異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう

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南北大陸編

87 ライブ配信どうよ?

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 子供が生まれて二が月も過ぎると母子ともに動こうとするらしい。
 というか飽きるらしい。まぁ、そうだよな。来る日も来る日も同じ部屋に居るだけだものな。
 たまにアリスがタブレットを持って来て動画を見せたりするんだけど、世界が違いすぎて全部SFやファンタジーに見えてしまうらしい。
 そりゃそうだ。普通の恋愛ドラマが百年後のSFに見えたら何を見てるのか分からなくなってしまう。まぁ、恋愛ドラマは入ってないんだけど。
 つまり、作品は見る相手を選ぶのだ。っていうか、異世界までカバー出来るわけもない。

「ねぇ、リュウジ。何か、この世界のものは見れないのかな?」

 一番元気なニーナは、一番飽きてる模様。

「うん? 遠くの映像を見たいってこと?」
「神魔フォンだと、遠くの声が聞こえるじゃん? 遠くの景色とか見れたりしないの?」そう来たか。

「それ、タブレットで見た動画の話をしてるよね?」
「うん、あんな風に、この世界でも見れたら楽しいだろうなって」
「見るだけなら千里眼で見れるじゃん」
「私たちはそうだけど、子供に見せたいのよ」
「なるほど」

 うん? 焦点は合うんだろうか?

「でも千里眼で見て分かるだろうけど、見れるだけじゃ面白くはないんだよ」
「そうなの?」

「まぁ、千里眼とは視野が違うから見え方は違うんけど、やっぱり面白くするには、創る必要がある。どこかの窓の景色をずっと見たいわけじゃないだろ? 演劇を見たいんだろ?」

「ああ、そうね。確かにね」
「だから演劇に限らず作り手が必要なんだよ。まぁ、新しい経済活動にはなるかな」

「そうね。新しい仕事になるよね!」
「うん。演劇以外でも、遠くの国の様子を見せるとか。この国の建国祭を大陸中に見せるとかでもいい」

「いいわね! それは、見たい」
「何か、考えてみるかな~っ」

「ねぇ、それって今の神魔フォンに映像を追加すればいいんだよね?」

 後から来たミルルが入ってきた。

「うん、そう。でも難しいだろ? 映像を魔力のパターンに変換するカメラがない」
「カメラ?」
「うん、ほら、スマホで写真撮っただろ?」

「ああ、あの絵を作るものがカメラかぁ」
「そうそう」

「ん~、絵があればなんとかなるかも」さすがミルルだな。
「そうなのか? 動かすには絵を切り替えるんだけど。そうすると動いてるように見える」
「そうなの?」

 ピンと来てないようなので、紙に絵を描いてパラパラ漫画にして見せた。

「わぁ~っ。凄い。ホントに動いて見える~」と感激するミルル。

「これをタブレットの動画もやってるんだよ。速く切り替えるから綺麗に動いて見えるけど」

「そうなんだ。うーん。魔力パターンでどこまで出来るかな。あ~っ、ちょっとやってみたくなった」
「いや、ミルルはまだ子供の世話とかあるし体調も戻ってないだろ?」
「そうだけど、乳母さんも居るし。哺乳魔道具作ったから結構暇なんだ」

 そんなものまで作ってたのかよ。意外と余裕だな。

「暇って。まぁ、カメラが出来てからだな」
「そだね」

  *  *  *

 しかし、いきなりビデオカメラは簡単ではない。
 特に光学系なんて素人には無理だよなぁ……と思いながら執務室で結晶石をいじっていた。

「これって、何気に透明度高くて屈折率も高そうだよなぁ。これでレンズ作れないかな?」

 結晶なので削り出すしかない? ピンホールカメラはピンぼけになりそうだしな。
 ってことで、神魔科学の女神カリスと神魔道具の女神キリスに聞いてみた。

「ああ、近視を治すために見え方を調整する方法はありますよ。たしか神魔道具にも」

 さっそくやって来た女神カリスが教えてくれた。

「ああ、視覚補正具ですね」女神キリスも知ってるらしい。

「なんか、凄い名前だな。眼鏡ってないのか」
「えっ? ありますよ。ここではあまり見ませんが、サングラスとか使ってるでしょ?」

 当たり前のように女神カリスは言った。そういえば、リゾートで使ってる人間は居たかも。殆ど神様だから気が付かなかった。

「なるほど。じゃぁ、レンズは手に入るんだ」
「ううん。レンズもありますけど、あまりお勧めできませんね。重いし」

 そういって、女神キリスがレンズを転移収納から出して見せてくれた。

「ああ、分厚いんですね。それと歪みがある」

 目の前にかざしただけで、歪みが分かった。まぁ、作り方次第だと思うけど。

「それより、こちらが視覚補正具です」

 そう言って女神キリスが出してきたのは小さい板に丸い穴が開いてるだけの神魔道具だった。

「覗いてみてください。横にあるレバーで調整します」

 見たら、薄いのにレンズと同じ効果があった。しかもレバーをずらすと屈折率が調整できる。凄いのは凸レンズだけでなく凹レンズまで出来るということだ。

「これ、理想レンズじゃないか」
「理想レンズ?」
「ええ、望みの屈折率を歪みなく実現するレンズです」

 神魔道具、半端ないな。

「これを使えば、映像を凄く綺麗に神力信号に変換出来そうですね」
「そうですね。それほど難しくないと思います」

 女神カリスが言うならそうなんだろう。凄いビデオカメラになりそうだ。

「この視覚補正具を神魔フォンに取り付けましょう」
「はい、分かりました。それと、取り込むのはいいとして、表示はどうしましょう」と女神キリス。
「あっ」

 カメラに夢中で表示方法を忘れていた。この世界にディスプレイなんてないもんな。

「カメラとは逆の発光する神魔道具にすればいいと思います。光変換ですね」と女神キリス。
「出来ますか?」
「その変換器は私が作りましょう」

 これは女神カリスがやってくれるらしい。もう、俺の出番無くなりそうで嬉しい。

「はい、よろしくお願いします」

 これで、神魔フォンにビデオカメラを付けられる!

  *  *  *

 で、後日完成したビデオカメラ付き神魔フォンを見て俺は愕然とした。
 映像が映せるのはいい。思った通り。だけど映像の投影の仕方が違った。

 空間に投影できるのだ。
 いや、SF映画にあるような空間に投影するディスプレイってだけで凄いのに、そのスクリーンを空まで拡大投影出来るって、どゆこと?
 なんで、そんなやつ造っちゃうかな。おまけに間に手をかざしても消えない。これ、どうやってるんだろう? 普通の光学系機器じゃないよね?
 そこで、ハタと気が付いた。俺、神様にお願いしちゃったんだった。そりゃ、こうなるわな。女神カリス様、女神キリス様、流石です。

「参りました」
「どういたしまして」

 俺がとんでもないとか言うのって、やっぱろ冗談だったんじゃ? ちょっとよいしょしてただけなんじゃ? エリス様に煽られてただけなんじゃ? 
 気を付けよう。神様だもんな。うん。

 ってことで、神魔力フォンでライブ配信が出来ることになった。
 もう歴史とか文化の継承とかこだわってた俺、アホなんじゃない? そもそも、この魔法のある世界が、どう進化していくのが正解かなんて俺が決めることじゃないじゃん。もう、やれること全部やっちゃっていいんじゃないかと思う。

  *  *  *

「じゃ、ミゼール。ライブ配信を始めてくれ」

 アシスト自転車にカメラを固定して、今ミゼールはルセ島にいる。

「承知した。このままサイクリングロードを走ればいいんだな?」
「そうだ。よろしくな」

「「「「「「「了解!」」」」」」」

 って、侍女隊全員で行かなくても良かったんだけどな。バラバラになっても仕方ないからいいか。

「では走ります」とミゼール。
「いっくよ~っ」シュリが元気よく叫ぶ。

「「「「「「「は~いっ」」」」」」」

 この神魔フォンでさらに凄いのは、普通のスクリーン以外に全周パノラマが選択出来ることだ。
 神魔フォンから部屋いっぱいに投影してみたら、まるで侍女隊と一緒にサイクリングしているようだった。何これ、VRみたい。

「す、すっご~い!」ニーナ大喜び。
「さすがポセリナさんの上位神ね。出来が違う~っ」

 ミルルの言う通り。

 理想レンズ使ってるから綺麗、というより本物に見える。全周パノラマだから、まるでミゼールの自転車に乗っているかのようだった。

「ちょっとぐらつくのが残念ですね」

 セシルが鋭い指摘をする。

 神様も、まだ手振れ補正は十分じゃないって言ってた。
 舗装してある道路でも多少ブレてしまう。手で持てば違うんだが、カメラを取り付けるのは初めてだし仕方ない。

「うん、改良するって言ってた」
「これ、わたくし達もリゾートに居るみたいな気分になりますわね」
「本当に。きゃっ、今何か飛んで行きました」

 アルテミスも驚いている。

「海鳥じゃろ。あのあたりじゃ沢山飛んでたからな」

 リリーの言う通りだろう。

「すご~いっ。対岸のピラールが見えるね。私、初めて見た!」とニーナ。

 海の靄で対岸までは見れないことが多いのだが、映像ではくっきり見えていた。

 しかし、この全周パノラマ・ライブカメラ、臨場感が半端ない。
 ミゼールの自転車の周りで、はしゃぎまわる侍女隊が妙にリアルに映し出されていた。しかも、ステレオを頼んだら、即座に理解して作ってくれた。
 マジ神。本物だけに。
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