(完結)泡沫の恋を人魚は夢見る

彩華(あやはな)

文字の大きさ
19 / 57

19.パーティー2

しおりを挟む
 カラナイ国の王女殿下と正反対を思わせる夜の闇のような真っ黒な髪に黒曜石のような黒い瞳の女性だった。
 だが彼女は質素な布を纏い、上からずぶ濡れの姿をみて戸惑う人々。

 この場には異質ともいえる彼女の乱入に会場は静寂につつまれる。
 
 彼女はロイド殿下を見ると艶やかに笑い、手を伸ばしながら言葉を紡いだ。

「お待ちください。海の中であなたを助けたのはこの私です。私は・・・」

 それだけ言うと、彼女はゆっくりその場で倒れてしまった。
 
「大丈夫か?医務室に!」 

 アルフさまが率先して近づき指示を出しにかかった。

 ザワザワとした声が大きくなる。

 私のドレスの裾を持つセイネ様の手が震えているのがわかった。

 セイネ様を見ればガクガクと震え涙を流しながら首を幾度も振っていた。

 口がぱくぱく開閉している。
  
 まるで『違う』と動いているかに見えた。

 言葉にできない悔しさがあるようだった。

「セイネ様・・・、部屋に戻りましょう」

 こんな騒ぎがあれば、ダンスどころでなくなる。早々にパーティーも終わるかもしれない。
 
 ならば、早々に部屋に戻ってもいいはずだと思い、近くにいたメイドに声をかけて、セイネ様を送っていった。

 部屋に入るなりセイネ様はベッド一直線に行き、枕を抱えた。

 声なき啜り泣きが聞こえる。
 声も出せず泣くのはつらい。
 
 聞いている方もどう言葉をかければ良いのかわからない。
 
ー私は・・・

 肩を振るわせ泣いているセイネ様の背中をなぜた。

「さっきの方を知っているのですか?」

 セイネ様は顔をあげわたしを見た。涙で化粧が落ち、アイシャドウやアイライナーが頬を汚していた。
 もっていたハンカチでそれを拭いてあげながらセイネ様の目を見た。
 
「教えていただけますか?」

 一度躊躇いを見せたが彼女は何か決心したのか小さく頷く。
 なので、私はぽんっと手を打って提案した。

「では、はじめにドレスを脱いで楽になりましょう。身体を清めてからゆっくり話をしませんか?」

 呆気にとられるセイネ様にわたしは微笑んだ。
 こんな姿では落ち着いて会話もできない。
 
 呼び鈴でマリー様を呼ぶとセイネ様のことを頼んだ。

 その間に、私も着替えに戻るため部屋を出た。
 ふわふわとしたドレスはやはりどうも性に合わないので、早く脱ぎたい。

「セイネ嬢はどんな感じだ?」

 部屋を出てすぐにアルフ様が立っていた。

ーいつから?

「聞いてどうしますか?それより、あの黒髪の方は?」
「様子が気になったから聞いたんだ。あの女性は今は医務室で眠っている。・・・君は、彼女を人魚だと思うか?」

 じっと見てくるアルフ様に、私は苦笑いした。

「なんでもかんでも人魚にしたいのですか?」
「そんなつもりはない」
「ではなぜ、人魚か聞いてくるのです?」
「・・・君は人魚の恋をどう思う?」
 
ー人魚の恋?

「彼女たちは報わなければ泡となって消える。それを見るのは辛くないか?ならば、泡になる前に海に帰ってもらいたい・・・」

 どこか達観した凪いだ眼差しだった。
 真面目に私の答えを口にする。

「それは・・・彼女たちが決めることで、泡沫人が気にすることではないわ」
「・・・・・・、そうか」
「そうよ。われわれは見守るしかないの」
「・・・わかった」

 アルフ様は静か頷いた。

「では、失礼します」

 部屋に戻ろうと踵を返した時、思いがけないアルフ様の声がした。

「フィー、その姿よく似合うよ」
「!!」
 
 ばっと振り返ると、彼の去って行く後ろ姿があるだけだった。

ー何?なんって言った!?似合う?えっ?

 急いで自分の部屋に入るとズルズルと座り込んだ。
 顔が熱い。
 それにドキドキと鼓動が早い。

 『似合うよ』

 その言葉で涙が湧いてくる。
 どうしてなのかわからない。でもその言葉がなんだか懐かしくて、切なくて、そして嬉しく思った。
 

 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

揺れぬ王と、その隣で均衡を保つ妃

ふわふわ
恋愛
婚約破棄の断罪の場で、すべては始まった。 王太子は感情に流され、公爵令嬢との婚約を解消する。 だが、その決断は王家と貴族社会の均衡を揺るがし、国そのものを危うくする一手だった。 ――それでも彼女は、声を荒らげない。 問いただすのはただ一つ。 「そのご婚約は、国家にとって正当なものですか?」 制度、資格、責任。 恋ではなく“国家の構造”を示した瞬間、王太子は初めて己の立場を知る。 やがて選ばれるのは、感情ではなく均衡。 衝動の王子は、嵐を起こさぬ王へと変わっていく。 そして彼の隣には、常に彼女が立つ。 派手な革命も、劇的な勝利もない。 あるのは、小さな揺れを整え続ける日々。 遠雷を読み、火種を消し、疑念に居場所を与え、 声なき拍手を聞き取る。 これは―― 嵐を起こさなかった王と、 その隣で国家の均衡を保ち続けた妃の物語。

わたしの方が好きでした

帆々
恋愛
リゼは王都で工房を経営する若き経営者だ。日々忙しく過ごしている。 売り上げ以上に気にかかるのは、夫キッドの健康だった。病弱な彼には主夫業を頼むが、無理はさせられない。その分リゼが頑張って生活をカバーしてきた。二人の暮らしでそれが彼女の幸せだった。 「ご主人を甘やかせ過ぎでは?」 周囲の声もある。でも何がいけないのか? キッドのことはもちろん自分が一番わかっている。彼の家蔵の問題もあるが、大丈夫。それが結婚というものだから。リゼは信じている。 彼が体調を崩したことがきっかけで、キッドの世話を頼む看護人を雇い入れことにした。フランという女性で、キッドとは話も合い和気藹々とした様子だ。気の利く彼女にリゼも負担が減りほっと安堵していた。 しかし、自宅の上の階に住む老婦人が忠告する。キッドとフランの仲が普通ではないようだ、と。更に疑いのない真実を突きつけられてしまう。衝撃を受けてうろたえるリゼに老婦人が親切に諭す。 「お別れなさい。あなたのお父様も結婚に反対だった。あなたに相応しくない人よ」 そこへ偶然、老婦人の甥という紳士が現れた。 「エル、リゼを助けてあげて頂戴」 リゼはエルと共にキッドとフランに対峙することになる。そこでは夫の信じられない企みが発覚して———————。 『夫が不良債権のようです〜愛して尽して失った。わたしの末路〜』から改題しました。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

身分違いの恋

青の雀
恋愛
美しい月夜の晩に生まれた第1王女ベルーナは、国王と正妃の間に生まれた初めての娘。 権力闘争に巻き込まれ、誘拐されてしまう。 王子だったら、殺されていたところだが、女の子なので、攫ったはいいものの、処理に困って、置き去りにされる。 たまたま通りすがりの冒険者家族に拾われ、そのまま王国から出る。 長じて、ベルーナの容姿は、すっかり美貌と品位に包まれ、一目惚れ冒険者が続出するほどに 養父は功績を讃えられ、男爵の地位になる。 叙勲パーティが王宮で開かれ、ベルーナに王子は一目ぼれするが、周囲は身分違いで猛反対される。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...