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いちむら

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バレンタインぱーりーぴーぽー3

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『今度の金曜、ちょっとした集まりに誘われたから一緒にいこ』

圭介さんから届いたそれは、とてもシンプルなお誘いのメールだった。
時間も場所も書かれてない。
誘ってくれた相手の名前もない。
集まりの説明はなにもない。

普段の僕なら、こんな誘われ方されても断ってる。
怪しいと危険は僕のなかで同義語だしね。
でも誘ってくれたのが圭介さんだから。

『よろこんで』 

って即OKしちゃった。
圭介さんのお誘いなら危ないこともないだろうし。
もしお酒に酔った人に絡まれても圭介さんが一緒なら大丈夫だ。
会えるの久しぶりだし楽しみ。

圭介さんも誰かに誘われたってことは、僕のこと紹介してくれるってことかな。
圭介さんのお友達に会うのは初めてだし、ちょっと緊張。
仲良くなれるといいな。
第一印象は見た目が大事っていうし。
圭介さんにコーデを選んでもらって可愛いって思ってもらえるように頑張ろう。

金曜日の仕事が終わった、夜9時。
閉店作業を手早く終えて、圭介さんのおうちに向かう。
今夜はオールナイトのイベントだから、圭介さんのおうちで着替えからでも余裕で楽しめるらしい。
明日も仕事だからイベント会場に朝までいるつもりはないけど。
圭介さんのおうちに泊まるのは決まってる。

ってことは、今夜は期待してもいいよね。

僕だって男だし、そういう欲がない訳じゃないし。
正直、電話で声を聞いてると身体の奥が疼くことある。
でも、僕まだ若いしそういうの普通だよね。
最後にしたときから3週間経ってるし。
会うのだって同じく3週間も前なんだ。
早く会いたくて駆け足気味になるのも仕方がない。

でも、おかしいな。
仕事が終わってから何度も圭介さんと連絡を取ろうとしているのに出来ないんだ。
いつもなら電話にすぐ出てくれるのに留守電に繋がっちゃう。
ラインの既読もつかないし、メールを送ってみても返事はない。

圭介さんの家に着けば会えると思ったのに居なかった。
無人だと分かっていても、すべての部屋、バスルームまで確認をして。
朝出掛けてからそのまま無人だっただろう冷えきった部屋の寂しさに身を震わせる。

なんで?
サプライズの前にわざと落とすってやつ?
そんなまどろっこしいこと圭介さんはしなそうなのに。

最後に確認したロリータコレクションの部屋には、僕が今日着るであろう真っ白なワンピースが飾られていた。
とりあえず着替えることにしよう。
圭介さんも残業で帰りが遅くなったのかもしれないし。
専用の下着を身につけてワンピースを着る。
ヘアメイクをすませて鏡の前で最終確認。
仕上げのウサ耳つきのヘッドドレスを手にしたとき、下に置かれていた1枚のカードに気がついた。

『Valentine's Night 』

紫の名刺サイズのカードにはイベントの名前と思われる英文字と、チケットの控え番号なのか2桁の数字が書かれていた。
カードの裏を見ればクラブの名前。
このクラブが会場なのかとスマホで調べてみれば。
繁華街にあるビルの地下にあると分かった。

圭介さんは先に会場に向かったのかな。
地下でスマホの電波が安定しないから連絡が取れないとか?

それなら僕も現地に向かうだけだ。
にんじんリュックを背負って、真っ白なファーマントを羽織って。
レースアップの靴まで真っ白。

圭介さんのこだわり白ウサギは今すぐ会いに行きますから待っててくださいね!

繁華街までは電車で数駅。
駅前のお店でバレンタインのチョコレートも買って。
実はカードを見るまでバレンタインのことすっかり忘れてたんだ。
毎年、当日になって義理チョコをもらってからバレンタイン自体を思い出していたから。
でも今年は違うかなって。
だって僕には彼氏がいるんだ。
恋人同士ならチョコレートのやり取りは必須だよ。

チョコレートの入った小さな紙袋を片手に下げて。
もう片手にはスマホ。画面に表示したマップを頼りにイベント会場のクラブを探す。
大通りから横道に1本入ったビルが目的地だ。
普段来ない街だから迷わなくてすんで良かった。
地下に降りる階段のところにあるクラブの看板を何度も確認する。
階段の途中の壁にもカードと同じデザインのポスターが貼られているから。
圭介さんが誘われたっていう集まりはここで行われているんだろう。

だけど、怖くて入れないよー。
階段の下からはノリの良いクラブミュージックが漏れてきていて。
うん。会場がクラブな時点でこういう雰囲気なんだろうなとは思ってたけど。
僕はこういうパリピな雰囲気の場所には縁遠い生活を送ってきたんだ。
一人で中に入るなんて絶対無理だよ。
圭介さんに迎えに来てほしくて何度もメッセージを送るけど、既読がつくことすらなくて。

駅前に24時間あいているファストフード店あった。
あそこで圭介さんがメッセージに気づいてくれるまで待ってようかな。

気後れした僕はひとまずこの場から離れることにした。
それなのに……。

「迷子のウサギ捕獲」
「>≠<※※~~!!!」

後ろからいきなりハグされたよ、僕!
あんまりにビックリして喉の奥を締め付けたみたいな変な悲鳴あげちゃった。 
でも変な声過ぎて男だってバレなかったと思う。
それぐらいに変な悲鳴。

「うわっ。ごめんって。オレ痴漢じゃねえから。ちょっとふざけただけ」

いやいや。ふざけていたからって後ろからいきなり抱きついちゃ駄目だから。
迷惑防止条例で捕まっちゃうから。
緩んだ腕の中から身体をよじって逃げ出して。
ふざけた痴漢さんと対峙する。

振り向けば。
166センチの僕が見上げるほどだから190センチはあるであろう長身のイケメンがそこにいた。
アッシュブロンドの髪の毛は肩にかかるくらいの長さ。
黒のダウンジャケットとネイビーカラーのデニム、ごつめのスニーカー。
シンプルな格好でもイケメンがしてるだけで、ファッション誌のグラビアみたい。
無造作に跳ねてる毛先すらお洒落だ。
もしかしたら軽くパーマかけてるのかも?
本物のモデルさん?

「ここの前でじっとしてるから待ち合わせしてるのかと思って見てたら。中に入らないで帰ろうとするじゃん。だから、つい」

“だから、つい”の“だから”の意味が分からない。
“つい”で抱きつかれるのも困る。
耳に心地よいハスキーボイスでワイルドな男の色気漂うモデル系イケメンだからって許されるわけではないと知ってほしい。
でも言えない。

「チケットあるか? オレと一緒に入れるけど」

イケメンがデニムの後ろポケットから取り出したのは僕が持ってきたカードと同じもの。
やっぱり、あれがチケットだったんだ。
スマホのケースに挟んでおいたものを僕も取り出す。
一人で入るのが怖かったのは事実だし。
痴漢なことを置いておけば、このイケメンは悪い人じゃなさそう。
圭介さんが見つかるまでは一緒にいてもらえないかな。
そんな期待をこめて、紫のカードをイケメンに渡す。
イケメンは僕の持ってきたカードを見て口笛を吹いた。

「マジモンのVIPじゃん。やべぇ。とりあえずオレについてこい」

VIPってなんだろう?
よく分からないまま腰に手を回されて階段を降りていく。
あれ? ついこの間も、こんな感じでエスコートされた気がするけど。気のせい?
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