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豪華な寝床
しおりを挟むその夜はその場で夜を明かす事となった。
収納袋から取り出したテントが魔法であっという間に組み立てられる。
テントといってもかなり大きくしっかりとした造りをしている。
大きなたけのこ型のテントで、なんと太陽やウェイン王子、そして団長クラスのテントには中にソファやベッドがあり、床にはふわふわのラグマットが敷かれている。
一人に一つのテントとは贅沢だ。
他の団員の人達は数人単位で一つのテントを使うらしい。
「すっごい豪華!」
一人どころか四、五人は眠れそうなくらい広い。
「ごろごろし放題だぜ」
「うわ、うわー!何このソファ!外とは思えない座り心地なんだけど!」
「な!やべえよな」
「俺のとこはないだろうなあ、ソファ」
太陽は勇者だから良いとしても、俺は料理しか作っていないんだからそうもいかないだろう。
他の団員さん達と一緒か、それともゴンチャロフさん達と一緒か。
「え?」
「え?」
大人数部屋で間違いないだろうと考える俺に朝日がきょとんと目を瞬かせる。
「朝日もここで寝るんだろ?」
「え?いやいや何言ってんの。俺は別でしょ、ここは太陽の部屋なんだから」
「いやいや朝日こそ何言ってんの、朝日が他の人と同じ部屋な訳ないじゃん」
「え?いやでも……」
「お主はこっちだぞ」
「え?」
首根っこを掴まれたまに引き寄せられる。
「こっちって?」
「こっちだ」
そのまま案内されたのは一番良い場所に陣取られたテント。
ウェイン王子のよりも少しだけ大きく、中も少しだけ豪華だ。
「ここってもしかして……」
「我の為に用意してくれたらしい」
「うわお、さすが精霊様だねえ、一番豪華じゃん」
「必要ないんだがな、せっかくだから甘えることにした。朝日もここで休むと良い」
「え?ここで?」
「何か問題でもあるか?」
「ありすぎるでしょ!」
ここはたまの為にみんなが用意してくれた場所なんだから。
そんな場所におまけでやってきた俺がいていいはずがない。
ああでもベッドめちゃくちゃ気持ち良さそうだな。
ソファも一人くらいなら余裕で寝れそう。
いやいやダメだって、いくらたまが良いって言っても俺の場所は別にちゃんと用意されてるはずなんだから。
「何がいけないのかわからん。良いからここで休め」
「うおっ」
強く手を引かれベッドに転がされる。
気持ち良さそうだと思ったけどこれは最高の肌触りだ。
「ていうか何でベッド」
「我はどこでも寝れるが人間はそうではないだろう?それに朝日は野営に慣れていないようだし」
「ダメだよ、たまがベッド使わないと。俺はいっそ床でも良い」
「床になど寝かせられるはずがないだろう」
ベッドから降りようとする身体を止められる。
端に座るような形になり、その隣にたまが並ぶ。
「ウェインも承知の上だ、問題ない。それにお主は最初からこの部屋で過ごす事になってる」
「え!?何それ聞いてないんだけど」
「今言った」
「出来れば最初に聞いておきたかったんだけど」
どうやら討伐に出発する前から決まっていたようだ。
何故もっと早く言ってくれなかったんだ。
あの様子だと太陽は知らなかったみたいだけど、王子は何故それを教えてくれなかったんだ。
いつでも伝える暇はあったというのに。
だがしかし既に決まってしまっているのなら今更わーわー騒いでも仕方がない。
こんなに立派な場所で過ごせるのは嬉しい。
正直、他のみんなと同じ部屋で一晩ゆっくり休めるかというとそうでもないからな。
現代っ子の悲しい性だ。
修学旅行とか友達同士での雑魚寝ならともかく、ほぼ初対面の人間との雑魚寝はハードルが高い。
自分でもわがままだとわかっているがどうしようもない。
あと二、三日一緒に過ごしていれば多分平気になるんだけどな。
その点、何故かたまとは初対面から安心していたような気がする。
(傍にいると安心するんだよねえ)
精霊の癒しの力なのだろうか。
見目が良いからそれだけで癒されるのかもしれない。
猫の姿だとその効果は倍増する。
「じゃあ、遠慮なく使わせてもらうね」
「ああ」
俺の返事にたまは満足そうに頷きその場に寝転がる。
さらりと流れる絹のような髪がベッドに散り、まるでそこだけ切り取られた絵画のようだ。
(たまと二人部屋かあ、本当に良いのかな?本人が良いって言ってるから良いんだろうけど)
安心するのも確かだが緊張してしまうのも確か。
(本当にキレイな顔してるよねえ)
顔だけではない。
髪も肌も身体も何もかもに人知を超えた美しさがある。
(太陽もキレイなんだけど……って、そういえば太陽も一人部屋で良かったなあ)
変な人がいるとは思えないけど、太陽はあの見た目だから変な気を起こす人がいないとも限らないし。
この世界では同性同士でも普通に結婚したり出来るので、実は少し心配だったのだ。
日本ですらストーカー予備軍が大量にいたからな。
あの太陽の強さを目の当たりにして力技で挑む人間はいないとは思うが心配なものは心配だ。
魔獣退治の他にも人間に対しても警戒しないといけないなんて、見た目が良すぎるのも考えものだ。
テントにはそれぞれ結界が張られているので忍び込んで襲われるといった心配もないだろう。
(んじゃ俺もくつろぐ準備しようかな)
そう思い、一旦ベッドから腰をあげると、くんと服の裾を掴まれた。
こんな事をするのは一人しかいない。
「たま?」
見下ろすと美しすぎる瞳にじっと見つめられどきりと鼓動が跳ねる。
(うっわ、すっごい色気)
とろりとした瞳とうっすら開かれた淡い色の唇、僅かに身を起こし、服の間からちらりと覗く鎖骨が艶めかしい。
ノーマルを自負している俺ですらグラッとくるくらいの色気を直視してしまい、動きがロボットのようになってしまう。
「えっと、ど、どうかした?」
どぎまぎと騒ぐ胸を抑えて何とか声を絞り出す。
まっすぐにこちらを見上げ気だるげに唇を動かすたま。
何だろう、どうしたんだろう。
妙な事を考えてしまいそうになるのを必死に抑えてたまのセリフを待ち……
「……腹が減った」
「嘘でしょ」
さっき散々食い散らかし、それからまだ二時間も経っていないそのセリフに緊張など一瞬でどこかへと吹き飛び、ぽかんとまぬけな表情を浮かべてしまった。
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