【完結】だからギルドの男は嫌なんです!

在ル在リ

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本編

13 - 4 彼らの任務

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「アスターがずっとお前に執着してたからロゼがお前を警護してたんだがな、今回の捜査には魔法検知の出来る人材が多く必要だった。言い方は悪いが、警護のために優秀な人材を割くわけにもいかず、アスターを遠征に出した方が得策だと判断した。一応こっちにいるギルド員を念のためお前に付けて、行動は報告させていた」

 ユーディスは申し訳なさそうに眉尻を下げる。
 私の行動が筒抜けだったのは、捜査チームで情報共有していたからだったようだ。ロゼが私のそばにいたのも、やはり任務のため。薄々気付いていたことなのに、改めて聞かされると心が重い。

「その矢先、アスターに付けてた捜査チームの方で動きがあった。魔法検知に成功したと報告があったんだ。アスターのピアスに反応があって、宿泊先で取り押さえたらしい。だがその時、現場にいたのが捜査チームの他に一般人もいた。自暴自棄になったアスターは周りに被害を出して逃走した」
「指名手配されたのはそれだったんですね。……その時ロゼとディランもいたんですよね? 彼らでも止められなかったんですか」

 ロゼは魔導士の中でも優秀だと言われていた。ディランだってランク試験こそ受けていないが、能力は高いと聞いている。彼らでもアスターを捕えられなかったんだろうか。
 ユーディスは視線を落とすと、髪をかきあげて小さく息をついた。

「アスターはランク六でも上位にいて潜伏魔法も使える。ランク七相当の実力だったそうだ。捜査チームにランク七のギルド員も配備してたがみんな一般人を守りながらの応戦で、ロゼは奴を殺さないよう加減してたせいか大きな怪我を負った」

 大きな怪我。それを聞いて血の気が引いた。
 私はまだ、ロゼがこの町に戻った姿を見ていない。

「ロゼは無事なんですか……!? どんな怪我をしたんですか!?」
「腹を斬られただけだ。ディランが治療して、今はもう任務に就いてるよ」
「斬られただけって……!」

 居ても立ってもいられず、ブランケットをめくってベッドから出ようとすると、すぐに腕をつかまれた。

「落ち着け! アイツはそんな柔じゃない、心配いらん」
「だってまだ、彼の姿を見てません……」

 何か言いたげなユーディスだったが、黙って私をベッドの真ん中に戻して、上からブランケットをかぶせた。薄いグレーの瞳が心配そうに私を見る。

「まだここを出るのは許可できない。何も食ってないんだからちゃんと飯を食え。今立ち上がったって倒れるぞ」
「……はい」

 私がアスターに襲われた時、ロゼはあの現場にいたんだろうか。怪我をした体で……? 思い出そうとしてもぼんやりしたまま頭が働かない。思い出せないことに苛立ちが募る。

「──そうだ。これ、返しておくよ」

 ユーディスは私の前に小さな紙の袋を差し出した。私が手を出して受け取ろうとすると、彼は袋をひっくり返して中の物を私の手のひらに落とした。
 あまり重さを感じない繊細な金属のチェーン。シャラシャラと音がして、切れたところは新しいチェーンで修理されている。そこにぶらさがる小さな淡い黄緑の石。私を守ってくれた物。

「帰宅許可が出たら自分で着けてくれ。……大層な物をもらったもんだな」

 恐らく術者以外の異性が触れると魔法が発動する物。以前、ホール店員のクリエが私の腕に触れても魔法は発動しなかった。
 本当に大層だと思う。そこまでしてロゼは私を守ろうとしていたんだ。それも全部、任務のため……だったんだ。

「……ロゼは、今どこに……?」
「任務遂行中だ。片付いたらそのうち顔を出すだろう」

 今は会えない……。
 魔法薬の捜査はまだ今も続いているんだ。

「そうですか……。ユーディスさんはここにいていいんですか?」
「今はここで、のんびりおしゃべりするのが俺の仕事だな」

 ユーディスが明るく冗談のように話していると、入口の方から「失礼します」と女性の声が聞こえた。

「目が覚めて良かったわサリダ。気分はどう?」

 姿を見せたのはいつも執務室にいる事務のリリアン。ベッドの横にあるベッドテーブルを私の前に移し、その上にトレーを置いた。少し深さのある皿で私の目に映るのは濁った黄金色の液体。ブイヨンのいい香りがして、スープのように見える。

「これはレオンお手製のリゾット。とーっても柔らかくしておいたわよって。無理しないで食べられるだけでいいから。丸二日何も食べてないんだから少しずつ胃腸を動かして」

 リリアンがレオンの表情と口調を真似て言うから、思わず笑みが零れた。それを見ていたユーディスの表情が少し和らいだ。
 ほとんど液体のリゾットに口を付けた。知っている、いつものレオンの味。『早く元気になって戻って来なさいよね!』とおじさんの裏声が脳裏に響く。
 温かい。早く顔を見たい。ラモントでいつもの軽口を叩きたい。いつもの日常が恋しい。そのためにも、しっかり食べなくちゃ。
 子供でも足りないくらいの量を完食し、苦しくなったお腹を擦った。


 それから翌日になってもロゼは任務に出ていて会えなかった。その次の日も。毎日顔を出してくれるのはユーディスとリリアン、そして私のケアをする女性の治癒士だけ。
 私の帰宅も許可が下りない。帰宅……といってもアスターに襲われたあのロゼの家に戻るのか、私のアパートへ戻るのか、何も考えていなかった。

 ウィスコールの四階の一室を借りていて、私はそこで過ごしていた。
 シャワーもついているし、洗濯はリリアンに言えばいい。着替えなどは全てロゼが渡していたのか、私の衣類が入った鞄が届けられていた。

 アスターを捕らえることができ、私の警護も必要なくなったからかもしれない。
 ロゼが私に会いに来ることはなかった。

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