多重世界の旅人/多重世界の旅人シリーズII

りゅう

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37 重力の魅力

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 日本のガニメデ基地に居候することになった。だが、現状の設備では俺たちを賄えない。
 まず、全員が寝るには場所が足りない。
 だが、重力が地球の月より小さいので浮いているようなものなので必ずしも横になる必要はない。立って寝ることもできそうだが俺たちには優秀な防護スーツがある。防護スーツの重力加速器を調整すると、立って寝ても普通に横に寝てるように体に加速を加える。これで快適に眠れるし低重力の悪影響からも開放される。

 防護スーツのこの重力調整機能はガニメデ調査隊にとっては羨望の的である。
 さっそく重力加速器を作れないかカストが検討を始めた。せめて、重力室のようなものが出来れば、全員が宇宙病にならず安眠できると言っていた。
 現在、彼らの寝室は回転式の重力加速器になっている。これだと出入りし難い上に大きな重力は作れない。しかも、寝返りを打ったり移動したりすると部屋のバランスを崩して自動調整するまで振動が発生するという欠点がある。
 つまり、安眠出来ないのだ。

 しかし、重力理論を確立していないこの世界では重力加速器を作ることは無理なことが判明した。
 カストだけでなく、ガニメデ調査隊全員が残念がっていた。

「ねぇ、一緒に寝れないかしら?」

 ユウナが怪しいことを言い出した。いや、布団じゃないから。
 宇宙では、重力のありがたみをひしひしと感じる。

  *  *  *

 残念ながら重力加速器は無理だったが、これ以外でも世界Lの防護スーツには優れた点があった。
 例えば滑空モードや潜水モードだ。研究棟でメカ担当のカストとレジンによってスペーススーツの改良が始まった。

「これは、素晴らしいじゃないか。特に重力の小さいこのガニメデではな!」

 改良されたスペーススーツを見てマクガイが絶賛した。
 ガニメデは地球の重力の七分の一しかないので、空気さえあればいつまでも飛んでいられるようになった。空気さえあればだが。

「残念ながらガニメデには空気がない。だが、地下に建設中の巨大施設では使える筈だ」

 どうも、地下の海を利用した国際的な施設を建設中らしい。そこでは滑空モードや潜水モードが大活躍するだろう。マクガイは、他国に見せびらかしたいようだ。

 もちろん、この世界のスペーススーツにも世界Lの防護スーツより優れた点があった。
 まず、生体スーツの強度は二倍だった。さらに、エネルギーモジュールの性能は十倍だった。
 流石に宇宙空間での長時間稼働を狙っているだけのことはある。生命維持や体温調整機能も、使えるエネルギーが多いためこの世界のスーツのほうが優秀だった。

 これらのスペーススーツの優れた機能を防護スーツに取り入れることになった。
 まず、生体フィルムについては改良した成分と交換することですぐに改良出来た。さらに、この新しい生体フィルムは硬度の向上だけじゃなく電子回路を組み込む機能まであった。
 その機能を使って彼らは生体フィルムの中に通信機を作っていた。
 驚くべき機能だ。丁度いいので俺たちも同じ通信機を組み込むことにした。彼らとの通信手段が必要だからな。
 また、エネルギーモジュールについては真似て作る訳にもいかず、そのまま交換することにした。メンテは出来ない物なのでベルトに予備を装着することにした。
 もちろん生命維持機能、体温調整機能なども向上した。

 思ったよりすんなり改良が出来たので、おまけでスペーススーツに飛翔モードも追加することになった。
 既存のスラスターを使うので制限はあるし重力加速器のある俺たちの飛翔とは違うが、ゆっくりでも自在に飛べることは大きい。

  *  *  *

「多重世界通信機は凄いな。重力加速器がないから実現できないけど、世界の判定にも使えるんだろ?」

 スペーススーツと防護スーツの改良を終えたメカニックのカストが興味深そうに言った。

「転移発光物質を見付けられればね」

 今のところ、この世界は特定できていない。

「そういえば、この世界の名前はどうするの?」

 メリスが気になっていたようだ。

「そうだな。ガニメデに転移したんだから世界Gでいんじゃないか?」
「そうね。ガニメデだけで別世界作ってそうだしね」
「えっ? そんなことあるのか?」聞いてたカストがびっくりして言った。

「いや、分からない。どうなんだろな?」

「このガニメデと通信してる地球が含まれないことは無いでしょう」とレジン。

「ですよね。ということは太陽系で多重世界を作っているとか?」とカスト。

「恐らく、そうなのでしょう」とレジン。

「そうだな。まぁ、俺たちがここへ飛んできたことを考えると、このガニメデが世界Gの命運を担ってそうだけどな」

「俺たちが、世界の命運を?」とカスト。

「世界が分離したり俺たちのように飛ばされたりするかも」

「お、恐ろしい」とカスト。

「リュウったら、あんまり脅かしちゃ可哀そうよ」とメリス。
「そうよ。あっ、あんまりリュウと話すと本当に転移しちゃうから気を付けて」とユリ。
「はい、私たちもそうなりました」とメリス。
「うん。やばいかも」とセリー。
「ほんとですか?」とカスト。
「おいおい」
「大丈夫ですよ。リュウさんと話した人全員が転移するわけじゃありません」とレジン。

「そ、そうですね」

 ただ、言っているレジンが転移してしまっているので安心はできない。

  *  *  *

 防護スーツの改良により俺たちはガニメデ調査隊と一緒に動けるようになった。

「こりゃ凄いな。鳥のように自由自在だ」

 新しい飛翔モードを使って隊長のマクガイまで浮かれていた。
 今までのスペーススーツのスラスター操作とは段違いのようだ。
 まぁ、鳥が本当に自由自在なのかは知らない。

「こっちもパワードスーツになったようだ」

 防護スーツは、生体フィルムが丈夫になりエネルギーに余裕が出たので好きなだけパワーを出せるようになった。

「夢のように作業が進みますね」

 横で見ていた副隊長のアスモも呆れている。

「わらわにも楽々なのじゃ」

 ツウ姫が何トンもありそうな建材を楽々持ち上げている。
 まぁ、ガニメデなので元々重力は小さいのだが、慣性力はあるから重いものを動かすのは簡単ではない。それが、楽々運べるのだから凄い。
 ってか、危ないからやめてくれ!

 いままで出来なかったことやコンプレックスに感じてたことが出来たりすると、調子に乗ってしまうので特に危ないんだよなぁ。

「のう、リュウ」
「なんだ?」
「足が抜けない。助けるのじゃ!」言わんこっちゃない。

 低重力環境の作業は楽だと思われがちだが必ずしもそうではない。
 通常の感覚とは違うので集中力が必要になり、逆に精神的に疲れるのだ。
 それでもパワーが増大した効果は確実にあり、みんなであっという間に新しい居住棟と研究棟を完成させてしまった。

 もちろん、居住棟は調査隊用の回転式重力加速器なので俺たちは別に汎用棟を借りて生活することになった。
 俺たちが寝るだけなら最悪ゼロ気圧でもいいのだが、調査隊のメンバーも出入りするので与圧環境になっている。

 基地の施設は基本ドーム状の棟からなっている。
 そして各ドームは、太いパイプ状の気密通路で接続されている。ただし、これは外観上だ。ドームに見える施設は実際には球体であり三分の一ほどが地下に埋まっている。これで強度と安定性を確保しているとのこと。場合によっては半分ほど埋めてしまうこともあるようだ。こうすれば放射線対策になるという訳だ。
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