5 / 8
05
しおりを挟む
***
「おい、りつか、りつか起きろ!」
「ん……なに?」
窓の外は朝焼けの頃、まだ朝は訪れたばかりだった。今日の美大の授業はお昼からで、まだ寝ていられるはずだった。
「いない、母さんが」
「は?」
今年、僕は二十歳になった。青月は十三歳の中学一年生。背ばっかりが高くって背中から見たらどちらが兄かなんてわからない。
「仕事じゃないの?」
「玄関に通帳が放ってある」
「え……」
通帳には暗証番号のメモがあった。しかし、残高は数万円。母の貴重品類は部屋からなくなっている、散らかっているわけではないから荷物をまとめて出て行ったのか……。
捨てられた。
僕ら兄弟はかつての父親だけでなく、今日母親にすら捨てられたのだ。
***
「りつか」
「青くん、ご飯食べてて……大丈夫だから」
「気持ち悪いのか?」
「ちょっと、眩暈がひどくて、起き上がれないなあ……」
休日になると、動けない。
あれから三年、僕は美術大学を中退して近所の工場で働いている。
「なあ、病院行ったほうがいいんじゃないの」
「疲れが溜まってるだけだよ、月曜日になればまた働けるし」
「だって」
「それより青くん、課題やってしまいなよ」
青月は僕の後を追うように絵を描くようになっていた。今は家からは少し遠い、美術科のある高校に通っている。
「課題とかどうでもいいんだよ!」
「もう、そんなこと言って……賞とったんでしょ? ポスターを描いてって仕事の話も来てるじゃないの」
十六歳にして青月は僕の憧れた道へと歩んでいた。その絵の才能は稀有なもの、僕が欲しくても手の届かなかったところにいる。羨ましい、その言葉すら届かない。嫉妬をしていないといえば嘘になる。だけど、それは青月がもって生まれたものだったから。
「おい、りつか、りつか起きろ!」
「ん……なに?」
窓の外は朝焼けの頃、まだ朝は訪れたばかりだった。今日の美大の授業はお昼からで、まだ寝ていられるはずだった。
「いない、母さんが」
「は?」
今年、僕は二十歳になった。青月は十三歳の中学一年生。背ばっかりが高くって背中から見たらどちらが兄かなんてわからない。
「仕事じゃないの?」
「玄関に通帳が放ってある」
「え……」
通帳には暗証番号のメモがあった。しかし、残高は数万円。母の貴重品類は部屋からなくなっている、散らかっているわけではないから荷物をまとめて出て行ったのか……。
捨てられた。
僕ら兄弟はかつての父親だけでなく、今日母親にすら捨てられたのだ。
***
「りつか」
「青くん、ご飯食べてて……大丈夫だから」
「気持ち悪いのか?」
「ちょっと、眩暈がひどくて、起き上がれないなあ……」
休日になると、動けない。
あれから三年、僕は美術大学を中退して近所の工場で働いている。
「なあ、病院行ったほうがいいんじゃないの」
「疲れが溜まってるだけだよ、月曜日になればまた働けるし」
「だって」
「それより青くん、課題やってしまいなよ」
青月は僕の後を追うように絵を描くようになっていた。今は家からは少し遠い、美術科のある高校に通っている。
「課題とかどうでもいいんだよ!」
「もう、そんなこと言って……賞とったんでしょ? ポスターを描いてって仕事の話も来てるじゃないの」
十六歳にして青月は僕の憧れた道へと歩んでいた。その絵の才能は稀有なもの、僕が欲しくても手の届かなかったところにいる。羨ましい、その言葉すら届かない。嫉妬をしていないといえば嘘になる。だけど、それは青月がもって生まれたものだったから。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】我が兄は生徒会長である!
tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。
名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。
そんな彼には「推し」がいる。
それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。
実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。
終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。
本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。
(番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)
兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜
紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。
ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。
そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?
ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
寂しいを分け与えた
こじらせた処女
BL
いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる