異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう

文字の大きさ
上 下
180 / 189
タイムリープ編(完結編)

180 氷の月

しおりを挟む
 神界リゾートをオープンしてからまだ間もないのに、惑星フォトスの神用住宅が足りなくなってしまった。
 いや、本来の神様用だけだったら良かったのだが、人間と共用にすることにしたかららしい。やっぱり人間らしい生活というのが神様に人気だったようだ。
 おかげで予約でいっぱいになってしまったのだ。そういえば、その気になればすぐ来れるもんな、神様。

 もちろん、通常の戸建ての住宅以外に集合住宅なども追加で作ったのだが、それでも足りない。
 まぁ、神化リングの製造数から予想できた事態とも言えるのだが、そもそも惑星フォトスには、まだ十分な土地が無いのだから、むやみに住宅をたてるわけにもいかない。自給自足する予定だからな。ちゃんと計画済みなのだ。

 こうなると神化リングの供給を絞るか、住宅事情を改善するかの二択になってしまう。
 だが、始まったばかりの神化リングの供給を、早々と絞りたくない。そうなると住宅事情を改善するしかない。

 普通に考えれば、一時停止している『自動海水打ち上げシステム』を再始動することになるのだが、ちょっと急場の対応には向いていなかった。一気に海水を抜くシステムではない。
 さらに、当面は気候をいじるようなこともしたくないしな。

 そこで、俺が直接海水を排出することにした。
 まぁ、ちょうど適当な浅瀬があったので、ここを干拓しようと考えたのだ。水を抜くだけなので惑星レベルの海水面の低下は起こさない。
 とはいっても、結構な量の水にはなる。

 手法としては、まず干拓する領域を砂を溶かした壁で囲う。
 普通の干拓と比べると、とんでもなく広い領域だが問題ない。これは、女神ケリスと女神コリスに担当してもらった。

 あとは、海底で砂を吸い上げた時の要領で海水をくみ上げればいい。
 もちろん、海水の吸い上げは砂の時とは逆に吸い込み口には拘束フィールドのフィルターをつける。魚などを吸い込まないようにするためだ。
 必要な海水を吸い上げたら、そのまま凍らせて衛星軌道に打ち上げれば完了である。

 うん、完璧な計画だ。

  *  *  *

 女神ケリスと女神コリスから浅瀬の壁が完成したとの連絡を受けて、俺は早速海水の排出作業に取り掛かった。

「流石に、海水で月を作るなんてこと初めてだよ。こんなこと普通誰もやらないよ」

 海水を吸い上げた巨大な球体を見上げて天文学の神プトレが言った。

「いや、別に月を作りたいわけじゃないから。そういう意図は無いんだが結果として月になるだけだ」

 勢いよく吸い上げられていく海水が上空で球体になって膨らんでいくのだが、膨らむに従い高く持ち上げているので、いつまでたっても同じ大きさに見える。
 とはいっても、やはり空にあるべきものの大きさを超えていて異常ではある。

「ははは。同じだけどね」

 ごもっとも。

「で、どこまで大きくするんだい?」
「いや、だから月の大きさではなくて、海水がなくなるまでだよ」

 月は副産物だからな。
 今回は、『自動海水打ち上げシステム』とは違い、逆に水が必要になった時のために衛星とすることにした。

ー こちら女神ケリス。北側の海水は完全に干上がりました。
ー こちら女神コリス。こっちもオッケーだよ。

 女神ケリスと女神コリスから海水の状況を知らせてきた。

「よし、これでいいだろう」

 俺は海水の吸い上げを停止した。

「じゃ、これを凍結して宇宙空間に投げ出せばいいんだよな?」俺はプトレに確認した。

「ああ、そうだな。とりあえず全力はダメだよ? 帰って来なくなる」とプトレ。
「分かってる。大丈夫だよ」

 そう言って、俺は球体の冷却を始めた。
 今は防御フィールドで球体になっているが、このままでは放出できない。とりあえず凍らせて固体になれば、加速して衛星にすることが出来る訳だ。

「こんなもんだろ。じゃぁ、加速する」

 俺は氷結した球体を衛星軌道に乗せるため加速を開始した。
 しかし、いきなり放出では力加減が分からない。そこで空中で回転させて速度を調整することにした。ハンマー投げの要領だ。
 まぁ、これが出来るのはプトレが見れば衛星軌道に投入できる速度になっているかどうかが分かるからだ。

「どうだ?」

「いやいや、まだまだだよ」とプトレ。

 よく分かるな。

 俺はさらに加速した。こんなでかいものをぶん回してるだけあって竜巻ができ始めている。さすがに、周りには誰もいないがちょっとやばそうな雰囲気になってきた。

「まだか?」

「まだまだ」

「俺、風神になった気がするんだが」

「そうか。水神にもなれるかもな。よし、いいぞ」

 突っ込みを入れようかと思ったが、そんな暇はない。

「て~~っ!」

 ずぎゅ~~~~~ん

 氷結した巨大な塊は、空高く雲を突き抜けてぐんぐん上昇していった。

「うん。打ち上げ成功! こんなもんだろ? 意外と簡単だな!」

 打ち上げた球体の軌跡を見て、俺は満足して言った。

「いや、そんな暢気なこと言ってるのは君だけだから」

 見ていたプトレが突っ込む。まぁ、そうなんだけどな。神化リング様様だ。

 ただ、彼の場合は見ているだけではない。
 これからが彼の仕事だ。すかさず神眼と天文学の神の力で飛行する球体の追跡を始めた。
 正しく衛星軌道に乗るように調整するためだ。

 俺が打ち上げただけだと同じ場所に戻ってくる隕石みたいになってしまう。長期に渡って安定した衛星軌道に乗せる必要があるのだが、これをプトレに頼んだという訳だ。

「ふむ。ちょっと予定より速いようだな」

 プトレが独り言のように言っている。海水が少なかったのかも知れない。

「じゃ、ちょっとコースを修正する」

 そう言って、プトレは上昇する球体に向かって手をかざした。
 軌道修正の加速を加えるためだ。球体を見ていても軌道がどう変わったのかは分からない。

「これでいいだろう。これなら大体16日で惑星フォトスを周回する筈だ」

 しばらく、観測をしていたプトレが確信した顔で言った。

 こうして、なんとか広い土地を確保することが出来た。

 出来上がった氷の月は、惑星モトスとは比較にならない大きさなのだが、低い軌道にあるため惑星フォトスから見ると惑星モトスの半分程度の大きさに見えた。

  *  *  *

 その日の、惑星フォトスの女神湯。

 ぽちょんっ

「これはこれで、いいわね」と女神アリス。

 ゆったり浸かりながら夜空を見上げれば、そこには白く輝く氷の月が浮かんでいた。

「思ったより上出来だな」
「そうね。水が欲しくなったら、あそこに取りに行くのね?」
「まぁ、まず必要ないだろうけどな。むしろもっと大きくするかも」

「土地がまた無くなったら、もっと大きくするの?」
「えっ? あぁ、まぁ可能性としてはかなり低いけどな」

「あまり変えたら混乱するしね?」
「そうだな」
「宝石みたいで綺麗だし。変えないほうがいいかも」
「うん」

 双子星もあるから月が二つになってしまった。

「そういえば、名前はどうするの?」
「そうだなぁ。氷の月だから氷月、水月、冷月、寒月とかかな?」
「風流ね」
「レジャーランドにしてもいいかも」
「風流、台無しね」

 とりあえず氷月ひょうげつと呼ぶことにした。
 氷の塊でしかないので、眺めて楽しむのが一番かも知れない。

 ちなみに、氷月は惑星フォトスの衛星なので、惑星モトスからはほとんど見えない。
 小さ過ぎるのだ。つまり、この二つの月を見るには惑星フォトスに来る必要がある。
 湯船から見上げながら、これがこの星の魅力の一つになってくれるのかもと思った。
 月の世界からの観月かよと言われそうだが。

 モトスは青く、氷月は白く輝いていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...