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キャンプといえばカレーライス
しおりを挟む魔獣を倒した太陽はすぐに騎士団の人達に囲まれてしまった。
凄い凄いと口々に褒められ、勇者様だ、ありがとう、と何度もお礼を言われて恐縮している。
でもそれだけの事を太陽はやってのけたのだ。
毒にやられた騎士達も後からやってきた治癒師達により次々に毒を取り除かれ、命に別状はない。
ちなみに治癒師とは医者のようなもので、治癒系の魔法に特化した人達だ。
「すっごい騒ぎだね」
「それだけ魔獣を倒すというのは大変なのだ。まだまだ先は長いがな」
「群れがあるんだよね?それがあちこちにあるの?」
「ああ、森の東側全体をぐるりと囲うようにな」
「それ全部倒さないといけないんだ……」
「それがお主達を呼んだ理由だからな」
「そうだよねえ」
お主達っていうか、太陽だよね。
一番大変なのは太陽だ。
俺はご飯を作る事しか出来ない。
まあ人には役割分担ってものがあるからね。
俺は俺の出来る事を全力でするだけだ。
「で、今日のご飯は何だ?」
「ふっふっふ、今日のメニューはずーっと前から決まってたんだよ」
「???」
太陽が腹減ったというので全速力でご飯を作っている真っ最中だ。
といってもまだ野菜の下拵えしか出来ていないんだけど。
大量のたまねぎを刻み大量のジャガイモを剥き大量の人参を細かくすりおろしていく。
人参を細かくすりおろすのは当然、太陽に気付かれない為。
この前味噌汁に入れたのはキレイに避けられたからな。
絶対に食べさせてやる。
そして同じく大量の鶏肉を一口大に切る。
そう、俺が作っているのは……
「野宿と言えばキャンプ!キャンプといえばカレーでしょ!」
いえす、カレー!
もうずっと食べたかったんだけどあえて今まで我慢してたんだよね。
城の中でカレーの匂い漂わせるのも……っていうのもあったんだけど、絶対青空の下で食べた方が美味しいに決まってる。
それにこの人数分作るなら手っ取り早い方が良いだろうし。
だから討伐初日は絶対カレーだって前から決めていたのだ。
「カレーとは何だ」
「あっちの世界で見た事ない?茶色い、ご飯にかけて食べるやつ」
「む……そういえば刺激的な匂いのものがあった気がするな」
「それそれ」
背後から覗き込んできているが、今日はしっかりと髪の毛纏めさせてるから邪魔にはならない。
けど相変わらず良い匂いだな。
「ていうかたま、どうして今日はずっと人間の姿なの?」
「その方が士気が上がるだろう?」
「ああ、確かに」
太陽の登場はもちろんの事、精霊であるたまの姿に周りはそわそわしっぱなしだ。
確かに猫の姿よりも人間の姿の方が周りのやる気を出すには効果的だ。
俺は猫の姿の方がやる気出るけど。
「朝日ちゃーん!こっちは野菜オッケーよ!」
「はーい」
料理番としてついてきていたゴンチャロフさん。
相変わらず乙女だな。
胸元がハートになってるエプロンなんてどこで売ってるんだ。
「あああんやだわ、精霊様ったら今日も麗しい!こんな格好でごめんなさいねー!」
「構わん、中々面白い装いだな」
「やだー!褒められちゃったわー!どうしましょう朝日ちゃん!」
「あはは、良かったですね」
面白いっていうのは褒めたうちに入るのか?
まあでも照れながらたまを見つめるゴンチャロフさんは微笑ましい。
さて、何故ゴンチャロフさんが俺に声をかけたのかというと、今日は全員分を一度に作るからだ。
いつもは自分達の分だけだから別々に作ってるんだけどね。
この国にカレーというものはないから受け入れられるかどうかは心配だけど、大丈夫、何故ならカレーはみんな大好きだから!
「じゃあ玉ねぎを飴色になるまで炒めて下さい」
「飴色?ああ、茶色って事ね?」
「魔法でちゃっちゃとやっちゃいましょー」
「ううーん、これだけでも美味しそうだわ!どういうのが出来るのかしら、楽しみ!」
玉ねぎを炒めたら肉を入れて同じく炒める。
煮るから表面に焼き色が付くくらいで良い。
ついでにジャガイモも入れちゃって少し油に馴染ませ、大量の水を投入。
すりおろした人参を入れてひとまず火を通す。
「スープみたいねえ」
「ある意味スープですね。火が通ったらこれを入れて下さい」
「……なあに、これ?」
「カレーの素です!」
「不思議な匂いだけどとってもスパイシーで良い匂い!ますます楽しみだわ!」
ご飯はまだ炊かなくても良いな。
ルー入れてからで良いか。
魔法であっという間に煮込めるから時間もかからないし。
「うわー!カレーだ!カレーだよな!?」
「正解!」
やっと騎士団の面々から解放された太陽が鍋を見て目を輝かせる。
「やっぱキャンプといえばカレーだよな!」
「だよねー!太陽なら絶対そう言うと思ってた!」
「……って、おいまさか人参入れたんじゃねえだろうな」
「入れたよ。当然でしょ?」
「何で入れるんだよおおお!?」
「好き嫌いしない!」
「あ!しかもすりおろしてある……!」
「どうせ溶けちゃうんだから良いでしょ、ごろっと塊があるよりは」
「……まあ、そりゃそうだけど」
不満そうな顔をしても今更取り出せない。
ちゃんと栄養も考えて入れてるんだからそんな顔しないで欲しいよ全く。
太陽が解放された事だしそろそろご飯を炊き始めようかな。
飯ごう欲しいけど難しいだろうなあ。
収納袋があるんだからいっそのこと土鍋でも良いかもしれない。
でも土鍋がないんだよなあ、この国。
その内作ってもらうか自分で作ろう、土鍋。
作った事なんてないけど何とかなる気がする。
野菜に火が通り、ルーを次々入れていく。
「うーん、良い匂い!」
「うわあ、すっげえ腹減ってきた」
辺り一帯にカレーの匂いが漂い始める。
騎士団の人達も何の匂いなのかとちらちらこちらに視線を寄越し始めた。
みんな疲れてるからお腹も空いてるだろうし、なるべく早く仕上げないと。
「そういえば倒した魔獣ってどうするんだろ?」
「さあ?騎士団の人達が回収してたけど……」
「回収?あの大きさのものを?」
あれが入る大きさの収納袋があるのか。
解剖とかして色々調べるのかな?
ゲームの世界だったら魔石とか素材とか取り出して武器や防具に変えたりするけどこちらではどうなのだろう。
「額に石みたいなの埋まってたの見た?あれ魔法石らしいぜ」
「え!?あんなでっかいのが!?」
「魔法使えるのもそのせいだろうってウェインが言ってた」
「へえ、凄いねえ。でも魔法石が額に埋まってるなんて、どうなってるんだろ?生まれた時からくっついてるって事?」
「わかんねえ、どうなんだろうな?」
「それを解析する為に回収してるんだよ」
「ウェイン、もう終わったのか?」
「うん、何とかね」
治癒に当たっていたウェイン王子もやってきた。
通常ならば治癒師が行うのだが、ウェイン王子も治癒には特化しているらしく手伝いをしていたのだ。
王子にやられた人はかなり恐縮していたみたいだけど、光栄なことなんだろう。
このタイミングでちょうど良くご飯も炊けたしカレーも完成。
「ではみんな、今日はご苦労だった!食事を食べ、ゆっくり休んでくれ!」
みんなにカレーを配り終えるとウェイン王子がそう一声を掛ける。
直後に大歓声が上がり、みんな一斉に食べ始めた。
「うおお、美味い!」
「クセになる辛さだなこれ!」
「おかわりあるか!?」
「食うの早すぎだぞお前!」
賑やかな声が辺りに響き渡る。
どうやらみんなの口に合ったようでホッとする。
「朝日、食わねえの?なくなるぞ?」
「食べる食べる」
「俺おかわりしよ」
「ええ!?もう食べたの!?」
「朝日、我にもくれ」
「嘘でしょちょっと、早すぎじゃない?」
「カレーは飲み物だから」
「太陽、ちゃんと噛んで」
太陽もたまも急いで食べてる感じはしないのにあっという間に一杯目を食べ終えてしまったらしい。
太陽の大食いは今更だけど、たまがたくさん食べるなんて珍しい。
「そんなに美味しかったの?」
「うむ、美味い。食べ始めると止まらないなこれは」
「あんまり食べると太るよ?」
「問題ない」
「えええ太ったたまって想像つかない」
そもそも精霊って太るものなのだろうか。
ああ、それにしても……
「やっぱり外で食べるカレー最高」
美味しい美味しいと聞こえる賑やかな声。
空っぽになりつつある鍋を見ながら、しみじみとその味を堪能した。
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