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しおりを挟む「遅いお出でですね、朝帰りですか」
「違う。例の所にな」
「……近寄るなと伝えた筈だが」
兄の低音に発せられた声に驚くマクシムと皆。
普段温厚な彼が声を荒げたり、ましてや態度に出したりすることは珍しい。
「そちらまで伝わらなかったようだな」
軽くため息を吐いたアーガイルに首を傾げる。
「何故そこまで厳重にする必要が?たかが平民一人のことで」
「マクシム様!!」
そこに、今まで控えていた金髪の男が立ち上がり声をかけてマクシムを制した。
「五月蝿いぞクリフ」
「五月蝿いのは貴方では?マクシム殿下」
「なんだと」
ピクリと、秀麗な眉を痙攣させ、発言した声の主に投げかける。
「この場を借りて言わせていただく、アーガイル陛下。貴方は殿下を過保護にし過ぎたようですね。表面化のものにしか体現しない。これが次代のものかと思うと情けなく、不愉快だ」
男にしては声の音が高く、華やかな雰囲気のある
ミレイ・アダルミー・ソレア
アダルミー家統括、男装の令嬢にして王国に仕える貴族。
令嬢とは名ばかりか、剣の腕は近衛と張るとさえ言われている。視線を一身に受けても顔色一つ変えない。
「勘違いをされていませんか。あなたは陛下の弟であり王家の血筋なだけで王ではない。傲慢であるのが王家の特権ではない」
物音ひとつしないほど静まる室内。
強い光を帯びる瞳は真摯にマクシムを見つめ、力強い声は控えている者ですら感嘆するほど慈愛に満ちていた。
「あまり民を愚弄すると暴動がおきますよ」
アダルミー侯爵斜め向かいに座る、逞しい体格に黒髪の褐色肌な男は上座にいる王を尻目に頬杖をついて発言した。
「レイ殿」
間近にいた年配の将軍であるグエンは長く延びた髭を弄り、レイの姿勢に顔をしかめた。
「それは脅しか?」
座ることもなく不機嫌な態度も隠さずに睨みつけるマクシムに、二人は苦笑いする。
「脅しではなく事実であり、これは警告だマクシム」
静かに、厳かに。語ったのは王であるアーガイルだった。
その言葉に驚愕するマクシム。弟が案外子供なのだと内心嘆息する。
日頃大人びて見えるマクシム。だが、まだ16歳の少年。どれだけ大人ぶろうと年端もない子供なのだ。
百戦錬磨の武将からみれば赤子に過ぎない。
「お前は今後、軍議に出る事を禁ずる」
「兄上!?」
「お前はまだ、帝王学だけでなく学ぶことが沢山ある」
死に急ぐ事はない。例え誰に何を言われようと最後の言葉は内心の思い。
だが、王の思いを知らないはずもない者達はけっして悲観するのではなく、ただただ願うのだ。
外聞だけでなく強くあれと。
民を豊かにし護ることが真の王。集まる者達は、きびすを返して出て行くマクシムに密かに笑みを向け、上座に座る王に柔らかな眼差しを向けた。まだまだ、棄てたものではない。
急がず、焦らずとも彼は、彼等はいずれ……──
「へーかー」
ひらひらと手を振るブルーノに瞼を開けたアーガイルは嫌な予感がし、険しい表情(カオ)をする。
当の本人はニヤニヤと人の悪い笑みをし。
「例のボーヤ、殿下に任せてみては?」
予感的中。爆弾は切って落とされ、一時騒然となったのは言うまでもない。
始まり END.
20160212.
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