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ハルシネイション・ヘヴン

ドールハウス-1

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 それから2分程で、皇介達は星火寺へ到着した。


 駐車場の脇の小路を奥へ進んで行くと、何かがあった。

 ライトが照らし出したのは、淡緑のTシャツを血に染め、倒れている男。

 皇介はブレーキを踏んだ。

 平井が声を上げる。

「星野さん⁈」

「いや…根白さんだ!!」


 皇介は息をのんだ。古川が、周囲に警戒しつつ外へ出て、根白の元へ向かった。
 口周りに手を添えた後、胸にも手を当てたが、こっちを見て首を振った。


(絶命、か…)

 3人も続けて外へ出た。穂香はその先の、ロープの張ってある所へ走って行った。皇介も続く。

 雑草の多い砂利道の上に落ちていた、広空の携帯を穂香は拾い上げた。2人の姿は既に無い。

「…車ごと、か」


 状況を冷静に確認する穂香と対照的に、皇介は今までに無い程の焦りに駆られていた。


 何処へ?誰が?

「穂香さん! 2人を追わないと…!」

 殺人犯に、妹と親友が捕まってるのだ。落ち着いていられない。

「おい」

 平井の声。


 本部に電話をしている古川の傍で、小さなお堂を見ていた平井が呼んだ。


 穂香と共に向かうと、お堂は格子状の戸が倒され、血の滴った跡が点々と、中から根白の所まで続いている。

 平井が皇介に尋ねる。

「これは何の建物だ?」

「お地蔵さんか、何かだった気が…」

 中を覗き込んだ穂香が、携帯電話のライトを灯す。照らされたそこには…

「階段…」


 その時、12年ぶりに警報が鳴り響いた。




 中央会への事情説明は古川と穂香に任せ、平井と皇介は龍哉の自宅から、母:れい子をお堂まで連れて来た。

 中を確認したれい子は愕然とした。

「何これ…」

「このお堂はお宅の管理下ですよね? ご存じ無いのですか?」

「中へ入るのは、煤払いだけなんですが、これは初めて見ました…」

「入ってもよろしいでしょうか?」

「多分…。あの、でも私これの事は知らないんです! 本当です!!」

 れい子が青ざめた顔で弁解する。


 自宅のすぐ脇で異常死、敷地内に血痕が多数、謎の地下空間が見つかるなどが重なり、れい子は震えていた。


 れい子をなだめるため、皇介は寄り添った。

「おばさん、落ち着いて…。リュウは?」

「夕方に、紺野さんとこ行くって出て、そのまま…」


 平井は所轄の警察官2人と共に、幅が1メートルも無いだろう、狭い石段を降りて行った。


 皇介は龍哉に電話を掛けたが、コールが10回鳴っても出ない。次は輝暁に掛けたが、こっちは留守電となっていた。

「…何で出ねえんだよ」

 舌打ちをする皇介に、穂香は尋ねた。

「ねえ、皇介くん。曇天の地下って、巨大な鍾乳洞があるんでしょ? それとは別なの?」

「ここまでは繋がってませんよ。もう少し南…、集会所なら通用口がありますけど」

「皇介くん! 来てくれ」

 平井が石段から声を掛ける。

(もう!何なんだよ!!)


 とりあえず皇介と穂香は平井の元に向かった。暗くて見えなかったのは、ほんの5,6段くらいで、そこから先は妙に薄明るい。

 まるで…。


(雷帝壕みたいだ)


 14,5段を降りた先に、平井と2人の警官が居た。3人は1メートル幅の狭い通路に居て、すぐ右側にある小部屋を覗いていた。

 中には古ぼけた診察ベッドと、散乱する金属パーツと消毒液。床に落ちていた、小さな何かを拾い上げた平井は呟いた。

「針…。鍼灸用の針だ」

「どういう事? 地下にそんな施設が?」

「いや、そんなもん聞いた事ないです」

 皇介が反論する。平井は腕組みした。

「被害者は…、ここで針治療を受けるさなか、何者かに襲われ逃げるとこだったとか? 検証しないと確定しないが、被害者はここに居たと考えておかしくないだろう」

「根白さん、家はここから結構距離があるし、家の墓だってここにはありません。 
…それに、リュウとの付き合いも無いはずです」

 皇介が答えると、警官の1人も口を添えた。

「被害者は準七じゅんしちです。武芸に覚えがある筈なのに、戦った跡が無いのは妙かと」

「どういう?」

「術者が『力』を使っていて命を落とした場合、生命の有無に関わらず『力』が残ってる内は武器化・術・式獣は作用し続けます。
特に武器化は、非常に少ない『力』で行なうので、状況によりますが死後も1~3時間程度は具現してます。被害者の近くに武器はありませんでした」


 警官も根白同様、準七地元精鋭部隊の戦士である。彼は続けた。


「仮に術や式獣を使い『力』を使い果たしていたなら、形跡がある筈だし常駐部隊が感知してる筈です。
常駐部隊は『雷術』1回を感知しましが、その1回だけで大幅に『力』を消費したとは考えにくいです」


 恐らくその1回の『雷術』で、犯人は広空と未琴を気絶させ、連れ去ったのだろう。根白は何故、無抵抗?のまま命を落としたのか。


 平井が目を細める。

「…確か、地下で術を使った場合、常駐部隊は感知しないんだったな。でも…、針か」

 平井は立ち上がると、通路の奥を見据えた。

「行くぞ。この先に何かが絶対にある」

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