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「私なんて」「本が好き」な「寂しがり屋」

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 瑛輔くんが参考書の隅に落書きをしながら呟いた。考えごとをするときの瑛輔くんの癖だけど、私の参考書でやるのはどうかと思う。

澤野さわの千佳ちか沢野さわの知花ちか。名前が同じだとは言え、すぐバレると思ったんだけどな」
「チーと遥が一緒にいたのは三歳のとき、しかも半年だけだし、はっきり覚えてない可能性のほうが高いって私は思ってたけど」
「でも、ぴーちゃんとチーちゃんは結局のところ別人なんだからさ」
「そんなことない。私はチーのこと、完璧に分かってる。遥なんかより、ずっと」

 前髪をそっと撫でつける私を見て、瑛輔くんがわずかに目を細めた。

「俺さ、ぴーちゃんのその癖。ずっと気になってたんだけど」

 ぐっと言葉に詰まった私に、瑛輔くんはしたり顔だ。

「そこがぴーちゃんの弱点ってことだろ。気をつけなよ」

 分かってる、と言いかけて飲み込んだ。

『怒っているとき、私なんて、と言う』
『本が好き』

 遥の中にいる、私が知らないチー。
 チーじゃない私は、いつかきっとエラーを起こす。でも――それでも、やらなきゃいけない。それが、せめてもの――償いだから。

「でもまあ、普通は疑わないよな。同じ名前で約束のことも昔のことも覚えてる女の子のこと。しかも、それが初恋の相手ならなおさらだよ。ほら、男って初恋の相手に弱いから」
「瑛輔くんも?」
「それはノーコメント。さて、と、授業の続きしようか」

 逃げたな、と思いながら、仕方なく参考書に目を落とす。瑛輔くんが描いた、猫のような犬のような生き物が二匹並んで私を見上げていた。
 初恋の相手に弱い、か。
 遥の初恋の相手は、やっぱりチーだったのかな。
 嘘が嫌いで、まっすぐな、優しいチー。
 私とは、大違い。
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