457 / 464
番外編~世界を見よう! 家族旅行編~
反逆のエルフ
しおりを挟む
異世界でこんなことを言うのは今更なのかもしれない、だが敢えて言おう――。
「あり得ねぇ……」
ステラが案内する洞窟を抜けた先、巨大な水晶のドーム――。
その透明な天井に大量の水が落ちては散っている。
「すごい、すごいねパパ! 水晶の天井もすごいけど、町全部が水晶なのもすごいね!」
「父しゃまこのお家壁がすけすけなのじゃ」
建造物としては美しいがやはり生活するとなるとこの透き通った壁は不都合が多いのだろう、ドラウトの王城と同じく絨毯やカーテン、壁掛け用の装飾された布を内側に掛けて誤魔化しているようだ。
「お風呂とか楽しそうよね」
おのれはおっさんか……アスモデウスの発想におっさんと同じものを感じつつもこの幻想的過ぎる景色を見回す。
「あれ? ステラは?」
「そういえば居らぬな……まぁよいではないか。主の神龍は儂だぞ、あやつなど気にするでない」
目的が観光だけならそれでもいいんだけどな。娘たちが興味津々に町を見ている隙を見計らってここぞとばかりにお嫁様方が引っ付いてくる。
娘たちも俺に構うのは一段落したのか離れる事が多くなってるのとさっき本音を吐き出したせいで大胆になっているようだ。パパちょっと寂しい……。
それでも体裁を気にしたリオやミシャ、クロシロはやれやれといった具合で遠巻きに見ている。実際は参加したいがこんな人前でみっともないという理性が働いているようだ。
そこを言えば小さいフィオ達は大分有利なのだろう、町の人も中の良い兄妹ですねと笑いかけるだけなのだから。
「ん~、流石にあたしは種族が違うのがバレてるから兄妹には見られないな。むしろドワーフに理解があるせいで微妙にみっともないに傾いてるぞ。うぅ……リュエルの為にもあまり情けない母親は出来ないぞ…………」
リュン子は視線の性質の変化を敏感に感じ取って離れてしまった。だがしかしそんなものお構い無しにべたべたしている我が家のお姉さん枠の二人――。
「ほらティナ、みっともないと言われているぞ。離れたらどうだ?」
「無理よ。だってこの引き締まってるのにあまり筋肉質じゃないワタルの右腕が抱いていて欲しいと訴えているもの」
俺の腕そこまで我が儘じゃないんじゃないかなぁ、知らんけど。
「奇遇だな、左腕の方も胸の谷間の居心地がいいから出て行きたくないと言っているのだ。可愛いやつめ」
二人は俺の腕と意志疎通が出来る超能力者らしい。振り解こうにも素振りを見せると微かにその表情に寂しさを覗かせるものだからもう何も言えなくなる。
「あ、ステラさん戻って来ましたよ。どこに行っていたんですか、あまり勝手にうろうろされては僕達が――それ、どうしたんですか?」
「リオさんに頂いたおこづかいで買いました。とても美味しいですよ」
遺跡関連の用事で姿を消したのかと思えばたこ焼き買いに行ってましたよ……食欲に流され過ぎじゃなかろうか。これを見越しての禁欲生活を設定されていたんだろうか……? そういえばクーニャも割りと欲望に忠実というか……神龍はそういう種なんだろうか?
「ステラ、たこ焼きにはマヨと鰹節が必須だ! このお金で追加してきなさい」
「そういうものでしたか。行ってきます」
「如月様、頭が痛くなるので黙っていてもらえませんか?」
「ん~、だって何にでも目を輝かせて興味を持つって素晴らしいじゃん。ああいうのってまだ何も知らない子供の間とか限定なとこあるだろ? ならそうあれる間位楽しませてやってもいいかなと。ずっと長い間ヴァーンシアの環境の管理をしてきたんだしちょっとくらい我が儘したって良いじゃないか」
役割があるからって何もかも我慢して知らないままじゃないといけないなんて事はない。誰だって楽しく生きていいはずだ。そうあってほしい。
急ぐべきとはいえ、たこ焼きくらい食べたっていいだろう? そのくらいの我が儘くらい誰かが許してやっていいはずだ。
「用事が済んでからでも問題ないはずですが?」
「……分かったよ。戻ってきたしちゃんと言うよ――ステラ、用事を先に済ませてくれないか?」
「しょぉれすね。では行きます」
何の準備も出来ないまま俺たちは足下に開いた闇へと飲み込まれた。
「またあっさりと私たちを遺跡内に入れてしまってよいのですか? ここの管理者が怒るのでは?」
造物主に関するものが全てステラのように友好的とは限らない。むしろ初めて入った遺跡の事を考えると警戒してしまうレヴィの気持ちも分かる。だがそれならステラも自分だけで入るだろう。
「ここに管理をするスペリオルは居ません。しかしもうあなた方は造物主や施設の事を知っている、であれば顛末まで見届ける方が納得も安心も出来るでしょう? この施設は箱庭の文明の成長と需要に合わせて埋蔵する鉱物資源を調整するなどの管理も行っています。あなた方が自らの手で道を切り拓いて行く限り各地に存在する施設やスペリオルはその補助をするのです。適切な時に適切なものを――」
「いや魔物騒動の時神龍は手助けしてくれませんでしたよね!?」
エルスィのツッコミに動揺した風もなくステラは続ける。
「本当に必要な場合適切な時に適切なものがあるものです。それが感じ取れるものとは限りません。それに言ったでしょう? 自らの手で道を切り拓いて行く事を造物主は望んでいます。あなた方で対処出来ることには介入しないのが原則ではあるのです。今回の件はこちら側の施設の管理不足がありますので対処するのです。さて、作業を済ませてしまいます」
巨大な水晶にいくつもの立体的なデータの表示が浮かんでは消えていく。表示されているのは今のヴァーンシアに居る生物のデータだろうか? 立体映像と共に表示される文字はヴァーンシアのものに似ているがどこか違って俺には全く理解不能だ。
「ふむ、なかなか多種が観測されていますね。これだと個別に作るよりそれぞれの特性を掛け合わせた混合石を生成した方が早いですね」
「それはどのくらいの大きさになりますか? 設置にも人手が要るでしょうし各国にも問い合わせなければ――」
この後の段取りを含めて調整の必要があるから本社にも問い合わせなければと難しい顔をしたエルスィだったが――。
「何を言っているのですか。箱庭中に現在一体どれだけの居住区があると思っているのです? 設置して回るなどという面倒な事するはずがないじゃないですか。観測されている居住区の地下で混合石の生成を設定しました。数が多いので今すぐとはいきませんが、三日後にはほぼ完了します。混合石の影響を受けて居住区と周囲の農地などには侵入出来なくなるでしょう」
三日で生成が完了!? 図解表示されている混合石の図では少なくとも人間サイズの物が一つの集落に十数個ずつ、それを各集落に設置予定になっているように見える。これを世界規模で行って三日後には完了するのか? 混合石は元々存在していた物じゃない、無から作り出してたったの三日……改めて世界を作った超常の存在というものを強く感じた。
「……おいミシャ、合成した特殊な鉱石がたったの三日で手に入るらしいぞ。これはどんな素材も望むがままって事じゃないのか? うぅ~、職人としてこれ程興味を掻き立てる存在は他にないぞ。娘たちにもそろそろちゃんとしたものを持たせたかったし、職人の血が騒ぐなっ」
「うにゅ~、じゃがアダマンタイトも既に充分一級品の素材なのじゃ。あまり素材に頼りすぎるというのは妾は気が進まぬのじゃ。それに武具の能力に頼りすぎだといざという時に困った事にもなりかねんと思うのじゃ、やっぱり普段から鍛え慣れた素材でそれぞれに合わせた最高の物を与えてやるのが良いと思うのじゃ」
リュン子は新しい素材の生成に心を踊らせているようだがミシャの方は否定的なようだ。
まぁ確かに武具に頼り過ぎた戦いに慣れた時に武具を失ったりして動きが取れないなんて状態に陥らないとも限らない。
フィオ達が先生なら対策もしてはいるんだろうが、やっぱり最後は自分の身体次第な部分もあると思うし――。
「リュンヌママリュンヌママ、私は母様と同じように刀が欲しい」
「わしはパパ――じゃなかった、父上と同じ剣がよいぞ。父上と同じ必殺技を使うのだ」
「ルーはね、ルーはね! クーニャママみたいな強くて硬い腕と爪が欲しいのじゃ! にゃんにゃんって悪いやつをやっつけるのじゃ」
だめだルーシャ! そんな可愛い戦い方をしたら倒すどころか魅了してしまうだろ!? というかもうパパが魅了されちゃったよ。にゃんこなポーズで構えを取る娘の姿に悶えてしまう。
見慣れているだろうミシャ達は呆れ顔だが綾さんとレヴィはみんな可愛いですねと同意してくれて固い握手を交わした。
「私は当然ママと同じ大鎌、あとは剣と……他にもいっぱいよ」
「私は……私はっ! 私はね、盾が欲しい。パパが出来ない時にママを守りたいの、ママはね、すっごく優しいの、国の人もみんなママを大好きなんだよ。でも悪い人がたまに来るの、フィオママ達が守ってくれるけど……私もママの事を守りたいの!」
「私も! 私もクロナと同じ! うちのママもクロエママのお手伝いで変な人が集まってくるから守りたいの!」
よし取り敢えずカマーズに依頼して不審者をリスト化しよう。そして今発生している謎生物に補食してもらおう。それがいい――というかクロナとシロエにも心配されるほど不審者が接触してきてんのかよ……ホントよく守ってくれたと小さいお嫁様たちを撫で回すとそんな事は当然だと返ってきた。
「私は……剣と、ナイフと……あとは――」
「フィア言い過ぎズルい! 私は硬い手のやつと足のやつがいい!」
シャドーを見せてからアリアがミシャにすがっている。こう、おねだりしようと必死になっている姿も可愛いよなぁ、こうお尻が微妙にふりふりと……親バカなんだろうけど、うちの娘の可愛さはヤバい。
「私は麗奈お姉ちゃんみたいに綺麗な鎗がいいなぁ、長いのの使い方はママとリエルママに習ってるし」
長物を扱う仕草をしたマリアは上手くなったとシエルに褒められて嬉しそうに抱き付いている。
「あたしは母さんと同じ斧がいいかな、斧ってなんか強そうだよね。おっきい敵を倒すの」
それぞれもうこうしたいってイメージがあるって凄いな……俺がこの年の頃って……まだ変身ヒーローものとか戦隊ヒーローものにハマっててかなりガキだったと思うけど……なんか成長の違いに情けなくなるな。ホント俺には似なくてよかった。
「ティリアとリルはどうするんだ?」
「ん~、私はエピお姉ちゃんみたいな鎖の付いた剣がいいかな。切るのも投げるのも出来るやつ」
一度だけエピに投剣を触らせてもらった事があるがあれは投げるのもその後の鎖でのコントロールもかなり精密な技術を必要としていてあれを動きながらやるってのは難しそうだが……まさかリルはもうそういった事も出来るんだろうか?
「んじゃ私は最高の硬さと切れ味があればなんでもいいかな。私の能力って見えてる範囲の移動なら好きな場所に行けるし、後ろを取ってドーンだよ」
レヴィみたいに誰かを座標にして飛ぶわけじゃないのか。やっぱり切るモーションが要らなくなった分ティナの上位系なんだろうか?
ティナは空間の裂け目に留まる事が出来るからそれを利用する事が出来るしどちらが上位とも言えないか。
「よしよし、みんなの思いはよく分かったぞ。あたしとミシャがしっかりみんなに合った物を作ってやるからな。こんな時の為の携帯工房なんだ、これなら旅行を続けながら作れるぞ」
「ふにゅ~……久々に大仕事になりそうなのじゃ。業物を十二――いや、それ以上になるのじゃ」
「母さんあたし手伝おうか?」
「いいや、リュエルの技術はまだまだだぞ、これはお前たちの身を守る為の大切な武具だ。だから妥協も甘えも許されない、それぞれを最高の逸品にするにはあたしとミシャだけでやるのがいいんだ。大丈夫、母さんを信じろ」
「はにゃしは纏まりましたか? ではもうここは出ますよ。私はもう一度たこ焼きを買いに行かねば――ん? なんでしょうこの反応」
投影されたヴァーンシアの地図上にいくつかの黒点が浮かび上がり渦を巻いている。まるでブラックホールのような印をステラがタップすると現地の映像らしきものが映し出された。
だがそこには特に異常は見られないただの山中だったり草原、あとは何も無い海上だ。
「何かマズいのか?」
「……空間の異常が検知されています。ですが周囲にそれを行ったと思われる存在がありません……観測された生物で空間に影響を与えるのはこれとこれ、こちらはあなたが相対してましたね。自分の身を隠すだけで特に周囲に異常を発生させる類いではありません。そしてもう一方、こちらはレヴォリィテ種の一部が作り出した空間などを行き来する能力を備えています」
作り出した空間? 浮遊島を隠していたという場所の事だろうか?
「そういえばレヴィ、浮遊島って今はやっぱり隠してないのか?」
「隠すというのが見えなくするという事であれば一応は隠しています。ですが別空間にという話であれば隠せていません。隠していた空間自体は消えていないはずなのですが開く事が出来なくなってしまっているので」
「レヴォリィテ種の空間創造は入り口が固定化されます。この生物はそういった入り口を見つけては入り込み中で食糧を漁ったり環境が良ければ繁殖します」
んん? どういう事だ? 作り出した空間の先には食糧や居住区があるのか? 俺はまた丸い膜のようなものかと思っていた。そこに入るとこちら側からは認識出来なくなる、みたいな。必要最低限を入れることができる物に浮遊島を入れていたって感じのイメージだったんだが全然違ったか?
もっと色んな物が存在する――例えば空や地面もある小世界のような便利空間なのか?
「レヴォリィテ種ってのはハイエルフだよな? ハイエルフが作り出した空間の入り口が固定されるならこの山や草原、こんな海上から入った先にもハイエルフが要るのか?」
「ハイエルフというのはそちらのレヴィさんですよね? いいえ、彼女はレヴォリィテ種ではありません。彼女はスィアリィテ種です。レヴォリィテ種とは――特段の有事にその力を使うのがスペリオルならばレヴォリィテは普段の小さな異変などに対処する。いわばスペリオルの補佐のような目的で創造されたのですが……彼らは造物主の意向に逆らい別空間を作りいくつかの群れに別れて引きこもってしまいました。おそらくスィアリィテ種でも存在は知らないはずです」
浮遊島があったのは俺が想像したような空間らしいが別のエルフ? のやつはやはり自分達が暮らしていけるだけの小世界らしい。
「意向に逆らったのに放置されているの?」
長年自分たちを生み出した存在に道具として使われ続けたシエルは不思議そうだ。
でもたしかに、目的を持って生み出されたのならそれに添わない種を残すだろうか? 実際遺跡の中には様々な種が凍結させられていたわけだし。
「意に添わないくらいで箱庭へ放った生命が抹消されることはありません。試行錯誤を繰り返し、それで良いとされた種でなければ箱庭には出られないのですから。造物主は彼らの気持ちを汲み別空間で生きる事も許しています。問題は先程の生物です、さほど大きくはありませんが獰猛です……不可侵のレヴォリィテ種の小世界へと入り込んだとしたら、箱庭側からの攻撃と取られるかもしれません。そうなれば彼らも黙っていないでしょう」
「な、なら急いで対処をしてくださいよ! 空間移動なんて僕たちには――」
『あっ!』
「えっ!? 私?」
俺は普通の家族旅行がしたかっただけなのに……変な遺跡が目覚めたり変態の巣窟に行ったり――更には別の小世界? いつになったらまともな旅行が出来るのやら…………。
「あり得ねぇ……」
ステラが案内する洞窟を抜けた先、巨大な水晶のドーム――。
その透明な天井に大量の水が落ちては散っている。
「すごい、すごいねパパ! 水晶の天井もすごいけど、町全部が水晶なのもすごいね!」
「父しゃまこのお家壁がすけすけなのじゃ」
建造物としては美しいがやはり生活するとなるとこの透き通った壁は不都合が多いのだろう、ドラウトの王城と同じく絨毯やカーテン、壁掛け用の装飾された布を内側に掛けて誤魔化しているようだ。
「お風呂とか楽しそうよね」
おのれはおっさんか……アスモデウスの発想におっさんと同じものを感じつつもこの幻想的過ぎる景色を見回す。
「あれ? ステラは?」
「そういえば居らぬな……まぁよいではないか。主の神龍は儂だぞ、あやつなど気にするでない」
目的が観光だけならそれでもいいんだけどな。娘たちが興味津々に町を見ている隙を見計らってここぞとばかりにお嫁様方が引っ付いてくる。
娘たちも俺に構うのは一段落したのか離れる事が多くなってるのとさっき本音を吐き出したせいで大胆になっているようだ。パパちょっと寂しい……。
それでも体裁を気にしたリオやミシャ、クロシロはやれやれといった具合で遠巻きに見ている。実際は参加したいがこんな人前でみっともないという理性が働いているようだ。
そこを言えば小さいフィオ達は大分有利なのだろう、町の人も中の良い兄妹ですねと笑いかけるだけなのだから。
「ん~、流石にあたしは種族が違うのがバレてるから兄妹には見られないな。むしろドワーフに理解があるせいで微妙にみっともないに傾いてるぞ。うぅ……リュエルの為にもあまり情けない母親は出来ないぞ…………」
リュン子は視線の性質の変化を敏感に感じ取って離れてしまった。だがしかしそんなものお構い無しにべたべたしている我が家のお姉さん枠の二人――。
「ほらティナ、みっともないと言われているぞ。離れたらどうだ?」
「無理よ。だってこの引き締まってるのにあまり筋肉質じゃないワタルの右腕が抱いていて欲しいと訴えているもの」
俺の腕そこまで我が儘じゃないんじゃないかなぁ、知らんけど。
「奇遇だな、左腕の方も胸の谷間の居心地がいいから出て行きたくないと言っているのだ。可愛いやつめ」
二人は俺の腕と意志疎通が出来る超能力者らしい。振り解こうにも素振りを見せると微かにその表情に寂しさを覗かせるものだからもう何も言えなくなる。
「あ、ステラさん戻って来ましたよ。どこに行っていたんですか、あまり勝手にうろうろされては僕達が――それ、どうしたんですか?」
「リオさんに頂いたおこづかいで買いました。とても美味しいですよ」
遺跡関連の用事で姿を消したのかと思えばたこ焼き買いに行ってましたよ……食欲に流され過ぎじゃなかろうか。これを見越しての禁欲生活を設定されていたんだろうか……? そういえばクーニャも割りと欲望に忠実というか……神龍はそういう種なんだろうか?
「ステラ、たこ焼きにはマヨと鰹節が必須だ! このお金で追加してきなさい」
「そういうものでしたか。行ってきます」
「如月様、頭が痛くなるので黙っていてもらえませんか?」
「ん~、だって何にでも目を輝かせて興味を持つって素晴らしいじゃん。ああいうのってまだ何も知らない子供の間とか限定なとこあるだろ? ならそうあれる間位楽しませてやってもいいかなと。ずっと長い間ヴァーンシアの環境の管理をしてきたんだしちょっとくらい我が儘したって良いじゃないか」
役割があるからって何もかも我慢して知らないままじゃないといけないなんて事はない。誰だって楽しく生きていいはずだ。そうあってほしい。
急ぐべきとはいえ、たこ焼きくらい食べたっていいだろう? そのくらいの我が儘くらい誰かが許してやっていいはずだ。
「用事が済んでからでも問題ないはずですが?」
「……分かったよ。戻ってきたしちゃんと言うよ――ステラ、用事を先に済ませてくれないか?」
「しょぉれすね。では行きます」
何の準備も出来ないまま俺たちは足下に開いた闇へと飲み込まれた。
「またあっさりと私たちを遺跡内に入れてしまってよいのですか? ここの管理者が怒るのでは?」
造物主に関するものが全てステラのように友好的とは限らない。むしろ初めて入った遺跡の事を考えると警戒してしまうレヴィの気持ちも分かる。だがそれならステラも自分だけで入るだろう。
「ここに管理をするスペリオルは居ません。しかしもうあなた方は造物主や施設の事を知っている、であれば顛末まで見届ける方が納得も安心も出来るでしょう? この施設は箱庭の文明の成長と需要に合わせて埋蔵する鉱物資源を調整するなどの管理も行っています。あなた方が自らの手で道を切り拓いて行く限り各地に存在する施設やスペリオルはその補助をするのです。適切な時に適切なものを――」
「いや魔物騒動の時神龍は手助けしてくれませんでしたよね!?」
エルスィのツッコミに動揺した風もなくステラは続ける。
「本当に必要な場合適切な時に適切なものがあるものです。それが感じ取れるものとは限りません。それに言ったでしょう? 自らの手で道を切り拓いて行く事を造物主は望んでいます。あなた方で対処出来ることには介入しないのが原則ではあるのです。今回の件はこちら側の施設の管理不足がありますので対処するのです。さて、作業を済ませてしまいます」
巨大な水晶にいくつもの立体的なデータの表示が浮かんでは消えていく。表示されているのは今のヴァーンシアに居る生物のデータだろうか? 立体映像と共に表示される文字はヴァーンシアのものに似ているがどこか違って俺には全く理解不能だ。
「ふむ、なかなか多種が観測されていますね。これだと個別に作るよりそれぞれの特性を掛け合わせた混合石を生成した方が早いですね」
「それはどのくらいの大きさになりますか? 設置にも人手が要るでしょうし各国にも問い合わせなければ――」
この後の段取りを含めて調整の必要があるから本社にも問い合わせなければと難しい顔をしたエルスィだったが――。
「何を言っているのですか。箱庭中に現在一体どれだけの居住区があると思っているのです? 設置して回るなどという面倒な事するはずがないじゃないですか。観測されている居住区の地下で混合石の生成を設定しました。数が多いので今すぐとはいきませんが、三日後にはほぼ完了します。混合石の影響を受けて居住区と周囲の農地などには侵入出来なくなるでしょう」
三日で生成が完了!? 図解表示されている混合石の図では少なくとも人間サイズの物が一つの集落に十数個ずつ、それを各集落に設置予定になっているように見える。これを世界規模で行って三日後には完了するのか? 混合石は元々存在していた物じゃない、無から作り出してたったの三日……改めて世界を作った超常の存在というものを強く感じた。
「……おいミシャ、合成した特殊な鉱石がたったの三日で手に入るらしいぞ。これはどんな素材も望むがままって事じゃないのか? うぅ~、職人としてこれ程興味を掻き立てる存在は他にないぞ。娘たちにもそろそろちゃんとしたものを持たせたかったし、職人の血が騒ぐなっ」
「うにゅ~、じゃがアダマンタイトも既に充分一級品の素材なのじゃ。あまり素材に頼りすぎるというのは妾は気が進まぬのじゃ。それに武具の能力に頼りすぎだといざという時に困った事にもなりかねんと思うのじゃ、やっぱり普段から鍛え慣れた素材でそれぞれに合わせた最高の物を与えてやるのが良いと思うのじゃ」
リュン子は新しい素材の生成に心を踊らせているようだがミシャの方は否定的なようだ。
まぁ確かに武具に頼り過ぎた戦いに慣れた時に武具を失ったりして動きが取れないなんて状態に陥らないとも限らない。
フィオ達が先生なら対策もしてはいるんだろうが、やっぱり最後は自分の身体次第な部分もあると思うし――。
「リュンヌママリュンヌママ、私は母様と同じように刀が欲しい」
「わしはパパ――じゃなかった、父上と同じ剣がよいぞ。父上と同じ必殺技を使うのだ」
「ルーはね、ルーはね! クーニャママみたいな強くて硬い腕と爪が欲しいのじゃ! にゃんにゃんって悪いやつをやっつけるのじゃ」
だめだルーシャ! そんな可愛い戦い方をしたら倒すどころか魅了してしまうだろ!? というかもうパパが魅了されちゃったよ。にゃんこなポーズで構えを取る娘の姿に悶えてしまう。
見慣れているだろうミシャ達は呆れ顔だが綾さんとレヴィはみんな可愛いですねと同意してくれて固い握手を交わした。
「私は当然ママと同じ大鎌、あとは剣と……他にもいっぱいよ」
「私は……私はっ! 私はね、盾が欲しい。パパが出来ない時にママを守りたいの、ママはね、すっごく優しいの、国の人もみんなママを大好きなんだよ。でも悪い人がたまに来るの、フィオママ達が守ってくれるけど……私もママの事を守りたいの!」
「私も! 私もクロナと同じ! うちのママもクロエママのお手伝いで変な人が集まってくるから守りたいの!」
よし取り敢えずカマーズに依頼して不審者をリスト化しよう。そして今発生している謎生物に補食してもらおう。それがいい――というかクロナとシロエにも心配されるほど不審者が接触してきてんのかよ……ホントよく守ってくれたと小さいお嫁様たちを撫で回すとそんな事は当然だと返ってきた。
「私は……剣と、ナイフと……あとは――」
「フィア言い過ぎズルい! 私は硬い手のやつと足のやつがいい!」
シャドーを見せてからアリアがミシャにすがっている。こう、おねだりしようと必死になっている姿も可愛いよなぁ、こうお尻が微妙にふりふりと……親バカなんだろうけど、うちの娘の可愛さはヤバい。
「私は麗奈お姉ちゃんみたいに綺麗な鎗がいいなぁ、長いのの使い方はママとリエルママに習ってるし」
長物を扱う仕草をしたマリアは上手くなったとシエルに褒められて嬉しそうに抱き付いている。
「あたしは母さんと同じ斧がいいかな、斧ってなんか強そうだよね。おっきい敵を倒すの」
それぞれもうこうしたいってイメージがあるって凄いな……俺がこの年の頃って……まだ変身ヒーローものとか戦隊ヒーローものにハマっててかなりガキだったと思うけど……なんか成長の違いに情けなくなるな。ホント俺には似なくてよかった。
「ティリアとリルはどうするんだ?」
「ん~、私はエピお姉ちゃんみたいな鎖の付いた剣がいいかな。切るのも投げるのも出来るやつ」
一度だけエピに投剣を触らせてもらった事があるがあれは投げるのもその後の鎖でのコントロールもかなり精密な技術を必要としていてあれを動きながらやるってのは難しそうだが……まさかリルはもうそういった事も出来るんだろうか?
「んじゃ私は最高の硬さと切れ味があればなんでもいいかな。私の能力って見えてる範囲の移動なら好きな場所に行けるし、後ろを取ってドーンだよ」
レヴィみたいに誰かを座標にして飛ぶわけじゃないのか。やっぱり切るモーションが要らなくなった分ティナの上位系なんだろうか?
ティナは空間の裂け目に留まる事が出来るからそれを利用する事が出来るしどちらが上位とも言えないか。
「よしよし、みんなの思いはよく分かったぞ。あたしとミシャがしっかりみんなに合った物を作ってやるからな。こんな時の為の携帯工房なんだ、これなら旅行を続けながら作れるぞ」
「ふにゅ~……久々に大仕事になりそうなのじゃ。業物を十二――いや、それ以上になるのじゃ」
「母さんあたし手伝おうか?」
「いいや、リュエルの技術はまだまだだぞ、これはお前たちの身を守る為の大切な武具だ。だから妥協も甘えも許されない、それぞれを最高の逸品にするにはあたしとミシャだけでやるのがいいんだ。大丈夫、母さんを信じろ」
「はにゃしは纏まりましたか? ではもうここは出ますよ。私はもう一度たこ焼きを買いに行かねば――ん? なんでしょうこの反応」
投影されたヴァーンシアの地図上にいくつかの黒点が浮かび上がり渦を巻いている。まるでブラックホールのような印をステラがタップすると現地の映像らしきものが映し出された。
だがそこには特に異常は見られないただの山中だったり草原、あとは何も無い海上だ。
「何かマズいのか?」
「……空間の異常が検知されています。ですが周囲にそれを行ったと思われる存在がありません……観測された生物で空間に影響を与えるのはこれとこれ、こちらはあなたが相対してましたね。自分の身を隠すだけで特に周囲に異常を発生させる類いではありません。そしてもう一方、こちらはレヴォリィテ種の一部が作り出した空間などを行き来する能力を備えています」
作り出した空間? 浮遊島を隠していたという場所の事だろうか?
「そういえばレヴィ、浮遊島って今はやっぱり隠してないのか?」
「隠すというのが見えなくするという事であれば一応は隠しています。ですが別空間にという話であれば隠せていません。隠していた空間自体は消えていないはずなのですが開く事が出来なくなってしまっているので」
「レヴォリィテ種の空間創造は入り口が固定化されます。この生物はそういった入り口を見つけては入り込み中で食糧を漁ったり環境が良ければ繁殖します」
んん? どういう事だ? 作り出した空間の先には食糧や居住区があるのか? 俺はまた丸い膜のようなものかと思っていた。そこに入るとこちら側からは認識出来なくなる、みたいな。必要最低限を入れることができる物に浮遊島を入れていたって感じのイメージだったんだが全然違ったか?
もっと色んな物が存在する――例えば空や地面もある小世界のような便利空間なのか?
「レヴォリィテ種ってのはハイエルフだよな? ハイエルフが作り出した空間の入り口が固定されるならこの山や草原、こんな海上から入った先にもハイエルフが要るのか?」
「ハイエルフというのはそちらのレヴィさんですよね? いいえ、彼女はレヴォリィテ種ではありません。彼女はスィアリィテ種です。レヴォリィテ種とは――特段の有事にその力を使うのがスペリオルならばレヴォリィテは普段の小さな異変などに対処する。いわばスペリオルの補佐のような目的で創造されたのですが……彼らは造物主の意向に逆らい別空間を作りいくつかの群れに別れて引きこもってしまいました。おそらくスィアリィテ種でも存在は知らないはずです」
浮遊島があったのは俺が想像したような空間らしいが別のエルフ? のやつはやはり自分達が暮らしていけるだけの小世界らしい。
「意向に逆らったのに放置されているの?」
長年自分たちを生み出した存在に道具として使われ続けたシエルは不思議そうだ。
でもたしかに、目的を持って生み出されたのならそれに添わない種を残すだろうか? 実際遺跡の中には様々な種が凍結させられていたわけだし。
「意に添わないくらいで箱庭へ放った生命が抹消されることはありません。試行錯誤を繰り返し、それで良いとされた種でなければ箱庭には出られないのですから。造物主は彼らの気持ちを汲み別空間で生きる事も許しています。問題は先程の生物です、さほど大きくはありませんが獰猛です……不可侵のレヴォリィテ種の小世界へと入り込んだとしたら、箱庭側からの攻撃と取られるかもしれません。そうなれば彼らも黙っていないでしょう」
「な、なら急いで対処をしてくださいよ! 空間移動なんて僕たちには――」
『あっ!』
「えっ!? 私?」
俺は普通の家族旅行がしたかっただけなのに……変な遺跡が目覚めたり変態の巣窟に行ったり――更には別の小世界? いつになったらまともな旅行が出来るのやら…………。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
507
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる