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三章
47、恥ずかしすぎて【2】
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困ったことに絲さんは、両手で顔を覆ってしまった。
素肌をさらして、俺の腕の中で膝を曲げて頼りなく座っている。
うーん。ちょっと無茶言い過ぎたかなぁ。俺は絲さんの体も心も全部知りたいが、あんまり暴くのもあかんやろしなぁ。加減が難しい。
押しすぎても嫌われるしなぁ。
さっき「大好き」と言ってもらえたのに、あれをなかったことにされるのもつらい。
ほんまに困ったなぁと思いながら、絲さんの華奢な肩を抱き、滑らかな背中を優しく撫でる。
乾燥した俺のてのひらと違い、絲さんの肌はしっとりとしている。
きめが細かいんやろな。
肉のほとんどついてない肩にくちづけてやると、絲さんが俺の頭にしがみついてきた。
「あ、あの……少しだけ……触れるだけ、なら」
「え?」
俺が顔を上げると、ちょうど間近に絲さんの顔があった。頬を赤く染めて、恥じらうように伏し目がちだ。
長い睫毛が小刻みに震えている。
「お風呂に入ってからなら……」
「よっしゃー」
俺は絲さんを抱き上げて、行儀悪く廊下に面した襖を足で開ける。
すぱーん、と派手な音を襖が立てる。
「波多野。風呂、沸いとうか?」
「はい。沸かさせてます」
どっからか波多野の声が聞こえる。準備のええ奴や。けど「頭(かしら)。あんまり無茶せんといてくださいよ」とも聞こえた。
「ま、待ってください、蒼一郎さん。今すぐとは言ってないです」
「善は急げやろ。絲さんの気が変わったらあかんからな」
俺の腕の中で絲さんがもがくけど、さすがに全裸なのが恥ずかしいのか、周囲をえらい気にしとった。
「そうやな。あんまり暴れたら、若い奴らが来るで。波多野なんか『絲お嬢さん、大丈夫ですか?』って飛んでくるんとちゃうかな」
彼女の耳元で囁いてやったら、ようやく暴れるのをやめた。
◇◇◇
どうしてこんなことに。
わたしはお風呂に強制連行されて、先にお湯に浸かっています。
ああ、なぜ承諾してしまったのでしょう。蒼一郎さんが、寂しげな目をするのがいけないんです。
だってヤクザの組長ですよ。人を翻弄して、意のままに操るなんて得意じゃないですか。
いやっ。恥ずかしいの。
わたしは手で顔を覆うと、お湯が一緒に顔にかかりました。
浴室の戸の向こうでは、蒼一郎さんが着物を脱ぐ気配がします。
体を重ねるだけでも、きっと女學院のシスターからは退学や謹慎を命じられるでしょうに。
ああ、わたし……どうすればいいの?
お湯に顔をつけると、ぶくぶくと吐いた息が泡となって水面で消えていきます。
「おい、絲さん。大丈夫か?」
戸が開く音と共に、蒼一郎さんの声が広い浴室に反響しました。
わたしは膝を抱えた状態で、お湯から顔を上げました。
「恥ずかしいんです。い、痛くしないで」
「お、おう。痛いようにはせぇへん」
わたしの髪や頬やあごからしたたる雫を、蒼一郎さんの大きな手が拭き取ってくれます。
「恥ずかしいのは、俺にはどうもしてあげられへんけど」
そこは却下なのですね。
素肌をさらして、俺の腕の中で膝を曲げて頼りなく座っている。
うーん。ちょっと無茶言い過ぎたかなぁ。俺は絲さんの体も心も全部知りたいが、あんまり暴くのもあかんやろしなぁ。加減が難しい。
押しすぎても嫌われるしなぁ。
さっき「大好き」と言ってもらえたのに、あれをなかったことにされるのもつらい。
ほんまに困ったなぁと思いながら、絲さんの華奢な肩を抱き、滑らかな背中を優しく撫でる。
乾燥した俺のてのひらと違い、絲さんの肌はしっとりとしている。
きめが細かいんやろな。
肉のほとんどついてない肩にくちづけてやると、絲さんが俺の頭にしがみついてきた。
「あ、あの……少しだけ……触れるだけ、なら」
「え?」
俺が顔を上げると、ちょうど間近に絲さんの顔があった。頬を赤く染めて、恥じらうように伏し目がちだ。
長い睫毛が小刻みに震えている。
「お風呂に入ってからなら……」
「よっしゃー」
俺は絲さんを抱き上げて、行儀悪く廊下に面した襖を足で開ける。
すぱーん、と派手な音を襖が立てる。
「波多野。風呂、沸いとうか?」
「はい。沸かさせてます」
どっからか波多野の声が聞こえる。準備のええ奴や。けど「頭(かしら)。あんまり無茶せんといてくださいよ」とも聞こえた。
「ま、待ってください、蒼一郎さん。今すぐとは言ってないです」
「善は急げやろ。絲さんの気が変わったらあかんからな」
俺の腕の中で絲さんがもがくけど、さすがに全裸なのが恥ずかしいのか、周囲をえらい気にしとった。
「そうやな。あんまり暴れたら、若い奴らが来るで。波多野なんか『絲お嬢さん、大丈夫ですか?』って飛んでくるんとちゃうかな」
彼女の耳元で囁いてやったら、ようやく暴れるのをやめた。
◇◇◇
どうしてこんなことに。
わたしはお風呂に強制連行されて、先にお湯に浸かっています。
ああ、なぜ承諾してしまったのでしょう。蒼一郎さんが、寂しげな目をするのがいけないんです。
だってヤクザの組長ですよ。人を翻弄して、意のままに操るなんて得意じゃないですか。
いやっ。恥ずかしいの。
わたしは手で顔を覆うと、お湯が一緒に顔にかかりました。
浴室の戸の向こうでは、蒼一郎さんが着物を脱ぐ気配がします。
体を重ねるだけでも、きっと女學院のシスターからは退学や謹慎を命じられるでしょうに。
ああ、わたし……どうすればいいの?
お湯に顔をつけると、ぶくぶくと吐いた息が泡となって水面で消えていきます。
「おい、絲さん。大丈夫か?」
戸が開く音と共に、蒼一郎さんの声が広い浴室に反響しました。
わたしは膝を抱えた状態で、お湯から顔を上げました。
「恥ずかしいんです。い、痛くしないで」
「お、おう。痛いようにはせぇへん」
わたしの髪や頬やあごからしたたる雫を、蒼一郎さんの大きな手が拭き取ってくれます。
「恥ずかしいのは、俺にはどうもしてあげられへんけど」
そこは却下なのですね。
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