群青の三日月

雨水林檎

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***

「飯食わねーの、律架」
「うう、食欲ないよ……奈津代わりに食べて、お弁当」
「なにこれ、今日やけに可愛くねえ?」
「弟の遠足の弁当の残り。頑張ったんだよ、早起きして」
「わ、玉子焼き甘いのな」
「青が好きなのー……」

 昼休み、友人の奈津(なづ)に代わりに弁当を食べてもらって僕はひたすら机に突っ伏して休息を。

「何時まで起きてたの?」
「三時……スケッチブックの紙がなくなっちゃったからあきらめて寝たんだけど。お弁当は五時に起きて作った」
「マジかー、お前体力ないのによくやるよな」
「遠足のお弁当くらい作れるならさ。僕はそういうのとは無縁な子供だったからね……」

***

「律架、ゆっくりで良いよ。体重かけて良いから」
「ご、ごめん……目の前が暗くて……」

 その日の午後の授業はマラソンだった。おとなしく見学するのもズルだとか言われそうで、無理して走ったら十分も経たないうちに倒れた。体操着は土埃だらけのまま、僕は保健室に連れて行かれて授業は終わる。帰りは奈津が送ってくれると言って僕の肩を抱きながら。

「あっ」
「あ……青じゃん」

 学校から歩いて二十分。築五十年の木造アパートの入り口では、ちょうど帰ってきたばかりの青月がいる。青月は奈津を見た途端睨みつける。

「奈津、なにしにきたんだよ!」
「なんだお前、あいっかわらず可愛くねえのなー。兄ちゃん送って来ただけだよ」
「お兄ちゃんに触るな!」
「離したら倒れるんだよ! ほら、家の鍵開けろ」
「知らない人は入れちゃいけませんって、学校で習ったぞ」
「馬鹿、知ってんだろ。律架寝かせるんだよ、俺は入らねーから!」

 しぶしぶ家の鍵を開けた青月、僕は玄関で降ろされた。荷物を隣に、奈津は青月と睨み合い、ため息をついて家を出る。

「奈津、ありがとね。また明日」
「……ああ、今夜は無理しないで早く寝ろよな」
「もう来るなよ、奈津!」
「うるさいガキ!」

 騒がしいのは帰る間際、しばらくして奈津が帰宅すると青月は布団に横になった僕の枕元に座って少し悲しげな顔をして見ていた。

「お兄ちゃん、昨日は夜遅かったの? ……お弁当のせい?」
「はは、違うよ。ただ眠れなかったんだ、お弁当美味しかった?」
「うん、玉子焼きね、甘かった!」
「青くんは甘いものが好きだもんね、今晩は早く寝るんだよ」
「隣で寝ても良い?」

 可愛い弟だった、僕らが初めて出会ってからもう六年が経とうとしていた。青月はもうあの日を覚えていないだろう。
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