってリオを避けた時の私と同じ顔。
でももうあの時とは状況が違う。
リオの普通の生活はもう無いし、ワタルもリオもお互いの心配してるのに我慢してるのは変。
「私はワタルに付いていく。リオはワタルと一緒嫌なの?」
「そうじゃないです。でもワタルは…………」
リオはたぶんあの夜の事を気にしてる。誰とも深く関わりたくないってワタルの言葉。
でもワタルは線引きが下手、関わりたくないくせにリオにも私にも優しくする。だからこんな――。
「ワタルはリオの事大事って言ったよ」
「そうなんですか?」
曇ってた瞳が光を取り戻した。この優しい目を向けてくれるのはワタルとリオだけ、どっちも一緒居て欲しい。
「ん……だから、一緒がいい……よ?」
「ふふ、私も一緒でいいんですか?」
「ん」
「そうなんですね……フィオちゃんがそう言ってくれるなら少し考えてみますね」
リオが付いていきたいって言ったらワタルはどうするかな? 拒絶? でもリオの言葉には弱そう。
「一緒に居られるといいな。ね、もさ」
『きゅぅ~?』
私の頭の上でもぞもぞと前足を動かして髪をわしゃわしゃされた。
王都までの道のりで最後の村に立ち寄った後ワタル達はユウヤとミズハラに異常があるって注意しながら観察してるけど――私には異常を感じられない。
少し注意して見てみるけど異界者同士で固まってるのはいつもの事だと思うし表情にもおかしな変化は感じない。
違和感も特になかったからそれきり観察はやめた。そもそもナハトがワタルを自分のにするって言い始めてからワタルの事が気になってばかりで他への観察はあまりしてないし興味もない。
でもこの時始まってた異変が私の人生を――ううん、世界すら変えてしまう大きな流れになってしまう事を私はまだ知らなかった。
ワタルとリオは特別だからそうしてくれるのは分かってた。でも……ヴァーンシアを嫌っているコウヅキ達も私を人間として見る。
別に優しくしてくれる訳じゃない、ヴァーンシア人を嫌ったまま私を人として対等に扱う。
これが本来の異界者――日本人の性質なのかもしれない。相手との間にどんな感情があっても相手を対等な存在として接する。
ワタルはワタルの世界では特別じゃないのかもしれない。
でも、やっぱりワタルは私にとって特別。
私を変えてくれて、私に色んな初めてをくれる。
リオも特別、私が混ざり者だって分かってるのに態度は変わらない。いつもあたたかい、アドラには他にこんな人間居ない。
そんな二人と今普通の、危険の無い土地を旅をしてるのはとても不思議で――。
楽しい。
ワタルには目的があってのんびりしてられるわけじゃないけど、それでもこうして隣を歩いて私に悪意の無い笑顔を向けてくれる。
そんな相手が二人も居てくれる事が堪らなく楽しい。
今日も野宿、ミズハラ達はうるさいけど私は野宿も嬉しい。宿じゃないからワタルとリオが食事を用意してくれる。
そして、私は特等席で美味しい食事をする。
「おいフィオ、私と変われっ」
私の楽しい時間、それに水を差すナハトは鬱陶しいけど……ここは普通より少しだけ小さめの私だから座れる場所、ワタルよりも大きいナハトが座れるわけがない。
今だけは平均より少し小さい自分の身体を勝ち誇る。
「お、お前なんだその笑みはっ。ワタルを夫にするのは私なのだぞ」
そんなのナハトが勝手に言ってるだけ、ワタルはリオと一緒に居る方がいい――。
「あ……」
「ほらフィオ、余所見してるからだぞ。ほれ」
汁物に入ってた芋を落としてしまった私にワタルは自分の器から芋を摘まんで差し出してきた。
日本人の食べ方は不思議、フォークでもスプーンでもなく箸っていう棒二本で食事してる。
差し出された芋に食い付く。
食べさせてもらうなんて幼子みたいだけど、なんだか……とても幸せな気持ちになる。
「航なんかそれ二人羽織みたい――て言うか上手いね」
「そういえばあんた料理もするし無駄に器用ね」
「料理するって言ってもこんなん適当だし、調味料の勝利だろ」
ワタルがまた差し出してくるから私は大人しく口を開けて待っている。こういう時間も好きかも。
「フィオちゃん私のお肉もあげますね、いっぱい食べたらきっと大きくなりますよ」
リオ……要らん気遣い。
でも嬉しいからリオの方にも食い付く。
不思議、他人のぬくもりがこんなに傍にある。
それがこんなにも嬉しくて――だから少し不安にもなる。この心地好さを知ってしまったからにはもう昔の私には戻れない。
もし、二人のどちらかを、或いは両方を失う事になったら私は正気でいられるのかな……?
ワタルが消えた時凄く苦しかった。
その更に先の苦しみを想像したら体に震えが走った。
「寒いのか? 俺の上着着るか?」
「いい。このままで、背中が温いから」
「ならフィオちゃんこれでもっとあったかくなりますよ」
ワタルの脚に座ってる私にリオが寄り添う。
二人に挟まれて感じるぬくもりは私が今まで生きてきて得たものの中で一番の幸福なんじゃないかと思う。
でも、普通の人間はこういうものを当たり前のように享受してるのかもしれない。だってワタルもリオも本当に自然にそれを私に与えてくれるから……私はやっぱりみんなと違う、その不公平が心をざわつかせるけど――。
二人の熱が暗いものに囚われそうになる心を解してくれる。
だから――この日この時私は決めた。
私の命は二人の為に使うと、二人の為にあるんだと、二人に出会う為に私は生まれた――うん……それだと、いいな。
私の今までは二人を守れるようになる為にあった。
それはなんて意味のある事だろう。
人間の物差しだと私は罪を重ねた罪人――いっぱい殺した。知られたら嫌われるかもしれない。
それでも私は私を肯定する。罪を重ねて培ってきたものは必ずワタル達守るのに役に立つ。
だから私の人生はこれでよかった。別に不幸なんかじゃなかった。
だってそうでしょう? こんなにも一緒に居たい二人を守れる力を私はもう手にしているから――自分で選んで自分で決める。
それはとても人間っぽい。私を人間にしたワタルにはずっと付き合ってもらう――。
「ワタル、リオ……私、ずっと一緒に居たい」
「なん、だと? フィオ貴様やっぱりワタルを狙っているな? させんぞ、ワタルとあたたかい家庭を作るのは私なのだからなっ!」
ぽつりと零れてしまった言葉に反応してナハトが噛み付いてきた。
あたたかい家庭それは私には馴染みの無い言葉で――酷く羨ましいものに感じた。
見知らぬ土地を大切な二人と歩く。
リオと一緒の時もそうだったけどこんなに穏やかな時間があるんだ……繋いだリオ手のぬくもり、世界にはこんなに優しくてやわらかいものがある。
ずっとこうしていられたらと思う。
でもどうすればいいの? ワタルは帰るつもりでいる――リオを残して――。
「リオは……ワタルが帰ったらどうするの?」
「え? ……そう、ですね…………どうしましょう? アドラには戻れないですし、出来ればクロイツに行ってみたいですね」
目を逸らしたリオの言葉は嘘だと思う。
「一緒に見張るって言ったのに……」
「っ……でも、ワタルにはワタルの生活がありますから……そこに戻るのに私が付いていったら迷惑ですよ」
何かを必死に堪えているみたいな表情、たぶんリオの為って言ってリオを避けた時の私と同じ顔。
でももうあの時とは状況が違う。
リオの普通の生活はもう無いし、ワタルもリオもお互いの心配してるのに我慢してるのは変。
「私はワタルに付いていく。リオはワタルと一緒嫌なの?」
「そうじゃないです。でもワタルは…………」
リオはたぶんあの夜の事を気にしてる。誰とも深く関わりたくないってワタルの言葉。
でもワタルは線引きが下手、関わりたくないくせにリオにも私にも優しくする。だからこんな――。
「ワタルはリオの事大事って言ったよ」
「そうなんですか?」
曇ってた瞳が光を取り戻した。この優しい目を向けてくれるのはワタルとリオだけ、どっちも一緒居て欲しい。
「ん……だから、一緒がいい……よ?」
「ふふ、私も一緒でいいんですか?」
「ん」
「そうなんですね……フィオちゃんがそう言ってくれるなら少し考えてみますね」
リオが付いていきたいって言ったらワタルはどうするかな? 拒絶? でもリオの言葉には弱そう。
「一緒に居られるといいな。ね、もさ」
『きゅぅ~?』
私の頭の上でもぞもぞと前足を動かして髪をわしゃわしゃされた。
王都までの道のりで最後の村に立ち寄った後ワタル達はユウヤとミズハラに異常があるって注意しながら観察してるけど――私には異常を感じられない。
少し注意して見てみるけど異界者同士で固まってるのはいつもの事だと思うし表情にもおかしな変化は感じない。
違和感も特になかったからそれきり観察はやめた。そもそもナハトがワタルを自分のにするって言い始めてからワタルの事が気になってばかりで他への観察はあまりしてないし興味もない。
でもこの時始まってた異変が私の人生を――ううん、世界すら変えてしまう大きな流れになってしまう事を私はまだ知らなかった。
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