異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう

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黎明編

34 好きな者を召し上がれ大作戦-決行-

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 ある日、門番をしていた衛兵は奇妙な一行を迎えた。
 見るからに高貴な服装をした娘が三人、それぞれ二人の侍女を従えて王家の馬車三台に乗って到着した。しかも護衛が八名付いてる。鎧の紋章から見て近衛兵だ。つまり、王族がいるに違いないのだが……。

「お勤めご苦労様です」門番は、手続きに現れた近衛兵に声を掛けた。
「いや、この度は、町娘のセレ殿ご一行の護衛を頼まれただけなので、公務ではない」と近衛兵は言う。
「近衛兵が町娘の護衛を?」不審に思い門番が問い返す。
「いや、これは特別ではあるが、許可は貰っている。その、ご心配には及びません」見ると、手には王家の許可状を握っていた。衛兵ごときにどうこう出来るものではない。

「そうですか。では、お通りください」と門番。
「ああ君、この人数で泊まれる、町娘に相応しい普通の宿屋を紹介してくれないか?」と近衛兵。

 王家の馬車を世話できる普通の宿屋はないだろう。それで門番は街で一番上等で大きな宿屋を紹介した。
 そして、馬車を見送った門番は溜息をつき、町長へ伝令を走らせることにした。

「おい、町長に伝令だ。王家の許可状を持ち、近衛兵に護衛され王家の馬車三台に乗った『町娘』が到着されたと報告してこい」
「はっ」
「あ、ちょっとまて、セレと言うセレーネ第一王女と似た名前の町娘だからな」

  *  *  *

 この街で、最高と言われている宿屋『ハイステイ』の支配人は困っていた。

「私どもを選んでいただいて大変恐縮で御座いますが、王家の方々をお迎えできる部屋はございません」窓口で支配人は申し訳なさそうに言った。
「いや、王家ではない。町娘だと言っておろう」侍女の一人が言った。
「いえ、近衛兵に守られて侍女を連れた町娘はおりません」と支配人。

「ひめ……いえ、セレさま、このように申しておりますが、いかが致しましょう」
「護衛がいる町娘は珍しいのかしら?」セレと呼ばれた町娘が言った。
「いえ、珍しくありません。近衛兵の護衛が特別でして」と支配人。
「ほれみい。だから普通の衛兵にしておけと申したのじゃ。近衛兵の中でも選りすぐりがいいなどと言うからこうなるのじゃ」と別の町娘。
「何を言ってるの? なんと言っても馬車の旅、何かあったら大変ですわよ」と町娘セレ。

 そんなところに、門番からの伝令を聞いて慌てて町長のマレスが到着した。

「わたくし、町長のマレスと申します。この度は、どのようなご用件でこの街に?」
「これはマレス殿。この街には女神湯というアリス教信者の心と体を癒してくれる有難い湯があると聞きます。アリス様を信奉する者の一人として、ぜひ一度浴しておかねば、と遥々参りましたの」と町娘セレ。

「左様でございますか。聖アリス教会でしたら、わたくしがお連れします」
「ですが、まだ宿を決めておりませんの」

「宿のことでしたら、わたくしがいかようにも御用意いたします」
「まぁ、この街は町娘にもやさしいのですね」
「そりゃもう」

 もちろん、町長は一行を引きつれて元領主の館に直行した。

  *  *  *

「で、こちらの方々は?」

 やって来た面々を客間に迎えて俺は言った。

「王都からいらした、『町娘』のセレ様、アル様、それから侍女の『リリ』様でございます」疲れ切った様子でマレスは言った。

「リリー、何やってんの?」
「んがっ? 何故バレたし」とリリー。
「いや、偽名になってないし」

「やっぱり、リリーは置いて来るべきでしたわね」と、ため息交じりにアルテミス。
「そ、そんな酷いアルねぇさま」

「それで、王女様方が、揃ってどのような御用件でしょうか?」
「そ、それは……そう、女神湯ですわ。ここには女神湯というアリス教信者の心と体を癒してくれるありがたい教会があると聞きました。ぜひ一度、女神湯に浴してみたいと思いまして」セレーネは焦って可笑しな事を口走る。

「いや、女神の湯は教会じゃないから」
「も、もちろんですわ。ですが、それ以上にありがたい風呂と聞き及んでおります」

 まぁ、あながち間違ってないんだが。っていうか、本当にありがた過ぎる方がいちゃったりするのが怖いんだが。

「じゃ、いいですよ。どうぞ、お入りください」
「い、いえ、こちらの主様を差しおいて女人が先に湯船に浸かることは出来ませんわ。先祖代々のしきたりですの。まずは、主様がお使いくださいませ。わたくし達は、その後頂きたいと思います」とセレーネ。

「しきたりですか。気にしなくていいのに。分かりました。じゃ、夕食の前に一っ風呂浴びるか。みんな行くぞ」

 ま、うちで最優先は女神様なんだけど。

「はい」とニーナ。
「りょーかい」とミルル。
「はい、ただいま」とセシル。

  *  *  *

 当然のように一番最初に湯船に浸かっていたのは女神アリスだった。

「アリス様、どうしたんですか?」とニーナ。
「アリスー、お久しぶり」とミルル。
「アリス様、嬉しゅうございます」とセシル。
「うん? 神界で何かあったか?」

  *  *  *

 一方、セレーネ御一行は。

「入ったわね。じゃ、ちょっと遅れて突入しますわよ」セレーネが作戦を指示する。
「ねぇさま、だいたん!」とアルテミス。
「だいじょーぶかのぉ?」やや不安なリリー。

「要は、あの御三方と見比べて貰えればいいのです。湯船に浸かった六名のうち誰を選びますかしら? その中にわたくし達が一人でも入れば良いのです。確率二分の一ですわ!」闇鍋ですか?

「そうですわね。ええ、なんだが希望が見えてきましたわ」とアルテミス。
「そういえばそうじゃな。裸になってしまえば優劣は一目瞭然。我らの勝ちかも知れん」とリリー。だから、それ一度やったんだけど。

「そうですわ。では行きますわよ」とセレーネ。
「はい、姉さま」
「分かったのじゃ」

 勇んで、女神湯に突入する三人であった。

  *  *  *

「姉さま、これは!」

 セレーネ一行は女神湯の脱衣所に入ったところで、まず躓いた。

「まぁ、なんてことでしょう。このような姿見があるとは。あぁ、わたくしの美しさを称えているかのような、この映り方の素晴らしいこと! さすがハーレムを作ると豪語しているだけのことはありますわね。このようなものを作ってしまうとは!」

 セレーネ、燦然と輝く鏡を前に思わず色んなポーズをとってしまう。

「わらわも、これは初めて見るのじゃ。これほどのもの、ついぞ見たことがないのじゃ。あやつめ、こんなものを隠しておったとはな。おお、わらわの美しさが、ひと際輝いておるのじゃ。惚れ惚れするのぉ」

 リリーは、鏡の前でくるりと回って見せた。

「姉さま。こ、これは、どう致しましょう。まぁ、素敵。うっとりしてしまいますわ。ずっとこのまま、ここで見ていたいですわ。あ、いけません。やはり、あの者は只者ではございません」

 アルテミスは、頬を赤く染めて言った。

「ほんとうに。わたくし達が体を張って突入するだけの価値ある男であることは間違いありませんわ」好きものの破廉恥男と言ってた気がするんだが。

「では、参りますわよ」

 とはいえ、男の前に肌をさらしたことのない二人がそうそう気楽に入れるものではない。

「リリー先に行って」

 セレーネはリリーの後ろから背を押して言った。

「私は、最後で結構ですわ」とアルテミス。
「姉さま、何を……。そうじゃ、そこのタオルを巻いていけばいいのじゃ」

 リリーは常備しているタオルを取って言った。

「さすが、経験者リリーね」
「これでしたら、なんとか」
「うむ、これでよい」

  *  *  *

「失礼いたしますわ」
「お邪魔します」
「わらわたちも、仲間に入れて欲しいのじゃ」

 後にすると言っていた三人が突然飛び込んで来たのだから、俺は慌てた。

「ど、どうして。しきたりはどうしたんです?」
「いえ、こちらの風呂に入らせて頂くのですから、こちらの主様に従って気にせず入らせて頂くことに致しました」とセレーネ。
「そ、そうですか」
「……」

 セレーネ御一行、風呂に突入したはいいが何かを感じて湯船の反対側に集まり小声で話す。

「ね、姉さま、一人多くありません?」とアルテミス。
「わたくしも、今、そう思ったところですわ」とセレーネ。
「わらわは、知らぬぞ。侍女でもないようじゃの」とリリー。

「姉さま、わたくしなぜか汗が噴き出して来たんですけれど。あの、この世のものとも思えない麗人は一体?」焦った顔でアルテミスが言う。
「し、知りませんわ。わたくしに声をかけないで頂戴。ちょっと、正気でいられる気が致しませんの」セレーネも、浮足立って言う。
「わらわもじゃ。ちょっと見ないうちに、これほどのおなごを娶っておるとはのぉ。油断したのじゃ」

「なんだか、わたくし、もう降参したくなりましたわ。これほどの方、とうてい太刀打ち出来るとは思えませんわ」とセレーネ。
「姉さま、わたしも」
「わらわもじゃ」

「リュウジさま、降参です。わたくし達が浅はかでしたわ。申し訳ございません」

 リュウジ達が思いのほか真剣な表情なので、これは不味い不興を買ったと思った王女たちだった。
 三人とも恐縮していると、おもむろにアリスが口を開いた。

「こんにちは。私、アリスといいます」
「こ、こんにちは、えっ? あ、初めまして。セレーネですわ。お目にかかれて、こ、光栄ですわ」なんとか返事を返すセレーネ。気が動転していても、さすがは第一王女だ。

「アリス様? あの、アリス様?」アルテミスも気が付いた。
「アリス様と言ったら……あ、それでここは女神湯と言われておったのか。なんと真であったのか」とリリー。

 半ばパニックとなった三人だが、それでも仲のいい姉妹が一緒にいるのでなんとか落ち着くことが出来た。

「あなたたちの中に、リュウジの妻になりたくない人っているのかしら?」

 三人が落ちつくのを待ってアリスが問いかけた。

「えっ、いえ。わたくしたちは、いずれも妻となるべくやって参りました」

「それは、国の為ね。リュウジを恐れて、あるいは取り込もうとして。でも、リュウジはこの国に敵対しないと約束できるわ。必要なら協力もします。こう確約したらどうかしら? わざわざ妻になる必要はないでしょう?」
「それは……確かに、でも、言葉だけでは」何とか答えるセレーネ。
「不安かしら? 何があれば安心するのかしら?」

「子を、子を成していただければ」セレーネ、ほとんど破れかぶれで言った。
「あら。なら、その覚悟がある者のみここに残ってください。なんとなく流されて来ただけで、子を成すことを希望しないものはここから出て行ってほしいのです」そう言ってアリスは王女三人の判断を待った。

「あら、誰もいないのかしら? そう、それでいいのですけど。」アリスは嬉しそうに言った。
「では、三人全員でリュウジの妻になって頂きます」
「なっ」
「ね、姉さま」
「わらわもいいのか?」
「実は今、大変なことが起こっていて、なるべく多くの信頼する仲間が欲しいの。詳しくはこのあと、リュウジの部屋に移動してから話します」

  *  *  *

 全員が俺の部屋に移動した後、アリスが全てを打ち明けた。聞き終わったセレーネたちはさすがに放心状態である。何しろ国王候補の男の妻になったと思ったら女神の使徒になってしまったのだ。

「でも、あなたたちを酷使するつもりはありません。出来ることで協力してもらいたいの」とアリス。

「遊んでいて絶滅するくらいなら、喜んで協力いたしますわ」代表してセレーネが言う。アルテミス、リリーも頷いている。

「でも、リュウジ様の子を成すことは出来ないのですね」セレーネは残念そうに言った。
「そうだな。すまん」

「あら? なにを言ってるの?」アリスは不思議そうに言った。
「え? だって、異世界の人間だから子供は出来ないんじゃないか?」
「あら、出来るわよ」
「なんだって~っ!」

 みんな同じように思っていたらしい。急に前のめりになっている。

「ほ、ほんとうですの?」とセレーネ。
「ええ、ただ、そうですね。あと一年くらいかしら?」とアリス。
「ど、どう言うこと?」ニーナの食いつきも凄い。てか、怖い。

「ああ、あなた達も使徒ですけど、リュウジは特に使徒になるのが早かったでしょ?」
「はい」
「それに、神の力を沢山使ってます。神力が体を流れれば流れるほど、人間ではなくなって行くの。つまり神格化ということ」

「あと、一年したら、リュウジは半神になって、子供が出来なくなるってことですか?」ニーナが言う。
「もっとゆっくりだけど、あなたたちもね」とアリス。
「ああ、そんな」とセレーネ。
「セレーネ達は、まだ完全に眷属ではないから、ここで止めておけば、普通に人間の子供を作れますよ」とアリス。
「あと、一年」とニーナ。

「リュウジ! 子供つくるわよ!」ニーナが決心したように言う。
「あ、アリスなんてこと言うんだ!」
「リュージ~、作ろ~」
「リュウジさま、わたくしもう遠慮しませんわ」
「アリス~~っ」

 こちらはセレーネ御一行

「ね、ね~さま、どう致しましょう」
「そうね。とりあえず、リュウジ様の子を成さねば話になりませんわ。ですが、猶予は一年。とりあえず、神格化は控えてもらって、何としてもわたくし達いずれかが子を成すことに集中いたしましょう。人間の妻で居続けるのです」
「分かりました」
「良かろう」
「貴女はだめかも」とセレーネ。
「十五になれば、ええのじゃろ? あとひと月じゃ。問題ないのじゃ」
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