62 / 160
絢爛!思いの丈!
電子ロック
しおりを挟む「だから謝んなって!でもよくやってると思うよ?まだ中学生なのに」
「心配しないでって!いいじゃん秘密って」
「アンバー···ニオン?だっけ本名?」
「ゴッッ!本人登場だったかぁ···!」
「?」
『おかげでマルカとも仲直りできたしね?』
「!」
クラスメート達が宇留を激励する中、ある“女子„の言葉を聞いてやや下を向いて恥ずかしそうに微笑む磨瑠香と宇留。そしてその時、イサヤの肩がビクンと震える。
「ヨッ!」
「フヒュ、フィーヒョフォヒヒュ~!」
ワハハ···!
夢令の喝采に合わせ、わざと?指笛をミスる宿里。それだけで場が和み、笑いが起きる。
今の!空気乃さんの声だ···!
イサヤは口に手を当て、瞳を潤ませながら教室を見渡す。
因みに空気乃 姫菜とは、2ーB幻のクラスメートの一人であり、オカルトが苦手なイサヤにとって唯一のお化けの友人という事になっている。
「はーい!」
照臣が手を上げる。いきなりの事で面を食らったマユミコ委員長は、恐る恐る照臣を指名する。照臣は前髪を片手でかき上げ、目を細めてマユミコ委員長を見つめていた。
「や、ヤマイシクン?!···ど、どーぞ」
「ハイ!皆さんありがとうございます!続きまして!我々、教師候補生クラスから···」
「ワハハハハ!」
何故か爆笑する夢令と他数名。
「何でソコで笑うの?!」
「wwwイヤ!なんでもナイ!続けて?」
「もう!···じゃ!気を!気をとり直して!教師候補生クラスからご報告があります」
「フ···フフフフ···!」
「ふぇー?山石くん!謎の教師候補生クラスだったの?!」
「ぬーん!ますます怪しい···」
最と磨瑠香は照臣を疑った。
「あの日、学園を襲撃したテヘペロリストの魔術師なんですが、あの後!我々教師候補生達の手によって既に撃退済みであるという事をここでご報告させて頂きます!」
「えー!嘘!」「マジで?」
「みんなで正当防衛にしておいたから、多分もう来ようなんて思わないと思うよ?あー!あと!」
照臣は机の中から厚めの書類ケースを取り出し、全員にプリントを配り始めた。
「我々や関係カクホーメン、その他と連携シテイるアンバーニオン軍に入るにワ、この規約を読んディご署名下さい!それが済み次第!クラスのグループチャットとはまた別の専用アドレスを直接個人個人に送っちゃいマ!」
「?」
プリントには、絶対ではありません。日常生活を優先する。秘密を守るには。等の項目が並んでいる。
「ふぇ?」
臨時学級会のリードをいきなり持っていかれたマユミコ委員長は、少し困ってしまった。
「なんか用意良くね?!」
「さすが教師候補生!中学生とは思えない事務的口調!」
「でも棒読みだし、カンペとかあるんじゃないの?」
「ギク!」
クラスメート達の追及に驚く照臣。実際、彼のコンタクトレンズ型端末には、予め誰かに考えてもらっていたマニュアルが表示されていた。
「そして更に今なら!この!、I県産琥珀ストラップもプレゼントイタシマス!」
「うおおー!」
「ヤッター!」
『あ!アレ!ナツユキのトコで貰えるヤツだ!』
「~!」
益々テレビショッピング口調になっていく照臣のプレゼンに、主に女子達から歓声が上がる。その歓声の中に再びヒメナの声を確認したイサヤは、半泣きの笑顔で周囲を見渡した。
やっぱり空気乃さんも今居るんだ!
照臣は再び詳細の説明を続けながら視線を泳がす。
そして教室の液晶ディスプレイの上で、ウェブカメラに成りすましているダークグレーのクラゲ型ビットに一瞬ウィンクを送った。
「!」
それと同時に教室の前扉がいきなり開く。
「「「!」」」
「ア!···ゲ···ア···アラワルくん!?」
「おはようございます」
「!」
驚く宇留やクラスメート達をよそに、黒い私服を着た現が入って来た。
いきなりの事で誰も今放課後だと指摘出来ないでいる。そのまま現はマユミコ委員長に目を合わせる事もしないままラーヤの机へと歩み寄った。そして現は、最と宿里がグッと身を竦める目線の先、ラーヤの机の前でしゃがみ込んで彼女を見上げる。
「!」
ラーヤは、現の顔にかつてあった傷痕が無いに事に気付いた。それと同時に現が口を開く。
「黄渡星さん、この前はびっくりさせちゃったみたいでゴメン!···あの怪獣、俺の“ペット„でリゲルナイドって言うんだ。避難しろって言われたから迎えに来て貰ったんだけど、避難所の人がびっくりしたから加減しろ!って怒られちゃったよ?ゴメンね?本当に···」
「······」
優しい笑顔で微笑む現にポカンとした表情を返すラーヤ。そしてそれはここに居るメンバー全員も同様だった。
「へ、ヘェ?···件の怪獣は月井度のペットだったのかあ?···セレブなんだな~~~?って、オイ!ソンナコトッテアルカイッ!」
「···!」
やっと夢令が絞り出したツッコミを合図に立ち上がる現。そしてまたもやマユミコ委員長に視線を向けないまま、今度は宇留の元へと近付いていく。
そんな現を見つめるマユミコ委員長の眼が切な気に細まる。
それを見た磨瑠香はその理由を察した。引き続きポカンと開いていた口が更にあんぐりと開く。
宇留は立ち上がり、現を出迎える。現の真剣な雰囲気に背筋が強ばった。
「?!」
以前ヌシサマの祠で会った時よりも、僅かだが明らかに身長が伸びている。そんな現は若干宇留を見下ろすように視線を向けて告げた。
「須舞 宇留、ちょっと来てくれ···」
少年らしくない、やや大人びた口調で宇留を誘った現は教室を出て行こうとする。
「!···」
宇留も現の後を追おうと椅子を机の下に戻す。そして教室を去ろうという現は、まだマユミコ委員長を始めクラスメート達に視線を合わせなかった。
「月井度くん!」
マユミコ委員長に呼ばれてようやく足を止める現。
振り返った現は薄い笑みを湛えていた。
「今日は、委員長に···呼ばれたから···」
連絡用の電子黒板に書かれた現の名前の上に重なった二重線だけがいつの間にか綺麗に消えている。そして消えているのは、現のトレードマークでもあった顔の傷痕も同じだった。
以前とは俄然印象の異なる整った笑顔がマユミコ委員長の心を射貫く。だがその笑顔は疑うような表情に変わり、その表情のまま現は委員長の側まで戻った。
現はマユミコ委員長の後頭部に片手を回し、一瞬の内に髪を束ねていたヘアゴムを外して髪をクシャクシャにする。
何かを覚悟して、瞳を閉じグッと堪えるマユミコ委員長と、呆然とするクラスメート達。
「マユミコ、やっぱりこっちの方がかわいい···」
「!?!?!?!······」
眼を開け、梅干しのように真っ赤になるマユミコ委員長。
···
「ええええええええええええええええええ!?」
ようやく二人の雰囲気を察した全員から歓声や驚愕の声が上がる。
「!、じゃ、じゃあ行くぞ!」
「う、うん!」
現が先に教室を出て、宇留が扉を閉めて後に続いた。
「···あ!ちょ待てぃ!主役が居なくてドウスンだよ!」
夢令が宇留の行き先を案じる。
「大丈夫大丈夫!それよりみんなハヤク、書類のホウ、お願い、しますヨ?皆さんも序盤の方、すいませんでしたね?」
「序盤って何の話!?」
相変わらず棒読みの照臣に五雄がツッコむ。
一方、教壇に立って赤面フリーズし続けているマユミコ委員長を、ラーヤはジッと見つめている。
「マィ!」「ガアッ!」
それを見た最と宿里は互いの顔を見合った。そしてお互いに絶望的な表情をキャッチボールする。
最と宿里の気持ちを知らないラーヤの横顔には、明らかに恋の闘志が燃えていた。
「···ま、委員ー長、月井度くんの本命は須舞くんみたいだよねー?ザンネーン?」
「ーー!」
磨瑠香の首が超高速でラーヤに向く。
「え?え~~?そ、そ、そんな事、無いんじゃなくて?オホッ!」
「オホホッ!」
「「オホホホホホホホホ!!」」
ドゴゴゴゴゴゴゴ···!
小指を立てた平手を口元に持って来て高笑いするマユミコ委員長とラーヤ。
「「「「ヒ!ヒィィィ!」」」」
新たなライバル同士の誕生と共に、偶然発生した微震の地鳴りは新生琥珀王軍達の平常心を脅かし、全員による引き笑いが教室を満たしたのであった。
「ゲル···現くーん!屋上は電子ロック掛かってて行けないよ?」
「···」
現は宇留の言葉に耳を貸すでも無く屋上に続く階段を登りつめ、屋上へ出る扉のドアノブを掴む。そして宇留は目を疑った。
カチャコチャという音の後、電子ロックがさも当たり前のように開き、ピーという電子音と共に扉が開く。
現は鍵やカードを使用せず、ナンバーロックも操作していない。
「嘘!、どうやったの?」
驚いて小走りに階段を駆け上がり、先に屋上に出た現に追い付こうとする宇留。
「!!」
しかしその視線の先には、半透明な黒い装甲に身を包んだ三本アンテナの怪人が背を向けて立っていた。
「な!」
「俺の名は、ゲルナイド·ノイズ·アラワル···」
「ア!アラワルくんなの?!」
「···須舞 宇留。頼みがある。アンバーニオンを喚んで、俺に付いて来てくれ?話はそれからだ!」
「!」
宇留にそう告げるNOI Zの周囲に、無数の黒いクラゲ型ビットが集結を始めた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる