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エピソード3
貸与術師と小さな旧友
しおりを挟む落下する最中、俺は周囲の光景が遅くなっていく錯覚を味わっている。するとその時、俺は反射的に右腕を鎌鼬の鉤付きロープに貸与した。思い切りよく右手を振るい、ロープを上へ上へと伸ばす。
しかし当てずっぽうな上、片目しか見えていないので先端の鉤は何に引っかかることもなく、伸びきった後は俺の二の舞を演じるしかできない。
「くそっ…!」
ついそんな言葉を息とともに漏らす。だが、覚悟を決める前に鉤の先が何かを捕まえた感触を伝えてきた。そしてそれと同時に俺を力強く呼ぶ声が耳に届く。
「ヲルカァァッ!」
限られた視線の先を見れば、先ほど目の端で捉えた青白く光る光球が突如横から現れては俺の右手の鉤を掴み、必死に支えてくれていたのだ。横殴りの勢いと自分の渾身の力でと引っ張ってくれていることは分かったが、大きさを考えると長くは持ちそうにない。
しかも、俺の体はその青白い光球を支点にして振り子運動を始め出した。中々な高度があったせいで生み出されるスピードもそこそこある。
俺は、
「にぃぃいぃぃぃいいいぃいいぃぃ!!」
という情けない声を出しながら、命がけのターザン・スイングを強制させられた。
ただ幸いな事に、その風圧のおかげで俺の視界を遮っていたムササビのような生き物が、どんどんと剥がれていき視界を取り戻すことができた。が、俺を支えてくれている光球もいい加減に限界のはず。振り子の到達点まで行き速度が一瞬だけゼロになったタイミングを見計らって、俺は右腕を一旦、元に戻して光球を解放する。
このままでは再び落下するだけだが、今回はキチンと狙いを定めて鎌鼬の鉤付きロープを伸ばす猶予を一瞬だけ与えられている。俺は自分の斜め上にあった建物の外壁に取りつけられた看板の留め具部分に狙いをつけると、一心不乱にロープを発射した。
鉤が看板の留め具に触った感触を得た瞬間、俺はロープの先端を金槌坊の金槌に貸与し、さらに雷獣の電流を流すことで即席の電磁石を作った。ガチンッという心強い音と共に、固定されている物に掴まっているという確かな安心感を得た。最後の仕上げに先端を基軸にして、ロープ化している腕を元に戻すと、俺の体は看板の留め具にゴムのように引き寄せられた。
俺はコアラように、看板の留め具に抱き着いている。この時に限っては、看板の留め具に親父の背中よりも頼りがいを感じていた。
ハアハアという自分の息遣いしか耳に入ってこない。
それを最初に破ったのは、懐かしい友人の声だった。
「なんとかなったな」
「やっぱりお前だったか…フェリゴ」
そこには、学生時代に一番仲の良かった男友達であるフェリゴ・フルーリーの姿があった。青白い光はコイツの羽が羽ばたくときに出るものだ。こんなところに居るはずないと思い込んでいて、確信は持てなかったが。
コイツはコイツで相変わらずマイペースさを崩さない挨拶を飛ばしてきた。あんな事があった直後だってのに。
「よう。久しぶり」
「久しぶり…まあいろいろ聞きたい事はあるけど、まずはあいつらを片付けてからな」
「おう」
学校を卒業してからは一度もあっていなかったが、耳聡いフェリゴの事だから卒業後の俺の経歴などはとっくに知っているだろう。ウィアードと戦う旨を伝えても、疑問や動揺を見せないのがいい証拠。ハナっから全部知っているんだ。
とは言え、ウィアードの情報そのものは当然ながら把握できていないから、現状を確認してきた。
「で、つまりはどういう状況なんだ?」
「ミグ地区に出るウィアードの調査に来た。で、噂を聞いて五種類に絞ったんだけど予想したウィアードが全部いた」
「ワオ」
数も厄介だが、それよりもマズい問題もある。一瞬だけフェリゴに打ち明けてしまっていいものかと自問したが、今は緊急事態だと自分で自分を戒めた。まあ仮説だし、この場合は仕方がないだろう。
「しかもただ集まってるだけじゃなくて統率されているっぽい。リーダーをやってるのは、おそらくは『野鉄砲』ってウィアードだ」
「ノデッポウ? どいつだ?」
「俺を屋根から突き落とした奴だ。今は『ナゴルデム団』のナグワーが戦っている」
俺は指さして場所を教えた。少し距離があったが、遮蔽物が何もないので様子は分かる。一刻も早くナグワーを助けに行かないと…!
「おおぅ」
「どうした?」
「ヲルカが『ナゴルデム団』の戦乙女を呼び捨てにしてる…」
「茶化すなよ。事情があるんだから」
「ま、今はいいさ。肝心なのはこれからどうするかだ」
「ウィアードに対抗できるのは俺だけだ。だから何とか俺のところに全員が集められれば…」
「それならオレに任せておきな。あの空中でドンパチやってる三人を戦乙女のところにつれていけばいいんだろ?」
「頼めるのか?」
「あったりまえだろ、親友」
その言葉をきっかけに俺とフェリゴは分かれて行動を開始した。俺は再び腕をロープにすると、さながらレンジャー部隊のようにスルスルと下に降り始めた。さっきのターザンスイングに比べれば遊びの様なもの。ひょっとしたら俺の恐怖感覚は狂ってしまったのかも知れない。
ようやく思いで俺は地面に降り立つ。こんなにも地面が恋しくなる事など、生涯ではもう二度と訪れないでほしい。
俺は一瞬の安堵も束の間、すぐに両手から千疋狼を繰り出して街道ヘと放った。突如現れた無数の狼たちに、ヱデンキアの人々は慌てふためき逃げ出す。おかげでナグワーの下に一直線で駆けつけられる。
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