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第14話 過去との決別
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ヴァンローゼ家と対立することになるかもしれない。そう聞いたエレノアは、目を大きく見開き、その言葉の意味を理解しようと努めた。
「一方的な婚約の破棄と婚約者の変更に関して、ウィンターフェイド家から王宮へ改めて報告する」
エドモンドの声は低く、冷静だった。燭台の炎が彼の顔に揺らめく影を落として、その表情をより引き締まったものに見せている。
「それに加えて、ヴァンローゼ家の内情について調査を行わせた。そして判明したこと……」
彼は一度、深く息を吸ってから続ける。その瞬間、エレノアは彼の憤りが抑えられていることを感じ取った。まるで怒りを内側に封じ込めるように、彼は言葉を選びながら話していた。
「つまり、君が受けた扱いが、貴族家の娘として、いや、一人の人間として許されるものではないということを報告するつもりだ」
エレノアの心臓が跳ねた。彼女は思わず目を伏せた。いつか外へ出ていくと、我慢し続けてきた日々を思い出す。食事の途中で追い出され、空腹に耐えた日々。部屋に閉じこもって感じる孤独。
「食事の制限、教育の欠如、社交界からの隔離。そして妹からの絶え間ない嫌がらせ」
エドモンドが一つずつ数え上げる。エレノアが受けてきた仕打ちを。彼の声には抑えきれない怒りが滲んでいて、それはエレノアに向けられたものではなく、彼女を傷つけた人々への怒りだと分かった。
「これらの事実を、私は王宮に報告するつもりだ」
彼の宣言は、静かながらも断固としていた。
「そうなれば、ヴァンローゼ家は貴族社会で孤立することになるだろう。最悪の場合、爵位の剥奪もあり得る」
エレノアは息を呑んだ。彼女はそこまでの事態を想像していなかった。
「しかし、これは見過ごすことができない」
エドモンドの拳が、静かに机の上で固く握られた。
「貴族には責任と義務がある。自分の子供すら守れぬ者に、領民を守る資格はない。それが私の信条だ」
彼の言葉には、強い正義感と怒りが滲んでいた。エレノアは彼の顔を見上げた。彼の怒りは自分のためでもある。その認識が、彼女の胸に温かいものを灯した。
「このような行動をとれば、ヴァンローゼ家からの反発は必至だ」
エドモンドは話しながら、彼女の反応を注意深く観察していた。そして、反発するという予想を聞いたエレノアは、そうなるだろうと同意する。
「だから、君には選択肢がある」
彼は言葉を続けた。
「もし実家と争うことを望まないなら、別の方法もある。たとえば、別の貴族家への養子縁組。ウィンターフェイド家とヴァンローゼ家、今後どちらとも距離を置いて、関わらないようにして生きる道だ」
彼は真剣な眼差しで言った。その目には、彼女の幸せを願う気持ちが映っていた。
「その場合でも、私は最後まで君の面倒を見る。それを約束しよう」
エレノアは彼の言葉を静かに受け止めた。選択肢があること自体が、彼女にとっては新しい体験だった。ヴァンローゼ家では、彼女の意見など聞かれることはなかった。彼女は深く息を吸い、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「お気遣いありがとうございます。でも……」
彼女の声は、数ヶ月前にウィンターフェイド家の屋敷を訪れた頃よりも強く、確かなものになっていた。
「私は、実家に対する未練が一つもありません」
エレノアの言葉は予想以上に断固としていた。エドモンドは彼女の答えを真剣に受け止め、静かに頷いた。
「あの家にいた頃と比べて、今はとても幸せです。十分な食事、学ぶ機会、尊重してくれる人々。これらは今の私にとって、かけがえのない宝物です」
彼女の頬に、わずかに紅が差した。燭台の光が彼女の顔を優しく照らし、その表情をより生き生きとしたものに見せていた。
「そして何より、エドモンド様と過ごす日々が楽しみです。さっき言った気持ちに、変わりはありません」
彼女の目は真っ直ぐにエドモンドを見つめていた。初めて会った日の臆病な少女の面影はなく、そこにいたのは自分の気持ちをはっきりと伝えられる強さを持った女性だった。
「実家がどうなっても……私には関係ありません。過去は過去として、これからは自分の人生を生きていきたいと思います」
彼女の言葉に、エドモンドの表情が柔らかくなった。
「本当にそれでいいのか? 後悔はしないか?」
「はい。理由を聞いて、納得しました。今のままの関係を続けさせてください」
エレノアは迷いなく答えた。その言葉には、ウィンターフェイド家の屋敷で過ごしているうちに培われた彼女の強さと、新たな自信が込められていた。
エドモンドは満足そうに頷き、席から立ち上がった。椅子がわずかに床を擦る音が、静かな食堂に響いた。彼は彼女の横まで歩み寄ると、手を差し出した。
「わかった。では、改めてよろしく頼むエレノア」
エレノアも立ち上がり、彼の差し出した手をとった。その手の温もりが、彼らの誓いを象徴しているかのようだった。彼の手は大きく、力強く、そして安心感を与えてくれた。
「はい。こちらこそ、エドモンド様」
この握手とともに、エレノア・ヴァンローゼはエドモンド・ウィンターフェイドの正式な婚約者となった。窓の外の夜空に、一際明るい星が輝いていた。それは彼女の新しい人生の始まりを祝福しているかのようだった。
「一方的な婚約の破棄と婚約者の変更に関して、ウィンターフェイド家から王宮へ改めて報告する」
エドモンドの声は低く、冷静だった。燭台の炎が彼の顔に揺らめく影を落として、その表情をより引き締まったものに見せている。
「それに加えて、ヴァンローゼ家の内情について調査を行わせた。そして判明したこと……」
彼は一度、深く息を吸ってから続ける。その瞬間、エレノアは彼の憤りが抑えられていることを感じ取った。まるで怒りを内側に封じ込めるように、彼は言葉を選びながら話していた。
「つまり、君が受けた扱いが、貴族家の娘として、いや、一人の人間として許されるものではないということを報告するつもりだ」
エレノアの心臓が跳ねた。彼女は思わず目を伏せた。いつか外へ出ていくと、我慢し続けてきた日々を思い出す。食事の途中で追い出され、空腹に耐えた日々。部屋に閉じこもって感じる孤独。
「食事の制限、教育の欠如、社交界からの隔離。そして妹からの絶え間ない嫌がらせ」
エドモンドが一つずつ数え上げる。エレノアが受けてきた仕打ちを。彼の声には抑えきれない怒りが滲んでいて、それはエレノアに向けられたものではなく、彼女を傷つけた人々への怒りだと分かった。
「これらの事実を、私は王宮に報告するつもりだ」
彼の宣言は、静かながらも断固としていた。
「そうなれば、ヴァンローゼ家は貴族社会で孤立することになるだろう。最悪の場合、爵位の剥奪もあり得る」
エレノアは息を呑んだ。彼女はそこまでの事態を想像していなかった。
「しかし、これは見過ごすことができない」
エドモンドの拳が、静かに机の上で固く握られた。
「貴族には責任と義務がある。自分の子供すら守れぬ者に、領民を守る資格はない。それが私の信条だ」
彼の言葉には、強い正義感と怒りが滲んでいた。エレノアは彼の顔を見上げた。彼の怒りは自分のためでもある。その認識が、彼女の胸に温かいものを灯した。
「このような行動をとれば、ヴァンローゼ家からの反発は必至だ」
エドモンドは話しながら、彼女の反応を注意深く観察していた。そして、反発するという予想を聞いたエレノアは、そうなるだろうと同意する。
「だから、君には選択肢がある」
彼は言葉を続けた。
「もし実家と争うことを望まないなら、別の方法もある。たとえば、別の貴族家への養子縁組。ウィンターフェイド家とヴァンローゼ家、今後どちらとも距離を置いて、関わらないようにして生きる道だ」
彼は真剣な眼差しで言った。その目には、彼女の幸せを願う気持ちが映っていた。
「その場合でも、私は最後まで君の面倒を見る。それを約束しよう」
エレノアは彼の言葉を静かに受け止めた。選択肢があること自体が、彼女にとっては新しい体験だった。ヴァンローゼ家では、彼女の意見など聞かれることはなかった。彼女は深く息を吸い、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「お気遣いありがとうございます。でも……」
彼女の声は、数ヶ月前にウィンターフェイド家の屋敷を訪れた頃よりも強く、確かなものになっていた。
「私は、実家に対する未練が一つもありません」
エレノアの言葉は予想以上に断固としていた。エドモンドは彼女の答えを真剣に受け止め、静かに頷いた。
「あの家にいた頃と比べて、今はとても幸せです。十分な食事、学ぶ機会、尊重してくれる人々。これらは今の私にとって、かけがえのない宝物です」
彼女の頬に、わずかに紅が差した。燭台の光が彼女の顔を優しく照らし、その表情をより生き生きとしたものに見せていた。
「そして何より、エドモンド様と過ごす日々が楽しみです。さっき言った気持ちに、変わりはありません」
彼女の目は真っ直ぐにエドモンドを見つめていた。初めて会った日の臆病な少女の面影はなく、そこにいたのは自分の気持ちをはっきりと伝えられる強さを持った女性だった。
「実家がどうなっても……私には関係ありません。過去は過去として、これからは自分の人生を生きていきたいと思います」
彼女の言葉に、エドモンドの表情が柔らかくなった。
「本当にそれでいいのか? 後悔はしないか?」
「はい。理由を聞いて、納得しました。今のままの関係を続けさせてください」
エレノアは迷いなく答えた。その言葉には、ウィンターフェイド家の屋敷で過ごしているうちに培われた彼女の強さと、新たな自信が込められていた。
エドモンドは満足そうに頷き、席から立ち上がった。椅子がわずかに床を擦る音が、静かな食堂に響いた。彼は彼女の横まで歩み寄ると、手を差し出した。
「わかった。では、改めてよろしく頼むエレノア」
エレノアも立ち上がり、彼の差し出した手をとった。その手の温もりが、彼らの誓いを象徴しているかのようだった。彼の手は大きく、力強く、そして安心感を与えてくれた。
「はい。こちらこそ、エドモンド様」
この握手とともに、エレノア・ヴァンローゼはエドモンド・ウィンターフェイドの正式な婚約者となった。窓の外の夜空に、一際明るい星が輝いていた。それは彼女の新しい人生の始まりを祝福しているかのようだった。
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