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しおりを挟む「陛下!!」
「……幾らアナタの申し出でも、これだけは退けない」
紅茶にミルクをかけた茶系の手触りの良さそうな髪。涼やかな切れ長の眼差しは、雲のない晴天を表したような鮮やかな青。
髪と同色の睫を伏せ、陛下と呼ばれた彼は強い意志のもと、年配と思われる人物に言いきる。
上座に用意された豪華な椅子に座る人物は、王族の最高地位に身をおく者。
アーガイル・ヴィ・ロックウェル
年若い彼は、『グランディア』を統べる王。亡くなった父親から受け継ぎ、王となった。
青を基調とした衣服は彼の瞳と良く栄え、バランスの取れた長身の彼は見る者から羨望の眼差しを受けている。
「素性も分からぬ者を側に置くのは危険です!」
「リー将軍の仰る通りです。もう一度お考え直し下さい、陛下」
「……陛下は」
この場に集まる者等の殆どが反対のなか、唯一人、最も王に近い席に座る男が発言したことにより視線が彼に集中する。
そんな中、黒髪を肩に触れるくらいのところで切り、毛先を梳いた髪をフワリと揺らし、野生身溢れる黒い瞳を王へ向けた。
「その少年に関し何ら問題ないと判断されたのか?」
「あぁ」
伏せられていた瞼は上がり、瞳に揺らぎはない。
その様に、ふっと笑むと彼は視線を王から逸らし集まる屈強なる者達に告げる。
「あなた方の意見も尤もだが、様子をみられてはどうかな」
「何かあってからでは遅い!」
「王に何か、とは?」
降られた言葉に、雰囲気の温度がぐっと下がり、言葉を失う周り。
普段の柔らかい物腰から忘れるが、この男は若いながらに近衛隊隊長。
ガブリエル・エンバー・アンデル
伯爵家の長男だ。
「黙っていては解りません。何か、とはどの様な?」
「アンデル様」
「あなた方は王を信頼する以前に、その『何か』に期待されていませんか?それとも、『何か』するつもりですか」
「な……ッ」
「!!」
流石の強面二人も、顔を憤慨させる。
その様子を見て、アーガイルは軽く苦笑した。
遊んでいる、と。
ガブリエルとは長い付き合いの仲で、その技量も能力も人並み以上で信頼もしているが、如何せん、人の悪い癖がある。
今のように、試すようなことを言ったりして相手を怒らせるのが快感らしい。
まぁ、アーガイル程の地位と腕がなければ今頃はこの地にいられないだろうが。
「くっくっく……ッ」
「何が可笑しい!」
「……ランディ」
この妙に重々しい空気の中、堪えられないとばかりに肩を揺らしながら笑う強者がいた。
アーガイルは頭痛がしそうだと、片手を額にあてて溜息を吐く。
一方、ガブリエルはもう気が済んだのか、我関せずを貫き口角をあげ笑んでいた。
「俺に当たらんでくださいよ。いや、なんだかんだ仲が良いなと思いましてね」
八つ当たりは勘弁と肩を竦める彼は、短く刈った稲穂のように起たせた金色の髪。
シャープな印象の骨格に緑の瞳が、彼の尖ったイメージを柔らかくしている。
ブルーノ・イ・グリム
平民出の彼だが、腕っ節とリーダーシップの才をかわれ、すったもんだの末、アーガイルとガブリエルの推薦もあり独立隊の隊長を勤める事になった。
本人が最後まで隊長という地位を認めない、意外な展開もあったのだがあるきっかけで逆に周りからの説得と泣き落としにより今の地位に不本意ながら収まった。
ランディの発言で、若干周りの張り詰めた空気が和む。
だが、それに合わせたかのようなタイミングで扉がコツコツと叩かれた。
「外にまで丸聞こえだ、声の音量を控えた方がいいんじゃないか」
陛下と似た顔立ちと髪の色をした男はスラリとした手足の長い体躯。似ていると感じるも、間違いだと気付く。
瞳の力強さと纏う雰囲気に。
「殿下!!」
「オイオイ……俺に八つ当たりか?」
両手を挙げ、ホールドする彼は苦笑。だが、表情は笑んでおらず、眼を眇(スガ)めて将軍である年配に視線をあてがった。
国王が柔なら弟である彼は静。いや、冷だろうか。
マクシム・ヴィ・ロックウェル
見つめられた将軍は彼の見た目に反し、視線の圧力に屈するほかなかった。
横に座っていたブルーノは、座る将軍の拳が微かに震えているのに気づき、彼(カ)の英雄に気づかれぬよう上座に目を向け、国一と名高い美丈夫の国王陛下にどうにかしろ!とアイコンタクトで訴えた。
その視線に気付いたアーガイルは内心頭を抱える。
一難去って、また一難。
この国の問題人として有名な二名。
マクシムとガブリエル。
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