貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~

みちのあかり

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第四章 オヤマー領 レイシア11歳

36話 聖詠

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 夕食。お祖母様は楽しそうに買い物の話をお祖父様にしていた。
 レイシアは、黙々と料理を食べていた。

 そんなレイシアを見てお祖父様は何かを感じ取った。上手く妻といってないのだろうか。食事の後、レイシアを部屋に連れてくるように執事に言った。



 お祖父様は、レイシアが部屋に入ると、メイドにお茶の支度だけさせ、使用人全員を部屋から出した。

「さあレイシア。ここには儂だけしかいない。何を言っても大丈夫だ。どうだった、今日の買い物は」

レイシアは、何をどう言えば誤解されないか、お茶を飲みながら考えた。

「どこのお店も高いものばかりで、落ち着きませんでした」
「ほう」

「お祖母様には、格の合わないものは身につけてはだめと言われましたが、私自身が格に合っていないのかと……」
「なぜそう思う」

 お祖父様は、責める様な声ではなく、優しく聞いてきた。

「服は清潔で動きやすければいい。靴は動きやすいのが1番。お母様がいなくなってからは、宝石など売れるものは売ってしまいました。領民と共に、質素な生活をしてきた私には、お祖母様のお金の使い方がわからないのです」
「ふ~む。……レイシア、お前は頭が良い。初めて会った時、6次産業の本を買っていたね。読めたかい?」

「はい。ターナー領では、6次産業は無理だと分かりました」
「おや、なぜだ」

「交通網がないからです。二次加工を充実させて、いかに商人と密接な関係になるか、宣伝をどうするか、そちらの方に力を入れるべきです」
「ふむ。そこまで考えられるか。まだ11歳で……。ならば、よく聞きなさい。レイシア」
「はい」

「貴族が、お金を持っている者達が高いものを買わなかったらどうなるか考えてみなさい」
「貴族が高いものを買わなかったら?」

「そう。ドレス、宝飾品、靴、料理。そこには、例えばドレスなら、糸の材料を採る冒険者や農家、糸を紡ぐ人々、布を織る職人、それを流通させる商人。ドレスを作る職人とお針子、店で売る商人など、1つのドレスに貧民層から裕福層まで、様々な人間が関係しているんだよ。儂らがお金を使わず質素な生活をすれば、商品は余り皆の生活が困窮していく。職人は生活出来なくなる。技術が伝わらなくなるんだ。……儂らが金を使って大きな商店が儲かれば、彼らが他で物を買う。そこが儲かれば、違う店で買う。そうやって、お金の流れを作らないと行けないんだよ」

「お金の流れ?」

「そう。川で言うなら上流は貴族だ。貴族が流した水が少なければ、下流の者は苦しむ。濁っていてもだ。皆が豊かな生活をするために贅沢をする。これも貴族の義務であり責任なんだよ」
「難しいです……」

「ターナーは金がないからな」
「どうしたらいいのですか?」

「……それは自分で考えないと駄目だ。そうだな、来週儂と街を見てみないか? 産業について教えてあげよう。聞きたい事はあるか?」
「……いろいろあります。米について。食べてみたいです。米の価値やこれからの展開。それに、特許について」

「……本当に11歳か? ウチの本流を即座に言い当てるとは……。よろしい。子供扱いせず教えてやろう」
「ありがとうございます」
「では、今日はここまでだな」

 メイドを呼ぶとレイシアを部屋に返した。

 レイシアは期待に胸を膨らませながら、その日はなかなか寝付けなかった。

 お祖父様は、レイシアが男で内孫だったらと、残念に思った


◇◇◇


「ここが酒の神バッカス様を祀る教会だ。さあ、入ろうか」

 お祖父様は、酒造りの工場へレイシアを連れて行く前に、まずは神様への挨拶をするように言い聞かせた。レイシアも、教会には馴染み深いので、ぜひ連れて行って欲しいとお願いしたのだ。

「ここがバッカス教会。大きいですね」
「ああ。ウチの産業の守り神だからな」

 奥から立派な僧衣を身に着けた老神父が出てきた。

「お待ちしておりました、オヤマー様。どうぞこちらへ。おや、そちらのお嬢様は?」
「儂の孫、アリシアの子だ」
 はじめまして神父様。レイシア・ターナーです」

 レイシアは丁寧に挨拶ををした。

「それはそれは。ではお嬢様もご一緒にどうぞ」

 二人は、従者と一緒に礼拝堂へと入っていった。



 お祈りが終わると、神父様が二人を別室に連れて行った。お祖父様は、袋に入れた寄付の金貨を神父様に渡した。

「神の祝福を」

 神父はそう言うと、金貨入りの袋を袖に入れた。

「お嬢さんは、なにか願い事はあるのかな?」

 神父が聞くと、レイシアは少し悩んで答えた。

「私は賢くなりたいです。みんなを助けられるように」
「女の子なのに?」

 神父は驚いて言った。

「女の子の幸せは、素敵な貴族と結婚することでは?」
「そうなのですか? でも私は賢くなりたいです。強く、賢く」

「強く賢くだと? お嬢さん、女が賢くなれると思っているのかな? 無理だよ」
「無理ですか」

 レイシアは、これ以上話しても無駄だと思った。

 「神は人を作りし時、男と女に分けた。男には力と知恵を。女には美と子を産む使役を。知恵は男の特権だ。女は美を磨き、男にかしずき、子を孕めばいいんだ。女に知恵など必要ないな」

 レイシアは、歌うような声で祈りを捧げた。



 『讃えよ讃えよ 我が名を讃えよ
  我を讃える者 平等であれ
  富める者も  貧しき者も
  老いる者も  若き者も
  男なる者も  女なる者も
  全ての者に  知恵を与える
  全ての者は  知恵を求めよ
  知恵を求む者 我が心に適う
  知恵を求む者 男女貴賤別無し』



「聖詠か……」
 お祖父様はつぶやいた。

「なっ!」
 神父は何も言えなかった。まだ学園にも入っていない子供が聖詠だと! 自分もうろ覚えしかしていない聖書の言葉をすらすらと暗譜するとは……。しかも聖詠。あんなマイナーな箇所を……。この状況で、1番的確な聖詠を持ち出すとは……。

「素晴らしいぞ、レイシア。お前の祈りは神に届いただろう。なあ、

 神父は何も言えなかった。

「では、祈りも済んだし我々はこれで失礼しようか、レイシア」
「はい。お祖父様」

 二人は神父に目もくれず、さっさと教会を後にした。
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