【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命

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第22話 こうなっちゃうとはね

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 好きな人。

 そう、好きな人。

 アクロバットダンスでパートナーとなった男女ふたりは、場合によってはそのまま恋愛関係に発達する可能性がある。
 先生の話によれば、例年必ず、クラス代表に選ばれたふたりは熱々カップルになるらしい。

 俺は別にそんなつもりはないものの、そういう意味も込めて女子を選ぶ、というのは拷問でしかない。

「さあ、この授業中に3組のパートナーを決めないと、ボクがきつく怒られるものでね。私情を挟んで申し訳ないけど、わかるだろ? このアクロバットダンスの総監督はダイナマイト先生なんだよ」

 ダイナマイト先生。
 生徒たちだけではなく、教師たちの間でも恐れられている、超絶怖い鬼教官だ。

 タイフーン先生はまだ若い教師だし、かなりしごかれていることだろう。

「わかりましたわ、タイフーン先生」

 エレガントは気合いを入れるように深呼吸した。
 
 なんだ?
 俺も少し緊張してきた。
 たぶんクラスのみんながドキドキしてることだろう。特に男子は、自分が選ばれるんじゃないのか、と期待を膨らませながら待っていることだろう。

 特に──。

「ヴィーナス様! 待ってるよ! いつでも優しく受け止めるよ!」

 エロス。
 小さな赤ちゃん小僧。
 下心丸見えだ。

 俺は別にドキドキしてない。
 美しく優雅なエレガント。特別好意を寄せているような相手がいることは普段の様子からわからなかった。

 そんなエレガントが誰を選ぶのか。

 絶世の美女が誰をパートナーにするのか。

 ドキドキなんてしていない。

「わたくし、ストロングさんとパートナーになりたいですわ」


 ***


 エロスの叫び声が教室中に響く。
 しまいには弓矢まで取り出し、俺に向けて撃とうと狙いを定めてきた。

「武器はしまって」

 タイフーン先生の風で弓矢が飛ばされる。

 先生、助かった。

「どうして俺を?」

 聞くまでもない。
 アクロバット好成績の男女どうしで組めば、確実に上位に近づく。これは戦いだ。有利な状況を作ることが大切になってくる。

 俺も確かにその方が合理的だと思うし、きっと──。

「ストロングさんはとても優雅ですもの。わたくし、テストのときまで知りませんでしたわ。こんなに魅力的な男子がすぐ近くにいたなんて」

「オーマイガー、絶世の美女がジャックに惚れてるってか!」

 そんなわけない。

 そんな伏線なんてなかった。
 そんな様子は一切なかったのに……。

「はい、すっかり虜になってしまいましたわ」

 ……。

 周囲の男子からの視線が痛い。
 
 待て。

 なんだか女子からの視線も痛い。
 男子からの視線はまたわかるが、なんで女子まで……これもまた拷問だ。

 どうすればいい?
 俺は素直にオッケーすればいいのか? それとも、ここは──。

「言い忘れてたけど、この3名の中でペアを作るのは、今年はなしになった」

 タイフーン先生!

「力に偏りが出過ぎるのを防ぐためにね。ボクのせいで風が止まってしまい、すまない。ダイナマイト先生に怒られると思うと……身震いがするものでね……」

 俺はタイフーン先生に救われた。

 この厳しい状況。
 先生のひとことが、いや、そのルールを設けてくれたダイナマイト先生に感謝だ。

 エレガントは茫然としている。

「わたくしはストロングさんとパートナーになれないのですか!? せっかく楽しみに──」

「ボクとしては謝ることしかできないね。でも、ルールはルールなんだ」

「……」

 それからしばらくエレガントは話そうとしなかった。

 それで、今度はゲイルが──。

「おれはもう決まってるぜ、タイフーン先生! マーリーンってことで!」

「え! わたし!?」

 1番驚いているのはマーリーンだろう。
 ゲイルは今まで誰にもそんな素振りを見せたことがなかった。俺でもわからなかったくらいだ。

 マーリーンはタイフーン先生にメロメロだというのに、よく堂々と誘えたな。

 やっぱりすごい、ゲイルって。

「嫌です……」

「オーマイガー!! なんで!?」

「タイフーン先生の方がかっこいいから」

「うわーーーーーー!!」

 ゲイルの叫び声はエロスのそれよりも大きかった。

 タイフーン先生はやれやれという感じで頭を抱えている。
 同じ緑色の髪に緑色の目。
 タイフーン先生はそこまで身長が高いわけでもないが、ゲイルはけっこう小柄だ。

 面白さはゲイルが上だと思っているが、タイフーン先生の授業はユーモアに満ちている。
 
 それに、先生のハンサムな顔は女子を惹きつける。

 タイフーン先生は今すぐにでも教室を飛び去りたい感じだった。
 ゲイルはお気に入りの生徒。その生徒を傷つけてしまって気まずい気持ちになっているのかもしれない。

「ねね、どうしてゲイルくんはマーリーンちゃんがいいの? もしかして好きなの?」

 ハローちゃん──そこは傷をえぐるな。
 ゲイルのメンタルがやばいことになる。

 部屋で落ち込むゲイルを慰める自分の姿が思い浮かんだ。ゲイルって、落ち込むと立ち直るまでに時間がかかるんだよなぁ。

 ていうか、今日、俺は放課後になればすぐに寝るんだ。
 この疲れを早く取らなくてはならない。

「ねね、ジャックくんは誰を選ぶの?」

 興味津々の表情で俺を見つめるハローちゃん。
 俺もちゃんとパートナーを決めないと。

 リリーがこっちをじっと見ていた。
 相変わらず可愛い眼差し。眺めていると気が緩み、抑えていたはずの眠気がさらに倍増していく。

「リリー……」

 気づかないうちに、俺は彼女の名前を口に出していた。

「ジャックくん、素早く決めてくれてありがとう! ボクとしてはこの時間内に決まらないんじゃないかって心配だったけど、キミのおかげでまた風を感じるよ!」

「え?」

「それじゃあ、ジャックくんとリリー譲はパートナー決定!」
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