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くらげ

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バレンタインぱーりーぴーぽー3

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寂しさを抱えて。ひとりで飲む気分にもなれず。
時間をもてあましていたところに。
高校の時の友達から久しぶりに集まらないかと誘われた。

僕は中高と野球部でその時の仲間は定期的に集まってた。
最近は圭介さんとのデートを優先してたから参加していなかったけど。
久しぶりに彼にも会いたい。

僕の青春を捧げてもいいと思うぐらいに大好きだった彼に会うのは、いつ以来かな。
就活の報告で社会人野球に進むと聞いてから。
なんだかんだとタイミングが合わなくて会ってない。

彼は高校生の頃からずっと同じ女の子と付き合ってたから。
みんなで集まると絶対にその話になる。
前はそれを聞くと胸が痛んだけど。
今なら彼の惚気話も普通に聞くことが出来そう。
僕にも恋人が出来た余裕なのだろう。

そう思って参加した飲み会で、僕が大好きだったエースピッチャーは乾杯の音頭でこう言った。

「俺、結婚しまーす」

飲み会始まって早々の爆弾発言に固まってしまう。
「いきなり何を言うんだ」「乾杯は普通にやってその後で結婚の報告だろう」などと皆から小突き回されている。
みんな笑顔だし、おめでとうって何度も乾杯してるし大丈夫だろう。
彼は少し天然なところがあるから、こういう突拍子もないことを昔からよくしていた。
それが許される愛されキャラだから、たぶん問題ない。

みんなから一通りお祝いの言葉を掛けられて落ち着いた頃に、僕も本日の主役に話しかけにむかう。

「結婚おめでとう」
「いえーい。ありがとう」

既に何杯も飲まされて顔が真っ赤。体もフラフラと揺れてるし。
飲むペースが早すぎるよ。
すみません。お冷ください。

「水飲みなよ。酒を飲むにしても、もっとゆっくり飲まなきゃ体に悪いよ」

君は体が資本なんだろ。なら、無理な飲み方は控えないと。
もう座ることすら出来なくて僕の膝を枕に寝転がってるけど。
これ寝るフラグだよね。寝たら置いてくよ。

「さっちゃんが叱ってくれたから俺野球続けられた。本当にありがとう」

いきなり何を言うんだ?
大学卒業後も、社会人野球で活躍しているのは君自身の努力の結果だ。
僕は遠くから応援しかしていない。

「高校の最後の試合の後。負けたのが悔しくて肩冷やさないでいた俺のこと怒ってくれたじゃん。プロに行くんだろって」

それは、もうずっと昔のこと。

「目の前の負けひとつでへこたれてる場合じゃないってあの時思った。目が覚めた」
「そういえばそんなこともあったね」

夏の甲子園を目指して戦った僕達は県大会の決勝で敗れた。
彼は背番号1番を背負うエースピッチャー。
僕は記録員としてベンチに入れてもらえた。
グラウンドには立てなくても一緒に戦った大切な、でも思い出すと胸が苦しくなる思い出。

「俺、あの時負けて良かったって今なら思えるんだ。春の甲子園でメディアにチヤホヤされること覚えて、ぶっちゃけ調子にのってたから」

あの頃はテレビや新聞、雑誌の取材も何度か受けていた。
高校野球を特集する雑誌に大きく写真も掲載されて。それを見た女の子からファンレターも届いたりして。
調子にのらない方が無理だよ。

夏の県大会はテレビの密着取材まであったし。
ブルペンキャッチャーをしていた僕もなぜか撮られた。
映すならエースの活躍。春の甲子園本塁打数記録保持者の4番打者。縁の下の力持ちなキャプテン。そしてレギュラー陣やベンチ入りメンバー。あとは監督とかそういう人じゃない?
それなのに秋に放映されたドキュメンタリー番組はエンディングに僕を映していた。
あの大会で僕はただの記録員なのに。変な番組だった。

「あの頃の僕達は若くて調子に乗るのが普通だよ」
「待って。俺は今でも若いつもりだ」
「うん。僕達はまだ若い。でももう大人だよ。それこそ結婚出来るくらいの大人」

自分で言って納得する。そっか。本当に結婚するのか。
聞こえてきた話ではすでに彼女は妊娠していて、おめでた婚らしい。
式をあげるかは花嫁さんの体調次第だけど、出来たら式も二次会もやりたいって。
その時は僕も呼んでね。たくさんお祝いさせて。

「若さだけじゃダメなのかぁ」
「そうだよ。こんなグズグズになるまで飲んで。もうすぐパパになるなら酒の飲み方も覚えないと」

飲むなら加減をしろと叱っているうちに、彼は僕の膝を枕にして寝てしまった。
仕方のない人。

本日の主役が寝たあとは近況報告をみんなとした。
色んな形で野球を続けてる人もいる。
僕のようにやめた人もいる。
それが高校を卒業して6年も経っているんだと実感させてくれた。

僕も今日で失恋の一区切りが付けたと膝に乗る頭を撫でていたら。
よく寝たと大きな伸びをして大きな身体の彼が起きてきた。
復活した本日の主役はそのあとも浴びるように酒を飲んでいるけど。
僕はもう世話しないよ。飲ませている人達でなんとかしてね。
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