【完結】僕たちのアオハルは血のにおい ~クラウディ・ヘヴン〜 

羽瀬川璃紗

文字の大きさ
77 / 83
ハルシネイション・ヘヴン

ドールハウス-1

しおりを挟む
 それから2分程で、皇介達は星火寺へ到着した。


 駐車場の脇の小路を奥へ進んで行くと、何かがあった。

 ライトが照らし出したのは、淡緑のTシャツを血に染め、倒れている男。

 皇介はブレーキを踏んだ。

 平井が声を上げる。

「星野さん⁈」

「いや…根白さんだ!!」


 皇介は息をのんだ。古川が、周囲に警戒しつつ外へ出て、根白の元へ向かった。
 口周りに手を添えた後、胸にも手を当てたが、こっちを見て首を振った。


(絶命、か…)

 3人も続けて外へ出た。穂香はその先の、ロープの張ってある所へ走って行った。皇介も続く。

 雑草の多い砂利道の上に落ちていた、広空の携帯を穂香は拾い上げた。2人の姿は既に無い。

「…車ごと、か」


 状況を冷静に確認する穂香と対照的に、皇介は今までに無い程の焦りに駆られていた。


 何処へ?誰が?

「穂香さん! 2人を追わないと…!」

 殺人犯に、妹と親友が捕まってるのだ。落ち着いていられない。

「おい」

 平井の声。


 本部に電話をしている古川の傍で、小さなお堂を見ていた平井が呼んだ。


 穂香と共に向かうと、お堂は格子状の戸が倒され、血の滴った跡が点々と、中から根白の所まで続いている。

 平井が皇介に尋ねる。

「これは何の建物だ?」

「お地蔵さんか、何かだった気が…」

 中を覗き込んだ穂香が、携帯電話のライトを灯す。照らされたそこには…

「階段…」


 その時、12年ぶりに警報が鳴り響いた。




 中央会への事情説明は古川と穂香に任せ、平井と皇介は龍哉の自宅から、母:れい子をお堂まで連れて来た。

 中を確認したれい子は愕然とした。

「何これ…」

「このお堂はお宅の管理下ですよね? ご存じ無いのですか?」

「中へ入るのは、煤払いだけなんですが、これは初めて見ました…」

「入ってもよろしいでしょうか?」

「多分…。あの、でも私これの事は知らないんです! 本当です!!」

 れい子が青ざめた顔で弁解する。


 自宅のすぐ脇で異常死、敷地内に血痕が多数、謎の地下空間が見つかるなどが重なり、れい子は震えていた。


 れい子をなだめるため、皇介は寄り添った。

「おばさん、落ち着いて…。リュウは?」

「夕方に、紺野さんとこ行くって出て、そのまま…」


 平井は所轄の警察官2人と共に、幅が1メートルも無いだろう、狭い石段を降りて行った。


 皇介は龍哉に電話を掛けたが、コールが10回鳴っても出ない。次は輝暁に掛けたが、こっちは留守電となっていた。

「…何で出ねえんだよ」

 舌打ちをする皇介に、穂香は尋ねた。

「ねえ、皇介くん。曇天の地下って、巨大な鍾乳洞があるんでしょ? それとは別なの?」

「ここまでは繋がってませんよ。もう少し南…、集会所なら通用口がありますけど」

「皇介くん! 来てくれ」

 平井が石段から声を掛ける。

(もう!何なんだよ!!)


 とりあえず皇介と穂香は平井の元に向かった。暗くて見えなかったのは、ほんの5,6段くらいで、そこから先は妙に薄明るい。

 まるで…。


(雷帝壕みたいだ)


 14,5段を降りた先に、平井と2人の警官が居た。3人は1メートル幅の狭い通路に居て、すぐ右側にある小部屋を覗いていた。

 中には古ぼけた診察ベッドと、散乱する金属パーツと消毒液。床に落ちていた、小さな何かを拾い上げた平井は呟いた。

「針…。鍼灸用の針だ」

「どういう事? 地下にそんな施設が?」

「いや、そんなもん聞いた事ないです」

 皇介が反論する。平井は腕組みした。

「被害者は…、ここで針治療を受けるさなか、何者かに襲われ逃げるとこだったとか? 検証しないと確定しないが、被害者はここに居たと考えておかしくないだろう」

「根白さん、家はここから結構距離があるし、家の墓だってここにはありません。 
…それに、リュウとの付き合いも無いはずです」

 皇介が答えると、警官の1人も口を添えた。

「被害者は準七じゅんしちです。武芸に覚えがある筈なのに、戦った跡が無いのは妙かと」

「どういう?」

「術者が『力』を使っていて命を落とした場合、生命の有無に関わらず『力』が残ってる内は武器化・術・式獣は作用し続けます。
特に武器化は、非常に少ない『力』で行なうので、状況によりますが死後も1~3時間程度は具現してます。被害者の近くに武器はありませんでした」


 警官も根白同様、準七地元精鋭部隊の戦士である。彼は続けた。


「仮に術や式獣を使い『力』を使い果たしていたなら、形跡がある筈だし常駐部隊が感知してる筈です。
常駐部隊は『雷術』1回を感知しましが、その1回だけで大幅に『力』を消費したとは考えにくいです」


 恐らくその1回の『雷術』で、犯人は広空と未琴を気絶させ、連れ去ったのだろう。根白は何故、無抵抗?のまま命を落としたのか。


 平井が目を細める。

「…確か、地下で術を使った場合、常駐部隊は感知しないんだったな。でも…、針か」

 平井は立ち上がると、通路の奥を見据えた。

「行くぞ。この先に何かが絶対にある」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...