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ハルシネイション・ヘヴン

御影真姫

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 赤城あかぎの死後、なし崩しにバンドは解散した。


 新しいバンドを組む気になれず、高校卒業後は地元企業の事務職に就職した。

 20歳の時に父が交通事故死、その翌年に祖母が脳梗塞で倒れ、2か月後に亡くなった。


 天涯孤独になった。


 昼間働き、夜は自分以外誰も帰らぬ家で、1人眠る。そんな生活から、真姫を連れ出したのは望だった。


「そういや飲み会、行くの?」

 望が運転しつつ尋ねた。

「ええ。大叔母さんにも連絡してあるわ」


 真姫の実家は、上京後に祖母の妹夫婦が建て替え、住んでいた。
 もはや自分の実家だった面影は何処にも無い。両親と姉、祖母の位牌は、龍哉のとこのお寺の位牌堂に預けられている。


 望が笑う。

「まさかゴウが美鈴とくっつくとはね」


 地元の友人:雪島剛貴ゆきしまごうきと真姫の母方いとこでもある青井美鈴あおいみすずが、11月に挙式予定だった。

 望達の学年では、初の同級生同士での結婚だった。


「そうね。でもあの2人はお似合いよ」


 糸遊同士での結婚は多い。守秘義務関係や、いざという時の守り守られてが上手く働くからだ(相手が一般人だと色々大変)。


 でも真姫は気持ち悪い風習だな、と悪いが思っていた。薄い近親相姦みたい。
 もし結婚するなら地元の人を避けたい、と真姫は中学生の頃から考えていた。


「真姫はどうなの? 結婚願望」

 望の問いに、自分の左薬指のリングに目を落とす。月並みだが、自分の恋愛観の現れだ。

「その内ね。望も困るでしょ? 来週からなのに急に『子供出来たんで辞めます』なんて言われたら」

「まあ、準備中に言われたらキツいけど、そうなったらしゃーないよ」

「まだいいわ。もう少し先でも」


 ハンドルを操る望の左薬指は、何もつけていない。
 『イケメンゲーヲタ作家』東雲玲は、それなりに女性ファンが居るので、色恋沙汰は隠すよう社長からも言われてる。

 望は今が大事な時期でもある。一方で真姫はベラ以外で表には出ない人間なので、指輪は問題無い。むしろ雑魚避けになって丁度良い。


「とうちゃ~く!」

「ありがとう、また明日ね」

 真姫は軽く手を振ると、自宅へ向かった。


 もしタイムマシンがあって、赤城や祖母が健在だった高校生の頃に行ったとする。
 そこで28歳現在の自分が『私は彼との結婚を考えてます』と現在の恋人を紹介したら、どうなるだろう。

 きっと祖母は目を白黒させて声を失い、赤城は心の底からの笑顔で『マジか!幸せになれよ!!』と言いそうだ。





 ふたりでおうちにかえろうとしたけど、オニがいっぱいでかくれなきゃいけなかった。

 モミのきのしたで、ぼくらはしゃがみこんだ。くらくてこわかったけど、キミがいたから、ぼくはがんばれた。

「おなかすいた」

 キミはいった。ぼくもぺこぺこだ。
 たべものはなにもない。いえもまだまだとおく。でもぼくは、ポケットにおやつをいれてたことをおもいだした。

 おやつは1つだけ。ぼくたちはふたり。どちらかはガマンしないといけない。

 ぼくはキミをすてることをおもいついた。

 すてられたキミをみながら、ぼくはたった1つのおやつをくちにいれたんだ。





 シャワーの音が止むと、ドライヤーの音がした。


 カーテンから漏れる夏の日差しに目を細めつつ、枕元の時計を見るとAM9:11。まだ寝れる。
 寝返りを打つと、隣で眠ってる筈の真姫の姿が無かった。

(…そうか、ドライヤーの音の主が真姫だった)


 互いの仕事の都合もあり、しばらく恋人らしい事も出来ないから、昨晩泊まったのだ。
 付き合い始めて3年経つが、まだ倦怠期じゃないらしい。


 もぞもぞしてると、ドアが開いた。

「ねえ」

「んー?」

「あたしもう行くね」

「うん。俺ももう少ししたら起きる」

 お出掛け仕様の真姫は、横まで来て言った。

「出る時の戸締りよろしくね。あと…」

 真姫はかがんでキスをくれた。

「…ありがと。気をつけて行ってらっしゃい」

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