とら×とら

篠瀬白子

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家族 4

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「はい、各自グラス持ってー。持った? えー、クリスマスコレクションに参加している数名は遅れて参加しますが、奴らが来る前に美味しいものはとっとと食べつくす方向でよろしく。はい、じゃあ小虎くん乾杯の音頭よろしく」
「え!? えと、かんぱーい……?」


かんぱーい。勝手に司会進行していた司さんの指名で乾杯の音頭を取り、それにつづいて皆がグラスを持ち上げる。かつん、かつん、とグラスの重なる陽気な音が広がると、仲間内だらけのカシストは一気に賑わいが増した。


「メリークリスマス、小虎」
「トラちゃん、メリークリスマス!」
「おー、めりーくりすまーす……」


志狼と雄樹のあいだに座った俺は、早速二人が掲げてきたグラスに自分のそれを重ねる。なんだか緊張している俺に気づいた二人はそれでもニコニコと笑顔で、それを見ているうちに緊張していた自分が馬鹿に思えて力が抜けてしまう。
料理を小皿に取り分けてくれた仁さんからお皿を受け取って、仁さんが作ってくれたミートローフを早速食べてみれば、やばい美味くて感動する俺の横で、雄樹も志狼もその美味しさにますます笑みが深まった。


「んー、やっぱり仁さんが作る料理は美味しいなー、俺、いつでもお嫁さんに行くよ!」
「嫁なら料理はお前が作れよ」


と、早速いちゃつく二人を志狼と一緒にニヤニヤ見ていると、いつのまにか一緒になって悪い顔をしていた豹牙先輩が志狼の隣に腰を下ろした。あからさまに不機嫌な顔つきをした志狼に、豹牙先輩は違う意味で悪い顔を浮かべている。


「ほら小虎、かんぱい」
「あ、はい、かんぱいです」


しかし自分の道を行く豹牙先輩は俺のグラスに自分のグラスを重ねると、志狼のグラスにもカツンッと音を立てて重ねた。


「邪魔」
「ははは、美人が凄むとこえーな」


本当に邪魔だなぁ。と呟く志狼の表情に慌てて近くの野菜スティックを差し出すと、志狼は若干赤みがかった顔でぱくりと一口。


「おい小虎、他の男にあーんとか、浮気だろそれ」


なんてニヤニヤ笑う豹牙先輩に志狼と一緒に呆れ顔。
まだ残っている野菜スティックを受け取った志狼は、口をつけたほうとは逆の先端にオーロラソースをつけて咀嚼する。


「ていうかなんでこっちに来たの。アンタは自分のお兄さんのほうに行っていちゃつけば?」
「言われなくとも夜はがっつりイチャつく予定だけど?」
「うわ、最低」
「男なら当然だろ、なぁ小虎?」


変な話を振られてさらに呆れ顔が強くなってしまう俺に、けれど豹牙先輩は変わらずニヤニヤとしている。


「つーかどこまでやった? もう食われたか?」
「殴ってもいいかなぁ」


俺に変わって怒りを露わにする志狼を落ち着かせ、なにかを企んでいるであろう豹牙先輩に向き直る。


「豹牙先輩、それセクハラですよ」


と、一言説教すれば一瞬呆けた豹牙先輩はしかし微笑んで「やっぱお前可愛いわ」とか言い出す始末。それには同意するけどね、なんて一緒になって頷く志狼の肩に軽くパンチすれば、笑いながら謝られてしまった。


「いやいや、でも男同士ってエグいからさー、ちゃあんと準備しないとダメだよ?」
「……司さん、なにしれっと交ざってるんですか」


いつのまにやら豹牙先輩の隣に並んだ司さんがもう眩い笑顔でこちらを見ている。厄介な兄弟が揃ってしまったなぁ、と息をつけば、悪乗りしはじめた二人がここぞとばかりにセクハラし始めた。


「ちなみにゴムはやっぱり○○社のうすーいやつがオススメかなー」
「ローションは○○社のシリコンタイプを使えよ、油に近いから体に吸収されにくい」
「でもやっぱり生が一番だよね、だって男だし?」


と、司さん、豹牙先輩とつづいて最後にしれっと交ざった新山さんの顔に、志狼のアイアンクローが見事に決まった。それを見ていた仙堂さんはここ一番良い笑顔で志狼を褒めだす始末だ。
そんなやり取りを聞いていたらしい仁さんは、煙草の空を司さんの額にヒットさせるのであった。

酒盛りではいつも以上に馬鹿なノリを見せるみんなだが、そんな中で無理やり隣に座らされていた巴さんとノエルさんは体の方向まで互いとは逆の方向を向いて無言である。俺は自分のグラスを持ち直し、シャンパンの瓶を持ってそちらへ近づく。


「二人とも飲んでますか? あ、グラス空いてますね。注ぎますよ」


二人とも空になったグラスを持って黙っていたのか。ちょっと笑いながら巴さん、ノエルさんの順に注ぐと、二人は少しだけ息をついた。


「ノエルさんはえと、ミラノでしたよね。あっちではどういう風にクリスマスを過ごすんですか?」
「え? あ、うん、あっちは家族で過ごすのが普通かな。日本みたいに営業している店も少ないよ」
「へぇ、じゃあ日本は賑やかに見えますかね?」
「うん、外を歩けばイルミネーションも綺麗で、店から漏れる灯りもあるから明るく感じるなぁ。あぁ、でも時期になるとメルカートディナターレがあってね」
「めるかー……?」
「あ、えぇと、クリスマス市って言って、お菓子や飾りなんかの屋台がたくさん並ぶんだよ」


聞き慣れない単語に首をかしげた俺に、ノエルさんはニコリと微笑む。緊張が和らいだのか、彼はますます饒舌になる。


「そうそう、そのメルカートディナターレにはパネットーネやパンドーロってお菓子も並ぶんだけど、僕はパネットーネが好きでノアはパンドーロが好きだから、いつも母さんは二つ作ってくれたんだ。僕たち、そのお菓子を半分こにしながらどっちが美味しいか、なんてよく喧嘩して……」


しかし自分の口から滑り出たノアさんの名前に、彼の顔色が悪くなる。その視線は巴さんに向き、同じように顔色の悪い巴さんは下手くそな笑みを貼りつけていた。


「……」
「……」


またも二人のあいだに流れる重い空気に、だけど俺はつい微笑んでしまう。

互いに口を閉ざす二人から少し離れ、仙堂さんが持ってきてくれたパネットーネを切り分ける。小皿に持って二人のもとへ戻ると、ノエルさんはぱあっと顔を上げた。


「仙堂さんが持ってきてくれたんです。はい、どうぞ」
「ありがとうコトラ」


素直に受け取るノエルさんに笑みを返し、もう一枚の皿を巴さんに差し出す。


「どうぞ、巴さん。これがパネットーネですよ」
「……おう、」


大人しく受け取る巴さんがまじまじとそれを眺める横で、ノエルさんもそんな巴さんを覗き見ている。恐る恐るといった様子で一口咀嚼した巴さんは、目を見開いた。


「……うめぇ」
「! そう、でしょう?」
「あ、あぁ。柔らかくて、甘すぎねぇから食いやすい」
「うん、これはオレンジピールとレモンが使われてるから、後味も爽やかでしょう?」


大好きなパネットーネを美味しいと言ってくれた巴さんに嬉々とした表情を隠しもせず、ニコニコと微笑むノエルさんについに巴さんの口元が緩んだ。


「あぁ、これならさっき言ってたパンドーロってやつと食い比べてみねぇとな」
「! ぼ、僕が作るよ!」


と、なんだか温かな青い空気にこちらまで照れてしまうが、巴さんは俺以上に顔が赤く、ノエルさんはそれ以上に顔が真っ赤だ。
いつのまにやら俺の横に立っていた司さんが「いやぁ青春だよねぇ、砂吐きそー」などと笑う。


「小虎くんってさー、やっぱりお人好しだよねぇ。まぁ、俺はそんな君が反吐が出そうなくらい可愛くて好きだけど」
「本当ですか? 俺も性悪な司さんが好きですよ」
「え? 両想い? わぁ、嬉しいから小虎くんには良いもの見せてあげようかなー」


おいで。と手を引かれてソファーに座らされると、どこからか取り出したノートパソコンを開いた司さんが軽く操作して画面をこちらに向けると、


「え? これって」
「クリスマスコレクションの映像でーす」


そこにはたくさんの人たちで賑わうファッションショーの様子が映し出されていた。


「もうショー自体は終わってるけど、まだ未編集の撮りたてほやほやだよー」


なんて隣で説明してくれる司さんの声を呆然と聞きながら、俺はまさに舞台を歩く玲央の姿に釘付けになっていた。
玲央の前まで歩いていたモデルとは違い、これっぽっちも愛想を振り撒かない態度は横暴だけど、舞台近くの女性はみな顔を真っ赤に染めて玲央を見上げている。
金の髪から覗く真っ直ぐな瞳、音楽に合わせたウォーキング、しなやかに流れる手先の動き、少しも媚びらないポージング。けれどターンして戻っていく玲央に会場中の視線が集まっていた。たった一瞬のその時間で、朝日向玲央という存在を色濃く残していった舞台はもう、彼のもの。


「……かっこいい」
「惚れ直しちゃった?」
「……はい、」


なんて呆然としたまま答えた俺の頭をぐしゃりと、誰かが乱した。


「そういうのは直接言え、馬鹿トラ」
「……え!?」


ぐるん。横を向いた俺の隣に立っていたのは、俺とは色違いのマフラーを首に巻いてレザーコートを着た玲央だった。
姿を認めた瞬間、タコのように真っ赤に茹る俺に息をついた玲央は、ゆるりとマフラーを解く。


「腹減った、お粥でいいから作れ」
「え? ほとんど仁さんの手作りだから大丈夫だよ?」
「はぁ? 言わせる気か?」


なにを? と固まる俺の逆隣りで、こっそりと近づいた司さんが「お前の手料理が良い、なんて言わせたいのかなぁ? 小虎くん」なんて囁くものだから、俺は固まったままさらに茹って赤くなる。そんな司さんにアイアンクローをしかける玲央に、今アイアンクローが流行っているのか? といくぶん冷静になった俺は立ち上がり、玲央が脱ぎ掛けていたレザーコートを受け取った。


「なにその夫婦みたいな流れ。ねぇ、砂吐いていい?」


そんな俺たちのやり取りを見ていた司さんがげんなりしたままそう言うので、収まったはずの羞恥心がまた戻ってくるのであった。

クリスマスコレクションに参加していた玲央や隆二さん、付き添っていた匡子さんや泉ちゃん、そしてなぜか堂々と一緒に来ていた西さんも交え、クリスマスパーティーと称した酒盛りは勢いを増す。
俺は腹が減ったと言う玲央のためにお粥を作り、うるさいのは嫌いだという玲央とカウンターに並んでいる。


「ショーの様子はじめて見たけど、えと、お疲れ様でした」
「あぁ」


俺が作った卵味噌とお粥を咀嚼しながら、こちらに視線を向けた玲央から目を逸らす。先ほど見せてもらった映像のせいか、見慣れたはずの玲央がいつもより魅力的な感じがして恥ずかしい。なんて、どこの乙女だ俺は。


「明日と来年は二人でゆっくりやる」
「え?」
「クリスマス」


と、呟かれた言葉につい視線を戻すと、未だこちらを見ていた玲央と目が合う。


「お前がバイトで忙しくても、俺が忙しくても夜は二人で過ごす。いいな?」
「……うん、いいよ」


明日と来年の約束に思わず頬が綻びて、ふにゃりとだらしない笑顔を見つめる玲央は口元を緩めながら再びお粥を口に運ぶ。そんな俺たちのあいだを割って、ショーの打ち上げから飲んでいたらしい匡子さんがダァアンとジョッキをカウンターに叩きつけた。


「ことらくぅん」
「え、は、はい」


ギロリ。美人な匡子さんの睨む姿はただでさえ凄味があるというのに、加えて目が据わっており、酔っていることが一目で分かった。そんな匡子さんに声をかけようとした玲央がなにか言うその前に、匡子さんの両手が俺の肩に叩きつけられた。じぃいんと痺れて痛いのですが。


「ありがとぉ!」
「……はい?」
「ことらくんとぉ、旅行行ってかられおのやつぅ、よくなったのよぉ!」
「…………はい?」


えーと、どうすりゃいいんだ? 固まる俺に対し、玲央は呆れた様子で匡子さんを見ていた。


「雰囲気ぃ、かわったのよねぇ。やさしくなったっていうのぉ? ちょっとぉ、すきができた感じかなぁ、あーうん、とにかくねぇ! まえよりおふぁーがきてちょー大変なんだからぁ!」
「……え、あ、はい」


普段から酔っ払いに囲まれている俺だが、匡子さんのようにあからさまな酔っ払いも確かに多い。けれど少なからず顔見知りの彼女相手に下手な態度をとることもできず、むしろ肩にくい込む爪が痛くて動けない。つけ爪ですか、長くないですか?


「でぇろでろにあまぁい空気さらしちゃってさぁ、ふぁんも増えたしぃ、もう、ほんとぉありがとぉ!」
「いたっ、ちょ、匡子さん!?」


まるで突撃してくるように抱き着いてきた匡子さんに軽くパニックを起こす俺に、容赦ない玲央は彼女の首根っこを掴んで引き離した。おい、匡子さんはお前の雇い主だろうが。なんて突っ込みたいが正直助かったのでそれは口にしないでおこう。


「ちょっとお母さん……っ」


そんな恐ろしい現場に現れた泉ちゃんと隆二さんは、大型獣の魔の手から匡子さんを救いだす。ついでに後ろについてきていた西さんが匡子さんを担ぐと、寝息を立てている彼女を少し離れた席へと運んで行った。


「もう……ごめんね虎くん」
「いや、大丈夫だよ。それより匡子さんのほうが大変そうだけど」
「気にしないで。お母さんって普段頑張り過ぎちゃうとこあるから、お酒飲むとすぐ酔っちゃうの。あ、でもあんなに酔うのは久しぶりかも」
「あはは、疲れてたのかもね。なら、起こさないようにしないと」
「うん、そうだね」


にこり。微笑む泉ちゃんの笑顔はやっぱり花がぽんぽんと咲きそうなほど可愛らしい。そんな彼女に会うのも久しぶりだなぁと考えていると、俺は前までなかったそれを見つけてしまった。
俺の視線に気づいた泉ちゃんは、少し照れくさそうな笑顔で手を見せる。


「私ね、隆二と結婚するの」


泉ちゃんの左手薬指に嵌められた、控えめなシンプルな指輪。彼女の白い手によく馴染んだそれは、とても綺麗だ。


「あ、でも私も隆二も卒業してからだけどね」
「そっか……うん、おめでとう、泉ちゃん、隆二さん」


泉ちゃんの隣に立って、同じように照れくさそうに微笑む隆二さんが頬をかく。いつも玲央や豹牙先輩に振り回されていた隆二さんだからこそ、その幸せは人一番感じて欲しい。穏やかな気持ちで二人を眺める俺に、けれど泉ちゃんは控えめに声を出す。


「……良かった。虎くんは優しいから、そう言ってくれると思ったけど、私、軽蔑されるかなって少し不安だったから」
「軽蔑? なんで?」
「……だって私、ただのフリだけど玲央と付き合ってたくせに、別れてすぐ隆二と付き合ったから、うん、だから軽蔑されるかなって」


そう言う泉ちゃんの顔に影が射す。その様子になんとなく彼女の苦労が垣間見えた気がして、俺は苦笑を浮かべた。


「そうだね、玲央と別れてすぐ隆二さんと付き合った泉ちゃんのことを、よく思わない人はいるかもしれない」
「……うん」
「でもそんなの関係ないと思うな。だって選んだのは泉ちゃんと隆二さんでしょう? 二人はちゃんと付き合って、今は未来の約束をしてる。それは二人で選んだことだよね」
「うん……そうだよ」


泉ちゃんの肩を支えた隆二さんが俺を見る。その瞳は俺を責めるでもなく、突き放すものでもない。その後ろで呆れた様子でこちらを見ていた玲央と目が合って、思わず微笑む。


「……うん、俺はさ、泉ちゃん。俺は人がとやかく言おうと、自分が好きになった人が、自分を好きになってくれたなら、その人のことを誇りに思うし、大事にしたいな。だから誰かがなんて言っても平気。悔しいならねぇ泉ちゃん、周りが口出しできないくらい幸せになっちゃえばいいんだよ」
「……虎くん」
「だから泉ちゃん、幸せになって。そんで隆二さんと一緒にさ、たまにここに来て教えてよ、今すごく幸せだーって。ね?」
「……うんっ! ありがとう、虎くん……っ」


どういたしまして。潤む瞳を細めた彼女に微笑めば、隆二さんも一緒に微笑んだ。
二人が俺に頭を下げてみんなのところに戻ると、再び静かになったカウンターで玲央がため息をついた。


「お人好し」
「玲央だってそういうとこ、あるよね?」
「ねぇよ」


なんて言うけれど、素直じゃない玲央に隠れて笑う俺の頭を強引に撫で回す手の平は優しい。不器用ではない、隠しているわけではない、素直じゃないけど横暴な、だけど誰よりも気高い獣。俺はやっぱり堪えきれずに笑い出してしまい、玲央の手はより強引さが際立った。


「仲良いなぁ、お前ら」
「あ、西さん、お久しぶりです」
「おー、久しぶりだな」


匡子さんを運び終えた西さんが、首を回しながら俺の隣に座る。それに対して玲央がわざとらしく舌打ちすると、西さんは苦笑を浮かべた。


「ったく、ブラコンもほどほどにしろっての。なぁー? 小虎ー?」
「え? あ、でも、俺もブラコンだって自覚してますから」
「あはは! はいはい、ごっそーさん」


自分で持って来たシャンパンの瓶を傾けて、グラスへと注いだそれを一気に仰いだ西さんはほぅと息をつき、口元を手の甲で拭う。


「そういえば俺、西さんに挨拶まだでしたよね」
「あぁ? 挨拶?」


そんな西さんを見ながらふと思い出した俺は、体を西さんへ向けて軽く頭を下げた。


「いつも兄がお世話になってます。ご迷惑をお掛けすることも多いかと思いますが、これからもよろしくお願いします」
「……お前、」


そして挨拶を終え、顔を上げた俺を見ていた西さんはゆるりと微笑みながら、俺に手を伸ばそうとした。が、その手は玲央に叩き落とされていた。


「……おい、俺だって子供を可愛いと思う純粋な気持ちくらいはあんだぞ」
「てめぇは触んな」


と、なんとも言えない口論を終えた玲央がすぐ俺の頭を撫でる。ついつい顔を赤くして苦笑する俺に、西さんは盛大に笑った。


「あーあ、見せつけてくれるよなぁ。はは、こっちまで照れるっつーの」


叩き落された手で自分の後頭部を掻いた西さんは、その視線を向こう側へと向ける。ついつい辿っていった視線の先には、騒音騒ぎのカシストで一人、静かに眠る匡子さんがいた。


「……え」
「ん?」


驚きに声を上げた俺の気持ちが分かったのか、苦笑を浮かべた西さんが再び自分で酒を注ぐ。


「お前ら見てるとな、俺もそういう気持ちになるってことだ」
「……西さん、匡子さんが……?」
「まぁな。体だけの関係だけど」
「かっ!?」


体だけ!? 動揺を隠せない俺の頭を慰めるように撫でていく玲央の手に若干平静を取り戻し、そっと西さんを覗き込む。


「なんだよその顔、誘ってんのか?」
「んなわけ「うわ、こわっ」……はい?」


んなわけないでしょ。そう言うはずだった俺の言葉を遮って苦い顔をする西さんの視線を辿るが、そこには平然とお粥を咀嚼する玲央しかいない。ということは、玲央が睨みでもしたのだろう。


「まぁ、あれだよな」
「え?」


お酒をあおった西さんがグラスをカウンターにそっと置く。


「冬だから余計人肌恋しくなるんだよな」
「……はぁ、」
「お前らみたいに毎日乳繰り合ってる奴らにゃ分かんねーだろうけどなー」


乳繰り合って……。なんだかオヤジくさい発言だなぁと呆れ顔を浮かべる俺に、けれど西さんは少しだけ寂しそうな、だけど嬉しそうな笑顔を向けていた。

それから酒瓶を担いで現れた司さんに手を引かれ、各自持参したプレゼント交換をやるぞー、なんて変な盛り上がりを見せる皆は笑顔だ。
その騒音に起きた匡子さんを介抱しながら、自分の隣に座らせた西さんと目が合えば悪い顔をされたが、輪になってプレゼントがくるくると回り始めた頃にはすっかり俺もはしゃいでしまって。

ネタとしか思えないセーラー服のコスプレを手に入れた新山さんが真面目にそれを着て現れ、当然のごとく仙堂さんから罵声とリアル暴力を受けた頃、楽しいクリスマスパーティーは終わりを迎えた。

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