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カーニバル・クラッシュ
八月-2
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望が帰途に着く頃には、陽が沈み空が淡紫に染まっていた。話が盛り上がった。
登り坂を頑張って自転車で進んでいると、前方に女が見えた。
この県道:赤守線は、この先曇天まで一本道。女は曇天民か。距離が縮まり、それが真姫である事に気づいた。
真姫は自転車に乗らず、押しながら歩いていた。望は声をかける。
「どした? 故障?」
「…パンク」
真姫は美人なのにブスっとして答えた。
「後ろ乗ってく?」
「チャリごと積んでくれるなら、ね」
「チャリごとかぁ、それは俺でも少し無理だな」
望は自転車を降りると、真姫の自転車にあった荷物を掴んだ。
「ちょっと!」
「何もしないって、途中まで俺んとこのカゴに入れてくよ。少しは軽くなるっしょ?」
拒否られるかと思ったが、無言だった。疲労で反抗する気力が無いか。望は話を持ちかけた。
「今日ガーデンでさ、赤城さんとそのお友達に会ってさ…」
真姫は視線だけこちらに動かした。
「赤城さん若いね! 私服姿びっくりした」
「…年甲斐も無いのよ、あの人は」
「そう? 俺はああいう人イイと思うよ。そんで、親父の話されたんだよね。ライブハウスの設立携わったの、知らなかったよ」
「…ふーん。息子なのに知らないんだ」
「まあね。うちのじいちゃん偏屈だし、多分それっぽい写真やカセットだの全部捨てたんだろうな。俺が親父の真似しねえように。
…真姫は知ってた?」
「望のお父さんの事なんて、知らない」
当然の如く真姫は白を切った。
知らない真姫の一面の話を色々聞いたので、自分と同じ『15歳らしさ』を微笑ましく感じた。
「今度行こうかな、親父の写真あるんだって」
何となく、バンドの事は口に出さなかった。特に赤城から口止めもされなかったが、望自身も言いふらすつもりは無かった。
「…望ってお父さん好きなの?」
「一応。真姫は?」
「別に」
真姫は父親と祖母の3人暮らしだ。
父親は単身赴任が多く(噂ではあまり仕事が出来ないタイプで、点々とあちこちの支社へ厄介者扱いの様に飛ばされてるとか)、祖母もアクが強くて有名である。
曇天地区の入口付近にあるバス停が見えた。望が一休みを提案する間もなく、真姫はさっさと備え付けのベンチに腰かけた。
戦士の端くれと言えど、負荷つきで坂道はキツイ。真姫はおもむろに小銭を望へ差し出した。傍らには自販機。
「奢ってくれんの? ありがとう」
「まさか。レモンティー押して」
笑って首を竦めつつ、望はレモンティーと自分用の烏龍茶を買った。あおるように水分補給すると、望は口を開いた。
「そういや、任務一緒だったな」
「そうね」
「…真姫は七子の祟り、どう思う?」
「祟り?」
「七子巡り以降に死体が見つかるじゃん? あれ、祟りが原因だと思う?」
望の問いに、真姫はニヤリと笑って答えた。
「…七子が手を下してたら、どうする?」
思いがけない答えに固まる望に、真姫は続けた。
「去年…、葉月集落で9月にお婆さんの遺体が出たでしょ? 七子巡り中の14日に、葉月集落を巡回してた七子が、血の着いた服を着てたって目撃談があったの」
望は首筋を汗が伝うのを感じた。真姫は真顔で、話し続けた。
「でも奇妙な事にね、その時七子巡りは葉月集落からは遠い季白集落に居た」
葉月集落は曇天の中心寄りの南端、季白集落は北西端に位置する。
距離は約3~4キロ、あくまで道に沿って移動した場合なので、雑木林や私有地を突っ切った場合はもっと短い。
望は口を開く。
「…小学生でも、移動は出来なくない距離だな」
「それはそうね。でも単純に言えば、無差別殺人をする偽者が居るのよ」
目の前の道を車が1台、通って行った。
「私達が本物を追跡中に、別動隊が偽者を探す。もっとも、その時に偽者が出るかは判らないけど。でも中央会は、ある程度の目星がついてるみたい」
「…糸遊?」
望が真姫を見ると、真姫は望を見据えて言った。
「たぶん」
車が2,3台行きかう中、2人は無言で飲み物を飲んだ。空き缶を自転車のカゴに入れた真姫が、立ち上がると望は尋ねた。
「この話、どこで聞いた?」
「赤城さんよ。他の人へ言うのはダメだけど、私達は任務のパートナーでしょ? フェアがいいじゃない」
「フェア、って…」
真姫は再び、自宅を目指し自転車を押して行った。
登り坂を頑張って自転車で進んでいると、前方に女が見えた。
この県道:赤守線は、この先曇天まで一本道。女は曇天民か。距離が縮まり、それが真姫である事に気づいた。
真姫は自転車に乗らず、押しながら歩いていた。望は声をかける。
「どした? 故障?」
「…パンク」
真姫は美人なのにブスっとして答えた。
「後ろ乗ってく?」
「チャリごと積んでくれるなら、ね」
「チャリごとかぁ、それは俺でも少し無理だな」
望は自転車を降りると、真姫の自転車にあった荷物を掴んだ。
「ちょっと!」
「何もしないって、途中まで俺んとこのカゴに入れてくよ。少しは軽くなるっしょ?」
拒否られるかと思ったが、無言だった。疲労で反抗する気力が無いか。望は話を持ちかけた。
「今日ガーデンでさ、赤城さんとそのお友達に会ってさ…」
真姫は視線だけこちらに動かした。
「赤城さん若いね! 私服姿びっくりした」
「…年甲斐も無いのよ、あの人は」
「そう? 俺はああいう人イイと思うよ。そんで、親父の話されたんだよね。ライブハウスの設立携わったの、知らなかったよ」
「…ふーん。息子なのに知らないんだ」
「まあね。うちのじいちゃん偏屈だし、多分それっぽい写真やカセットだの全部捨てたんだろうな。俺が親父の真似しねえように。
…真姫は知ってた?」
「望のお父さんの事なんて、知らない」
当然の如く真姫は白を切った。
知らない真姫の一面の話を色々聞いたので、自分と同じ『15歳らしさ』を微笑ましく感じた。
「今度行こうかな、親父の写真あるんだって」
何となく、バンドの事は口に出さなかった。特に赤城から口止めもされなかったが、望自身も言いふらすつもりは無かった。
「…望ってお父さん好きなの?」
「一応。真姫は?」
「別に」
真姫は父親と祖母の3人暮らしだ。
父親は単身赴任が多く(噂ではあまり仕事が出来ないタイプで、点々とあちこちの支社へ厄介者扱いの様に飛ばされてるとか)、祖母もアクが強くて有名である。
曇天地区の入口付近にあるバス停が見えた。望が一休みを提案する間もなく、真姫はさっさと備え付けのベンチに腰かけた。
戦士の端くれと言えど、負荷つきで坂道はキツイ。真姫はおもむろに小銭を望へ差し出した。傍らには自販機。
「奢ってくれんの? ありがとう」
「まさか。レモンティー押して」
笑って首を竦めつつ、望はレモンティーと自分用の烏龍茶を買った。あおるように水分補給すると、望は口を開いた。
「そういや、任務一緒だったな」
「そうね」
「…真姫は七子の祟り、どう思う?」
「祟り?」
「七子巡り以降に死体が見つかるじゃん? あれ、祟りが原因だと思う?」
望の問いに、真姫はニヤリと笑って答えた。
「…七子が手を下してたら、どうする?」
思いがけない答えに固まる望に、真姫は続けた。
「去年…、葉月集落で9月にお婆さんの遺体が出たでしょ? 七子巡り中の14日に、葉月集落を巡回してた七子が、血の着いた服を着てたって目撃談があったの」
望は首筋を汗が伝うのを感じた。真姫は真顔で、話し続けた。
「でも奇妙な事にね、その時七子巡りは葉月集落からは遠い季白集落に居た」
葉月集落は曇天の中心寄りの南端、季白集落は北西端に位置する。
距離は約3~4キロ、あくまで道に沿って移動した場合なので、雑木林や私有地を突っ切った場合はもっと短い。
望は口を開く。
「…小学生でも、移動は出来なくない距離だな」
「それはそうね。でも単純に言えば、無差別殺人をする偽者が居るのよ」
目の前の道を車が1台、通って行った。
「私達が本物を追跡中に、別動隊が偽者を探す。もっとも、その時に偽者が出るかは判らないけど。でも中央会は、ある程度の目星がついてるみたい」
「…糸遊?」
望が真姫を見ると、真姫は望を見据えて言った。
「たぶん」
車が2,3台行きかう中、2人は無言で飲み物を飲んだ。空き缶を自転車のカゴに入れた真姫が、立ち上がると望は尋ねた。
「この話、どこで聞いた?」
「赤城さんよ。他の人へ言うのはダメだけど、私達は任務のパートナーでしょ? フェアがいいじゃない」
「フェア、って…」
真姫は再び、自宅を目指し自転車を押して行った。
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