【完結】だからギルドの男は嫌なんです!

在ル在リ

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本編

14 - 1 謝罪

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 今日も部屋を訪ねて来たのはユーディスだけ。彼の顔を見て肩を落とすと「失礼な奴だな」と笑ってくれる。その笑顔に落ちた気分が少し救われた。

「サリダ、これを預かってきた」

 差し出されたのは一通の手紙。そっと受け取り、封をされていない封筒を開いて中を確認した。そこに書かれていたものを見て、私は言葉を詰まらせた。
 黒いインクのペンでぐにゃぐにゃの線がつづられ、読むことのできない文字。水分を含んだのか紙が波打っている。

 先日、ユーディスにアスターとの面会を希望したが、加害者と被害者の面会は許可が下りないと告げられた。代わりに私は彼に手紙を書いた。あんな目に遭ったのに律儀に書かなくていい、と言われたけれど。
 彼の告白に対して断りの返事と、彼が犯した罪を忘れないように恨み辛み、罵詈ばり雑言を綴った。ゆるしをもらえるとは到底思わないだろう文面で。

「見てのとおり、今そういう状態だ。返事を書いたらしいが誰も読めない。魔法薬の離脱症状で体の震えが突然起こるし、記憶力も低下する。話したことも明日には忘れてしまうかもしれない。文字も……忘れちまったのかな」

 目を伏せるユーディスの悲痛な声。恐らく本人と接見したのだろう。彼の悲愴ひそうな面持ちでどれだけ衝撃を受けたのかが伝わる。

 いつか正常な状態で手紙を読める日が来たら、アスターに思い出して欲しい。薬に溺れていなくとも、彼は女を自由にできるとおごり、どこかで見下していた。それが今回のことを招いたのだ。彼のしたことが生涯ゆるされることなどない。
 魔法薬中毒の治療を続ける中毒者の社会復帰は、まだ誰も果たせていないという。アスターは生涯、中毒者として生きていくことになるかもしれない。それが生涯受ける彼の罰なのだろう。

 それなのに。あんな目に遭ったのに。私の中にある彼への情を消すことができない。彼をあんな風にしたのは私かもしれないと思うと。それがたくさんの被害者を生んだんじゃないかと思うと――。

「おい、こら。何考えてんのか想像付くが、アイツがああなったのは自業自得だ。お前には何の責任もない」

 タオルを頭にかぶせられ、無骨な手で顔をくちゃくちゃに拭かれた。ユーディスはすごく雑だ。もうちょっと女性の扱いは丁寧にした方がいいと思う。
 けれど、彼の扱いはすごく雑だけれど、本当に面倒見が良すぎて……胸が詰まる。

「……ユーディスさんも、タオル要ります? そこにあるから使っていいですよ」

 窓際のテーブルに置かれた洗濯物の入ったバスケットを指差すと、ユーディスはからっとした笑い声を上げた。それから「明日は頼む」と一言告げて、ユーディスはそのまま任務に向かった。



 翌日、いつもの習慣で五時半に目が覚めた。
 カーテンを開けると紺碧の空からオレンジ色へのグラデーションがとても綺麗で、私は寝ぼけた頭がスッキリするまで、紺碧のキャンバスが明るく染まっていく様子を眺めた。
 食事もちゃんと取れるようになって、レオンの作ってくれた朝食を残さず食べた。身だしなみを整え、ペンダントを身に着ける。約束の時間になるまで落ち着いてはいたけれど、どこか緊張をはらんだ面持ちでいた。

 コンコン、と部屋の扉からノック音がする。約束の時間より随分早い。
 小さく深呼吸すると、私は部屋の扉を開けていつもラモントで見せる笑顔を作った。

「おはよう、久しぶりね。──怪我の調子はどう?」

 少し寝癖の付いたアッシュブロンドの髪、ヘーゼル色の瞳を伏せるこの男に会うのは久しぶりだった。
 ウィスコールの魔導士ローブは羽織らず、任務中とは思えない黒いシャツとダークグレーのパンツという軽装で、腰に帯剣している。剣が使えるということをこの時初めて知った。

「……おはようございます。もう平気です」
「そう、良かった」

 男はりんとしたたたずまいで私を真っ直ぐ見る。その瞳の奥に熱く強い意志を感じさせた。

「サリダ、少し散歩しませんか?」

 目覚めてから一週間。ウィスコールの一室で過ごしていた間、この男は一度も会いに来なかった。会うのは暴動鎮圧の任務に向かったあの朝以来、初めてだった。

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