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12(最終話)
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「あなた……ほんとにばっかじゃないの!?」
この魔術師は、優しくて悲しくて、そして何より大馬鹿者だ。
「そんなこと、いつ私が頼んだのよ! 私の幸せは私が決めるわ!」
私がそう言うと、ユーリーはぽかんとしていた。
「あなたが綺麗な人間かどうかなんてどうでもいい。私はあなたのことが好きで、一緒にいたいし……あなたの魔法にずっと惹かれているのよ! だから――っ!?」
まだまだ言い募ろうとした唇は、柔らかなものに塞がれた。
ユーリーの唇だ。
舌先が私の唇をなぞってくる。
そのくすぐったさに思わず緩んでしまった隙に、口付けを深められた。
「……っちょ、んん……っ」
「……俺をそんなに煽っていいのかい? もう返せないよ?」
唇が離された瞬間、間近で囁かれる。ユーリーの吐息が唇にかかってぞわりとした。
なんだか甘い花のような香りがする様な気がして、酔ってしまったかのようにくらくらする。
「そんなの……っ」
ユーリーは私の言葉を塞ぐように、何度も繰り返し口付けてきた。
まるで私からの言葉を聞きたくないかのようだ。
彼はきっと、私が「やめて」と言ったらその通りにするのだろう。そうしてきっと、私の知らないところで私のために勝手に何かして、私の知らないところで朽ち果てるに違いない。
――そんなのは許さない。
「返さないでいいわ」
どの道、私はもう公爵家に戻るつもりなんかない。
私はもうとっくに、この魔術師に捕まってしまっているのだ。
「じゃあ、旅に出ようか。世界一周なんてどうだい?」
「それは楽しそうね」
私はユーリーの言葉に賛成した。
ここにこのままいたところで、ユーリーを追っているであろう犯行グループの生き残りが来るだろう。
逃げた方が懸命だ。
「君は、魔術師に捕まった可哀想な子だ」
ユーリーが泣きそうな、だけれど幸せそうに顔をゆがめて、私を抱えあげた。
一見すると、確かに可哀想なのかもしれない。
魔術師に好かれたばかりに、何度も同じ時間をループさせられ、家を捨てる道を選んだ。
だけど。
「そうね。でも、とびきり幸せな子よ」
私は幸せだ。心を奪われるほど美しい魔法を使う魔術師が、私を愛してそばにいてくれるなら。
私は愛しの魔術師の首に、自分の腕を回した。
この魔術師は、優しくて悲しくて、そして何より大馬鹿者だ。
「そんなこと、いつ私が頼んだのよ! 私の幸せは私が決めるわ!」
私がそう言うと、ユーリーはぽかんとしていた。
「あなたが綺麗な人間かどうかなんてどうでもいい。私はあなたのことが好きで、一緒にいたいし……あなたの魔法にずっと惹かれているのよ! だから――っ!?」
まだまだ言い募ろうとした唇は、柔らかなものに塞がれた。
ユーリーの唇だ。
舌先が私の唇をなぞってくる。
そのくすぐったさに思わず緩んでしまった隙に、口付けを深められた。
「……っちょ、んん……っ」
「……俺をそんなに煽っていいのかい? もう返せないよ?」
唇が離された瞬間、間近で囁かれる。ユーリーの吐息が唇にかかってぞわりとした。
なんだか甘い花のような香りがする様な気がして、酔ってしまったかのようにくらくらする。
「そんなの……っ」
ユーリーは私の言葉を塞ぐように、何度も繰り返し口付けてきた。
まるで私からの言葉を聞きたくないかのようだ。
彼はきっと、私が「やめて」と言ったらその通りにするのだろう。そうしてきっと、私の知らないところで私のために勝手に何かして、私の知らないところで朽ち果てるに違いない。
――そんなのは許さない。
「返さないでいいわ」
どの道、私はもう公爵家に戻るつもりなんかない。
私はもうとっくに、この魔術師に捕まってしまっているのだ。
「じゃあ、旅に出ようか。世界一周なんてどうだい?」
「それは楽しそうね」
私はユーリーの言葉に賛成した。
ここにこのままいたところで、ユーリーを追っているであろう犯行グループの生き残りが来るだろう。
逃げた方が懸命だ。
「君は、魔術師に捕まった可哀想な子だ」
ユーリーが泣きそうな、だけれど幸せそうに顔をゆがめて、私を抱えあげた。
一見すると、確かに可哀想なのかもしれない。
魔術師に好かれたばかりに、何度も同じ時間をループさせられ、家を捨てる道を選んだ。
だけど。
「そうね。でも、とびきり幸せな子よ」
私は幸せだ。心を奪われるほど美しい魔法を使う魔術師が、私を愛してそばにいてくれるなら。
私は愛しの魔術師の首に、自分の腕を回した。
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