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貴方の言う真実の愛のお相手は誰なのでしょうか。まさか私の妹ではありませんよね?
結末
しおりを挟むエレーナは先ほどの会談で来ていたドレスではなくなっているので、一度部屋に戻って着替えて来たのでしょう。
ただ、どうしてこのタイミングでここに来たのかはよくわかりません。普段生活していてもこの時間にここへ来る理由なんてありませんからね。
「ああ、婚約者になったとはいえ、今まで殆ど話した機会が無かったからね。少しでも互いの事を知っておくべきだろう?」
「そうですか」
アベル様がそのように言っていますが私にはそのような考えはありませんでした。突然の話だったのでその辺りは全く考えられなかったのもありますが、確かに婚約者になるのですから、ある程度相手の事を知っておく必要がありますよね。
「エレーナはどうしてここへ来たのですか?」
少しだけ自分の考えの薄さに気落ちしながらもこの時間にここへ来た理由をエレーナに問います。
「お姉さまは私の事が邪魔だという事でしょうか」
「い……いえ、そういうわけではないのですよ。ただ、会談が終わったのにこちらに来る理由はないな、と思っただけです」
エレーナの悲しそうな表情に咄嗟にそう返しました。少し演技のような気もしましたが、アベル様の前でそれを指摘するのはあまりよろしくはないですよね。
「なら良かったです」
「ええ」
すぐにいつもの表情に戻ったことから、先ほどの表情が演技だったことを確信する。たまにこのように揶揄って来るのがエレーナらしいと思うのですよね。
「レイシャ!!」
突然、玄関ホールに声が響き渡ります。何事かと声のした方へ視線を向けと、そこにはシレスの姿がありました。
先ほどの会談でのメシャル侯爵の話によれば、シレスもイゲリス家の者たちと同じように捉えられているはずなのですが、どうしてこの場に来れるのでしょうか。まさか、監視の目を掻い潜ってここまで来たと? そう簡単に逃げ出せるとは思えないのですが。
「え?」
私がそう声を出すよりも早く、シレスが私の元へ向かってきました。
状況が呑み込めない私はすぐに動くことは出来ませんでしたが、アベル様とエレーナは通じ合っているかのようにすぐに動き出し、アベル様がシレスを取り押さえエレーナは庇うように私の前に移動しました。
「何をする! 俺は婚約者のレイシャに会いに来たんだぞ!」
「貴方は自ら婚約を破棄したではありませんか。どうしてそのような事を言っているのでしょう」
私が声を出すよりも先にエレーナがそう彼の発言に反論しました。
「俺は薬で変になっていただけだ! あれは自分の意思ではない!」
「薬物の影響を受けていたのは事実ですけれど、あの夜会の時ではそれほど影響が出ていなかったことはわかっています。あれは紛れもなく貴方の本心でしょう? お姉さまの前では言いたくはありませんが、貴方がお姉さまのことをいつも馬鹿にしていたのは知っておりますから」
エレーナの言葉に私は息を呑みました。
対応の悪さからシレスに嫌われていることは理解していたのですが、いつも馬鹿にされていたというのは初耳だったのです。
そもそも、レイシャが最初に勘違いしたエレーナとシレスが仲がよさそうにしていた場面は、エレーナがシレスの本心を聞きだしているところでした。この段階でエレーナはシレスがレイシャの事を馬鹿にしていたことを知っており、裏どりのために会話していただったようです。楽しそうな表情をしていたのは、他に人が居る場面であったためと感情を誤魔化すためだったようです。
「そんなの知るかよ! 俺はレイシャの婚約者なんだ! だから、だから、ベルに会わせてくれ!」
ベルとは誰なのか。私はすぐに理解することは出来ませんでしたが、アベル様とエレーナはそれが誰なのか知っている様子で凄く険しい表情になりました。
「あれの名前を出さないでください。あれとお姉さまは無関係ですし、こんなことをしなくても近い内に会うことになりますよ」
「え?」
エレーナの言葉にシレスは呆けたような声を出す。
あれ、というほどにエレーナが嫌っているということは、おそらくシレスが言っていた真実の愛のお相手なのでしょう。一応私も姿は確認していますが、遠目で見ただけなのでもう既にその姿を思い浮かべることは出来ません。
「それと、レイシャはお前の婚約者ではない。私の婚約者だ」
「ぅぐっ!?」
アベル様がそう言ってシレスを押さえ付けている腕にさらに力を入れました。
「アベル様! 申し訳ありません!」
「今後このようなことは無いようにしてくれ」
玄関ホールに騎士と思われる者が2人駆け込んで来ました。アベル様がこの場に居ることを知っていたところからしてメシャル侯爵家の関係者だと判断できます。
エレーナの言葉を聞いた後ずっと呆けたままのシレスが騎士によって外に運び出されていきます。それを私たちは声を出すことなく見送りました。
「えっと、これはどういう事なのでしょう」
碌に反応出来ないまま、ことが進み片付いたことにどう反応して良いのかわからない私はアベル様にそう質問しました。
「ああ、申し訳ない。メシャル家の馬車で捕らえたイゲリス家の者を護送していたのだが、どうやら隙を突かれて逃げ出されてしまったようだ。今後このようなことが無いように指導しておく」
「そうですか」
「ああそうだ。先にあれを取り押さえたからけがはないと思うが、気分が悪くなった、何てことはないかい?」
未だ軽くではあるが混乱しているレイシャを気遣うよう、顔を覗き込みながらアベル様は問いかけてきました。
視界に入るその端麗な顔立ちにどうしていいのかわからなくなり、返事をすることができませんでした。
「この分だと問題はなさそうですね。今はまだ突然の状況に気持ちの整理できていないだけでしょう。それにあれに未練があるかもしれないと思っていたのですが、先ほどの反応からしてもそうではなさそうで、安心しました」
「はい?」
私がシレスに未練を持っていると思われていたのは仕方ないことでしょうけれど、安心したというのはどういう事なのでしょうか。
「今はまだ政略によって婚約した者同士ではありますが、正式に婚姻するまでには――」
アベル様はそう言って私の顔に優しく手を添えようとしました。しかし、すぐにその手はエレーナによって弾かれました。
「まだ、駄目です。婚約者になったとはいえ、今日なったばかりの方がお姉さまに触れる何てことは許すことは出来ません。それに、お姉さまは私の大事な人なのですから、私が良いと思えるような方になっていただけませんとね」
「へ?」
エレーナの言っていることが理解できません。それに侯爵家の次期当主であるアベル様の手を叩くというのはさすがにまずい気がしますけれど、これは大丈夫なのでしょうか。様子を見る限りアベル様は気にしていないようですけれど。
「エレーナに認められなければならない理由が理解できませんね。私はレイシャに認めてもらえればそれで構わないと思います」
「えぇ?」
睨み合う2人にどのような対応をしたら良いのかわからず困惑した私の声が、屋敷の玄関ホールに小さく響きました。
その後、この薬物を使った乗っ取り計画は、主犯とされたフマ家一族を被害者の前で断罪し、処刑。被害に遭った貴族たちは治療のために王宮の一部にある、騎士団の救護室に留められることになったが、治療をしたうえで貴族として活動することが困難だと判断された者は、平民に落とされたという。その中にはレイシャの元婚約者であるシレスの姿もあった。
こうしてフマ家による洗脳術、薬物を利用した婚約破棄の事件は幕を下ろした。
―――――
この話を持ちましてこの作品は完結となります。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
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