40 / 56
第40話 異世界でできた友達
しおりを挟む
タイフーン先生には、安静にしているよう言われた。
きっと、まだショック状態が続いているように見えたんだろう。
確かに、俺たちは震えていた。特に、俺とリリーのふたりだ。リリーも俺が転生者であることは知っているし、あのとき恐怖に顔がこわばっていた。
サンダー会長も、例の真剣モードで先生についていった。
学園長のところまで、一緒に行くつもりだろう。生徒会長だったら、それもできそうだ。
3人の間に、少し前の気まずさはなかった。
もう一致団結してしまったような気がする。同じ恐怖を経験すると、仲間意識が芽生えるっていう心理学の効果か。
俺の取り合いはしばらくないかもしれない。
***
図書館に人は少なかった。
やっぱり、ほとんどの生徒が外出している。
あんな狂気の包帯男がいることを知らずに。
「ふたりとも、ごめん。俺が無理にあんなとこまで連れていかなければ──」
「ううん、そしたらもっと危険。怖かったけど、ジャックくんが一緒だったから大丈夫だったもん」
俺をそこまで信用するな、と言いたい。
確かに強いかもしれない。だが、この強さがあの包帯男に通用するか、本気でわからなくなっている。
自信喪失とは違うが、不思議とあの男にだけ無力な自分の姿が浮かび……。
やっぱり、あの姿が恐怖をあおっているのか?
「ねね、転生者って、何?」
ハローちゃんが聞いた。
ずっと聞きたくてしかたなかったらしい。
恐怖を味わっていながらも、その根っこにある好奇心は失われていなかった。
大切な友達には、自分の秘密を言うべき。
前世ではそんな友達なんてひとりもいなかった。今では3人に収まらないほどいる。
「俺は転生者なんだ──」
そうして、ハローちゃんにも自分の秘密を打ち明けた。
俺が転生してこの世界に来て、チートなスキルを女神から授かったこと。
このスキルは『適応』といって、テストでいい成績が取れたことも、首席で合格できたのも、全部このスキルのおかげだったこと。
質問が続けてくるかと構えていたが、ハローちゃんは真剣な表情で黙って聞いてくれた。
ゲイルとリリー、そしてあのタイフーン先生とイーグルアイ先生だけがこの秘密を知っていることも説明した。
「ジャックくんがすごいってことは、ずっと前から知ってる」
ハローちゃんもリリーと同じく、俺を軽蔑することも、失望することも、変人を見るような目で見てくることもなかった。
正直、よくわかっていない可能性もある。
俺自身、自分のスキルについても、転生者のことについても、知らないことは多いわけだ。
それを異世界の現地住民が急に理解できるなんて無理な話だ。
俺が今何よりも気になっているのは、あの包帯男が言っていた、2代目の転生者って内容。
2代目が俺だというのなら、1代目はあの、先生たちが言っていた転生者のことだ。
あいつがその転生者のことを知っているなら、それまでに関係のあった人物だとわかる。
つまり、もしかしたらイーグルアイ先生やタイフーン先生はあの包帯男を知っているかもしれない。
まあ、知っているとしたら包帯の中の、人間の男だろうが。
「でもね……」
ハローちゃんが続けた。
「なんでリリーちゃんに先に言ったの? あたしに先に言ってほしかった」
また泣き出したぞ、ハローちゃん。
こればかりはどうしようもない。
リリーには絶対にあのとき言う必要があった。確かに前からハローちゃんにも伝えておくべきだったのかもしれないが、3人までという約束に縛られていたから慎重だったわけだ。
「ジャック、やっぱりきみも図書館で勉学に励んで……」
朝にも聞いた声。
ここでフロストが俺のところにやってきた。図書館といえば、フロスト。ここに来て彼と会わない方が珍しい。
俺が勉強してるのかと思って感心したようにこっちに来たが、両サイドを美少女に囲まれているこの状況を見て、顔が引きつった。
変な誤解をされてないといいが。
それに──。
「フロスト……俺、まだ伝えてなかったことがあるんだ」
フロストの目が大きく開く。
「どうした? 何か緊急な──」
「いや、そういうわけじゃない。ただ──」
そうして、今日何度目だっていうくらいの、説明タイムが始まった。
どうせなら、ハローちゃんと同じタイミングで現れてくれていたらなぁ。そしたらこんな連続講義をしなくてよかったのに。
まあ、そんな都合よくことは運ばないか。
「そういうことだったのか……」
フロストはショックを受けているのか、感心しているのかわからない。
中途半端な反応だ。
感情をそこまで表に出すタイプでもないので、少ない表情の情報から気持ちは予測しにくかった。
「まったくジャックという男は、ぼくとはレベルが違う。別の世界からやってきたということは、はるかに経験も知識も上だ。だからいつも余裕なのか」
いつも余裕じゃない、って言うのはやめておいた。
ほんと、みんな優しいよな、って言うのもやめておいた。
軽蔑されるかも、と思っていた自分が情けない。もっと友達を信用してもいいんだ。
そしてこのときは、あとからゲイルのもっと感動的なサプライズが待っているなんて、完全に忘れていた。
きっと、まだショック状態が続いているように見えたんだろう。
確かに、俺たちは震えていた。特に、俺とリリーのふたりだ。リリーも俺が転生者であることは知っているし、あのとき恐怖に顔がこわばっていた。
サンダー会長も、例の真剣モードで先生についていった。
学園長のところまで、一緒に行くつもりだろう。生徒会長だったら、それもできそうだ。
3人の間に、少し前の気まずさはなかった。
もう一致団結してしまったような気がする。同じ恐怖を経験すると、仲間意識が芽生えるっていう心理学の効果か。
俺の取り合いはしばらくないかもしれない。
***
図書館に人は少なかった。
やっぱり、ほとんどの生徒が外出している。
あんな狂気の包帯男がいることを知らずに。
「ふたりとも、ごめん。俺が無理にあんなとこまで連れていかなければ──」
「ううん、そしたらもっと危険。怖かったけど、ジャックくんが一緒だったから大丈夫だったもん」
俺をそこまで信用するな、と言いたい。
確かに強いかもしれない。だが、この強さがあの包帯男に通用するか、本気でわからなくなっている。
自信喪失とは違うが、不思議とあの男にだけ無力な自分の姿が浮かび……。
やっぱり、あの姿が恐怖をあおっているのか?
「ねね、転生者って、何?」
ハローちゃんが聞いた。
ずっと聞きたくてしかたなかったらしい。
恐怖を味わっていながらも、その根っこにある好奇心は失われていなかった。
大切な友達には、自分の秘密を言うべき。
前世ではそんな友達なんてひとりもいなかった。今では3人に収まらないほどいる。
「俺は転生者なんだ──」
そうして、ハローちゃんにも自分の秘密を打ち明けた。
俺が転生してこの世界に来て、チートなスキルを女神から授かったこと。
このスキルは『適応』といって、テストでいい成績が取れたことも、首席で合格できたのも、全部このスキルのおかげだったこと。
質問が続けてくるかと構えていたが、ハローちゃんは真剣な表情で黙って聞いてくれた。
ゲイルとリリー、そしてあのタイフーン先生とイーグルアイ先生だけがこの秘密を知っていることも説明した。
「ジャックくんがすごいってことは、ずっと前から知ってる」
ハローちゃんもリリーと同じく、俺を軽蔑することも、失望することも、変人を見るような目で見てくることもなかった。
正直、よくわかっていない可能性もある。
俺自身、自分のスキルについても、転生者のことについても、知らないことは多いわけだ。
それを異世界の現地住民が急に理解できるなんて無理な話だ。
俺が今何よりも気になっているのは、あの包帯男が言っていた、2代目の転生者って内容。
2代目が俺だというのなら、1代目はあの、先生たちが言っていた転生者のことだ。
あいつがその転生者のことを知っているなら、それまでに関係のあった人物だとわかる。
つまり、もしかしたらイーグルアイ先生やタイフーン先生はあの包帯男を知っているかもしれない。
まあ、知っているとしたら包帯の中の、人間の男だろうが。
「でもね……」
ハローちゃんが続けた。
「なんでリリーちゃんに先に言ったの? あたしに先に言ってほしかった」
また泣き出したぞ、ハローちゃん。
こればかりはどうしようもない。
リリーには絶対にあのとき言う必要があった。確かに前からハローちゃんにも伝えておくべきだったのかもしれないが、3人までという約束に縛られていたから慎重だったわけだ。
「ジャック、やっぱりきみも図書館で勉学に励んで……」
朝にも聞いた声。
ここでフロストが俺のところにやってきた。図書館といえば、フロスト。ここに来て彼と会わない方が珍しい。
俺が勉強してるのかと思って感心したようにこっちに来たが、両サイドを美少女に囲まれているこの状況を見て、顔が引きつった。
変な誤解をされてないといいが。
それに──。
「フロスト……俺、まだ伝えてなかったことがあるんだ」
フロストの目が大きく開く。
「どうした? 何か緊急な──」
「いや、そういうわけじゃない。ただ──」
そうして、今日何度目だっていうくらいの、説明タイムが始まった。
どうせなら、ハローちゃんと同じタイミングで現れてくれていたらなぁ。そしたらこんな連続講義をしなくてよかったのに。
まあ、そんな都合よくことは運ばないか。
「そういうことだったのか……」
フロストはショックを受けているのか、感心しているのかわからない。
中途半端な反応だ。
感情をそこまで表に出すタイプでもないので、少ない表情の情報から気持ちは予測しにくかった。
「まったくジャックという男は、ぼくとはレベルが違う。別の世界からやってきたということは、はるかに経験も知識も上だ。だからいつも余裕なのか」
いつも余裕じゃない、って言うのはやめておいた。
ほんと、みんな優しいよな、って言うのもやめておいた。
軽蔑されるかも、と思っていた自分が情けない。もっと友達を信用してもいいんだ。
そしてこのときは、あとからゲイルのもっと感動的なサプライズが待っているなんて、完全に忘れていた。
7
お気に入りに追加
2,414
あなたにおすすめの小説
転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~
hisa
ファンタジー
受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。
自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。
戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?
教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!!
※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく!
※第5章に突入しました。
※小説家になろう96万PV突破!
※カクヨム68万PV突破!
※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました
転生したら唯一の魔法陣継承者になりました。この不便な世界を改革します。
蒼井美紗
ファンタジー
魔物に襲われた記憶を最後に、何故か別の世界へ生まれ変わっていた主人公。この世界でも楽しく生きようと覚悟を決めたけど……何この世界、前の世界と比べ物にならないほど酷い環境なんだけど。俺って公爵家嫡男だよね……前の世界の平民より酷い生活だ。
俺の前世の知識があれば、滅亡するんじゃないかと心配になるほどのこの国を救うことが出来る。魔法陣魔法を広めれば、多くの人の命を救うことが出来る……それならやるしかない!
魔法陣魔法と前世の知識を駆使して、この国の救世主となる主人公のお話です。
※カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた
アイイロモンペ
ファンタジー
2020.9.6.完結いたしました。
2020.9.28. 追補を入れました。
2021.4. 2. 追補を追加しました。
人が精霊と袂を分かった世界。
魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。
幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。
ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。
人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。
そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。
オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
村人からの貴族様!
森村壱之輔
ファンタジー
リヒャルトは、ノブルマート世界の創造神にして唯一神でもあるマリルーシャ様の加護を受けている稀有な人間である。固有スキルは【鑑定】【アイテムボックス】【多言語理解・翻訳】の三つ。他にも【火・風・土・無・闇・神聖・雷魔法】が使える上に、それぞれLvが3で、【錬金術】も使えるが、Lvは2だ。武術も剣術、双短剣術、投擲術、弓術、罠術、格闘術ともにLv:5にまで達していた。毎日山に入って、山菜採りや小動物を狩ったりしているので、いつの間にか、こうなっていたのだ。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる