恋愛サティスファクション

いちむら

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彼色わーどろーぶ2

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玲司君が連れてきてくれたのは、段ボール箱がこれでもかと詰め込まれた倉庫。
ちょっと埃っぽい。
そんな埃のなかを豪快なくしゃみをしながら漁る玲司君。
どうやら箱の中身は洋服みたいだ。

横からこっそり覗き込む。
セーター、Tシャツ、ジャージにスーツ。帽子にバッグに靴、マフラー。などなど。
性別年齢問わず、ファッションアイテムなら無いものが無いってぐらい。

その中から玲司君はメンズのアイテムを探してる。
空き段ボールが山盛りになるほど服をかき集めてるけど。
勝手に触って良いの? 怒られない?

「いくぞ」

洋服が溢れた段ボールを抱えて次に来たのは会議室。
誰も使ってないところって感じで玲司君が選んだ場所で意味はなさそう。

「まずはこれ着ろ」

白いシャツを握って言われてもOKとは言えないから。

「ちょっと待って。玲司君、ちゃんと説明してくれないかな?」

いきなり連れてこられて。
着ろって言われても着れるわけないよ。
さっきから誰かに見つかって怒られないかってドキドキなんだけど。
明らかに僕は部外者だよね。

「服欲しいんだろ? これやるよ」
「もらっても良いものなの?」
「これはサンプル品とかで、どうせ大掃除のときにでも捨てちまうんだ。誰かに着てもらった方が服も喜ぶだろ」
「玲司君がそういうこと言うの意外かも」
「まあ、コレとか自分でデザインしてるからな。それなりに思い入れもある」

そう言って玲司君が広げた白いオックスフォードシャツ。

「襟のワンポイント刺繍。オレが刺繍のデザイン描いて、工場にサンプル作ってもらって。でもこれはボツったデザインだから、ある意味世界で一点しかないレアもん。オレはコレが一番好きだったんだけど会議で選ばれて店に並んだのは別のヤツ」

白いシャツの襟先に真っ赤なキスマーク。たしかに可愛い。
けど、大事なのはそこじゃない!

「玲司君ってデザイナーさんなの!? モデルじゃなくて!?」
「Roiは副業。本業はこっち」

玲司君が差し出したのは入館するときにも使ったIDカード。
そこには『(株)グラスリーフ ダブルフォルド デザイナー 五十嵐玲司』の文字。

「ダブルフォルドって、あのダブルフォルド? DF?」

ダブルフォルド、通称DFはとても有名なメンズ向けのファッションブランド。
そこのデザイナーなんて玲司君すごいっ!

「僕、ここの服すっごく好きで。うわぁ。もしかして玲司君がデザインした服も着てたかも」
「オレが雇われてもうすぐ5年だからそうかもな」
「うわぁ! じゃあ着てた。超着てた。DFには大変お世話になりました」
「なりましたって、過去形かよ。何で今は着てないんだ? 着てくれてたのが着なくなるとか、へこむんだけど。デザイン飽きた?」

玲司君がちょこっと険しい顔をした。
デザイナーとしてユーザーの意見を求めてるんだ。
DFのデザインは何も悪くないよ。
カッコよくて、可愛くて僕は今でも大好きだもん。
だけど僕が着るには問題があって。

「その、なんていうか。DF着てるとナンパされやすいんだよ」

こんなこと人に話したことないけど。
玲司君はデザイナーとして質問してるから。僕も変に嘘付かないで答えよう。

「僕、女みたいな顔してるせいで。カジュアルなファッションだと女の子と間違えられてナンパされることがあるんだ。いちいち男だって断るのも面倒で」

声掛けられるのは基本無視。
しつこい奴は僕は男ですけどって言って無視。
昔はいちいち対応して丁寧に断ってたけど無駄なので無視。

「玲司君は似合わないって言うけど。今日みたいな服装なら女の子に間違えられることはないし便利なんだ」

本当は僕だってDF着たいよ。
こうして見るとやっぱりDFの服って良いな。
シンプルでベーシックなアイテムなんだけど、ちょっとした遊び心があって好きだ。

「それならオレと会うときはコレ着ろ。オレと一緒ならナンパされることもねぇからな。ほら試着」

「サイズはSだろ」っていいながら、ポイポイ服を投げないで。
服が可哀想。

「試着の前に。いちおう今の服も撮っとくか」
「えっ? なんで?」
「せっかくのSサイズモデルがいるんだ。写真撮らせろよ」

僕はモデルじゃないって言ってるのにストリートスナップみたいなもんだって言われて。
好きか嫌いかは置いておいて。
お洒落な服装は洋服をデザインする参考になるらしい。
写真は苦手なのに。

最初に着てきた服は正面からの1枚だけ写真を撮られた。
1コーデ1枚ならなんとか耐えられそうって思ったのに。
玲司君が持ってきた服を着たら。
正面だけじゃなくて横からや後ろから、立って、座って腕あげてって。
いろいろな姿勢や角度で撮られて。
デザインの参考ってどれだけ撮れば良いの?

「もうやだー。疲れた」

疲れたのは玲司君がセクハラするせいもあると思う。
さすがに着替えの最中の写真は撮られなかったけど。
背骨を指でなぞったりとか、太ももを擦ったりとか。
良くないと思います!

「ワリぃ。次で最後だから」
「本当に? 嘘だったら僕拗ねるよ」
「あっ。拗ねた佐倉も見たいから、もうちょっと写真とってイイ?」
「駄目。嘘つきは嫌いだ」

これが本当に最後だと言って着たのは白いVネックのセーターとブラックのスキニーパンツ。それにグレーのカーディガン。
カーディガンはフリーサイズだから僕にはダボついてしまう。
でも玲司君にはこの余った袖が良いとのこと。
そんなものなんだろうか。
僕は萌え袖にそんなに萌えないんだけど。
個人的にはジャストサイズで着てる方が好きだ。

すべてのアイテムの写真を撮り終えて。
着替えて片付けようと思ったところで。
会議室のドアをドンドンとノックする音が。
ヤバい。長居し過ぎちゃったみたいだ。
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