貸与術師と仕組まれたハーレムギルド ~モンスター娘たちのギルドマスターになりました~

音喜多子平

文字の大きさ
10 / 86
エピソード1

貸与術師と明確な悪意

しおりを挟む

「…はあ」
「どうしたの?」

 卒業セレモニーと、その後に催されたクラス会が終わり、俺とヤーリンは最後の下校のため通学路を歩いている。クラス会は中々の盛り上がりを見せ、ヤーリンも楽しそうにしていたので、突然のため息に驚いてしまう。

 俺がため息の理由を尋ねると、ヤーリンは哀愁に満ちた瞳を向けてきた。卒業式の後の最後の下校というノスタルジックさも相まって、物憂げなその表情は蠱惑的な魅力になっている。彼女自身が相当な美人なのも尚更際立った。俺はついつい見惚れてしまう。

 夕日に照らされた顔、潤んだ瞳、何か言いよどんでいる唇。煽情的な感覚を俺は詩的にして何とか誤魔化すことを試みた。

 そんな俺の顔は彼女にどう映ったのか。とにかくヤーリンは自分の心情を吐露してきた。

「本当にヲルカと離れ離れになっちゃうんだなぁ、って思ってさ」
「…そうだね」
「寂しい?」
「うん」

 そりゃ寂しいに決まっている。学校生活だけじゃなく、生まれてからずっと一緒にいたんだ。内心では家族のように思っている。

それが別々の道を進むとなったら、寂しさとか、不安とか、色々な感情が湧き出てきてしまう。

 だけど…。

「だけど?」
「怒らない?」

 何となく怖くなったので、ヤーリンにそう聞いた。尤もこのくらいの事で怒りはしないと、俺が一番よく知っている。

「怒らないから言って」

 ヤーリンは蛇の下半身の動きを止めた。俺は足を止めるタイミングが少し遅れ、半歩だけ彼女を追い越してしまった。

 少しだけ振り向いて改めてヤーリンの顔を見た。いつものように優しく微笑んでいるが、目には真剣な何かが宿っているようにキッと俺を見据えていた。

 だがら、俺も素直に自分の本音をヤーリンに伝える。

「ワクワクもしてる」
「…」
「今までは自分のやりたい事も分からないし、ギルドのことだって興味がなかった。けどようやくみんなと同じスタートラインに立てた気がするんだ。いや、違うな。やっとヤーリンに追いついたんだって思ってる。やりたい事があるっていいもんだね」
「そっか」

 すると、さっきまでの愁いを帯びた雰囲気が嘘のように、ヤーリンは微笑みを通り越してニカっとした笑顔になった。

「実は私もなんだ」
「ヤーリンも?」
「うん。ワクワクしてる、自分でもびっくりするくらい。だから多分、ヲルカと離れちゃっても大丈夫。寂しいって思う隙間がないと思う」

 自分で言っておいて恥ずかしいけれど、今度は俺が淋しくなってしまった。ヤーリンは俺がいなくとも頑張れる…結婚式の父親の心境だ。まあ、そんな経験ないから憶測だけど。

「それにもう会えないって訳じゃないしね」
「当たり前だろ」
「ね、お休みの日とか会ってくれる?」
「勿論」

 俺達はそう言ってまた二人で肩を並べて歩き始めた。つい小学校低学年の頃が懐かしくなってしまって、思い切って手を繋いでみようと思った。途端に右腕に変な力が入り、手の平から汗が出るのがわかった。

 どうしよう、やっぱやめておこうかな。

 なんて、俺達は青春の一ページを謳歌しようとしてた。

 その時。 通学路を行く俺達の背後から、明らかな敵意を持った魔法が飛んできた。影の槍のような形をしたその攻撃魔法は、放たれた時の気配がおざなりだったので、すぐに気が付けた。俺とヤーリンは手早く、簡単な妨害用の青魔法を使って軌道を逸らす。

 影の槍はてんで的外れの場所に当たって砕け散ったが、その威力は悪戯や揶揄うというレベルを超えていた。

 この魔法は俺もヤーリンも見覚えがある。だから、これを放った奴の顔を見ずとも名前を読んで真意を聞くことができた。

「なんのつもりだ、タックス」
「気安く名前で呼ぶな」

 傾きかけた日を背負うようにタックスが立っていた。逆光でよく見えなかったが、とてつもない形相で俺達を睨みつけているというのは雰囲気だけで察する。必ず取り巻きの誰かと一緒いるコイツが初めて一人でいるところを見た気がするし、そして何より驚きだったのが、俺だけでなくヤーリンに対しても魔法を放ったという事実だった。

 タックスは有無を言わさず再び影の槍を俺達に目掛けて放ってくる。だが、後ろから狙われた状態でも訳なく阻害できたのだ。面と向かっている今なら、更に容易に防御できる。

 魔法がこっちにはかすりもしない。逆上しているせいで、どんどんと粗削りになっていくから尚更だった。俺は隙をついて影の槍を生み出す魔法式そのものを一時的に使用不可にした。

 他にもタックスには攻撃用の魔法があるはずだが、これが一番の高威力であるはずだし、そもそも魔力も大方使い切っているだろう。

案の定、肩で息をしながら片膝をつくくらいにまで疲弊しきっていた。

「くそおお。なんでお前らに勝てないんだっ!」

 鼬の最後っ屁のように、タックスは手に持っていた鞄を力いっぱい投げつけてくる。俺はヤーリン庇うように前に出るとそれを払いのけて防ぐ。

 そこでようやくタックスの顔が見えた。全体的に焦燥しているのに、睨みつけてくる眼だけがギラギラとした怒気を孕んでいる。そのアンバランスさが怖かった。

 タックスは蚊の鳴くような声で俺に向かって言葉を吐いた。そんなに小さい声なのに、耳にはどんな騒音よりも不快に響く。

「僕が直接手を下さなくとも、お前の没落は目に見えてる」

 俺はヤーリンの手を繋ぐと、すぐにここから立ち去ろうとする。ヤーリンに見せたくもないし、それ以上に俺が耐えられる自身がなかった。

「行こう、ヤーリン」

 タックスはその場から動かない。それなのに、あいつの声だけはどこまでも粘り憑いてくるようだった。

「ギルド同士が本当に休戦協定を結ぶなんてありえない。まして垣根を越えて新しい組織を作るなんて夢物語だ。お前の行く道は行き止まりだ。そうなったとしても、もうどのギルドにもお前の居場所は残ってはいない。ざまあみろ」
「…」
 
 じっちゃんの影響で少なくない怪奇譚や怪談を収集していた。その中で時々、気分が悪くなるほどの話に行きつく事もあった。

 それは、決まって怨みの話。

 創作などではない怨嗟を綴った物語は、文字を通してでも読み手に毒をまき散らす。ただの文章ですら、人を害する何かを得ると言うのに、今まさに俺の背中には生きた怨みが一切の躊躇いなく注がれていた。

 時間が経てば経つほど、背中に嫌な汗が滲みでてくるのが分かった。

 ようやく、俺とヤーリンは視線を妨げるように道の角を曲がる。その時に、怖いもの見たさに抗う事が出来ず、俺はついタックスのいる方に目を向けてしまった。

 だが。最早そこには、誰もいなかった。
 
 人っ子一人いない黄昏の裏通りは、俺に余計な想像力を与えてくる。ぞくりとした馬鹿げた妄想を掻き消すために、俺は無意識にヤーリンと繋いだ手に力を入れていた。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった

仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

勇者召喚の余り物ですが、メイド型アンドロイド軍団で冒険者始めます

水江タカシ
ファンタジー
28歳独身、一般事務の会社員である俺は、勇者召喚に巻き込まれて異世界へと転移した。 勇者、聖女、剣聖―― 華やかな肩書きを持つ者たちがもてはやされる中、俺に与えられたのは聞いたこともないスキルだった。 【戦術構築サポートAI】 【アンドロイド工廠】 【兵器保管庫】 【兵站生成モジュール】 【拠点構築システム】 【個体強化カスタマイズ】 王は落胆し、貴族は嘲笑い、俺は“役立たず”として王都から追放される。 だが―― この世界には存在しないはずの“機械兵器”を、俺は召喚できた。 最初に召喚したのは、クールな軍人タイプのメイド型戦闘アンドロイド。 識別番号で呼ばれる彼女に、俺は名前を与えた。 「今日からお前はレイナだ」 これは、勇者ではない男が、 メイド型アンドロイド軍団と共に冒険者として成り上がっていく物語。 屋敷を手に入れ、土地を拠点化し、戦力を増強しながら、 趣味全開で異世界を生きていく。 魔王とはいずれ戦うことになるだろう。 だが今は―― まずは冒険者登録からだ。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

処理中です...