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南北大陸編

99 南北大陸へ-パルス王国-

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 パルス王国の首都マキナは大きな湾の北部に位置する港町だった。
 もちろん、こういう情報はアリスから貰う。でも、考えてみればいきなり他の大陸から来て首都だって知ってるのは変なので、一応大きい街なので降りて来たという説明をする。

 訪問の目的を伝えると大いに歓迎された。
 大陸連絡評議会参加や魔法共生菌防衛体制への参加もすんなり承認された。それもそのはず、魔法共生菌はかなり流行っているようだった。
 そのため、特効薬を提供すると言ったとたん恐ろしい勢いで感謝された。当然、すぐさま特効薬を配布することになった。急激に進行するタイプの病気では無く、特効薬さえあれば完治するのが不幸中の幸いと言うべきだろう。

「いや、まことに有難いことです。このような奇跡が起ころうとは思ってもみませんでした。さすが、女神様を信奉されている国ですね。私どもも、もっとお祈りすることにしましょう」

 特効薬の手配から戻ると、パルス王国のヒスビス国王がしみじみと言った。
 俺達は大陸代表でトップはカセーム王国のピステルなのだがマッハ神魔動飛行船の船体にデカデカと女神様の紋章が描かれているから、こういう認識になったようだ。すっかり忘れてた。

 この国では、あまり熱心に信仰しているという感じではないのかもしれない。
 美鈴のメッセージ誘導のお陰で同じ宗教と認識されているし、誰も疑問に思わないのは有難い。美鈴を見たら親指立ててるし。うん、グッジョブだ。
 別に布教活動している訳でもないので、特に要求もしないし今のままでいいんじゃないかと思う。女神様は何も言ってない筈だしな。女神湯に入りに来るだけだ。

ー いいじゃない、別に。折角、信仰してくれるって言ってるんだし。
ー いや、別にお断りする気はないけどね。ほどほどにってことよ。恨まれたくないだろ?
ー それは嫌ね。
ー まぁ、でも。貢献してるのも確かだから、信仰されていいのかも。
ー そうよね。堂々と信仰されちゃいましょ。

「恐れ入ります」

  *  *  *

 その後、俺達はサロンのような部屋に通された。

「これより、夕餉までのひと時、しばしこちらでおくつろぎください」

 そういって、お茶をすすめるヒスビス国王。ん? お茶じゃない。これコーヒーじゃないか?

「これは、コーヒーでは?」
「おお、ご存じですか? こちらではカフェムといいます。この大陸でしか飲まれていないのかと思いました」
「確かに、中央大陸では見ませんね」

「リュウジ殿、この飲み物を御存じなのですが?」

 ピステルも不思議そうにしている。まぁ、あまり突っ込まれても困る。地球の豆とは違うかも知れないし。

「似たものを飲んだことがあります。その木は葉も煎じて飲むという話でした」
「ああ、こちらでも地域によっては葉のお茶を飲みますね」とヒスビス王。

「じゃ、やっぱり同じかも知れません」

 そう言って、ちょっと飲んでみる。うん。うまい。
 砂糖は入れるようだ。味はジャマイカあたりの豆に近いと思う。

「うん、おいしいですね。いい香りです」

 懐かしい香りだった。

「それは良かった」

「ほう、確かにいい香りですね。苦味と酸味がありますが、なかなか渋い」

 俺の感想を聞いて、恐る恐る飲んでみたピステルが言った。意外と、気に入ったようだ。

「これは、ぜひとも輸入したい」
「わたくしも、この香りは気に入りましたわ。ただ、私には苦味がちょっと強いかしら」

 セレーネも好きらしい。

「だったら、ミルクを入れるといいよ」
「なんと、ミルクを入れるのですか?」

 ヒスビス国王に驚かれてしまった。こっちでは入れないのか? そういえば、地球でもミルクを入れるのを嫌う人がいたような。

「好みによりますね。ちゃんと火を通した新鮮なミルクを使えば美味しく飲めると思います」

「なるほど。試してみましょう」

 ヒスビス王、ふと思い付いて話す。

「実は今、このカフェムの祭りでして、毎年隣のモニ国のカフェムと味比べをしているのです。良かったら、明日ご一緒しませんか?」

「モニ国もカフェム作りが盛んなんですか?」
「はい。カフェムと言えば主にこの二国です。あとは、南のカンタスあたりでも多少作っているようですが、こちらには入って来ていません」

 その夜の晩餐は大いに盛り上がった。国の大きな問題が解決したのだから無理もない。遅くまで歌に踊りにと楽しませてくれた。

  *  *  *

 翌日は、ヒスビス王に誘われカフェム祭に出かけた。
 祭りと言っても、カフェム関連の商品が並べられているくらいで、基本は品評会のように飲み比べているだけだ。
 コーヒーは豆の品種や生産した場所で味が変わるが、焙煎の方法でも大きく変わるので、沢山の種類の豆が並べられていた。
 品種はパルス王国とモニ王国でそれぞれ数種類あるらしい。特にパルス王国の豆とモニ王国の豆はガラッと味が違っていた。

「まぁ、こんなに香りが違うのね」

 アリスも驚いている。

「こっちのカップは、この浅煎りの豆かな? いい香りだ」

 地球で言うとモカっぽい香りがする。

「それは、モニ国の豆だね」勧めてくれた人が言う。
「おお、これがモニ国の豆か。浅煎りでも酸味は強くないね」
「おっ。にいさん、分かってるね」と露店の男。

「浅煎りだと、酸味が強くなるんですの?」セレーネが疑問を口にする。
「そうだね。香り、苦味、酸味は品種によって違うんだけど、それぞれ好みがあるから焙煎の仕方で調整するんだよ」

「ほぉ。よく御存じですね。いや、感服いたしました」
「おや、マッセム王子ではないですか」ヒスビス王が気付いて声を掛けた。

 職人かと思ったら王子だった。

「これはヒスビス王。王自らおいでとは、恐れ入ります」

「こちらのカフェム通の御仁は、このほど中央大陸から親善にこられた神聖アリス教国のリュウジ王です」

「なんと、あの中央大陸から遥々いらしたのですか? ああ、もしや朝から評判になっていた空飛ぶ船に乗って来られた方でしょうか?」とマッセム王子。

「はい、神聖アリス教国のリュウジ・アリステリアスです。よろしくお願いします」
「モニ王国のマッセム・モニと申します。こちらこそ、宜しくお願いします。もし許されるなら、是非我が国にもおいでください」
「はい、ぜひとも」

「リュウジ殿は、あの黒青病の特効薬を持ってこられたのです」とヒスビス王。

 魔法共生菌の病は、南北大陸では黒青病と呼ばれていた。ちゃんと病名が付くだけ影響が大きいということだろう。

「なんと! それは、まことですか?」いきなり顔色を変える王子。
「あの黒青病の特効薬とは! おお、なんと素晴らしい! それでは何としても、おいで頂かねば。もしよろしければ、私も同道させて頂きたい」

 こうして、王子は明日俺達の船に乗っていくことになった。二十人程度とのことで問題ないだろう。

「リュウジ殿。ならば、私もご一緒してよろしいか? あの空飛ぶ船に一度乗ってみたいのだが」ヒスビス王も興味津々である。

「はい、結構ですよ。同時に、無害化魔法共生菌を散布して行きましょう。流行りが収まります」
「おおおおお、真か! それは素晴らしい」

 ヒスビス王は天を仰ぎ感激した。

「まさに、神のご加護と言うべきでしょう」マッセム王子も感激している。
「はい。女神様の思し召しでしょうな」とヒスビス王。

「明日が楽しみです。ではまた、お目にかかります」とマッセム王子。
「そうだ、マッセム王子、これから大陸連絡評議会参加の式典なのですが、ご一緒しませんか? 何やら趣向があるようですよ」

 ヒスビス王が言ってるのは、天馬一号で無害化魔法共生菌を散布するデモのことだ。
 ビデオ配信で大陸連絡評議会参加を宣言するのだが、それに合わせたイベントを用意した。

「そうですか、では後ほど合流いたしましょう」

 俺達は、戻るとビデオ配信の準備を始めた。

  *  *  *

 パノラマスクリーンによるビデオ配信は、驚愕のうちに始まった。
 そりゃ、いきなりこんなものを見せられたら驚くよね。中には王様がデカくなったと思った人もいるくらいだ。王様本人も含めて。

「なんだこれは! 私が! 巨大化している!」
「王様、お気を確かに。これは魔法による鏡のようなものです。これで、街の皆さんに話し掛けられます」セシルが横から解説する。

「おお、なるほど。そういう趣向でしたね。しかし、私が膨れたのかと思ってびっくりしました」いや、膨れた本人が気付かないわけないだろ。
「このように、魔法で大きくも小さくも出来ます」

 そう言って、セシルは映像を拡大したり縮小したりして見せた。

「おお、これは素晴らしい。おっほん。では、本番といきましょう」

 いや、もう本番始まってます。ってか、上空に映ってます。

 ヒスビス王による大陸連絡評議会への参加宣言、さらに特効薬で黒青病が克服されるとの発表に、街は歓喜に包まれた。

 そしてそこで、七人の侍女隊の登場である。
 セシルに紹介された侍女隊は颯爽と天馬一号に乗って空へ飛びあがった。これだけで、さらに大騒ぎだ。巨大スクリーンに投影された彼女たちは、優雅にそして素早く無害化魔法共生菌を散布していった。もう、当然のように熱狂に包まれていく。
 ただでさえカルチャーショックなのに、天翔ける美女たちが登場し恐ろしい病気を駆逐していくのだ。もう夢の世界に入った気分かも知れない。
 俺もこれはちょっとやり過ぎた気がする。そもそも王様を初めて見た人も多いのだ。

ー やっぱ、やり過ぎたかなぁ?
ー なんか、凄い勢いで信仰心が集まって来てるわよ。
ー だよな~。まぁ、でも、実利があるんだからいいか。
ー そうね。

 南国の熱い夜は、なかなか冷めやらなかった。
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