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番外編~世界を見よう! 家族旅行編~
アブナイ町
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渓谷の入り口前にある三重になっている防壁の門を潜り渓谷内に入ったが……視界内には町らしきものなど見当たらない。
町を守る為の壁じゃないのか? いや、むしろあの作りは渓谷内から出さない為の関所のようなものなのか?
そしてこの大量の護衛……娘一人につきカマーズの社員が十人も付いている。これだけ警戒するというならリオ達にも必要じゃないかとエルスィに相談してみたが必要はないと言う。
「なぁ――」
「わぁ~っ! 見てパパ! おっきい壁画、これクロイツの聖樹だね。あっ、これぼこぼこしてて立体になってる」
「見よリル、こっちは母上だ。う~、わしも大きくなったらこのように完璧な顕現が出来るであろうか?」
壁一面が削られ彫刻と壁画に変わっている道に子供達は大喜びして触り、確かめ、感じている。
これのどこに警戒する要素があるって言うんだ?
しかし進むほどにクロとシロ、そしてカマーズの社員たちの緊張は高まっていくのが分かる。
そして辿り着いた先に広がるのは長く続く渓谷を塞ぐようにして存在している町だ。しかしまぁ町の入り口には高い壁が設置され渓谷の入り口同様に何かを拒む作りになっている。
「なぁ、いい加減に教えてくれてもいいんじゃないか?」
「……分かりました」
「エルスィさん――」
「クロエ様、やはり黙ったままというのは問題があるかと。どうせ異常には気付かれます。如月様、落ち着いて聞いてください」
「? 俺は落ち着いてるが」
エルスィは緊張した面持ちで一歩前に出てはしゃぐ娘たちから離れるように促してきた。訝しみつつもそれに従って離れた場所で彼は重い口を開いた。
「まず、如月様の結婚式を見ていた者達の中には触発されて自分もと意気込んだ者が一定数居たのです」
「何で俺の結婚式で? 意味が分からないんだが……」
いきなりなんの話だ? この町の話じゃないのか?
「触発された者達……それは――ロリコンです!」
どう反応すればいいんだ……? なっ、なんだってー!? とかリアクションすればいいのか?
「頑張ればロリとも結婚できる、更には重婚出来る。そんな感じで暴走して事件を起こすロリコンが各地で増えました」
「…………ナニソレ……それは、俺が悪いのか? そいつら去勢して滅ぼせばいいのか?」
俺が引き金になったと言われては嫌悪で顔を歪めずにはいられない。しかも実害が出ているという、家族旅行じゃなくてロリコン去勢の旅に行かないといけないのか?
「そういったロリコン犯罪者を収用して極刑の代わりに強制労働させているのがクリミナルなんです」
「よし分かった! 滅ぼそう、町諸とも跡形もなく消し飛ばそう。うん、それがいい――そうしよう!」
レーヴァテインに手を掛けて右手へと力を集める。やっぱ俺関係ないだろ、フィオたちは大丈夫な歳だ。小柄なだけだ、かなり小柄なだけだ! そして俺は幼い娘が好きなわけではない。好きになった相手がたまたま超小柄だっただけだ。だから犯罪者のロリコン達とは別の人種です。誰かに言い訳しながら黒い光を溢れさせる。
ここに纏まっているというのなら話は簡単だ。一掃してしまおう。
町を壊滅させるべく吹き出す黒雷、それに慌てたクロが縋り付いてきた。
「ワタル様落ち着いてください。クリミナルの生産力は今やアディアの財源の一つになっています。おいそれと切り捨てる訳にもいかないのです」
「ロリコンの犯罪者だぞ!? この国はそんなもんに頼ってるのか!?」
「元々は収用先として押し付けられてしまったのですが、今は立派な生産力を持った職人達の町です。い、一部問題が無いとは言えませんが……それでもドワーフの技術を習得した職人で顧客を持つ者も少なくありません。販売数で言えば高価なドワーフ製の細工品よりも安価でも質の良いロリコン製が好まれる事があるほどです。そして、壁画をご覧になったでしょう? あれは観光資源にもなっています。家族連れが来ればロリに会えるという大変不純な動機によって作られたものですが……完全隔離の彼らにとっては全ての可能性を試したかったのでしょうね」
エルスィの話を聞いて今の状況はまさにロリコン達の思うつぼじゃないかと顔が引き攣る。漏れなく可愛いうちの娘は格好の獲物じゃないか!?
「でも、犯罪者なんだよな?」
少女を狙う卑劣な犯罪者、その引き金を引いたのがお前だ、みたいな言い方をされては我慢ならない。俺に責任があると言うなら今この場で一掃するしかないだろう。
「そ、そうなのですが、未遂――そう未遂なのです。収用されている彼らは誘拐などの犯行に至っていますが被害者は皆無事で無傷、未遂である者たちなのです」
いや誘拐の時点でアウトだから。誰だクロを丸め込んだのは…………。
「まぁ、そのせいで処理に困った各国がドワーフの言う事なら聞くのではないかとアディアに押し付ける事になったんですけどね」
クロエ様がそれでどれだけ心労で体調を悪くされたかっ! とシロが憤慨している。
未遂で死刑はやり過ぎだという、しかし少女を襲う素養のあるものを自由に闊歩させる事も出来ない。かといって、そんな奴らを収用して養ってやるなんて御免だ。
数が少なければ個々に見張りを付けて更正を促すという案もあったようだが……ロリコンは本当に世界各地で発生した、らしい。
苦慮した各国は復興が始まっていたアディアの復興支援と引き換えにロリコンの管理を押し付けてきた結果がこの町らしい。ドワーフの指導の下使っていない土地に自分たちで町を築かせ、自分たちを閉じ込める壁を作らせた。
少女を狙う犯罪者を養うなんて馬鹿らしい、むしろ馬車馬のように働かせてこき使えというロフィアの号令の元、まともな仕事を覚えさせる為にドワーフに更なる協力を要請。
ロリ以外には無気力な彼らにやる気を出させる苦肉の策だった。力関係的にドワーフが負けるなどあり得ない、念には念をで混血者からはジズネとシズナが抜いて安全の確保は抜かりなかったが、万が一があるかもしれない。
故にドワーフだったのだという。職人として一流のドワーフの作業を文字通り舐めるようにして見学したロリコン達の上達は早かった。(見ていたのは別の所だと言う指摘もあるが)
ドワーフに褒めてもらい特別な関係になる事を期待した変態達の力は凄まじく、ドワーフ達が太鼓判を押すほどに皆成長したのだとか。
その結果、噂を聞き付けた者達が買い付けに来るようになり、そこから更に噂が広がり町の内外の芸術作品を見ようと人が集まり観光地としても確立した。ロリ以外には無害な存在だからというのもあったかもしれない。
「パパー! 早く入ろー」
「あぁ、分かったよー」
リルを始めに皆壁画や門前にある彫刻などに興味を引かれている様子だ。今更駄目だなんて言えない空気だ……ならやることは決まっている。
娘は俺が守る! フィオ達も守る、一切近付かせない。これしかない、少しでも近付く輩が居れば人生からご退場願おう。
「わぁ~、父しゃまここすごいのじゃ」
高い門で見えなかった内部は建築の様式がそれぞれ異なり渾然一体となった不思議な空間だった。ヴァーンシア独特の様式なのかドワーフ製なのかも分からないものもあるが、その不思議さが娘たちの興味を引いたようだ。
乱雑なようでいてどこか整然としている。クロイツも建物の様式が違う区画があるがあれは区画毎に区切って整えてある、あれとは違う。
しかしまぁ……なるほど……子供の興味を引きそうな可愛げのある壁の彫刻や彫像もあちこちに散在している。
「パパ、パパ! こっちの見て!」
「父様こっちも!」
興奮したマリアとティリアに手を引かれて前のめりになりながら歩き回る。他の娘とも離れ過ぎないように視線を巡らせ警戒は怠らない。が……それにしても――。
「これは……予想以上の羨望の眼差しですね」
部下と共に娘に付いて周囲を警戒しているエルスィが顔を引き攣らせている。
これはもう羨望ではなく怨念じゃなかろうか。はしゃぎ回って俺の手を引く娘たちに注がれる異常な視線、視線、視線っ! 片っ端から見ている奴を視線だけで殺す勢いで威嚇するが……よほど飢えているらしく怯むどころかむしろ挑発してくる輩まで居る。
酷い奴で言えばその場で写生を開始して舐め回すようにうちの娘や小さい嫁を見ている。あの絵を後でどうするのか考えたくないな。
フィオ達が殺気を飛ばしてもキツい視線に興奮するだけで効果がなく、最終的にはフィオ達が折れて少しでもその気持ち悪い視線から逃れようと俺に縋りつく。それを見て嫉妬に燃えた変態達が血涙している。
「ワタル、絶対リル達から目を離さないでくださいね?」
「分かってる……にしても本当に大きい方には全く興味が無いんだな」
「そうねぇ、ワタルがロリコンなのか分からなくなったわ」
うん、俺も分からねぇ。でもとりあえず俺はこいつらとは違うと思うという事だけは確信した。
娘たちは無邪気なもので周囲の男達の視線の異常さには気付いていないようで店先に並ぶ装飾品や看板代わりの可愛らしい彫像に目移りしている。
「お嬢ちゃんそれ気に入ったのかい? よかったらボクがプレゼントしようか――」
「必要ないぞ。うちの娘を見るな」
「お、お嬢ちゃんの娘!? こんな小さい娘の娘……」
「なぁクロ、やっぱここ滅ぼそう」
カーバンクルがデザインされたペンダントに見入っていたリュエルに話し掛けた店主を遠ざけようと割って入ったリュン子を舐め回すように上から下まで視線を動かした店主が顔を赤くし鼻息荒く下卑た笑いを浮かべたのが非常に気持ち悪い。というかこんなのばっかりじゃないか!?
「おっ!? おおっ!? 如月さん!? え? なんで? どうしたんですかこんな所で! というかどうやって復活したんですか!?」
「西野さん……ロリコンが悪化してとうとう犯罪者に……」
突然掛かった声の先に懐かしい顔を見つけたが、こんな場所に居るという事は……とうとうやらかしてしまったのだろう。結婚していたはずなのに可哀想に…………。
「兄さんにはがっかりだぞ」
「ちょまっ!? 如月さんはともかくリュンヌちゃん酷いなぁ。俺がソレイユちゃんを裏切るはずないじゃん、ここには買い付けに来てるの! そんなの知ってるでしょまったく……それよりなんで如月さんが復活してるんですか? 死んだってなってフィオちゃん達が大事に――って、あああああっ!? なんでハイエルフがここに!?」
忙しい人だ……説明する暇もなく騒ぎ続けているせいで遠巻きに見ていた周りの反応が悪くなってきていたが、ハイエルフという言葉が決定的だった。
レヴィと和解した事は殆ど知られていない。というより俺の復活すら旅行の妨げになるかもしれないからと広くは知られていない。親族やクロイツ王、秀麿とそこから繋がる一部のカマーズ社員に一部のアマゾネスだけにしか伝わっていない。
だから普通の反応と言えば――。
「おぉ、予想以上の敵意…………」
警備にくらい話が通っているかと思っていたが、巡回していたドワーフの戦士と武器を持ったアマゾネスに囲まれてしまった。
しかし彼らも困惑している。何の関係もない一般人とは違い共に戦ったドワーフとアマゾネスだ。俺の顔を覚えているようで、死んだはずの者と殺した側が並んで町を歩いている状況が理解できずにその場で停止してしまった。
しかしこんな状況でもロリコン達は俺に怨念のこもった視線を送っている。
「ロリと幸せになった者は疎まれています。如月様はその代表ですので、本人だと分かったせいで余計にですね」
「よし上等だ、かかってこい、消し炭にしてやる」
不快な視線を愛する者達に向けられた鬱憤を晴らしてくれる――。
「ばっ、化け物だーっ!」
膠着していた状況に響く男の悲鳴、続いて響く聞いたこともない耳障りな咆哮――そして姿を現した歪な人型で四足歩行の生物を無理矢理二足歩行にしたような目の異様に小さい生物。
大きさはこの町の男達の四倍くらいだろうか? 男が一人大きなバケツのような口に啜るようにして丸飲みにされた。
「あの化け物……」
「如月様、ご家族の避難を!」
「あの化け物……良い奴だ」
「何言ってるんですか!?」
「いやだって、今飲まれた奴フィオ達を見て不穏な動きを――」
「それは僕も気付いてましたけど! だからって化け物の肩持たないでください!」
いやいや、あの変質者の目で嫁や娘を見られてへこへこされてたと思うとこれはもう天罰でいいんじゃないかと思うんだが。
「らいじょうびれすよ。たしか……あの生物は丸飲みにして消化には数日掛かるはずれす。すぐに引き摺り出せば命はありましゅ。それにあれは目が悪いです、雄の濃い体臭を追って補食するというものだったと思うので雌には無関心です」
「つまり悶々としたロリコンを駆除してくれる生物か!」
怯えていた他の観光客ももごもごしているステラの発言で冷静さを取り戻したようで遠巻きに様子を窺っている。
「アホな事言ってる場合ですか! ステラさんも何もごもごしてるんですか! あれはどう見ても現在のヴァーンシアの生物ではありません。あの類いは神龍が引き受けてくださるのではないのですか!?」
「いえ、くださると言うので拒否するのも悪いかと、香しい匂いもしていましたし…………」
相変わらず食に目覚めたステラは食べる事に貪欲になってしまっているようで無警戒にロリコン達から食べ物を受け取ったようだ。
「しょうれすね、あれが箱庭を荒らすのは本意ではありません。闇に落としておきましょう――おっと、その前に引き出させなくては」
部分顕現したステラが化け物の腹部に尾を叩き付けた瞬間粘膜にまみれた男がずるりと顔を出した。
ステラはそのまま男引き摺り出すと足元に闇を出現させて化け物を落とし込んだ。
しかし事はそれだけでは終わらなかった。
男が圧倒的に多いこの町に引かれたのか同じ化け物が大量に沸き出てきた。
「おーいステラ、同じ生物が放り出されてる可能性は低いんじゃなかったのか? これどう見ても繁殖してるだろ」
「……今思い出しました。この生物は確か、雌しか居らず動物の種であればなんでもよかったのだと。そういう実験をする為に作られたものでした」
「ちなみにそういう類いのは他にも?」
「…………」
無言で黙々闇の落とし穴に化け物を落とし始めたステラの背中がイエスだと語っている。
造物主の実験生物による騒動はこれから増えていくのかもしれない。
町を守る為の壁じゃないのか? いや、むしろあの作りは渓谷内から出さない為の関所のようなものなのか?
そしてこの大量の護衛……娘一人につきカマーズの社員が十人も付いている。これだけ警戒するというならリオ達にも必要じゃないかとエルスィに相談してみたが必要はないと言う。
「なぁ――」
「わぁ~っ! 見てパパ! おっきい壁画、これクロイツの聖樹だね。あっ、これぼこぼこしてて立体になってる」
「見よリル、こっちは母上だ。う~、わしも大きくなったらこのように完璧な顕現が出来るであろうか?」
壁一面が削られ彫刻と壁画に変わっている道に子供達は大喜びして触り、確かめ、感じている。
これのどこに警戒する要素があるって言うんだ?
しかし進むほどにクロとシロ、そしてカマーズの社員たちの緊張は高まっていくのが分かる。
そして辿り着いた先に広がるのは長く続く渓谷を塞ぐようにして存在している町だ。しかしまぁ町の入り口には高い壁が設置され渓谷の入り口同様に何かを拒む作りになっている。
「なぁ、いい加減に教えてくれてもいいんじゃないか?」
「……分かりました」
「エルスィさん――」
「クロエ様、やはり黙ったままというのは問題があるかと。どうせ異常には気付かれます。如月様、落ち着いて聞いてください」
「? 俺は落ち着いてるが」
エルスィは緊張した面持ちで一歩前に出てはしゃぐ娘たちから離れるように促してきた。訝しみつつもそれに従って離れた場所で彼は重い口を開いた。
「まず、如月様の結婚式を見ていた者達の中には触発されて自分もと意気込んだ者が一定数居たのです」
「何で俺の結婚式で? 意味が分からないんだが……」
いきなりなんの話だ? この町の話じゃないのか?
「触発された者達……それは――ロリコンです!」
どう反応すればいいんだ……? なっ、なんだってー!? とかリアクションすればいいのか?
「頑張ればロリとも結婚できる、更には重婚出来る。そんな感じで暴走して事件を起こすロリコンが各地で増えました」
「…………ナニソレ……それは、俺が悪いのか? そいつら去勢して滅ぼせばいいのか?」
俺が引き金になったと言われては嫌悪で顔を歪めずにはいられない。しかも実害が出ているという、家族旅行じゃなくてロリコン去勢の旅に行かないといけないのか?
「そういったロリコン犯罪者を収用して極刑の代わりに強制労働させているのがクリミナルなんです」
「よし分かった! 滅ぼそう、町諸とも跡形もなく消し飛ばそう。うん、それがいい――そうしよう!」
レーヴァテインに手を掛けて右手へと力を集める。やっぱ俺関係ないだろ、フィオたちは大丈夫な歳だ。小柄なだけだ、かなり小柄なだけだ! そして俺は幼い娘が好きなわけではない。好きになった相手がたまたま超小柄だっただけだ。だから犯罪者のロリコン達とは別の人種です。誰かに言い訳しながら黒い光を溢れさせる。
ここに纏まっているというのなら話は簡単だ。一掃してしまおう。
町を壊滅させるべく吹き出す黒雷、それに慌てたクロが縋り付いてきた。
「ワタル様落ち着いてください。クリミナルの生産力は今やアディアの財源の一つになっています。おいそれと切り捨てる訳にもいかないのです」
「ロリコンの犯罪者だぞ!? この国はそんなもんに頼ってるのか!?」
「元々は収用先として押し付けられてしまったのですが、今は立派な生産力を持った職人達の町です。い、一部問題が無いとは言えませんが……それでもドワーフの技術を習得した職人で顧客を持つ者も少なくありません。販売数で言えば高価なドワーフ製の細工品よりも安価でも質の良いロリコン製が好まれる事があるほどです。そして、壁画をご覧になったでしょう? あれは観光資源にもなっています。家族連れが来ればロリに会えるという大変不純な動機によって作られたものですが……完全隔離の彼らにとっては全ての可能性を試したかったのでしょうね」
エルスィの話を聞いて今の状況はまさにロリコン達の思うつぼじゃないかと顔が引き攣る。漏れなく可愛いうちの娘は格好の獲物じゃないか!?
「でも、犯罪者なんだよな?」
少女を狙う卑劣な犯罪者、その引き金を引いたのがお前だ、みたいな言い方をされては我慢ならない。俺に責任があると言うなら今この場で一掃するしかないだろう。
「そ、そうなのですが、未遂――そう未遂なのです。収用されている彼らは誘拐などの犯行に至っていますが被害者は皆無事で無傷、未遂である者たちなのです」
いや誘拐の時点でアウトだから。誰だクロを丸め込んだのは…………。
「まぁ、そのせいで処理に困った各国がドワーフの言う事なら聞くのではないかとアディアに押し付ける事になったんですけどね」
クロエ様がそれでどれだけ心労で体調を悪くされたかっ! とシロが憤慨している。
未遂で死刑はやり過ぎだという、しかし少女を襲う素養のあるものを自由に闊歩させる事も出来ない。かといって、そんな奴らを収用して養ってやるなんて御免だ。
数が少なければ個々に見張りを付けて更正を促すという案もあったようだが……ロリコンは本当に世界各地で発生した、らしい。
苦慮した各国は復興が始まっていたアディアの復興支援と引き換えにロリコンの管理を押し付けてきた結果がこの町らしい。ドワーフの指導の下使っていない土地に自分たちで町を築かせ、自分たちを閉じ込める壁を作らせた。
少女を狙う犯罪者を養うなんて馬鹿らしい、むしろ馬車馬のように働かせてこき使えというロフィアの号令の元、まともな仕事を覚えさせる為にドワーフに更なる協力を要請。
ロリ以外には無気力な彼らにやる気を出させる苦肉の策だった。力関係的にドワーフが負けるなどあり得ない、念には念をで混血者からはジズネとシズナが抜いて安全の確保は抜かりなかったが、万が一があるかもしれない。
故にドワーフだったのだという。職人として一流のドワーフの作業を文字通り舐めるようにして見学したロリコン達の上達は早かった。(見ていたのは別の所だと言う指摘もあるが)
ドワーフに褒めてもらい特別な関係になる事を期待した変態達の力は凄まじく、ドワーフ達が太鼓判を押すほどに皆成長したのだとか。
その結果、噂を聞き付けた者達が買い付けに来るようになり、そこから更に噂が広がり町の内外の芸術作品を見ようと人が集まり観光地としても確立した。ロリ以外には無害な存在だからというのもあったかもしれない。
「パパー! 早く入ろー」
「あぁ、分かったよー」
リルを始めに皆壁画や門前にある彫刻などに興味を引かれている様子だ。今更駄目だなんて言えない空気だ……ならやることは決まっている。
娘は俺が守る! フィオ達も守る、一切近付かせない。これしかない、少しでも近付く輩が居れば人生からご退場願おう。
「わぁ~、父しゃまここすごいのじゃ」
高い門で見えなかった内部は建築の様式がそれぞれ異なり渾然一体となった不思議な空間だった。ヴァーンシア独特の様式なのかドワーフ製なのかも分からないものもあるが、その不思議さが娘たちの興味を引いたようだ。
乱雑なようでいてどこか整然としている。クロイツも建物の様式が違う区画があるがあれは区画毎に区切って整えてある、あれとは違う。
しかしまぁ……なるほど……子供の興味を引きそうな可愛げのある壁の彫刻や彫像もあちこちに散在している。
「パパ、パパ! こっちの見て!」
「父様こっちも!」
興奮したマリアとティリアに手を引かれて前のめりになりながら歩き回る。他の娘とも離れ過ぎないように視線を巡らせ警戒は怠らない。が……それにしても――。
「これは……予想以上の羨望の眼差しですね」
部下と共に娘に付いて周囲を警戒しているエルスィが顔を引き攣らせている。
これはもう羨望ではなく怨念じゃなかろうか。はしゃぎ回って俺の手を引く娘たちに注がれる異常な視線、視線、視線っ! 片っ端から見ている奴を視線だけで殺す勢いで威嚇するが……よほど飢えているらしく怯むどころかむしろ挑発してくる輩まで居る。
酷い奴で言えばその場で写生を開始して舐め回すようにうちの娘や小さい嫁を見ている。あの絵を後でどうするのか考えたくないな。
フィオ達が殺気を飛ばしてもキツい視線に興奮するだけで効果がなく、最終的にはフィオ達が折れて少しでもその気持ち悪い視線から逃れようと俺に縋りつく。それを見て嫉妬に燃えた変態達が血涙している。
「ワタル、絶対リル達から目を離さないでくださいね?」
「分かってる……にしても本当に大きい方には全く興味が無いんだな」
「そうねぇ、ワタルがロリコンなのか分からなくなったわ」
うん、俺も分からねぇ。でもとりあえず俺はこいつらとは違うと思うという事だけは確信した。
娘たちは無邪気なもので周囲の男達の視線の異常さには気付いていないようで店先に並ぶ装飾品や看板代わりの可愛らしい彫像に目移りしている。
「お嬢ちゃんそれ気に入ったのかい? よかったらボクがプレゼントしようか――」
「必要ないぞ。うちの娘を見るな」
「お、お嬢ちゃんの娘!? こんな小さい娘の娘……」
「なぁクロ、やっぱここ滅ぼそう」
カーバンクルがデザインされたペンダントに見入っていたリュエルに話し掛けた店主を遠ざけようと割って入ったリュン子を舐め回すように上から下まで視線を動かした店主が顔を赤くし鼻息荒く下卑た笑いを浮かべたのが非常に気持ち悪い。というかこんなのばっかりじゃないか!?
「おっ!? おおっ!? 如月さん!? え? なんで? どうしたんですかこんな所で! というかどうやって復活したんですか!?」
「西野さん……ロリコンが悪化してとうとう犯罪者に……」
突然掛かった声の先に懐かしい顔を見つけたが、こんな場所に居るという事は……とうとうやらかしてしまったのだろう。結婚していたはずなのに可哀想に…………。
「兄さんにはがっかりだぞ」
「ちょまっ!? 如月さんはともかくリュンヌちゃん酷いなぁ。俺がソレイユちゃんを裏切るはずないじゃん、ここには買い付けに来てるの! そんなの知ってるでしょまったく……それよりなんで如月さんが復活してるんですか? 死んだってなってフィオちゃん達が大事に――って、あああああっ!? なんでハイエルフがここに!?」
忙しい人だ……説明する暇もなく騒ぎ続けているせいで遠巻きに見ていた周りの反応が悪くなってきていたが、ハイエルフという言葉が決定的だった。
レヴィと和解した事は殆ど知られていない。というより俺の復活すら旅行の妨げになるかもしれないからと広くは知られていない。親族やクロイツ王、秀麿とそこから繋がる一部のカマーズ社員に一部のアマゾネスだけにしか伝わっていない。
だから普通の反応と言えば――。
「おぉ、予想以上の敵意…………」
警備にくらい話が通っているかと思っていたが、巡回していたドワーフの戦士と武器を持ったアマゾネスに囲まれてしまった。
しかし彼らも困惑している。何の関係もない一般人とは違い共に戦ったドワーフとアマゾネスだ。俺の顔を覚えているようで、死んだはずの者と殺した側が並んで町を歩いている状況が理解できずにその場で停止してしまった。
しかしこんな状況でもロリコン達は俺に怨念のこもった視線を送っている。
「ロリと幸せになった者は疎まれています。如月様はその代表ですので、本人だと分かったせいで余計にですね」
「よし上等だ、かかってこい、消し炭にしてやる」
不快な視線を愛する者達に向けられた鬱憤を晴らしてくれる――。
「ばっ、化け物だーっ!」
膠着していた状況に響く男の悲鳴、続いて響く聞いたこともない耳障りな咆哮――そして姿を現した歪な人型で四足歩行の生物を無理矢理二足歩行にしたような目の異様に小さい生物。
大きさはこの町の男達の四倍くらいだろうか? 男が一人大きなバケツのような口に啜るようにして丸飲みにされた。
「あの化け物……」
「如月様、ご家族の避難を!」
「あの化け物……良い奴だ」
「何言ってるんですか!?」
「いやだって、今飲まれた奴フィオ達を見て不穏な動きを――」
「それは僕も気付いてましたけど! だからって化け物の肩持たないでください!」
いやいや、あの変質者の目で嫁や娘を見られてへこへこされてたと思うとこれはもう天罰でいいんじゃないかと思うんだが。
「らいじょうびれすよ。たしか……あの生物は丸飲みにして消化には数日掛かるはずれす。すぐに引き摺り出せば命はありましゅ。それにあれは目が悪いです、雄の濃い体臭を追って補食するというものだったと思うので雌には無関心です」
「つまり悶々としたロリコンを駆除してくれる生物か!」
怯えていた他の観光客ももごもごしているステラの発言で冷静さを取り戻したようで遠巻きに様子を窺っている。
「アホな事言ってる場合ですか! ステラさんも何もごもごしてるんですか! あれはどう見ても現在のヴァーンシアの生物ではありません。あの類いは神龍が引き受けてくださるのではないのですか!?」
「いえ、くださると言うので拒否するのも悪いかと、香しい匂いもしていましたし…………」
相変わらず食に目覚めたステラは食べる事に貪欲になってしまっているようで無警戒にロリコン達から食べ物を受け取ったようだ。
「しょうれすね、あれが箱庭を荒らすのは本意ではありません。闇に落としておきましょう――おっと、その前に引き出させなくては」
部分顕現したステラが化け物の腹部に尾を叩き付けた瞬間粘膜にまみれた男がずるりと顔を出した。
ステラはそのまま男引き摺り出すと足元に闇を出現させて化け物を落とし込んだ。
しかし事はそれだけでは終わらなかった。
男が圧倒的に多いこの町に引かれたのか同じ化け物が大量に沸き出てきた。
「おーいステラ、同じ生物が放り出されてる可能性は低いんじゃなかったのか? これどう見ても繁殖してるだろ」
「……今思い出しました。この生物は確か、雌しか居らず動物の種であればなんでもよかったのだと。そういう実験をする為に作られたものでした」
「ちなみにそういう類いのは他にも?」
「…………」
無言で黙々闇の落とし穴に化け物を落とし始めたステラの背中がイエスだと語っている。
造物主の実験生物による騒動はこれから増えていくのかもしれない。
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