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たいようアコースティック3
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答えがすぐに見つからない問題だ。
僕が黙ってしまったから。
代わりに鈴村さんが壁やんと話を続けていく。
「尾壁、君だってそうだろう? ご両親が産めよ増やせよ地に満ちろなんて教義を信じたばかりに、無計画な子作りを繰り返した結果の貧困。君は賢いから親の尻拭いをする為に頼った先で目をつけられてしまったね」
「たしかにうちは兄弟が多くて家に金はなかったです。俺が早くから弟達の為に働く必要もありました。だけど俺達は不始末の結果じゃないんで」
「そうだった。君達兄弟は愛の結実により生まれていたね。ごめんよ。私の言葉が悪かった」
今の会話のどこかに壁やんが許せない表現があったらしい。
一瞬空気がピリッとした。
鈴村さんは子供の多さを起因とする貧困の“尻拭い”と言った。
尻拭い。失敗の後始末をすること。
壁やんは自分達兄弟の存在が“失敗”だと言われたことに怒ったんだ。
だから鈴村さんは謝罪をして“愛の結実”だと言い直した。
それで壁やんが溜飲を下げたなら、子供を“愛の結実”と表現することはご両親の信じる宗教でも使われる言い回しだったのかな。
壁やんから怒りの色がすっと消えたし。
そうなるとその宗教って多分キリスト教から派生してる新興宗教っぽいんだけど。
教義にあるっていう“産めよ増やせよ”なんてそのまんま聖書の言葉だし。
キリスト教系で子作り推奨な宗教だとしたら、きっと同性愛は認めてないだろう。
だって子供は男女で愛し合わなければ生まれない。
僕、ゲイなんだけどそこは大丈夫?
信じているのはご両親で壁やんはそこまで熱心な信者ってわけでもなさそうだから僕は許されてる?
僕は友情というフィルターに甘えているのかも。
それか金の力か。鈴村さんは札束で相手の頬を引っぱたいて言うこと聞かせるの似合うし。
僕はその威光を傘にきている。
それにしても、壁やんめちゃくちゃヘビーな生い立ち。
壁やんは長男で下には弟と妹があわせて10人いて、1番下の子は僕が会った時まだ赤ちゃんだった。
すごい大家族だねって話をしたっけ。
壁やんの兄弟は仲が良くて、学生柔道大会の会場で話をしててもお兄ちゃんのことが大好きなんだなって見て取れた。
僕にも弟と妹はいるけど。あんなふうには慕われてない。
家族仲がとても良く見えて羨ましかった。
だからその影に宗教があるなんて思ってみたこともないし。
それが理由で壁やんがヤクザになったとしたら。
それはご両親の信仰心に壁やんの人生が振り回されている。
「腕っ節のある奴はまあまあいる。指示されたことが遂行できる程度に、賢い奴もそれなりに。でも指示を出す側に回れるほどの賢さはとても希少だ。さらには大会でメダルを取れる柔道家で、我々の側に来てくれる者は日本中を探しても君しかいないだろうね。だから7年前に圭君が自ら足を運び直々にスカウトしたと聞いているよ」
7年前。それは僕と知り合うよりも前から。
壁やんも成瀬さんみたいに圭介さんから奨学金とかを用意してもらったの?
「スカウトされたつもりはないです。高卒で働くつもりでいたのを大学に通うことを仕事にしろって言われただけです」
「それをスカウトと言うのだよ」
学ぶことが仕事? 学生の本分だ。
でも自分で願った進学ではなくて。
そもそも進学か就職かを選べる立場ですらなかった事情。
兄弟を養いたいという希望が叶えば壁やん自身は何でも良かったみたいな。
何が学びたいわけでもなく。ただ大卒という経歴が欲しかっただけの浅はかな僕とは違う。
「それに貧乏が嫌だったというより、高校卒業したら会長の孫と結婚しろって言われてたのが一番嫌で」
「結婚!?」
お金の話からいきなり結婚なんてワードが出てきたから。つい大きな声が出てしまった。
ちょっと待って。結婚ってどういうこと?
高校生が結婚しちゃいけないなんて法律はない。
18歳になったら誰だって自由に結婚できるだろ。
落ち着け。僕。
結婚についての話を聞かせてもらおう。
「壁やんは婚約者さんがいたの?」
「婚約をしたつもりはないんだけど。教会の役員達からは婿養子になって、たくさん子供を作れって言われてた。だけど相手を選べるならまだともかく31歳のオバサンと結婚しろなんて気持ち悪くて」
年上だし。年の差あるし。
18歳と31歳。愛し合ってたらまだ分かるけど、押し付けられる結婚だなんてホラーじゃん。
しかもたくさん子供を作れってセックスの強要でしょ?
背中ゾワッてした。無理。
僕が黙ってしまったから。
代わりに鈴村さんが壁やんと話を続けていく。
「尾壁、君だってそうだろう? ご両親が産めよ増やせよ地に満ちろなんて教義を信じたばかりに、無計画な子作りを繰り返した結果の貧困。君は賢いから親の尻拭いをする為に頼った先で目をつけられてしまったね」
「たしかにうちは兄弟が多くて家に金はなかったです。俺が早くから弟達の為に働く必要もありました。だけど俺達は不始末の結果じゃないんで」
「そうだった。君達兄弟は愛の結実により生まれていたね。ごめんよ。私の言葉が悪かった」
今の会話のどこかに壁やんが許せない表現があったらしい。
一瞬空気がピリッとした。
鈴村さんは子供の多さを起因とする貧困の“尻拭い”と言った。
尻拭い。失敗の後始末をすること。
壁やんは自分達兄弟の存在が“失敗”だと言われたことに怒ったんだ。
だから鈴村さんは謝罪をして“愛の結実”だと言い直した。
それで壁やんが溜飲を下げたなら、子供を“愛の結実”と表現することはご両親の信じる宗教でも使われる言い回しだったのかな。
壁やんから怒りの色がすっと消えたし。
そうなるとその宗教って多分キリスト教から派生してる新興宗教っぽいんだけど。
教義にあるっていう“産めよ増やせよ”なんてそのまんま聖書の言葉だし。
キリスト教系で子作り推奨な宗教だとしたら、きっと同性愛は認めてないだろう。
だって子供は男女で愛し合わなければ生まれない。
僕、ゲイなんだけどそこは大丈夫?
信じているのはご両親で壁やんはそこまで熱心な信者ってわけでもなさそうだから僕は許されてる?
僕は友情というフィルターに甘えているのかも。
それか金の力か。鈴村さんは札束で相手の頬を引っぱたいて言うこと聞かせるの似合うし。
僕はその威光を傘にきている。
それにしても、壁やんめちゃくちゃヘビーな生い立ち。
壁やんは長男で下には弟と妹があわせて10人いて、1番下の子は僕が会った時まだ赤ちゃんだった。
すごい大家族だねって話をしたっけ。
壁やんの兄弟は仲が良くて、学生柔道大会の会場で話をしててもお兄ちゃんのことが大好きなんだなって見て取れた。
僕にも弟と妹はいるけど。あんなふうには慕われてない。
家族仲がとても良く見えて羨ましかった。
だからその影に宗教があるなんて思ってみたこともないし。
それが理由で壁やんがヤクザになったとしたら。
それはご両親の信仰心に壁やんの人生が振り回されている。
「腕っ節のある奴はまあまあいる。指示されたことが遂行できる程度に、賢い奴もそれなりに。でも指示を出す側に回れるほどの賢さはとても希少だ。さらには大会でメダルを取れる柔道家で、我々の側に来てくれる者は日本中を探しても君しかいないだろうね。だから7年前に圭君が自ら足を運び直々にスカウトしたと聞いているよ」
7年前。それは僕と知り合うよりも前から。
壁やんも成瀬さんみたいに圭介さんから奨学金とかを用意してもらったの?
「スカウトされたつもりはないです。高卒で働くつもりでいたのを大学に通うことを仕事にしろって言われただけです」
「それをスカウトと言うのだよ」
学ぶことが仕事? 学生の本分だ。
でも自分で願った進学ではなくて。
そもそも進学か就職かを選べる立場ですらなかった事情。
兄弟を養いたいという希望が叶えば壁やん自身は何でも良かったみたいな。
何が学びたいわけでもなく。ただ大卒という経歴が欲しかっただけの浅はかな僕とは違う。
「それに貧乏が嫌だったというより、高校卒業したら会長の孫と結婚しろって言われてたのが一番嫌で」
「結婚!?」
お金の話からいきなり結婚なんてワードが出てきたから。つい大きな声が出てしまった。
ちょっと待って。結婚ってどういうこと?
高校生が結婚しちゃいけないなんて法律はない。
18歳になったら誰だって自由に結婚できるだろ。
落ち着け。僕。
結婚についての話を聞かせてもらおう。
「壁やんは婚約者さんがいたの?」
「婚約をしたつもりはないんだけど。教会の役員達からは婿養子になって、たくさん子供を作れって言われてた。だけど相手を選べるならまだともかく31歳のオバサンと結婚しろなんて気持ち悪くて」
年上だし。年の差あるし。
18歳と31歳。愛し合ってたらまだ分かるけど、押し付けられる結婚だなんてホラーじゃん。
しかもたくさん子供を作れってセックスの強要でしょ?
背中ゾワッてした。無理。
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