異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう

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南北大陸編

88 神魔動飛空二輪とマッハ神魔動飛行船

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 秋も深まり、キリシスの冬がやって来た。
 夕方ともなるとかなり寒くなるというのに、今日も街の外に作られた飛空試験場では完成したばかりの神魔動飛空二輪のテスト飛行が続けられていた。
 テストパイロットは椎名美鈴が担当している。彼女は既に神化リングを付けた普通の使徒になっているので危険は無いし、侍女隊が使う乗り物のテストには打って付けなのだ。

 神魔動飛空二輪の最高速度はマッハ二・〇だ。
 マッハ二・〇までならソニックブームは発生しないようになっている。これが、この新エンジンの特徴だ。
 夕陽で赤く染まった空に白い雲の筋を引いて美鈴の神魔動飛空二輪が飛んで行った。

「素晴らしい加速ですね。特に、神魔力ターボを使ったときはどこまで速度が出るんでしょう?」

 試運転中の神魔動飛空二輪を見あげて、神魔道具の女神キリスが感嘆の声を上げた。神魔力ターボは、パイロットが自分の神力または魔力を使う加速装置だ。

「恐らく、あの美鈴さんのマッハ二・〇が限界だと思われます」

 神魔動飛空二輪を製作した魔道具技師のランティスが応えた。美鈴の出した最高記録が、正式な記録という訳だ。

「凄いな。あそこまで出せるとは思わなかった。まぁ、侍女隊の魔力だと、マッハ一・五が限界だろうけど」
「はい。これで安心して渡せます」とランティス。

「神力でも、魔力でも使えるところが、いいね」
「はい。そうしないと、誰もテスト出来ませんからね」とランティス。

 魔力専用機だとテストせずに侍女隊に渡すことになる。王女でもある彼女たちにテストパイロットをさせるわけにはいかない。

「しかし、予想以上の傑作エンジンが完成したな! 真空膜の使い方で最高速が決まるんだろうけど、衝撃波が出てもいいならもっと速く飛べそうだ!」

「そういう使い方もできますね。衝撃波攻撃」と女神キリス。

 えっ? 武器にもなるの? そういう魔道具も作るのかな?

「それって、操縦者は大丈夫?」
「はい、問題ありません。内側の防御フィールドで守られていますから」と女神キリス。
「ああ、それだけ真空膜が安定しているってことですね」
「そういうことです。ランティスさんが、しっかりと作ってくれました」
「そうか。さすがだな、ランティス!」
「恐れ入ります」

  *  *  *

「うまくいってるようですね」

 神魔科学の女神カリスも様子を見に来た。

「これは素晴らしいエンジンです。音も小さいし」
「ええ。しかし、さすがに私も防御フィールドを二重にして真空膜を作ろうなんて思い付きませんでしたよ」

 女神カリスはちょっと悪戯っぽい目で俺を見た。まぁ、確かに俺が思い付いたんだが。

「いや、魔力や神力を使うと、夢みたいなことが本当に出来てしまうんで楽しいんです」

 中二病全開とも言う。まぁ、科学と中二病は近いところにあるとは思う。

「なるほど。しかし、やはりリュウジさんの最大の功績は神魔力融合現象の発見ですね」と女神カリス。

「そうそう。あれが無ければ今の発展はありません」と女神キリス。

「あの現象については、私も研究を始めました」

 女神カリスは、ちょっと真面目な顔で言った。

「実際のところ、神魔力融合でエネルギーが発生するというのは、どういう種類の現象だとお考えですか? 何か、考えがあるのなら聞かせてください」

 神魔科学の『神様』に聞かれても困る。

「えっ? いや、どうといわれても、素粒子の『対消滅』を連想するくらいでしょうか」

「対消滅ですか?」
「はい、ええと『反物質』といって話は通じますか? 通常の物質と反物質が融合する現象に似てる気がします」

「ああ、なるほど。そうした現象はありますね。なるほど、ちょっと面白いですね」と女神カリス。

 やっぱり知ってるんだ。

「俺もそれ以上はちょっと門外漢なので分かりませんが」
「わかりました。参考にさせていただきます」

 神界でも、神力を研究してるのか。まぁ、本当に参考になるのか非常に怪しいが。研究の妨げにならなければいいけど。
 
  *  *  *

 定期便として製造された汎用神魔動飛行船八号機が飛行船ドックからゆっくりと上昇し、テスト飛行に飛び立っていった。
 汎用飛行船にはメタリックシルバーの機体に白い円で縁どられた赤い女神様の紋章が描かれているので一目で俺の機体とは区別ができる。
 この汎用の機体では改良が進み時速七百キロメートルでもほとんど騒音が出なくなっている。旅客機にとして優秀だ。
 まずは八機体制で定期便の運航を確立する予定だ。

 代わって、飛行船ドックに入ってきたのは神魔動飛行船初号機、俺の船だ。今回、別大陸を目指す機体として大幅な改修を加えるためである。
 改修の目玉は、神魔動飛空二輪で実証された神魔動外周エンジンを搭載することだ。この新型エンジンで超音速神魔動飛行船を作る計画だ。

  *  *  *

 神魔動外周エンジンは、俺が神様たちやランティスを巻き込んで開発した新型の超音速エンジンだ。
 原理は神魔動飛空二輪と同じで、真空膜フィールドを周囲に展開して超音速飛行を可能にしている。
 さらに、飛行船のエンジンの場合は、空中だけでなく水中でも動作可能としている。

 もちろん、神魔動飛空二輪のエンジンでも可能だったのだが、水中では大量にエネルギーを消費する。このため、エネルギーに余裕のない神魔動飛空二輪では実用的ではなかったのだ。
 だが、飛行船の強力なエナジーモジュールがあれば余裕だ。今までとは違った運用が可能だ。

 また、神魔動外周エンジンにはもう一つ特筆すべき点がある。
 それは内部の人間に加速が加わらないということだ。いや、正確に言うと、加速はされる。ただし、『機体と一緒に加速されるので気が付かない』ということだ。
 俺は、これを『加速キャンセラー』と言っている。

 普通の乗り物で言うと、乗り物が動き出すと人間は座席に押される形で加速される。このため、あまり急激な加速をすると人間が耐えられないという問題がある。
 神魔動外周エンジンは違う。乗り物の機体と一緒に人間の体も加速する。このため、座席に押しつけられることはなく急加速しても何も感じない。体に全く影響がないのである。

マッハ神魔動飛行船のスペック概要
  巡航速度 マッハ一・〇
  最高速度 マッハ二・〇
  エンジン 神魔動外周エンジン二基
  先端部にエナジービーム用ハッチ装備(リュウジ専用特別室)
  特別客室 八
  通常客室 五十
  乗員(スタッフ) 五十名
  標準設備
   下部展望室、上部展望室、レストラン、乗員室、シャワー室、洗面所他

  *  *  *

 神魔動飛行船初号機の改造は、主にエンジンの置き換えなので工期はあまり長くない。
 船体の内装も進み、完成が見えて来た。ミルルは完成間際の新型神魔動飛行船を感慨深げに見あげていた。

「また、おばあちゃんに、『こんなもの作って!』って言われちゃいそう」

 もうすっかり体調が戻ったミルルもマッハ神魔動飛行船の開発に参加していた。

「そうかなぁ。さすがにもう平気だろう。試運転の時には来るって言ってたんだろ?」
「うん。最近は私が神力で治療してるから体の調子は良いみたい」
「そりゃ、良かった」

「ねぇ、外周エンジンって、そのまま海に入っても平気なんだよね?」
「ああ、平気だけど、まだテストはしないと思うぞ」
「うそ~っ、でも神魔動飛空二輪のテストはやってたよ。アーデル湖に潜ってすぐに出てきたみたいけど」

「まじか。無茶するなぁ。真空膜フィールドだけで潜っちゃうのか。酸素は作ってるからいいとしても、エネルギー持たないだろ。あ~、それですぐ出てきたのか」
「うん。全然平気だったみたい」

「そうか。そうなると、全周が窓みたいなものだから凄い眺めだろうな。ん? さすがに透明にはならないのか? あ~、こんど乗せてもらおう」

「もう、侍女隊には配備されたの?」
「うん、先週配備されて、今週から訓練のハズ。テストパイロットを椎名美鈴がやってたから、彼女が教官になって、しごくらしい」

「へぇ。彼女、教官としては厳しそう」
「鬼コーチかも」
「怖~いっ」ミルルは笑って言った。
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