6 / 83
カーニバル・クラッシュ
八月-2
しおりを挟む
望が帰途に着く頃には、陽が沈み空が淡紫に染まっていた。話が盛り上がった。
登り坂を頑張って自転車で進んでいると、前方に女が見えた。
この県道:赤守線は、この先曇天まで一本道。女は曇天民か。距離が縮まり、それが真姫である事に気づいた。
真姫は自転車に乗らず、押しながら歩いていた。望は声をかける。
「どした? 故障?」
「…パンク」
真姫は美人なのにブスっとして答えた。
「後ろ乗ってく?」
「チャリごと積んでくれるなら、ね」
「チャリごとかぁ、それは俺でも少し無理だな」
望は自転車を降りると、真姫の自転車にあった荷物を掴んだ。
「ちょっと!」
「何もしないって、途中まで俺んとこのカゴに入れてくよ。少しは軽くなるっしょ?」
拒否られるかと思ったが、無言だった。疲労で反抗する気力が無いか。望は話を持ちかけた。
「今日ガーデンでさ、赤城さんとそのお友達に会ってさ…」
真姫は視線だけこちらに動かした。
「赤城さん若いね! 私服姿びっくりした」
「…年甲斐も無いのよ、あの人は」
「そう? 俺はああいう人イイと思うよ。そんで、親父の話されたんだよね。ライブハウスの設立携わったの、知らなかったよ」
「…ふーん。息子なのに知らないんだ」
「まあね。うちのじいちゃん偏屈だし、多分それっぽい写真やカセットだの全部捨てたんだろうな。俺が親父の真似しねえように。
…真姫は知ってた?」
「望のお父さんの事なんて、知らない」
当然の如く真姫は白を切った。
知らない真姫の一面の話を色々聞いたので、自分と同じ『15歳らしさ』を微笑ましく感じた。
「今度行こうかな、親父の写真あるんだって」
何となく、バンドの事は口に出さなかった。特に赤城から口止めもされなかったが、望自身も言いふらすつもりは無かった。
「…望ってお父さん好きなの?」
「一応。真姫は?」
「別に」
真姫は父親と祖母の3人暮らしだ。
父親は単身赴任が多く(噂ではあまり仕事が出来ないタイプで、点々とあちこちの支社へ厄介者扱いの様に飛ばされてるとか)、祖母もアクが強くて有名である。
曇天地区の入口付近にあるバス停が見えた。望が一休みを提案する間もなく、真姫はさっさと備え付けのベンチに腰かけた。
戦士の端くれと言えど、負荷つきで坂道はキツイ。真姫はおもむろに小銭を望へ差し出した。傍らには自販機。
「奢ってくれんの? ありがとう」
「まさか。レモンティー押して」
笑って首を竦めつつ、望はレモンティーと自分用の烏龍茶を買った。あおるように水分補給すると、望は口を開いた。
「そういや、任務一緒だったな」
「そうね」
「…真姫は七子の祟り、どう思う?」
「祟り?」
「七子巡り以降に死体が見つかるじゃん? あれ、祟りが原因だと思う?」
望の問いに、真姫はニヤリと笑って答えた。
「…七子が手を下してたら、どうする?」
思いがけない答えに固まる望に、真姫は続けた。
「去年…、葉月集落で9月にお婆さんの遺体が出たでしょ? 七子巡り中の14日に、葉月集落を巡回してた七子が、血の着いた服を着てたって目撃談があったの」
望は首筋を汗が伝うのを感じた。真姫は真顔で、話し続けた。
「でも奇妙な事にね、その時七子巡りは葉月集落からは遠い季白集落に居た」
葉月集落は曇天の中心寄りの南端、季白集落は北西端に位置する。
距離は約3~4キロ、あくまで道に沿って移動した場合なので、雑木林や私有地を突っ切った場合はもっと短い。
望は口を開く。
「…小学生でも、移動は出来なくない距離だな」
「それはそうね。でも単純に言えば、無差別殺人をする偽者が居るのよ」
目の前の道を車が1台、通って行った。
「私達が本物を追跡中に、別動隊が偽者を探す。もっとも、その時に偽者が出るかは判らないけど。でも中央会は、ある程度の目星がついてるみたい」
「…糸遊?」
望が真姫を見ると、真姫は望を見据えて言った。
「たぶん」
車が2,3台行きかう中、2人は無言で飲み物を飲んだ。空き缶を自転車のカゴに入れた真姫が、立ち上がると望は尋ねた。
「この話、どこで聞いた?」
「赤城さんよ。他の人へ言うのはダメだけど、私達は任務のパートナーでしょ? フェアがいいじゃない」
「フェア、って…」
真姫は再び、自宅を目指し自転車を押して行った。
登り坂を頑張って自転車で進んでいると、前方に女が見えた。
この県道:赤守線は、この先曇天まで一本道。女は曇天民か。距離が縮まり、それが真姫である事に気づいた。
真姫は自転車に乗らず、押しながら歩いていた。望は声をかける。
「どした? 故障?」
「…パンク」
真姫は美人なのにブスっとして答えた。
「後ろ乗ってく?」
「チャリごと積んでくれるなら、ね」
「チャリごとかぁ、それは俺でも少し無理だな」
望は自転車を降りると、真姫の自転車にあった荷物を掴んだ。
「ちょっと!」
「何もしないって、途中まで俺んとこのカゴに入れてくよ。少しは軽くなるっしょ?」
拒否られるかと思ったが、無言だった。疲労で反抗する気力が無いか。望は話を持ちかけた。
「今日ガーデンでさ、赤城さんとそのお友達に会ってさ…」
真姫は視線だけこちらに動かした。
「赤城さん若いね! 私服姿びっくりした」
「…年甲斐も無いのよ、あの人は」
「そう? 俺はああいう人イイと思うよ。そんで、親父の話されたんだよね。ライブハウスの設立携わったの、知らなかったよ」
「…ふーん。息子なのに知らないんだ」
「まあね。うちのじいちゃん偏屈だし、多分それっぽい写真やカセットだの全部捨てたんだろうな。俺が親父の真似しねえように。
…真姫は知ってた?」
「望のお父さんの事なんて、知らない」
当然の如く真姫は白を切った。
知らない真姫の一面の話を色々聞いたので、自分と同じ『15歳らしさ』を微笑ましく感じた。
「今度行こうかな、親父の写真あるんだって」
何となく、バンドの事は口に出さなかった。特に赤城から口止めもされなかったが、望自身も言いふらすつもりは無かった。
「…望ってお父さん好きなの?」
「一応。真姫は?」
「別に」
真姫は父親と祖母の3人暮らしだ。
父親は単身赴任が多く(噂ではあまり仕事が出来ないタイプで、点々とあちこちの支社へ厄介者扱いの様に飛ばされてるとか)、祖母もアクが強くて有名である。
曇天地区の入口付近にあるバス停が見えた。望が一休みを提案する間もなく、真姫はさっさと備え付けのベンチに腰かけた。
戦士の端くれと言えど、負荷つきで坂道はキツイ。真姫はおもむろに小銭を望へ差し出した。傍らには自販機。
「奢ってくれんの? ありがとう」
「まさか。レモンティー押して」
笑って首を竦めつつ、望はレモンティーと自分用の烏龍茶を買った。あおるように水分補給すると、望は口を開いた。
「そういや、任務一緒だったな」
「そうね」
「…真姫は七子の祟り、どう思う?」
「祟り?」
「七子巡り以降に死体が見つかるじゃん? あれ、祟りが原因だと思う?」
望の問いに、真姫はニヤリと笑って答えた。
「…七子が手を下してたら、どうする?」
思いがけない答えに固まる望に、真姫は続けた。
「去年…、葉月集落で9月にお婆さんの遺体が出たでしょ? 七子巡り中の14日に、葉月集落を巡回してた七子が、血の着いた服を着てたって目撃談があったの」
望は首筋を汗が伝うのを感じた。真姫は真顔で、話し続けた。
「でも奇妙な事にね、その時七子巡りは葉月集落からは遠い季白集落に居た」
葉月集落は曇天の中心寄りの南端、季白集落は北西端に位置する。
距離は約3~4キロ、あくまで道に沿って移動した場合なので、雑木林や私有地を突っ切った場合はもっと短い。
望は口を開く。
「…小学生でも、移動は出来なくない距離だな」
「それはそうね。でも単純に言えば、無差別殺人をする偽者が居るのよ」
目の前の道を車が1台、通って行った。
「私達が本物を追跡中に、別動隊が偽者を探す。もっとも、その時に偽者が出るかは判らないけど。でも中央会は、ある程度の目星がついてるみたい」
「…糸遊?」
望が真姫を見ると、真姫は望を見据えて言った。
「たぶん」
車が2,3台行きかう中、2人は無言で飲み物を飲んだ。空き缶を自転車のカゴに入れた真姫が、立ち上がると望は尋ねた。
「この話、どこで聞いた?」
「赤城さんよ。他の人へ言うのはダメだけど、私達は任務のパートナーでしょ? フェアがいいじゃない」
「フェア、って…」
真姫は再び、自宅を目指し自転車を押して行った。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ま性戦隊シマパンダー
九情承太郎
キャラ文芸
魔性のオーパーツ「中二病プリンター」により、ノベルワナビー(小説家志望)の作品から次々に現れるアホ…個性的な敵キャラたちが、現実世界(特に関東地方)に被害を与えていた。
警察や軍隊で相手にしきれないアホ…個性的な敵キャラに対処するために、多くの民間戦隊が立ち上がった!
そんな戦隊の一つ、極秘戦隊スクリーマーズの一員ブルースクリーマー・入谷恐子は、迂闊な行動が重なり、シマパンの力で戦う戦士「シマパンダー」と勘違いされて悪目立ちしてしまう(笑)
誤解が解ける日は、果たして来るのであろうか?
たぶん、ない!
ま性(まぬけな性分)の戦士シマパンダーによるスーパー戦隊コメディの決定版。笑い死にを恐れぬならば、読むがいい!!
他の小説サイトでも公開しています。
表紙は、画像生成AIで出力したイラストです。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
ハバナイスデイズ!!~きっと完璧には勝てない~
415
キャラ文芸
「ゆりかごから墓場まで。この世にあるものなんでもござれの『岩戸屋』店主、平坂ナギヨシです。冷やかしですか?それとも……ご依頼でしょうか?」
普遍と異変が交差する混沌都市『露希』 。
何でも屋『岩戸屋』を構える三十路の男、平坂ナギヨシは、武市ケンスケ、ニィナと今日も奔走する。
死にたがりの男が織り成すドタバタバトルコメディ。素敵な日々が今始まる……かもしれない。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
推理小説家の今日の献立
東 万里央(あずま まりお)
キャラ文芸
永夢(えむ 24)は子どもっぽいことがコンプレックスの、出版社青雲館の小説編集者二年目。ある日大学時代から三年付き合った恋人・悠人に自然消滅を狙った形で振られてしまう。
その後悠人に新たな恋人ができたと知り、傷付いてバーで慣れない酒を飲んでいたのだが、途中質の悪い男にナンパされ絡まれた。危ういところを助けてくれたのは、なんと偶然同じバーで飲んでいた、担当の小説家・湊(みなと 34)。湊は嘔吐し、足取りの覚束ない永夢を連れ帰り、世話してくれた上にベッドに寝かせてくれた。
翌朝、永夢はいい香りで目が覚める。昨夜のことを思い出し、とんでもないことをしたと青ざめるのだが、香りに誘われそろそろとキッチンに向かう。そこでは湊が手作りの豚汁を温め、炊きたてのご飯をよそっていて?
「ちょうどよかった。朝食です。一度誰かに味見してもらいたかったんです」
ある理由から「普通に美味しいご飯」を作って食べたいイケメン小説家と、私生活ポンコツ女性編集者のほのぼのおうちご飯日記&時々恋愛。
.。*゚+.*.。 献立表 ゚+..。*゚+
第一話『豚汁』
第二話『小鮎の天ぷらと二種のかき揚げ』
第三話『みんな大好きなお弁当』
第四話『餡かけチャーハンと焼き餃子』
第五話『コンソメ仕立てのロールキャベツ』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる