恋愛サティスファクション

いちむら

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恋愛サティスファクション

ハローGW8

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「惚れ直すという言葉は既に惚れた相手に使うものだよ」

後ろから鈴村さんがくすくすと笑う。
そんな思わせ振りに笑わないで。そういう意味じゃないから。

「これは言葉のアヤというやつで……」
「えぇ。オレ、超ショック。ようやく佐倉が素直になってくれたと思ったのに」

「傷付いたあ。立ち直れない」って本気なんだか冗談なんだか分かんないノリで玲司君が嘆く。

「えっと。玲司君、あのね。僕は玲司君が嫌いじゃないし。いろんな話を聞かせてもらうのも、一緒にご飯食べるのも楽しいし。じゃなきゃ今日だって訳も分からず誘われたのに、ノコノコ付いてこないし」

めっちゃくちゃショックですってしょげた顔する玲司君をフォローしたくて、言ってることがどんどんおかしくなってる。
嘘はついていないよ。
でも、これって告白してるみたい。

「私が聞く限り、サクラは少なからず玲司を思っているのだね」
「~~っ!」

やっぱりそう聞こえますよね。

「ほら。認めたまえよ。これからどんどん大人の駆け引きをしていかなくてはならなくなるのだから。愛する人の前でぐらい素直におなり」

ヤクザさんと仲良くなるってことは、切った張ったの世界に足を突っ込むってことなんだ。
必要なら自分の気持ちを誤魔化して嘘もつく。
それ自体はやろうと思えばやれるだろうけど。

素直になるって、すごく我が儘を言う必要がある。
僕の願う未来はとても貪欲で、人としてどうなのってレベルに最低なんだけど。

倫理観とか大事じゃない?
それなのに良いの?
不安で胸がキシキシしてきた。
だけど、もう自分に嘘をつくのも限界なんだと思う。
最低だと嫌われてしまうなら、僕はその程度の男だったのだと諦めよう。
男、佐倉唯。覚悟を決めます。

「玲司君がだいすきです」

言っちゃった!

「オレも佐倉がダイスキだー!」

玲司君! 喜んでくれるのは嬉しいけど、ハンドルから両手を離してガッツポーズは危ないからっ!

後ろからは店長さんの指笛がけたたましく鳴り響く。
そういうの恥ずかしいんで。やめてっ!

「なんとも初々しいねえ」

鈴村さんもしみじみしないで。オジサン臭いです。

「皆さん、ハッピーエンドな雰囲気ですけど、僕は玲司君だけじゃなくて圭介さんも好きなんですよ。二股ですよ」
「良いではないか。二股ぐらい。愛人が五つも六つもいるわけではないのだから」
「そうですよ。むしろ、一番平和な形に収まってくれて大団円です」

平和かな? 二股って最低な男のやることでしょ?

「やっぱりひとり勝ちはムリだったか。相手がワリぃよな。圭だもんなあ」
「玲司君もそれで良いの? 二股だよ? ビッチだよ?」
「佐倉はビッチじゃねえだろ? だって圭と付き合うまでバージンだったって聞いてるぞ」
「ちょっと待って。なんでそんな事を玲司君が知ってるの?」

僕はそういうエロ方面の話は普段しない。
聞かれても適当に誤魔化すし。
ってか、バージンって。言い方っ!

「圭からさんざん自慢されたからなあ。ずっと狙ってた子がようやく手に入るって。挙げ句に、そいつに着せる為の新作をムリヤリに企画通して作らせたり。しかも1ロットだけ」

1ロットだけ。
んん? どこかで聞いたことある単語だけど。

「クリスマス限定の黒いウサ耳ポンチョ。佐倉が最初に着たロリータだって聞いてるぞ?」

それは圭介さんのお誕生日に着た垂れ耳ウサギの事だ。
色は黒くてシックなんだけど、細部までこだわってるのがよく分かる名品。
僕は左側のウサ耳にだけリボンが結ばれてるところが一番好きかな。

「それってPMDピーチメルバ・ドリーマーの幻のショコラブラックですか? 限定品過ぎでプレミアついたんですよね?」
「そういえば、そんな物もあったな。あまりの高騰ぶりに素材の質を少し下げた廉価版も販売したと記憶している」
「倉庫の奥に1個だけ隠れてたの見つけて転売したら結構良い値ついたなあ」

ええー! あのウサ耳そんなに貴重な服だったの!?
ヤバい。僕は何回も汚しまくってる。
その度に圭介さんが綺麗に洗ってくれてるけど、今度からは汚さないように気を付けよう。
ってか、玲司君は転売とかしてたの?
手癖が悪いの直ってないよ。

ん? 玲司君は僕をチラチラ見て、なにニヤニヤしてるの?

「佐倉がを思い出してる顔してる。超エロい」

何言ってんの!?
馬鹿なの?

「玲司君のこと好きなのやめようかな」
「はあっ!? なんでだよ?」
「僕は下ネタを言う人が嫌いだもん」

本当、なんで僕は玲司君が好きなんだろう。
痴漢するし、俺様だし、それなのに気配り上手だし。
顔かな? イケメンだもんね。
普段着の白シャツとデニムスもワイルドでカッコいいけど、Roi君モードだと更に神々しさアップだし。

僕、昔からイケメンに弱いもんなぁ。
圭介さんも一目惚れだし。
って、圭介さんのお父さんのこと忘れてた!

「僕はこれから圭介さんのお父さんに会うのに! 男の僕がお宅の息子さんと付き合っていますってだけでもアレなのに。さらに二股かけちゃってますとか、絶対に駄目だよね」

終わった。会う前から終わってる。
ただでさえ、ゲイだってところで最初から躓いてるのに。
僕はぜんぜん圭介さんに相応しくない。

「今さらさっきの告白なかったことにするとか言うなよ」
「言わないよ。僕だって男だ。だけど、それとこれとは話が違うじゃん。僕すっごい不誠実じゃん。第一印象最悪じゃん」

最悪で済めば良いけど、相手はヤクザさんかそのお友達なんだよね。
それこそ、東京湾にコンクリート的なことになったらどうしよう。
まだ、死にたくないっ。

「落ち着きたまえ。ヤクザのイロが若い衆を囲うなどよくある話だ。君が圭君と玲司の両方にそれぞれ誠実であれば良いのだよ」
「まず前提に圭介さんはヤクザじゃないです。そりゃ、僕は圭介さんの彼氏で玲司君の彼氏にもなれたら嬉しいんですけど」
「良いね。そういう欲張りなの、私は好きだよ。良いじゃないか。圭君と玲司の恋人として紹介してあげよう」
「待ってください。それは圭介さんとちゃんとお話ししてからじゃないと」

そもそも、僕は圭介さんと玲司君の両方を選ぶって決めたけど。
玲司君もそれで良いって言ってくれたけど。
もうひとりの当事者の気持ちはまだ聞けてない。

これについてはさすがに電話やメールで話すのは嫌だな。
ちゃんと会って、目を見て話したい。
それでフラれるなら仕方がないもん。

「圭も、そっか。分かったーで終わらせそうだけどな。まあ、オレ的には圭が愛想つかせてくれても構わないんだけど。そしたらオレだけの佐倉だ」

ちょっと不吉なこと言わないで。
でも、僕がフラれたら慰めてよね。
今日の僕は超ワガママだ。

「たしかにその紹介の仕方だと圭さんも一緒のが角は立たないですよね」
「ふむ。そうか。ならば圭君がこちらに着くまで時間潰しをしよう」

そう言って、にやりと笑う鈴村さん。
時間潰しとか。めちゃくちゃ怪しい。

「そう警戒するな。君も挨拶をするならば正装が良いと言っていただろう。少し着替えをするだけさ。玲司。少し寄り道を頼むよ」
「どこ寄んだ?」
「楓の姐さんのところ」

その名前を聞いて玲司君と店長さんは「あぁ~」って納得してるけど。
僕は知らない名前だからね。
ちゃんと楓さんところに着くまでに説明してよ。
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