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タイムリープ編(完結編)
181 タイムリープを求めて
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神界での活動が増えるにつれ、俺の失った記憶の影響が表に出てくるようになった。
現状は友好的なグループとの付き合いなので問題という程でもないが、今後は不味いかもしれない。出来るなら早いうちに記憶を戻しておきたいものだ。
それで、以前考えた記憶を取り戻す方法を再検討することにした。
例のタイムリープを使う方法だ。自分がタイムリープして過去の記憶にインデックスを張れば、確実に回収することが出来る。
ただ、簡単ではない。
タイムリープを実現するにあたり、問題となる点は次の三つだ。
・過去の自分の時間を占有してしまう
・目的遂行に必要な記憶を特定できない
・記憶を過去に送る方法がない
最初の問題、「過去の時間の占有」はちょっと怖い。
自分の記憶が混乱してしまうかもしれないからだ。自分の過去を直接改変することになるので、どんな影響が出るのか予想できない。だが、短時間であれば問題ないかもしれない。
第二の「目的遂行に必要な記憶」の特定は重要だ。
タイムリープしたあと何をすべきか忘れてしまったら意味がないし、やることが分かっても何故やるのか理由付けも必要だろう。
だが、どうやって記憶を特定すればいいのか全く分からない。
そして、第三の問題「記憶を過去に送る方法」。
もちろん過去へ送る方法としてはメッセージ誘導があるのだが、送った記憶を頭の中のどこに保存すればいいのか分からない。記憶を上書きするのは危険だと思う。最悪、記憶喪失になりかねない。
まぁ、これだけ問題があれば普通なら諦めるところだ。
女神カリスも無理だと言っていた。でも、記憶を取り戻すには、これしか方法がないのだ。
俺は諦めきれず、つらつらと考えを巡らしていた。
最初の問題は、占有時間を極限的に短縮することで何とか出来るかもしれない。
過去へ送る方法は、やはりメッセージ誘導を限界まで使うしかないだろう。意識表面に入りきるだけの記憶でなんとかするしかない。短時間の活動に必要な記憶なら小さくて済むかもしれない。記憶の圧縮も検討すべきか?
ただ、いくら考えても必要な記憶の特定が出来ない限り、解決しそうもない。もう、これは俺が手を出せる領域を超えてるんだと思った。
ぽっ
「面白いですね」
いきなり、女神カリスが執務室に登場してきた。
「意識表面に、必要な記憶を詰め込むんですか!」
「神力リンクで見てたんですか!」
「ちょっと、面白そうでしたので」女神カリスは、ちょっと恥ずかしそうに言った。
「記憶を圧縮するとか、無謀でしょうか?」
「そうですね。圧縮はともかく、使っていない領域に詰め込むことは出来るかも知れません」ちょっと難しそうな顔で思案する女神カリス。
「使ってない領域ですか?」
「はい。意識表面には多少余裕があります。それと、いろんな記憶を読みだすために用意された領域が多めにありますので、ここに埋め込めると思います」
「本当ですか! いきなり現実的になってきた」
「ちょっと検討してみましょう」女神カリスも、生き生きとした目で言った。
「すみません。いろいろ俺の思い付きに付き合わせちゃって」
「ふふっ。大丈夫ですよ」
女神カリスは余裕の表情で帰って行った。
しかし、あんなにテーマを持って大丈夫なんだろうか? あれ? 神様って多重で動けたりして?
ー 専門神は、それ出来るわよ。
神力リンクでアリスのアドバイスが飛んできた。アリスも見てたんだ。
ー マジか。複数存在できるのか?
ー そういうこと。
ー 俺もできるのか?
ー えっ? ああ、人間の部分が残ってるからなぁ。分からない。
ー 全部仮想物質なら可能なのか。
ー そうね。
ー ってことは、ここにエリス、あそこにもエリスが可能なのか。
ぽっ
「ここに私」エリス様登場。
「ホントに来るし」
「あそこにも、私」
「あそこって?」
「女神湯」
「ああ、それで、いつもいるのか!」
「分身の術。誰も本当の私を捕まえられない」と謎めいた笑みを浮かべるエリス様。
「いや、簡単だけど? はい、捕まえた!」そう言って俺はエリス様の腕を掴んだ。
「え?」
「神化リングしてるのが本物だろ?」
「あっ!」
マジで気付いてなかったのかよ。
ちなみに、俺も分身を作れるらしい。
そりゃ第二神だもんな。分身作れないと困るほどに仕事が増えるとのこと。そうでしょうとも。ただ、肉体を保持している状態での実績はないらしい。
* * *
女神カリスの初期記憶を意識表面に埋め込む研究が待ち遠しい。
これが出来なければ、まずタイムリープは不可能だろう。あとは、追加の記憶が必要かどうかだ。まぁ、昔のことを思い出せないだけなら問題ないのかも知れない。要は、記憶を取り戻すための機能拡張を間違いなく配布できればいいのだ。
そう言えば、埋め込むのは本当の記憶でなくてもいいのかも知れない。
膨大な記憶を持って行くのではなく、嘘だけどタイムリープを維持するのに十分な記憶があればいいだろう。それなら意識表面に収まるかも知れない。もし初期記憶が入り切らないようなら、女神カリスに提案してみようかと思う。
* * *
「それは危険だと思います」
偽の記憶でごまかそうという提案は簡単に却下されてしまった。
それこそ混乱を招くとのこと。間違って偽の情報が残ってしまったら、修正できないと。
「それなら、必要になったら追加で送る方式はどうでしょう?」
逆に女神カリスから提案された。
「必要になったら?」
「はい。初期記憶は意識表面に入るだけにして、足りない情報があったら追加する形です」
「えっ。そんなこと出来ますか?」
「思い出す領域は、通常と同じです。今の自分ではなく未来から取り出すのが違うだけですので問題ありません」
「なるほど。でも、未来からどうやって取り出すんです?」
「未来へ送るメッセージ誘導を使えばいいんです。必要になったらリクエストを送る訳です」女神カリス余裕の笑みで言った。
「おおおっ! その手があったか!」さすが女神カリス!
「多少、思い出すのに時間が掛かってしまいますが、必要な情報を返せればいい筈です。双方向のメッセージ誘導が可能だからこそ出来る技です」
なるほど。未来へメッセージを送れるんだから、未来の自分に聞けばいいわけだ。記憶オンデマンドだな。
「いいですね! あっ。でも、未来の世界にいる俺が混乱しませんか? 意識が二つになるわけですよね?」
「そうですね。でしたら、タイムリープしている間は寝ていることにしたらどうでしょう? 初期記憶を埋め込むためにもそのほうがいいと思います」
「なるほど。そうすると夢を見ている感じか。ん?」そこでちょっと思いついた。
「同時に、過去の意識表面も送り返したら面白いかも。過去の世界を夢で体験できます」
「それは、いいですね!」思わず女神カリスも乗り出してきた。
「この場合、タイムリープとはちょっと違うかもなぁ。でも、未来に記憶が残るのはいいでしょう?」
「はい、そうですね。未来で状況を把握できるなら安全ですね」ちょっと興奮ぎみに語る女神カリス。
「分かりました。タイムリープ機能拡張、すぐに出来るかもしれません!」
おお、これは実現しそうだ。女神カリスが、こう言うときはほぼ確実に完成するからな。
「期待してます」
「少々、お待ちください」
つくづく、女神カリスは凄い神様だと思う。
* * *
女神カリスからタイムリープ機能拡張完成の連絡を受けたのは、九月も半ば過ぎのことだった。
現状は友好的なグループとの付き合いなので問題という程でもないが、今後は不味いかもしれない。出来るなら早いうちに記憶を戻しておきたいものだ。
それで、以前考えた記憶を取り戻す方法を再検討することにした。
例のタイムリープを使う方法だ。自分がタイムリープして過去の記憶にインデックスを張れば、確実に回収することが出来る。
ただ、簡単ではない。
タイムリープを実現するにあたり、問題となる点は次の三つだ。
・過去の自分の時間を占有してしまう
・目的遂行に必要な記憶を特定できない
・記憶を過去に送る方法がない
最初の問題、「過去の時間の占有」はちょっと怖い。
自分の記憶が混乱してしまうかもしれないからだ。自分の過去を直接改変することになるので、どんな影響が出るのか予想できない。だが、短時間であれば問題ないかもしれない。
第二の「目的遂行に必要な記憶」の特定は重要だ。
タイムリープしたあと何をすべきか忘れてしまったら意味がないし、やることが分かっても何故やるのか理由付けも必要だろう。
だが、どうやって記憶を特定すればいいのか全く分からない。
そして、第三の問題「記憶を過去に送る方法」。
もちろん過去へ送る方法としてはメッセージ誘導があるのだが、送った記憶を頭の中のどこに保存すればいいのか分からない。記憶を上書きするのは危険だと思う。最悪、記憶喪失になりかねない。
まぁ、これだけ問題があれば普通なら諦めるところだ。
女神カリスも無理だと言っていた。でも、記憶を取り戻すには、これしか方法がないのだ。
俺は諦めきれず、つらつらと考えを巡らしていた。
最初の問題は、占有時間を極限的に短縮することで何とか出来るかもしれない。
過去へ送る方法は、やはりメッセージ誘導を限界まで使うしかないだろう。意識表面に入りきるだけの記憶でなんとかするしかない。短時間の活動に必要な記憶なら小さくて済むかもしれない。記憶の圧縮も検討すべきか?
ただ、いくら考えても必要な記憶の特定が出来ない限り、解決しそうもない。もう、これは俺が手を出せる領域を超えてるんだと思った。
ぽっ
「面白いですね」
いきなり、女神カリスが執務室に登場してきた。
「意識表面に、必要な記憶を詰め込むんですか!」
「神力リンクで見てたんですか!」
「ちょっと、面白そうでしたので」女神カリスは、ちょっと恥ずかしそうに言った。
「記憶を圧縮するとか、無謀でしょうか?」
「そうですね。圧縮はともかく、使っていない領域に詰め込むことは出来るかも知れません」ちょっと難しそうな顔で思案する女神カリス。
「使ってない領域ですか?」
「はい。意識表面には多少余裕があります。それと、いろんな記憶を読みだすために用意された領域が多めにありますので、ここに埋め込めると思います」
「本当ですか! いきなり現実的になってきた」
「ちょっと検討してみましょう」女神カリスも、生き生きとした目で言った。
「すみません。いろいろ俺の思い付きに付き合わせちゃって」
「ふふっ。大丈夫ですよ」
女神カリスは余裕の表情で帰って行った。
しかし、あんなにテーマを持って大丈夫なんだろうか? あれ? 神様って多重で動けたりして?
ー 専門神は、それ出来るわよ。
神力リンクでアリスのアドバイスが飛んできた。アリスも見てたんだ。
ー マジか。複数存在できるのか?
ー そういうこと。
ー 俺もできるのか?
ー えっ? ああ、人間の部分が残ってるからなぁ。分からない。
ー 全部仮想物質なら可能なのか。
ー そうね。
ー ってことは、ここにエリス、あそこにもエリスが可能なのか。
ぽっ
「ここに私」エリス様登場。
「ホントに来るし」
「あそこにも、私」
「あそこって?」
「女神湯」
「ああ、それで、いつもいるのか!」
「分身の術。誰も本当の私を捕まえられない」と謎めいた笑みを浮かべるエリス様。
「いや、簡単だけど? はい、捕まえた!」そう言って俺はエリス様の腕を掴んだ。
「え?」
「神化リングしてるのが本物だろ?」
「あっ!」
マジで気付いてなかったのかよ。
ちなみに、俺も分身を作れるらしい。
そりゃ第二神だもんな。分身作れないと困るほどに仕事が増えるとのこと。そうでしょうとも。ただ、肉体を保持している状態での実績はないらしい。
* * *
女神カリスの初期記憶を意識表面に埋め込む研究が待ち遠しい。
これが出来なければ、まずタイムリープは不可能だろう。あとは、追加の記憶が必要かどうかだ。まぁ、昔のことを思い出せないだけなら問題ないのかも知れない。要は、記憶を取り戻すための機能拡張を間違いなく配布できればいいのだ。
そう言えば、埋め込むのは本当の記憶でなくてもいいのかも知れない。
膨大な記憶を持って行くのではなく、嘘だけどタイムリープを維持するのに十分な記憶があればいいだろう。それなら意識表面に収まるかも知れない。もし初期記憶が入り切らないようなら、女神カリスに提案してみようかと思う。
* * *
「それは危険だと思います」
偽の記憶でごまかそうという提案は簡単に却下されてしまった。
それこそ混乱を招くとのこと。間違って偽の情報が残ってしまったら、修正できないと。
「それなら、必要になったら追加で送る方式はどうでしょう?」
逆に女神カリスから提案された。
「必要になったら?」
「はい。初期記憶は意識表面に入るだけにして、足りない情報があったら追加する形です」
「えっ。そんなこと出来ますか?」
「思い出す領域は、通常と同じです。今の自分ではなく未来から取り出すのが違うだけですので問題ありません」
「なるほど。でも、未来からどうやって取り出すんです?」
「未来へ送るメッセージ誘導を使えばいいんです。必要になったらリクエストを送る訳です」女神カリス余裕の笑みで言った。
「おおおっ! その手があったか!」さすが女神カリス!
「多少、思い出すのに時間が掛かってしまいますが、必要な情報を返せればいい筈です。双方向のメッセージ誘導が可能だからこそ出来る技です」
なるほど。未来へメッセージを送れるんだから、未来の自分に聞けばいいわけだ。記憶オンデマンドだな。
「いいですね! あっ。でも、未来の世界にいる俺が混乱しませんか? 意識が二つになるわけですよね?」
「そうですね。でしたら、タイムリープしている間は寝ていることにしたらどうでしょう? 初期記憶を埋め込むためにもそのほうがいいと思います」
「なるほど。そうすると夢を見ている感じか。ん?」そこでちょっと思いついた。
「同時に、過去の意識表面も送り返したら面白いかも。過去の世界を夢で体験できます」
「それは、いいですね!」思わず女神カリスも乗り出してきた。
「この場合、タイムリープとはちょっと違うかもなぁ。でも、未来に記憶が残るのはいいでしょう?」
「はい、そうですね。未来で状況を把握できるなら安全ですね」ちょっと興奮ぎみに語る女神カリス。
「分かりました。タイムリープ機能拡張、すぐに出来るかもしれません!」
おお、これは実現しそうだ。女神カリスが、こう言うときはほぼ確実に完成するからな。
「期待してます」
「少々、お待ちください」
つくづく、女神カリスは凄い神様だと思う。
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女神カリスからタイムリープ機能拡張完成の連絡を受けたのは、九月も半ば過ぎのことだった。
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