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Ⅵ ✕✕ンシャ、俺。
067: アスカ
しおりを挟む記憶は人格だ。
人格は生まれついてのものと思われがちだ。生来持っているものも勿論あるが、人格を成すものは経験だ。ひどい環境で育てば荒む。恵まれた環境なら穏やかになる。経験した記憶が人格を作り上げる。
それは記憶を失った者にも言える。記憶を失い、以前と打って変わった真逆の性格になったケースもある。つまり記憶そのものがある人格を有しているとも言える。
俺の中に居た魔王は、封じられた魔王の記憶が人格化したものだ。元々は一人の記憶がイレギュラーな事案で強制的に分離させられた。だがそれが今、女神という封印が解けて眠る俺の中に記憶が流れ込んできていた。
高一の夏、俺は部屋にひきこもっていた。
中学では気の合う友人もいたし部活もまあ楽しかった。だが親の転勤で引っ越して新しく入学した高校で人間関係の構築に失敗した。最初のきっかけは些細なもの。だがそこから修正不可能な程に全てが狂い出した。
悪意はエスカレートする、改善される傾向もない。知り合いのいない学校では誰も俺を助けてくれなかった。特にここ最近、俺はなぜか人の感情の気配にひどく敏感になったように思う。それゆえに俺は情緒不安定な上に攻撃的になっていた。それがさらに連中に油を注いだ。俺は理不尽な全てを呪い全てを諦めた。
結果、三ヶ月で不登校である。
共働きの両親は俺に何か強要することはなかった。嫌だ、と俺が言えば両親は訳も聞かずにそれをなぜか許してくれた。だが一ヶ月後、許されたその理由がわかった。
「入院?俺が?」
この国にはドナー制度というものがあった。
法律で定められたもので、五年に一度国民は採血し遺伝子情報を国に管理された。難病や新薬開発に協力するための制度、そして命を救う制度。全世界で似たような法律が採用されている。俺も入学のタイミングでそれを受けた。だがそこで俺に難病が見つかった。受け入れ準備が整ったという連絡が今朝両親の元に届いたという。
両親にはすでに国から通知されていたらしい。俺に言うタイミングを見計らっていたようだ。父さんが俺に事情を語り母さんは泣いていた。俺は自分のことばかり悩んでいて、そんな二人の思いに全然気がついていなかった。
病は初期段階でまだ治療が間に合うらしい。だが病状が進行すれば余命一年。もう選択肢などない。翌日、両親との別れもそこそこに、俺は迎えにきた黒服の軍団に拉致されるように連れて行かれた。
ただの入院だと思っていた俺は甘かった。色々と連れ回されどこの国にいるのかもわからない。数回のトランジットと長いフライト、時差のせいで眠りこけていた俺は目が覚めたらベッドに寝かされていた。
広い個室、いや、豪華な一戸建て?ここは病院じゃない?体を起こせば窓から見える風景は一面草原と森。
「あ、目が覚めたかな?良かった」
俺の枕元に腰掛けていた年若い女性が俺に声をかけてきた。初めて見たその美貌に俺は息を呑んだ。
少し赤みを帯びた輝く金髪、アーモンド型の顔、女神と言えるほどに美しい。だが何より印象的なのは青く輝く青色燃焼の瞳だ。まるで精巧に作られた人形のよう、でも生気もある生きた人間、どこも欠けがない完璧。十六年生きて人生最大の衝撃だった。
「‥‥‥‥え?」
「初めまして、えーと、アスカ・カン‥カンナギ?私はドクター・グリフィス、貴方の治療を担当をすることになりました。よろしくね」
「はい?」
この子、今俺の担当っていった?
どう見ても十代の美少女にしか見えない。童顔?俺より幼く見えるこの人が俺の担当医?白衣着てはいるけどこの子は医者なの?
「あれ?私の日本語通じてるかな?初めて使うから」
「に、日本語初めて喋ってるんですか?」
「あ、通じてる?よかった、AI相手に練習してたから。ネイティブな日本人とは初めてなの。変じゃない?」
「いえ、十分なめらかな日本語です」
「嬉しい!ありがとう!」
その微笑みに俺の鼓動がドクンと跳ねた。
「着いて早々なんだけどちょっと診察していいかな?」
「ええと、はい」
「じゃあ横になって。ここは貴方の個室だから楽にしてね」
「ここが俺の?」
「必要なものは準備したつもりだけど欲しいものがあったら言って。それとその腕のバンドはバイタル取ってるから外さないでね」
ナルホド。データはすでに取られていると。サイドテーブルの小型モニターに俺の脈拍やら体温やらの情報が折れ線で表示されていた。ちょっと上ずってるのは俺が動揺してるからだろう。だって仕方ない。ベッドに仰向けに寝た俺に美少女が四つん這いでのしかかってきたわけで。
「え?えええ?!」
「ちょっと触らせてね。えーと、触診っていうんだっけ。ちょっと乗っかるよ?重くない?」
「え?ダイジョブデス‥‥」
触診って向かい合ってやらなかったっけ?俺、ベッドに寝てて美少女な医師が俺の腹の上に跨っている。位置もきわどい。これは触診とはちょっと違う。
先生に顔の輪郭を両手で撫でられる。そこから首の耳の後ろを撫で下ろされれば背筋がゾクゾクする。さらに肩、脇の下から脇腹を撫でられてた。ビクンと反応しそうになる体を根性で押さえつける。これは男の性だ。顔だって近いんだが先生は指先に集中してるせいか気にしていない。ついでにいい匂いまでしてきた。
なんだこれ?!近い近い近い!!
え?これって誘われてる?上膳据膳?もうガブリと頂いてもいいと?指一本触れればわいせつ罪でアウトだろ。
いやいや、そもそも致すにしてももっと段階踏まないと!せめて俺が上がいい!
「あああ、あのぅ、これはどういう?」
「こうすると変なとこがわかったりするから。リンパの流れは異常ないね。あれ?心拍上がってる?体温も」
必死で取り繕って隠してるのにリアルタイムモニターでバレバレ。きっと顔も赤いだろう。俺もう泣きそうだよ。
「あ、いや‥‥ちょっとこういうの慣れてなくて」
「あ、普通そうだよね。みんなあったかくて気持ちいいって言ってくれるんだけど貴方は強いから感度いいのかな?くすぐったい?ちょっとずつ慣れていこうね」
あったかくて気持ちいい?そんなかわいいもんじゃないぞ?もうゾクゾクが止まらない。全身の神経が反応して鳥肌が立っている。
「あ、すごい、手が硬いのね。小指にタコ?スポーツやってた?」
さらに俺の右手を両手でギュッと握られ俺の心拍が限界マックスまで上がる。初心者には刺激がキツすぎる!もう勘弁してくれ!
「テ、テニスを少々」
「あ、だから体固いんだね。すっごい、筋肉カッチカチ」
先生は遠慮なく俺の胸板や腹筋を撫で回している。無防備すぎる!何この展開?!いやいや、体硬いのは俺が緊張してるからであって。
え?なんかこんな超好みなキレイな子(年上の女性)に全身触って貰える?いやいや、これは治療だ。医療行為であって!い、いいいいいかがわしい要素は一切なく!でも多分これから毎日触って撫でてもらえるわけで!エロい妄想が止まらん!もうこれは天国じゃね?
超絶美少女(実は年上の先生って設定もヤバい)が俺ににこりと微笑んだ。ここで俺の鼓動はドクドクうるさいほどだ。俺は死ぬかもしれない難病で治療に来たのに、俺はそんなこと忘れてその笑顔に魅入られていた。
まあ話はそんなにうまいわけもなく。
全身チェックは初診のみ、翌日以降は首のチェックだけになった。
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