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第14話 変態オヤジに気をつけろ
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ゴブリンたちが住んでいる、ゲチハデ王国では、ダグラス国王が息子にどなっていた。
「デニス! わしはそんなくだらないことを頼んだ覚えはない!」
まだ七歳のデニスは、小さくなって国王を見つめる。「ぼく、ただパパの役に立ちたかっただけです。クリスはそこにはいなかったです。ランラン、ぼくに秘密の部屋、見せてくれたです」
「可愛いからといって許されると思うな!」国王は容赦なかった。「わしはクリスに頼んでデイブレイクの女二人を連れてこさせろと言ったのだ!」
「なんでですか?」デニスが大きな目をうるうるさせている。
「奴隷にするのだ」
「奴隷にして、どうするです? ひどいことするですか?」デニスはランランが心配だった。優しくて可愛いランランに、デニスは恋心のようなものまでいだいてしまったのだ。
「子どもには早すぎることだ」国王が言う。「今回の失敗は許そうではないか。まあ、なんだかんだ言って、お前は可愛い可愛い息子だ」
「パパ、嬉しいです」デニスがにこっとする。
デニスはとても可愛い容姿をしているが、ダグラスは典型的なゴブリンと同じく、醜くて気持ち悪い容姿をしている。
「次は無理やりにでも、女二人を連れてこい!」国王がにやりと薄気味悪い笑みを浮かべる。「スペイゴールで一番の美女二人……これは楽しめそうだ……」
そんなことも知らないデイブレイク五人は、アジト周辺の畑で農作業をしていた。
いつも肉ばかり食べているわけではない。戦士には野菜が必要なのである。
「やれやれ、今日は暑すぎだろ!」アキラが汗をぬぐう。「五人だけでこの畑を管理するなんで無理だ!」
「まだ五歩しか歩いてないじゃないか」クリスが呆れた。「杖士はあらゆる暑さにも寒さにも耐えないと」
「杖士の掟はどうでもいいとか言ってなかったっけ?」
「そうは言ってない。自由だと言ったんだ」
「じゃあ、畑仕事はしなくてもいいよな?」アキラはすっかり勝った気でいる。
「まだあたしより進んでないじゃん!」ランランが言った。「ねえ、男でしょ!」
「おいおい、それは関係ないだろ! 杖士の掟に、『男だから、女だから、という固定概念は捨てるべし』って書いてあったじゃんか」
「掟のこと言うなら、ちゃんと仕事してよね!」ランランは勝ち誇った表情でアキラを見た。
アキラはため息をついた。「まあ、それもそうか」
「素直でよろしい。よしよし」
「なんかむかつくんだけど」
「別にいいじゃん」
「ねえ、アキラ。アキラのスコップくれない?」シエナは強引に二人の会話に割り込んだ。
「え? 今持ってるやつじゃだめなのか?」アキラが聞く。
「うん、アキラのがいいの」
アキラは、変なの、と思いながらスコップを渡した。「あれ? てことは、俺の仕事がなくなるぞ! やった!」
「ほい」ジャックがアキラに新しいスコップを投げる。
「なんだよー」
そうやって二時間近く楽しく農作業をしていた。
「ちゃんと育つといいけど」ランランが言った。「あたしが一生懸命植えた野菜だもん」
「大丈夫、すぐに大きくなるさ」クリスが微笑んだ。
「うそでしょ! あ、あーーー!」ランランが急に大声で叫んだ。
「なんだ?」四人とも杖を出して、瞬時に攻撃態勢に入る。
「デニスちゃん!」ランランは今までにないほど喜んでいた。「可愛い!」
ランランが愛しさのあまり、デニスを抱っこする。
「おい、まじかよ」アキラは本気で呆れている。
「こいつか」ジャックも嫌そうだ。
クリスとシエナはまだ警戒している。
「急に叫ぶから敵かと思っただろ!」アキラが強くどなった。「心配して損した」
「いいじゃん、別に」ランランが首を振る。「だって、また会えたんだよ! こんなに可愛い坊やに」
「あのゴブリンはなんだ? みんな、知ってるのか?」クリスは警戒心むき出しで聞いた。
「ああ、あいつはランランのお気に入りだ」ジャックが答える。「ちょうどクリスがいなかったときにきたやつだ」
「そうなのか」クリスの警戒心は、すぐにランランへの呆れに変わった。
「つき合ってられないだろ?」アキラが言う。「俺たちはアジトに入ってようか」
「賛成だ」
「僕も同感」
そうして男子三人はアジトの中に帰っていった。
「あらあら、可愛いー」ランランは気づいてすらいない。
「わ、私も中に入って――」
「ちょっと待ってです!」
シエナがアジトに入ろうとすると、慌ててデニスが止めた。
「ぼく、二人にゲチハデ王国を見てほしいです」
「ゲチハデ王国って、ゴブリンの王国のこと?」シエナが目を細めて聞く。
「はい、ぼくの故郷なんです」
「故郷に連れていってくれるの? 嬉しい!」ランランは素直に喜んだ。
シエナは嫌な予感を感じ取っていた。しかし、デニスにメロメロのランランには言うことができない。「ちょっと三人に聞いて――」
「そんなのいいでしょ」ランランが言った。「どうせだめだって言うに決まってる」
「そうかもしれないけど――」
「親友でしょ? お願い?」ランランの表情も可愛かった。「シエナ、ね?」
親友の頼みを断ることはできない。確かにたまに嫉妬することはあるが、そのうちアキラのハートは手に入るだろう。
「わかったわ。行きましょう」
そうして、女子二人とデニスは、ゴブリンの王国へと向かっていった。
「ランランのわがままな性格が直らないかなー」アキラはソファーに横になり、大きなため息をついた。「あの性格が改善されれば、つき合ったりしてみたいんだけどなー」
「わがままなところも個性だ。だからランランがいると明るくなるんじゃないか?」クリスが言う。「それに、アキラにはもうシエナがいるだろ?」
「え? シエナ? 俺には無理だって! あんな美女が俺のこと好きになってくれるわけないだろ!」
フルーツティーを飲んでいたジャックが吹き出した。「お前はアホか?」
「おいおい、俺は天才の中の天才だ」アキラが否定する。「道場でカリス師匠から『伝説の訓練生』と言われた男だぞ」
「カリス師匠はお前を気に入っていた。その口うるさいところだけは嫌っていたがな」
「よく言うじゃないか! カリス師匠はジャックを『一流の皮肉屋』って褒めてたぞ!」
「それはどうも」
「あんまり悪口にはなっていなかったみたいだぞ」クリスが笑いながら言った。
「確かに。不発だったな。俺としたことが」
女子二人はゲチハデ王国に着いていた。
「うわ。ゴブリンがいっぱい」シエナが泣きそうな顔をする。「私、苦手みたい」
「ちょっと! 失礼でしょ!」
「でも――」
「今から、僕のパパに会ってもらうです」デニスが言った。「パパ、もうすぐくるです」
「うわぁ。どんな人なのかなー?」ランランは妄想を膨らませていた。デニスもこんなに可愛いのだから、きっと父親も可愛いのだろう。
シエナは気味の悪い王国の風景に気分を悪くしている。ゲチハデ王国はまさにゴブリンの住む場所。暗くて薄汚い王国だ。
ついでに、地面だってぬめぬめしていてぬかるんでいる。
「おやおや、やっとお目にかかれたか」
デニスが連れてきた父親は、汚らしくて背の低いゴブリンだった。
これにはランランも一瞬でがっかりする。しかし、口には出さなかった。
シエナは吐くのを必死で我慢した。
「ゲチハデ王国へようこそ! わしはデニスの父で、ここの国王である、ダグラスだ。人間の美女がお二人とはなんとも素晴らしい」国王が言った。「お仲間はどうした? クリス、アキラ、ジャックは?」
「三人を知ってるんですね!」ランランが答えた。「知り合いですか?」
「いいや、聞いたことがあるだけだ」
「ぷうん」ランランはさらにがっかりした。「あれ? 愛しのデニスちゃんはどこです?」
「デニスか? 彼には家に帰ってもらった」
「え? なんでー?」
「それはだな」国王は気持ち悪い笑みを浮かべる。「子どもに見せてはいけないことをするためだよ!」
「え? きゃーーー!」ランランが叫んだ。
急に背後から複数人のゴブリンに押さえつけられ、体を縛られたのだ。
シエナも同じだった。「あーん! やめて! お願い!」
変態なダグラス国王はにやにや笑っている。「いいぞいいぞ」
「やめて! この変態!」ランランが叫ぶ。「そこはさわらないで!」
「いやっ」シエナがゴブリンたちの顔面を蹴りつける。
しかし、ゴブリンは予想以上にタフだ。
「最悪!」ランランは泣き叫んでいる。「こなければよかった!」
「お前たちはわしらの奴隷だ! たっぷりと楽しませてもらおう!」
ゴブリンの男のひとりが、シエナのスカートを切り裂いた。
「いや! やめて!」シエナはどうにか体を縛っているひもをほどきたかったが、ゴブリンの国で作られるひもは切れにくい。
シエナの美しくてつやのある生脚があらわになった。
「おー! これはわしの獲物だ」変態国王がシエナに近づく。
「おい! シエナに触れるな!」
どこかから声がした。
「この声は!」シエナがはっとする。
声のした方を見ると、アキラが縛られた状態で木に吊るされていた。
「ちょっと! 助けにきてくれたかと思ったじゃない!」ランランが泣き叫ぶ。
「おいおい! 俺はちゃんと助けにきたぞ!」アキラが笑った。
「そしたらなんで縛られてるの?」シエナが聞く。
「それはだな――」
【アキラの回想】
俺はなんだか違和感を感じていた。
女性陣二人がゴブリンの国に行っているだろう、というのはなんとなくわかっていたが、やっぱりいやーな予感がする。
「俺たちも行った方がいいんじゃないか?」
「いや、大丈夫だろう」クリスが答える。「僕たちは邪魔しない方がいい」
「エルフの直感がそう言ってるって?」
「そうだ」
「ジャックは?」
「俺は興味なんてない。心配はいらない。そのうち帰ってくる」
「んー」
自分の直感に逆らえなかった俺は、すぐにゴブリンの国まで駆けつけた。まあ、結局俺が正しかったってことだ。
だが問題は、ゴブリンの国がまあまあ広いってことだな。だから二人を捜すのにも時間がかかるだろ?
てなわけで、わざとゴブリンに捕まって、ここまで連れてきてもらった――そういうことだ。
「なるほど」とランラン。「わかったから、早くどうにかして!」
「オッケー」
アキラは杖を呼び出し、素早くひもを切り裂いた。地面に落下する際には体を回転させ、両足でしっかりと着地する。
あっという間の戦いだった。
杖さえ呼び出してしまえば、ゴブリンもやっかいなひもも、楽勝だった。ランランとシエナは、ひもで縛られていた上にゴブリンに押さえつけられていたので、自由に杖を呼び出すことすらできなかった。
アキラがすぐに二人のひもを切る。
「ありがと」シエナがアキラに抱きついた。「大好き」
今の一言は、小さすぎてアキラには聞こえなかった。
「やるじゃない」ランランが言う。「でも……ありがと。助けにきてくれて」
「いいってことよ」
自由になった三人は、変態な国王を見た。
「こいつをどうするか、だな」
他のゴブリンたちは地面に倒されている。死んではいないが、気絶していた。
「頼む! 命だけは助けてくれ!」国王が言った。「謝りますから!」
恐怖で声がかすれている。同情したくなりそうだ。
「まずは二人に謝ったらどうだ?」
「すみません、すみません。体をさわってすみません」土下座の状態で、何度も何度も頭を下げている。
ランランもシエナも、軽蔑した目で国王を見ていた。あまりの冷たさに身震いしたくなるほどだった。
「なんだか気の毒だ」アキラが言った。
「ちょっと! こいつ、あたしの胸をさわろうとしてきたのよ!」ランランが怒る。「アキラはいつも優しすぎ。敵に同情したり、甘かったり――それが悪い癖なのよ!」
「でも、そういうところがいいの」シエナはアキラの腕を取った。「敵にも甘々なところが」
「アキラ……」ダグラス国王は言葉を失っていた。「なんていいやつなんだ! わしはお前が気に入った!」
「どの口が言ってんのよ!」ランランがにらむ。
「申し訳ない。何かわしにできることはないか?」ダグラスが聞いた。
アキラは少し考えた。「それじゃあ、俺たちの建国事業に協力してほしい」
「アキラ、こんなやつらと一緒に仕事したくないよー」ランランが涙目になる。「またさっきみたいなことが起こるかもしれないし」
「そのときはそのときだ。ゴブリンの国は広いし、国民も多い。ゴブリンは確かにキモいが、戦力にもなるし、ものを作るのがうまい」
「アキラ、素晴らしい男だ! ゲチハデ王国は、お前たちの建国事業とやらに協力しようではないか!」
「もし次、ランランかシエナに触れたら……わかってるな?」
「はい、はい、もちろんわかってます」
「よし、それじゃあ、俺たちはアジトに帰るぞ!」
そうして、三人は帰っていった。
★ ★ ★
~作者のコメント~
今回は少し不快になるシーンもあり、すみませんでした。しかし、アキラが登場して、最初は縛られた悲しい姿でしたが、どかんと戦ってくれたのですっきりです。
第5話であった伏線が、やっとここに繋がってよかったです。
次の回のタイトルは『クリスの元カノ』
え? クリスに元カノがいたのか!?
まあ、570年も生きていたら、流石にいますよね。ていうわけで、次回もお楽しみに!!
「デニス! わしはそんなくだらないことを頼んだ覚えはない!」
まだ七歳のデニスは、小さくなって国王を見つめる。「ぼく、ただパパの役に立ちたかっただけです。クリスはそこにはいなかったです。ランラン、ぼくに秘密の部屋、見せてくれたです」
「可愛いからといって許されると思うな!」国王は容赦なかった。「わしはクリスに頼んでデイブレイクの女二人を連れてこさせろと言ったのだ!」
「なんでですか?」デニスが大きな目をうるうるさせている。
「奴隷にするのだ」
「奴隷にして、どうするです? ひどいことするですか?」デニスはランランが心配だった。優しくて可愛いランランに、デニスは恋心のようなものまでいだいてしまったのだ。
「子どもには早すぎることだ」国王が言う。「今回の失敗は許そうではないか。まあ、なんだかんだ言って、お前は可愛い可愛い息子だ」
「パパ、嬉しいです」デニスがにこっとする。
デニスはとても可愛い容姿をしているが、ダグラスは典型的なゴブリンと同じく、醜くて気持ち悪い容姿をしている。
「次は無理やりにでも、女二人を連れてこい!」国王がにやりと薄気味悪い笑みを浮かべる。「スペイゴールで一番の美女二人……これは楽しめそうだ……」
そんなことも知らないデイブレイク五人は、アジト周辺の畑で農作業をしていた。
いつも肉ばかり食べているわけではない。戦士には野菜が必要なのである。
「やれやれ、今日は暑すぎだろ!」アキラが汗をぬぐう。「五人だけでこの畑を管理するなんで無理だ!」
「まだ五歩しか歩いてないじゃないか」クリスが呆れた。「杖士はあらゆる暑さにも寒さにも耐えないと」
「杖士の掟はどうでもいいとか言ってなかったっけ?」
「そうは言ってない。自由だと言ったんだ」
「じゃあ、畑仕事はしなくてもいいよな?」アキラはすっかり勝った気でいる。
「まだあたしより進んでないじゃん!」ランランが言った。「ねえ、男でしょ!」
「おいおい、それは関係ないだろ! 杖士の掟に、『男だから、女だから、という固定概念は捨てるべし』って書いてあったじゃんか」
「掟のこと言うなら、ちゃんと仕事してよね!」ランランは勝ち誇った表情でアキラを見た。
アキラはため息をついた。「まあ、それもそうか」
「素直でよろしい。よしよし」
「なんかむかつくんだけど」
「別にいいじゃん」
「ねえ、アキラ。アキラのスコップくれない?」シエナは強引に二人の会話に割り込んだ。
「え? 今持ってるやつじゃだめなのか?」アキラが聞く。
「うん、アキラのがいいの」
アキラは、変なの、と思いながらスコップを渡した。「あれ? てことは、俺の仕事がなくなるぞ! やった!」
「ほい」ジャックがアキラに新しいスコップを投げる。
「なんだよー」
そうやって二時間近く楽しく農作業をしていた。
「ちゃんと育つといいけど」ランランが言った。「あたしが一生懸命植えた野菜だもん」
「大丈夫、すぐに大きくなるさ」クリスが微笑んだ。
「うそでしょ! あ、あーーー!」ランランが急に大声で叫んだ。
「なんだ?」四人とも杖を出して、瞬時に攻撃態勢に入る。
「デニスちゃん!」ランランは今までにないほど喜んでいた。「可愛い!」
ランランが愛しさのあまり、デニスを抱っこする。
「おい、まじかよ」アキラは本気で呆れている。
「こいつか」ジャックも嫌そうだ。
クリスとシエナはまだ警戒している。
「急に叫ぶから敵かと思っただろ!」アキラが強くどなった。「心配して損した」
「いいじゃん、別に」ランランが首を振る。「だって、また会えたんだよ! こんなに可愛い坊やに」
「あのゴブリンはなんだ? みんな、知ってるのか?」クリスは警戒心むき出しで聞いた。
「ああ、あいつはランランのお気に入りだ」ジャックが答える。「ちょうどクリスがいなかったときにきたやつだ」
「そうなのか」クリスの警戒心は、すぐにランランへの呆れに変わった。
「つき合ってられないだろ?」アキラが言う。「俺たちはアジトに入ってようか」
「賛成だ」
「僕も同感」
そうして男子三人はアジトの中に帰っていった。
「あらあら、可愛いー」ランランは気づいてすらいない。
「わ、私も中に入って――」
「ちょっと待ってです!」
シエナがアジトに入ろうとすると、慌ててデニスが止めた。
「ぼく、二人にゲチハデ王国を見てほしいです」
「ゲチハデ王国って、ゴブリンの王国のこと?」シエナが目を細めて聞く。
「はい、ぼくの故郷なんです」
「故郷に連れていってくれるの? 嬉しい!」ランランは素直に喜んだ。
シエナは嫌な予感を感じ取っていた。しかし、デニスにメロメロのランランには言うことができない。「ちょっと三人に聞いて――」
「そんなのいいでしょ」ランランが言った。「どうせだめだって言うに決まってる」
「そうかもしれないけど――」
「親友でしょ? お願い?」ランランの表情も可愛かった。「シエナ、ね?」
親友の頼みを断ることはできない。確かにたまに嫉妬することはあるが、そのうちアキラのハートは手に入るだろう。
「わかったわ。行きましょう」
そうして、女子二人とデニスは、ゴブリンの王国へと向かっていった。
「ランランのわがままな性格が直らないかなー」アキラはソファーに横になり、大きなため息をついた。「あの性格が改善されれば、つき合ったりしてみたいんだけどなー」
「わがままなところも個性だ。だからランランがいると明るくなるんじゃないか?」クリスが言う。「それに、アキラにはもうシエナがいるだろ?」
「え? シエナ? 俺には無理だって! あんな美女が俺のこと好きになってくれるわけないだろ!」
フルーツティーを飲んでいたジャックが吹き出した。「お前はアホか?」
「おいおい、俺は天才の中の天才だ」アキラが否定する。「道場でカリス師匠から『伝説の訓練生』と言われた男だぞ」
「カリス師匠はお前を気に入っていた。その口うるさいところだけは嫌っていたがな」
「よく言うじゃないか! カリス師匠はジャックを『一流の皮肉屋』って褒めてたぞ!」
「それはどうも」
「あんまり悪口にはなっていなかったみたいだぞ」クリスが笑いながら言った。
「確かに。不発だったな。俺としたことが」
女子二人はゲチハデ王国に着いていた。
「うわ。ゴブリンがいっぱい」シエナが泣きそうな顔をする。「私、苦手みたい」
「ちょっと! 失礼でしょ!」
「でも――」
「今から、僕のパパに会ってもらうです」デニスが言った。「パパ、もうすぐくるです」
「うわぁ。どんな人なのかなー?」ランランは妄想を膨らませていた。デニスもこんなに可愛いのだから、きっと父親も可愛いのだろう。
シエナは気味の悪い王国の風景に気分を悪くしている。ゲチハデ王国はまさにゴブリンの住む場所。暗くて薄汚い王国だ。
ついでに、地面だってぬめぬめしていてぬかるんでいる。
「おやおや、やっとお目にかかれたか」
デニスが連れてきた父親は、汚らしくて背の低いゴブリンだった。
これにはランランも一瞬でがっかりする。しかし、口には出さなかった。
シエナは吐くのを必死で我慢した。
「ゲチハデ王国へようこそ! わしはデニスの父で、ここの国王である、ダグラスだ。人間の美女がお二人とはなんとも素晴らしい」国王が言った。「お仲間はどうした? クリス、アキラ、ジャックは?」
「三人を知ってるんですね!」ランランが答えた。「知り合いですか?」
「いいや、聞いたことがあるだけだ」
「ぷうん」ランランはさらにがっかりした。「あれ? 愛しのデニスちゃんはどこです?」
「デニスか? 彼には家に帰ってもらった」
「え? なんでー?」
「それはだな」国王は気持ち悪い笑みを浮かべる。「子どもに見せてはいけないことをするためだよ!」
「え? きゃーーー!」ランランが叫んだ。
急に背後から複数人のゴブリンに押さえつけられ、体を縛られたのだ。
シエナも同じだった。「あーん! やめて! お願い!」
変態なダグラス国王はにやにや笑っている。「いいぞいいぞ」
「やめて! この変態!」ランランが叫ぶ。「そこはさわらないで!」
「いやっ」シエナがゴブリンたちの顔面を蹴りつける。
しかし、ゴブリンは予想以上にタフだ。
「最悪!」ランランは泣き叫んでいる。「こなければよかった!」
「お前たちはわしらの奴隷だ! たっぷりと楽しませてもらおう!」
ゴブリンの男のひとりが、シエナのスカートを切り裂いた。
「いや! やめて!」シエナはどうにか体を縛っているひもをほどきたかったが、ゴブリンの国で作られるひもは切れにくい。
シエナの美しくてつやのある生脚があらわになった。
「おー! これはわしの獲物だ」変態国王がシエナに近づく。
「おい! シエナに触れるな!」
どこかから声がした。
「この声は!」シエナがはっとする。
声のした方を見ると、アキラが縛られた状態で木に吊るされていた。
「ちょっと! 助けにきてくれたかと思ったじゃない!」ランランが泣き叫ぶ。
「おいおい! 俺はちゃんと助けにきたぞ!」アキラが笑った。
「そしたらなんで縛られてるの?」シエナが聞く。
「それはだな――」
【アキラの回想】
俺はなんだか違和感を感じていた。
女性陣二人がゴブリンの国に行っているだろう、というのはなんとなくわかっていたが、やっぱりいやーな予感がする。
「俺たちも行った方がいいんじゃないか?」
「いや、大丈夫だろう」クリスが答える。「僕たちは邪魔しない方がいい」
「エルフの直感がそう言ってるって?」
「そうだ」
「ジャックは?」
「俺は興味なんてない。心配はいらない。そのうち帰ってくる」
「んー」
自分の直感に逆らえなかった俺は、すぐにゴブリンの国まで駆けつけた。まあ、結局俺が正しかったってことだ。
だが問題は、ゴブリンの国がまあまあ広いってことだな。だから二人を捜すのにも時間がかかるだろ?
てなわけで、わざとゴブリンに捕まって、ここまで連れてきてもらった――そういうことだ。
「なるほど」とランラン。「わかったから、早くどうにかして!」
「オッケー」
アキラは杖を呼び出し、素早くひもを切り裂いた。地面に落下する際には体を回転させ、両足でしっかりと着地する。
あっという間の戦いだった。
杖さえ呼び出してしまえば、ゴブリンもやっかいなひもも、楽勝だった。ランランとシエナは、ひもで縛られていた上にゴブリンに押さえつけられていたので、自由に杖を呼び出すことすらできなかった。
アキラがすぐに二人のひもを切る。
「ありがと」シエナがアキラに抱きついた。「大好き」
今の一言は、小さすぎてアキラには聞こえなかった。
「やるじゃない」ランランが言う。「でも……ありがと。助けにきてくれて」
「いいってことよ」
自由になった三人は、変態な国王を見た。
「こいつをどうするか、だな」
他のゴブリンたちは地面に倒されている。死んではいないが、気絶していた。
「頼む! 命だけは助けてくれ!」国王が言った。「謝りますから!」
恐怖で声がかすれている。同情したくなりそうだ。
「まずは二人に謝ったらどうだ?」
「すみません、すみません。体をさわってすみません」土下座の状態で、何度も何度も頭を下げている。
ランランもシエナも、軽蔑した目で国王を見ていた。あまりの冷たさに身震いしたくなるほどだった。
「なんだか気の毒だ」アキラが言った。
「ちょっと! こいつ、あたしの胸をさわろうとしてきたのよ!」ランランが怒る。「アキラはいつも優しすぎ。敵に同情したり、甘かったり――それが悪い癖なのよ!」
「でも、そういうところがいいの」シエナはアキラの腕を取った。「敵にも甘々なところが」
「アキラ……」ダグラス国王は言葉を失っていた。「なんていいやつなんだ! わしはお前が気に入った!」
「どの口が言ってんのよ!」ランランがにらむ。
「申し訳ない。何かわしにできることはないか?」ダグラスが聞いた。
アキラは少し考えた。「それじゃあ、俺たちの建国事業に協力してほしい」
「アキラ、こんなやつらと一緒に仕事したくないよー」ランランが涙目になる。「またさっきみたいなことが起こるかもしれないし」
「そのときはそのときだ。ゴブリンの国は広いし、国民も多い。ゴブリンは確かにキモいが、戦力にもなるし、ものを作るのがうまい」
「アキラ、素晴らしい男だ! ゲチハデ王国は、お前たちの建国事業とやらに協力しようではないか!」
「もし次、ランランかシエナに触れたら……わかってるな?」
「はい、はい、もちろんわかってます」
「よし、それじゃあ、俺たちはアジトに帰るぞ!」
そうして、三人は帰っていった。
★ ★ ★
~作者のコメント~
今回は少し不快になるシーンもあり、すみませんでした。しかし、アキラが登場して、最初は縛られた悲しい姿でしたが、どかんと戦ってくれたのですっきりです。
第5話であった伏線が、やっとここに繋がってよかったです。
次の回のタイトルは『クリスの元カノ』
え? クリスに元カノがいたのか!?
まあ、570年も生きていたら、流石にいますよね。ていうわけで、次回もお楽しみに!!
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しばらくは冒険者稼業をやめて田舎でのんびり暮らそうと街を離れることにしたアルディンは、その道中、メイド姉妹が賊に襲われている光景を目撃する。
彼女たちを救い出す最中、突如として【神眼】が覚醒してしまう。
それはこのカード世界における掟すらもぶち壊してしまうほどの才能だった。
無事にメイド姉妹を助けたアルディンは、大きな屋敷で彼女たちと一緒に楽しく暮らすようになる。
【神眼】を使って楽々とカードを集めてまわり、召喚獣の万能スライムとも仲良くなって、やがて天災級ドラゴンを討伐するまでに成長し、アルディンはどんどん強くなっていく。
一方その頃、ザネリのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
ダンジョン攻略も思うようにいかなくなり、ザネリはそこでようやくアルディンの重要さに気づく。
なんとか引き戻したいザネリは、アルディンにパーティーへ戻って来るように頼み込むのだったが……。
これは、かつてFランク冒険者だった青年が、チート能力を駆使してカード無双で成り上がり、やがて神話級改変者〈ルールブレイカー〉と呼ばれるようになるまでの人生逆転譚である。
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