恋愛サティスファクション

いちむら

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恋愛サティスファクション

ハローGW7

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店長さんは寝るスペースがなくなったので、起きて鈴村さんの隣に移動。
運転は代わらず玲司君で、僕は助手席。
ハンバーガーの次は肉いなりを玲司君にあーんするお仕事中。
お稲荷さんも一口で食べれちゃうとか。かわいい。
1パックにちょうど6個入るって聞いたから、とりあえず6個で買ったけど。
もう少し買っても良かったかも。
それでは肉汁で汚れた手を拭いて。

「皆さんに質問でーす!」

まったりモードの車内だけど、気にせずテンションあげてくよ。

「ほう。疑問があるのはとても前向きだねえ」
「今さらビビっても仕方がないので建設的に楽しむことにしました」

鈴村さんが僕のやる気を褒めてくれる。
そうだよ。出来ないことを数えるよりも、出来ることをやっていくんだ。

「圭介さんはヤクザさんかその親しいお付き合いの方がお父さんとのことですが、皆さんはどのような繋がりなんですか?」

皆、それぞれにワケアリなんでしょ?

「私は惚れた相手がヤクザだっただけさ」

鈴村さん、かっこいー。

「ただのヤクザじゃねえぞ。鈴村のためにグラスリーフを買収しちまうヤクザだ」
「それは豪気なヤクザさんだね」

恋人のために会社を買っちゃうとか。すごーい。

「ふふっ……あははっ……。そうだね。豪気な男だ。ときに手綱を握るのが大変なほどにね」
「鈴村さんは手綱を握るのが上手そうですよね」
「どうだろうか? ねだってもいないのに、いきなり就職先を用意されたのは驚いたよ。あの頃はまだ若かったしね」
「たしかに、いきなり会社ごと用意されたらビックリですよね」
「どうする? サクラのためにドーンと用意されたら?」
「まずはすでにいる社員さんの生活を第一に考えますね。僕のせいでご迷惑をお掛けするわけにはいきませんから」
「受け取らないという選択肢もあるのだよ」
「僕が受け取らないことで全体の益になるなら受け取りません。だけど、僕が社員になっていた方が守ってもらえそうじゃないですか。色んなことから」
「サクラは胆が座ってて良いね。だから圭君も玲司も君のことが手離せなくなる」

胆が座ってるんじゃなくて、貢がれ慣れてしまっただけだ。
鈴村さんはヤクザの恋人だと分かった。
なら、店長さんは?

「はいはーい。俺は両親が町金で金借りたら返せなくなって、一家離散のとこを圭さんに助けてもらいました!」
「助けたのではなく人身御供というやつだよ」

鈴村さん辛辣。

「俺は圭さんに感謝してますよ。大学行く金も給付型の奨学金をつくってくれて。学部は圭さん指定の学部だったけど、ちゃんと就職先も斡旋してくれてましたし」
「奨学金を作る?」
「返済不要の奨学金を支給するNPO団体を立ち上げたんです。圭さんが」
「圭介さんそんなこともしてたんですか?」
「ヤクザはローンを組めないので、その子供ってだけで貸与型の奨学金を使えないことも多くて。真面目に勉強するなら金出してやるっていうのが圭さんの優しさです。俺はヤクザの子供じゃないけど基準を満たしてたので支給してもらえました」
「そうやって恩を売って手駒を増やすのが彼のやり方さ」

鈴村さんのツッコミが怖いよ。

「口ばっかりで何もしてくれない人より、打算的でも手を差し伸べてくれる人が正義ですから」
「店長さんは圭介さんのことすごく尊敬してるんですね」
「尊敬だなんて。言葉に出来ないくらいに感謝してます。だから圭さんの大事にされている、佐倉さんも玲司さんも店で歓迎させてもらえて嬉しいです」

僕はなんとなく分かるけど、玲司君も圭介さんの大事な人?

「オレは大事になんてされてねえ。適当に拾って役に立つから手元に残してるだけ。オレも都合が良かったしな」
「路地裏でオーバードーズしてたところを拾われたんだっけ?」
「その話は忘れろ!」
「それは無理な相談だよ。かなりの衝撃だったからね。“路地裏でバッドトリップ”なんてHIP HOPの歌詞みたいなこと本当にする人いたんだって」
「──っ!」

玲司君の黒歴史ってやつなのかな。
あんまりからかったら可哀想なやつ?
でも、自信の塊みたいな玲司君にもそんな過去があったんだ。

「その頃の玲司は手負いの野良猫のようだったよ」

にゃんこ時代の玲司君。いつか見たい。

「おなかが空いているから機嫌が悪いのだろうと餌付けをしているうちにニョキニョキ育ってね。育ち過ぎたかとも思ったけれど、ほら黙っていれば見栄は良いだろう?  モデルの仕事をやらせてみたら、これがまた当たり役でね」
「何が仕事だ。タダ働きさせやがって」
「衣食住は保証してあげたじゃないか。こんな立派な車も貰って」
「テメェもコーラすら買えねえクソみたいな生活を味わってみろ」

衣食住は事務所がみてくれても、ジュースを買うお小遣いは貰えなかったのかな?

「だからって人の財布から金を抜くのはお行儀が悪かったね」
「それしたの、たった一度だろ。しかもボッコボコに殴りやがって。手加減しろよ。あんなに金持ってんなら1万ぐらいガキに恵んでもバチあたんねぇだろ」

玲司君、結構ヤンチャしてたんだ。
それを鈴村さんが矯正して今に至ると。
お金を盗むのは流石にフォローしきれないよ。
めちゃくちゃ怒られるのも仕方ない。
悪いことをしたら叱られる。
警察に突き出されないだけ温情だ。

やばい。僕もさっき鈴村さんのお財布で好き勝手に買い物しちゃった。
僕のは頼まれたお使いだからセーフ? よかったー。

「1万を許したら1万で済まなくなるだろう。非行の芽は早いうちに摘まないと」
「摘むじゃなくて踏み潰してんだよ」
「踏みしめたあと立派に芽吹いて良かったよ」
「なに美談っぽく語ってんだ。クソが。金がねえなら金目のモン寄越せって言ったのに布だレースだの押し付けてほったらかしやがって。アレだって今思えばテメェのデッドストックじゃねえか」
「それをそのまま売ることもできたのに加工して、更にそれが素晴らしい出来なのだから。天才というものはいるのだね」
「そのまま売っても二束三文だろ。食うために仕方なく服にしただけだ」

ちゃんと反省して自活しようとするの偉い。
それで鈴村さんが褒めるぐらいの服を作れたのも凄い。

「玲司君は服飾の学校で洋服のデザインを勉強したの?」
「違ぇ。独学だ。オレは中卒で専門の入学資格もねえからな」
「独学で洋服が作れるの!?」
「つっても、本で学んだのは基本的なとこだけで。イメージしたデザインがどうやったら形になるのか分からないときなんかは鈴村が教えてくれたけど」
「鈴村さんは玲司君のお師匠様なんだね」
「そんな立派なもんじゃねえ」

照れてるのかな。
玲司君は鈴村さんに口が悪いけど。
愛情の裏返しなのかも。
うんうん。照れ屋さんだな

「おいっ。ヘンなコト考えてんじゃねえ」
「変なことじゃないよ。素敵だなって思っただけ」
「だから、美談にするなっ」
「美談だなんて言葉で収まらないくらいに頑張ったんだね。惚れ直しちゃうよ」
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